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グランプリスラム、引退、ドーピング問題…記者が現場で見た2025年の光と影 /競輪記者座談会 vol.5

アプリ限定 2025/12/17 (水) 18:00 13

2025年12月15日に5周年を迎えたnetkeirinは、読者の皆さまへの感謝を込めて「2025年の競輪界の光と影」を振り返る。寺崎浩平らのGI初制覇、脇本雄太・佐藤水菜のグランプリスラム、ナショナル勢の飽くなき世界挑戦、ファンとの距離を一気に縮めたイベントの数々ーー明るいトピックスが次々と生まれた一方で、度重なる落車や大怪我、ドーピング問題、判定や当日欠場をめぐるモヤモヤも噴出した一年だった。記録的な売上と賞金アップの“追い風”の中で、競輪界では何が起きていたのか。3人の競輪記者が、2025年を象徴するシーンとこれからの課題を語り合う。(取材日:11月30日)

競輪記者が語る「2025の光と影」(撮影:北山宏一)

賞金が上がることによって選手からの苦情は極端に減る

松本直記者(デイリースポーツ、以下松本) 2025年、それでは明るい話題からいきましょうか。

前田睦生記者(東京スポーツ、以下前田) GI初優勝もありました。寺崎浩平、嘉永泰斗、阿部拓真の3人がGI初制覇です。

松井律記者(日刊スポーツ、以下松井) 世代交代…というかなんというか。

前田 前半は脇本雄太のグランプリスラムがありました。

松本 女子では、佐藤水菜がグランプリスラムを達成しました。こんなにポンポンと出るものではなかったんじゃないかな?

前田 ですね、佐藤水菜はGI年間完全制覇に世界選手権2連覇と衝撃が走ります。

松井 印象に残った一番明るい話題は何だろうね。でも怪我が多かったよね。佐藤慎太郎だったり、古性優作だったり、結構大変な怪我をしたよね。

前田 脇本雄太や松浦悠士も。男子も女子も落車が多かった。私としての明るい話題は年間を通して今年も北津留翼が元気だったのが。競輪祭で準決勝まで上がって1年間応援してて、楽しかったなっていうのはありますね。

松本 “BIGMAN”藤井優希(山口・125期)だったり、中田拓也(広島・127期)だったり。1着インタビューで歌を歌ったりして、若くて明るい新人選手のアピールが目立ったかな。

松井 板根(茜弥)?

前田 板根(茜弥)と奥出(良)はもう“老舗”になっていますね。その"老舗"にビッグマンたちが続いてきて。

松井 発走機のパフォーマンスも禁止されちゃったじゃん。目立ってくると(そういう場が)潰されるんだろうけど、うまくやってほしいね。

松本 1着インタビューをやる機会も増えて、お客さんとの距離が近くなったから、見に行きたいと思える選手が増えてきてね。

前田 奥出と板根は1着取ったらやってくれますからね。

松本 板根が勝つときはやっぱワクワクしますよ。

松井 この間、板根が競輪祭のトークゲストで歌ってたんだけど、アントキの猪木さんが板根の歌に合わせてノってた。「すげーな、板根」と思って(笑)。

前田 コロナ禍でできなかった選手会イベントも、今は選手とふれあえるイベントを積極的に展開していますしね。

松本 確かにビッグレース限定なんだけど、そういう選手会イベントだったり、お客さんの入りがすごく増えたから、競輪場が盛り上がってたのが2025年の明るい話かな。

松井 そうだね。元々は愛知の選手会がイベントやファン交流で盛り上げていたけど、今年は富山の松田(大)君も「写真を使いたい」「缶バッジを作りたい」「うちわを作りたい」と積極的に動いていたよね。そうした取り組みに力を入れて、選手会によっては売上の一部を寄付する活動もしていたし。

松本 本当に競輪場での応援スタイルが変わりましたよね。タオルを掲げたり、缶バッジを身につけたり、うちわを配ったりと、お客さんの熱気がすごく印象的でした。

松井 いや、でもやっぱ明るい話題は売上が上がって選手の賞金も上がったことだよね。それが何よりじゃない?

前田 支部長の人たちから聞きますけど、賞金が上がることによって選手からの苦情は極端に減ると。

松井 だってグランプリが、ついに“1億円の攻防”になったからね。ボーダーラインぎりぎりだった南(修二)ですら、賞金が1億円に届いたわけだから。

前田 昔、児玉広志さんが、売り上げによって賞金が減っていった時の賞金の話をして「今の賞金では命は賭けられない」と口にしていたのが印象に残っています。俺たちは賞金を稼ぐのも仕事なんだと。そういうところにプライドもあったんでしょうし、児玉さんは高額賞金だった時も戦っていたわけですから。

松井 例えば、4着と5着で賞金が1,000円、2,000円しか賞金が変わりませんっていったら、そのためにやっぱり中割ったり、命は賭けらんないよね。1着を獲りたいという思いはあっても…。

前田 プライドとお金の両方を懸けて戦っている世界ですからね。過酷なトレーニングを続けなければすぐに弱くなる厳しい世界でもあるし、賞金が上がったのはふさわしいことだと思います。私たちとしても嬉しいし、誇らしいですね。

歴代のグランドスラマーは自力型ーー古性優作が「新たな扉」を開けるか

古性優作にとっては、もうグランドスラムは“マスト”(撮影:北山宏一)

松本 脇本雄太と佐藤水菜のグランプリスラム。そもそも、神山雄一郎さんから新田祐大が達成するまで、グランドスラマーって本当に長い間、出なかったじゃないですか。

前田 そうですね。神山さんがグランプリを勝てなかったっていう、大きな歴史がありますからね。

松井 新田も勝ってないんだよね、グランプリはね。

松本 グランプリスラムの2人が共通しているのが、“ナショナルチームでの練習”っていうところかなと思うんですよね。

前田 高校時代に中距離種目が強かった2人ですし、佐藤水菜も2,000mをやってましたよね。そう考えると、競輪向きの素養が共通しているところはあるのかなと思います。

松本 佐藤水菜と窪木一茂の世界選手権メダル獲得というのもね。

前田 窪木一茂のオムニアム銀メダルって、どれだけの体力と頭脳、そして経験が必要なんだろうと。中距離には詳しくないですけど、これは本当に大偉業だと思います。窪木自身は銀でも悔しがっていましたけれど。

松本 ナショナルチームが今やってることが、競輪のトップレーサーたちのスタンダード。それで結果を出してるから。

松井 最近は、競輪ファンが“競技そのもの”にも関心を持つようになったよね。以前は競輪とトラック競技って、どこか別物として見られていたじゃん? 五輪の日本代表なら応援するけれど、世界選手権や通常の国際大会までは、せいぜいニュースで見る程度で。でも今は、太田海也や中野慎詞、山崎賢人といった選手が世界で戦っている姿を、より身近に感じられる。“近所の兄ちゃんが世界で頑張ってる” みたいな感覚に近い。

松本 ですね。

松井 今のナショナルの子たちはちゃんと帰ってくると競輪をやってくれるじゃん。それはやっぱりこっちも思い入れが生まれるよね。

松本 今後グランドスラマーですが、今一番可能性が高いのは古性優作なのかな? あと競輪祭と日本選手権競輪の2つ。

前田 相当ハードルは高いと思ってたから簡単に獲れるとは言いづらいところですけど。

松井 やっぱり古性と眞杉(匠)ぐらいじゃないの。あとは吉田拓矢か。

松本 僕が競輪を見始めた頃は、神山さんがダービーを勝ってグランドスラムを達成し、吉岡稔真さんはオールスターに届かなくて…。だから「もうこの先、グランドスラマーは出ないんじゃないか」と思っていたんです。でも気づけば、脇本雄太と新田祐大の2人が、驚くようなスピードでその偉業を達成してしまった。

松井 中野浩一さんでさえ高松宮記念杯競輪を獲れなかったしね。

松本 そういう意味ではすごく重厚なもの。古性もそこが目標だろうし。

前田 古性にとっては、もうグランドスラムは“マスト”でしょう。これだけ卓越した技術を持つ競輪選手なら、その称号がふさわしいのは間違いないですから。

松井 やっぱ歴代のグランドスラマーってほぼ先行、自力だよね。追い込みは井上茂徳さんぐらい。だから自在タイプの古性がグランドスラム獲るっていうのは、新たな扉を開けるよね。

前田 古性は競輪祭についても「早く獲りたいタイトル」と話していましたね。古性なら年齢を重ねて追い込みになっても、チャンスはいつでも来るだろうから、……あ…でも焦ったほうがいいのかな、ヤマちゃん(山崎芳仁)がそうだったから。

松井 ヤマちゃんも惜しかった。いつかダービーを獲れるだろうと思ったら。

松本 山崎芳仁が惜しかったのは熊本のダービー(2012年)かな。

松井 熊本も立川も惜しかったね。

前田 山崎さんもまだ諦めてるわけじゃないけど、古性にも焦ってもらいましょう!

松井 近々だとやっぱりグランドスラマーになる可能性が高いのは古性優作っていうところですかね。

競輪界の未来を担う「神山新所長」の誕生

“神山チルドレン”を見ることが今後の楽しみ(撮影:北山宏一)

松本 2024年に引退した神山さんが、今年養成所の新所長に就任。これも1つ大きなニュースでした。やっぱり神山さんが育てる新人選手が楽しみですよね。

松井 楽しみすぎる。「古性みたいな選手を出したいんだ」っていうのを神山さんが言ってたのがすごい響いたね。古性みたいな“泥臭い”競輪選手を育てたいんだなっていう。

松本 “神山一期生”が来年の3月の卒業記念を走るわけでしょう?

前田 (中村)浩士さんの息子のレオ(中村嶺央)。レオを早く見たいみたいですね。引退は悲しかったですけど神山さんが所長になってくれたことは業界にとってはすごく明るいですよね。

松本 これからの選手が“神山チルドレン”ということになります。

前田 こちらの世界では新しい解説者とかYouTubeで“松本チルドレン”として松本さんが生み出して。どんどん稼ぎを増やしていきますから。

松井 松本の隠し子かなんかの話?

松本 俺? 俺が搾取してくるの?

前田 そう、ピンハネをします。

松本 嫌なやつだな、俺(笑)。

前田 チルドレンの面倒も見るからそれはいい話。明るい話。

落車多発と安全対策ーー2025年に浮かび上がった“影”

多くの競輪場ではローラー不足が課題となっている(photo by Shimajoe)

松本 ちょっと今年は色々ありましたね。北井佑季、野口諭実可のドーピング問題、脇本雄太のローラー事故、内圏線踏切りのルールが変わって、敢闘精神の欠如を取られるってことで、失格じゃないけど当日欠場が多くなったり、落車の多発も。

松井 佐藤慎太郎、古性優作、脇本雄太、松浦悠士…本当に怪我が多かった。落車も多くて、男女ともに厳しい一年だった。

前田 ガールズケイリンの落車の多さは気になります。公傷制度がないだけに、無理に突っ込むのが勝負とは違う気がする。

松本 防げる落車もあった。

前田 ガールズケイリンは、まずは選手一人ひとりが意識して取り組まないといけない部分だと思います。審判の判定がどうこうという以前に、防げる落車をどう減らすか。そのあたりで何かできることがあるんじゃないかと感じますね。

松本 無理に突っ込んであの位置を取りにいくのは、勝負とは少し違うように感じるんですよね。「そこは勝負じゃないだろ」みたいなとこもあるし。それにガールズは公傷制度がない分、落車するとそのまま代謝に影響してしまう。だからこそ、今一度気をつけていった方がいいのかなと思いますね。

前田 ローラー事故もね。ワッキーの件は不運なタイミングだったとはいえ、選手を守るための対策はできる限り整えてほしい。少しずつでもリスクを減らしていければと思います。究極をいえば参加選手分ローラーがあればいいけど、それは施設として無理でしょう。最低限、手すりがあったらどうだったんだ、ぐらいしか。

松本 僕たち記者も、ローラーの受け渡しの現場をよく見ますよね。「仮メンバーを見せてください」と言って、自分のレースより 2つ、3つ前のレースを確認して「この人からローラーを借りよう」と決める選手も多い。ウォーミングアップがそれだけ大事なんだなと思う一方で、日常的にローラーが少し足りていないのかなって。

前田 選手が最高の環境でレースに臨み、そして終えられるようにすることが大事だと思います。今は売上も好調な時代ですし、資金的に可能であれば、できるところからしっかり手を入れてほしい。

松本 今後新しくできる競輪場は、こういう部分が強化されていくだろうと思うんだけどね。

「あれ何で?」という声が生まれないことがファンのためになる

新規のお客さんががっかりしない判定方法を確立してほしい(撮影:北山宏一)

松井 それより失格の判定とかはもうずっと言われるね。「これアウトじゃねえか」「セーフじゃねえか」ってのはさ。

松本 審判の失格判定は厳格に行われていますが、「なぜ失格になったのか」が分かりにくいことがありますよね。YouTubeライブなら審議VTRを見に行けますが、CSだけを見ている人はタイミングを逃すとわけじゃないですか。審判は責任を持って判定しているわけですから、その理由を「この選手をこういう理由で失格にしました」と誰でも見られる形で示す環境を整えるべきだと思うんですよね。小倉競輪はオフィシャルのホームページで審議映像、判定写真を公開しています。KEIRIN.jpで見られるのが一番だけどシステムで無理ならば、小倉のように競輪場のホームページに行けば見られるようにしてほしいですね。

前田 競馬だと「パトロールビデオ」っていうんですっけ。

松本 それを僕はすべての競輪場でやるべきじゃないかなと。

松井 あとさ、当日欠場が出てもそのまま開催するケースって、どうなんだろうな。顔見せや発走直後の落車なら中止になるじゃん?? 昨日の松戸5R(11/29)も「走れません」で中止になった。でも、1時間前にワッキーが怪我したのに、どうして中止にならないの? って思うんだよね。

松本 そこは施行者の判断だと思いますね。

松井 だから一貫したほうがいいと思うな。極論言えば俺は中止だと思う。

前田 今まであったケースは、ラインの先頭であまりにも構成が変わりすぎるレースは中止でした。

松井 そう、吉田拓矢のときは中止にしてたんだよね。でもなんか最近しれっとやるじゃん。

前田 あれは特に驚いたレベルではありました。

松井 脇本や松浦みたいなSSが当日欠場しても、前売りをそのまま返還せずにレースをやるっていうのは、正直かなり強引だと思うんだよね。GIの準決勝で中止にしたら大打撃なのは分かるけど、それでも本当にこのままでいいのかと、ずっと疑問に思ってるよ。

前田 GI準決で抽選にもできないぞ、というところもあったんでしょうけど。

松本 システム的に一回払い戻しができないので、直接購入の人とオンライン購入の人が混在してる以上、僕は無理だと思います。

松井 欠場した選手の車券だけ返還すればいい、って話で済むならできるわけじゃん。実際ワッキーの分は返還できるんだから。本来なら“全返還”でもおかしくないと思うんだよ。

松本 中止、ガラポンという方法しか僕はないと思いますよ。

松井 施行者さんにとっては痛いと思いますけどね。大打撃、一番被害を被るのは施行者さんなんだけど…でも、あれは「本当にやる?」と思ったよ。

松本 ボートレースでいうフライングの返還みたいな。そのレースがなかったことにするってことでしょう。

松井 競輪は落車でも返還しない競技なんだから、あれをやったら興行が成り立たなくなるじゃん。

前田 先に買ってしまっている人は違うものを買わされてることになる。

松井 なる!

前田 もちろん、そこから生まれる車券を買いたいという人もいるとは思います。でも、理論上はワッキー級の選手が欠場するなら中止にすべきだったんでしょうね。ただ、GIの準決勝で「ここから抽選で勝ち上がります」というのは、さすがに…。

松井 まあね。だから前売りにはそういうリスクがあるって、もっと周知したほうがいいと思うんだよ。でもさ、発走直後の落車や顔見せの段階で走れなくなった場合は中止にするのに、同じような状況でも1時間前だとやらない。だったら「やればいいじゃん」って思うんだよね。同じことだし(笑)。1時間で何が変わるのかって。

松本 最近こういうケース多いですよね。脇本雄太の件もそうだし、松阪では発走後に千葉捺美と比嘉真梨代がこけちゃって…。身体に異常なしということで走らせたけど、結局車券には絡めなかった。そう考えると、あれも中止でよかったんじゃないかなと思います。

松井 ガールズはライン戦じゃないから、その選手だけ返還すりゃ成立しちゃうのかもしんないけど、男子はレースが変わっちゃうからね。

松本 まあちょっと検討の余地ありっていうとこでしょうね。

松井 お客さんに対する誠意がないと思う。どうしても興行側の都合を優先している感じがしてしまう。だって、みんなワッキーが走ると思って車券を買っているわけだからさ。

松本 せっかく売上が伸びて新規のお客さんも増えているんだから、がっかりさせないようにしたいですよね。車券の扱いもそうだし、失格が出た時の判定の示し方も含めて、きちんと整えていくべきだと思う。

松井 売上が好調だからこそ、ああいう部分はもう一度きちんと見直してほしいよね。最近は昔ならしっかりルールに従っていたような場面でも、「やっちゃえやっちゃえ」って流してしまう傾向があって、ちょっと気になるんだよ。

松本 今まで通りじゃなくて、新しい人でも、分かってもらえるような。変えられること、できることはやったほうがいいのかな。

前田 「あれ何で?」という声が生まれないようにすることはファンのために良いと思います。

競輪界を騒がせたドーピング問題

公表した以上、復帰まできちんと手をかけてあげるべきでは?(撮影:北山宏一)

松本 北井佑季、野口諭実可のドーピング問題ですけど、1月から復帰して、あっせんが出て走行能力調査もして戻ってくるわけですよね。これはもう、レースで結果を見せるしかない。北井の場合は南関東で走る以上、ラインを組む・組まないといった問題が今後出てくる可能性も出るかもしんないじゃないですか。

松井 だからその辺はシビアにね。公表する選手と、公表しない選手が今後出てくるだろうし。野口と北井だけが、結果的に晒される形になっちゃったわけだし。

松本 JKAが今まで出していなかった情報を公表した以上、出すだけ出して終わりではなく、復帰時の対応や後処理まできちんとするべきなんじゃないかなと。GIで検査しているのは分かりますけど、誰を検査して白だったか黒だったか、そこまで透明にしてもいいんじゃないのかな?

松井 そうそう。JKAで会見させるとかね。責任を持って“ケツを拭く”ところまで見せるべきだと思う。SSだから影響が大きいから公表したのかもしれないけど、じゃあ野口はそこまでしなくていいじゃん!ってなる。

松本 他のスポーツはどうしているんでしたっけ?

松井 “黒”は公表されるよね、水泳とか。他だと4年くらい出場停止になる場合だってあるわけでしょう。

前田 メダル剥奪などもありますよね。

松井 “白”は公表しなくていいにしても、“黒”で出たなら、それは公表した方がいい。制裁する以上は。

松本 車券を買っているファン目線では「やってたなら教えてよ」となるでしょうし、一方で一緒に走る選手たちの感情は、また僕たちとは全然違うと思うんですよね。

松井 そりゃそうだよ。

前田 ファンの感情は極端な部分もありますが、スポーツである以上、認められないということは共通していますよね。JADA(日本アンチ・ドーピング機構)の基準に合わせれば、「こうなったらこうなる」というルールが明確になるし、黒なら公表される。それが競輪界としても分かりやすいシステムになるのかなと思います。

松本 そう。JADAに合わせれば、公表は当然ということになりますしね。

松井 だからもう、はっきりGIの準決勝以上とか決勝だけでもいいから、検査を明確にすればいいんだよ。グランプリ9人を検査します、とかね。やってる選手は、その時点で勝ち上がれないわけだし。

松本 「検査やってますよ」は言ってるからね、あれなんだろうけど。

松井 平場で「ガールズケイリンの抜き打ちです」とか言って、点数46点の子を検査しても…あれは正直パフォーマンスにしか見えないよね。

松本 公平性を保つためにも、しっかり検査してほしい。

松井 うん、それをどう正すかは難しいし、俺たちの仕事じゃないんだけどね。

スター選手たちの相次ぐ引退

競輪界に激震が走った平原康多の引退(photo by Shimajoe)

松本 今年は、本当に“引退”が目立ちましたよね。

松井 僕はやっぱり平原(康多)ですね。

前田 平原康多が、SSのまま、赤パンのまま引退しましたからね。山口幸二さんのように陥落が決まってから発表するケースとも違う。

松井 5月の段階での引退っていうのは、なかなか無かったんじゃない?

松本 びっくりしましたけどね。本当に(平原が)やってきた実績は変わらないし。

前田 この若さで、あの立場での引退って考えられないですよ。1年休んででも続けてほしいと思ったぐらい。50歳になっても強いんだろうって思ってました。でも、身体がもう限界だったんでしょうね。

松本 ファンはまだ“平原康多の続きを見たい”と思っているはず。でも、治らないと分かったーーそれは本人しか判断できないことですから。

前田 その時の気持ちは、きっと誰にも想像できないでしょうね。

松井 眞杉に千切れて追いかけた時に「ああもう戻れない」っていうのは分かっちゃったって言ってたけどね。

松本 競輪選手って、続けようと思えば代謝になるまでは走れるし、自分でどこに線引くかっていうとこだと思うけど。

松井 SSまで行った選手なんて、節制さえしていれば60歳までだって走れると思うんだよね。

松本 本当にそれは本人にしか分からない。

前田 まさか平原康多にこんな決断の時が来るとは…。確かに落車も多かったですけど。

松井 9場所で7回落車かな?

松本 2024年の日本選手権を勝った後がね…本当に厳しかった。

松井 もう本人も落ちるはずのないところで落ちてるからもう、避けようがないというか。

松本 でも、今の平原康多を見ると本当に楽しそうに“第二の人生”を歩んでるし、車券の話も面白い。前田君みたいに走る姿を見たいっていうファンも多いと思うけど、競輪界からいなくなるわけじゃないですからね。

前田 ね、やるべき仕事はいくらでもあるでしょうし。

松井 彼は「競輪の伝道師になりたい」って言ってるからね。

松本 もう一人印象に残ったのは岩見(潤)さん。今年の夏に引退して、最後は地元・松阪でゴールした後に自転車を降りてファンの前でアピールして。コロナ禍だったら怒られそうだけど、あれは本当にいいシーンでした。

前田 最後くらい、そういうのがあってもいいと思いますよ。

松井 神山さんのラストの時もそうでしたよね。

松本 あとは近藤龍徳も今年引退したんだよね。ヤンググランプリ、サマーナイトと勝負強いところがあった。

前田 そうですね。長く走ってない時期があって難しかったですけど。

松井 根はすごくいいやつだしスター性もあった。でもちょっとガラスのハートというか、紙一重のところがあったよね。

前田 花火みたいにパッと咲いて、気づいたらいなくなってしまった印象。

松井 GIって全国の“ガキ大将”が集まるような場所だから、そこで張り合うのは本当に大変だと思うんだよね。

前田 肩の怪我がどうにもならず、S級でGIを狙う戦いが難しくなったと判断したのなら、それも彼らしい身の引き方でしょうね。あれだけ華やかに走った時期がある選手ってなかなかいない。本当に面白かったです。

松本 ガールズで言うと日野未来。競輪界を盛り上げてくれた一人ではあるけど。

松井 オールスターは出ると思ったけどな。

松本 ファン投票で選ばれたのに、ファン投票は走って欲しかったなと思うけど。

松井 まあそこで幕引きにして欲しかったけどね。

松本 でも今は、平原康多と同じように予想や配信で活躍してるしね。

前田 そうですね。前職への“復帰”みたいな感じでしょうか。もともと得意分野だったわけですし。

**松本 公営競技、4 種全部いけるもんね。競輪、競馬、オート、ボート。ばんえい競馬だっていける。強いですよね!

松井 日野未来に限らずだけど、一般メディアでもちゃんと名前が出るような人にもっと現れてほしいよね。世間の人には未だに「競輪といえば中野浩一」と思われているぐらいだから。

前田 たしかに。紅白歌合戦の審査員。あそこに行くような人が出てほしいですよね。

松井 そうそう。知名度のある選手が一人いるだけで違うからね。

突然の杉浦侑吾の移籍で変わる勢力図

S級トップクラスの移籍は勢力図が変わる(撮影:北山宏一)

松本 あとは杉浦侑吾(旧姓:藤井)の移籍ですね。S級トップクラスの移籍っていうのは、さすがに驚きました。深谷が2021年に愛知から静岡へ移籍しましたけど、今回は杉浦が愛知から栃木へ。関東にとっては、もうすでに“化学反応”が出ていて。

前田 深谷以来ですかね? たった一人変わるだけで勢力図って大きく変わりますよね。中部にとっては大打撃。

松井 大打撃でしょう。この間も挨拶代わりにブンブン行ってたね。

松本 関東にとっては完全にプラスでしょうし、眞杉との本格的な連係はまだですけど、来年は増えていくでしょうね。

松井 さすがに眞杉も杉浦には前を回すだろうけどね。問題はこれからで、森田優弥とか佐々木悠葵とか、あのへんの前を回れるかどうかが面白いんじゃない?

松本 関東の若手って、自力に対してプライドを持ってる選手が多いですからね。だからこそ、この集団の中に杉浦が入ると一気に面白くなる。

前田 競輪祭での話なんですが、杉浦と小林泰正が一緒のレースの時に、眞杉と杉浦が近くにいたんですよ。泰正がメンバー表を見て、「どうするん?」って杉浦にちょっとカッコつけて聞いたんです。そしたら眞杉が横から「分かってるだろ?」って(笑)。泰正も「いや、一応聞かないとさあ」と返してました。

松井 もうすでに“駆け引き”が始まってるんだね(笑)。ただあまりに「前で頑張れよ」なんて言いすぎると、逆に杉浦が一気に自分たちを飛び越えて、良い位置を回り始める可能性もあるしね。

前田 泰正は「行けって言われたら俺、行くよ?」なんて言ってましたし(笑)。今の関東は強い選手が同世代に密集してますから、こういう駆け引きは今後もっと見ていくことになるんでしょうけど。

松井 眞杉やヨシタク(吉田拓矢)に続いて、誰がタイトルを取るかですよね。森田優弥なのか、佐々木悠葵なのか、坂井洋なのか。その下の世代もいるとはいえ差がある。その中で杉浦侑吾が一気に飛び込んでくる可能性は大いにあるよね。

松本 関東は杉浦侑吾が入ったことで厚みが増したよね。

前田 吉澤純平も大チャンスだね。

2025年を象徴する「一瞬のシーン」

競輪道を貫いた近畿勢(撮影:北山宏一)

松本 さあ、2025年も残すはグランプリだけになりましたけれど、今年を象徴する“この一瞬”みたいなシーン、ありますか? じゃあ僕から行っていいですか。

前田 一瞬のシーン? どうぞ。

松本 僕の今年のハイライトは、函館のオールスター競輪ですね。ついに“競輪の順番”が寺崎浩平に回ってきたな、というレースでした。誰もが「次に獲るのは寺崎だろ」と思っていた状況で、脇本が前を駆け、古性が3番手、南が4番手という崩れようのないライン。その重圧の中で勝ち切った寺崎は本当にすごかったし、“獲れる時はこうやって獲れるんだ”と思わせてくれた。長く競輪に向き合ってきた寺崎が報われたレースでしたね。

前田 “象徴”という意味では難しいんですけど、寛仁親王牌の決勝で、犬伏湧也-小倉竜二のラインで、小倉が松本貴治を番手に回したシーン。あのワンシーン、並びが犬伏-松本-小倉に決まった瞬間が「これぞ競輪だな」と感じました。ゾクッとしましたね。

松井 師弟の関係の中でね。やっぱりオグリューはすごいよ。

前田 3人それぞれの思惑や関係が積み重なってのあの動きなので、本当に競輪らしい瞬間でした。

松井 それが競輪祭にもこう繋がってるもんね。

前田 福井で5車並ぶとかいろんなこともありましたけど。

松本 前田君は近くで動画を撮ってたから一番競輪を感じるとこだったかもしれない。

前田 これもまたすごい競輪の一瞬のシーンでした。

松井 印象に残ったのは、福井での近畿勢の並びだね。まだこういう競輪が生きてるんだな、と。マーク屋が自分の位置にプライドを持っていて、「お前はまだ早いよ」みたいな空気がある。追い込み選手はその位置を回るまでにどれだけ努力してるか。それなのに、点数があるから、2人の時に前を回ったから…みたいな理由で簡単に番手を回れるのは、やっぱりどこか引っかかるんだよね。

前田 でもその意味を、小倉と松本貴治が“正当な形”で示していた気がしますね。

松井 若いやつから見りゃ「うるせえな」っていう世界かもしれないけど、やっぱり職人だからみんなさ。

松本 小森(貴大)は下積みを5番手からしていくしかないんですよね。

松井 そうね。もっと前で貢献して、「お前頑張ってるから前回れよ」と言われるぐらいの実績を積まないといけない。

前田 近畿って「ラッキーパンチはいらない」という文化がありますからね。拳が痛くなるまで打ち続けて、その先に勝負がある。福井の5車も良いシーンでしたけど…まあ“一瞬”ではなかったですね(笑)。

松井 あとはやっぱり競輪祭ですよ。松本さんがファンからの差し入れを6つぐらい紙袋に入れて歩いてた姿ですよ(笑)

松本 それが2025年を象徴する一瞬のシーンですか(笑)?

松井  「松本でっかくなったな」と。

前田 間違いないです。

▶記者座談会 vol.1「2025年トップ戦線」編
▶記者座談会 vol.2「KEIRINグランプリ2025年予想」編
▶記者座談会 vol.3「ガールズグケイリン2025」編
▶記者座談会 vol.4「過去5年を振り返る」編


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