第19話

 アークは夜遅くまで、15cmのエイジェムで遊んでいた為、珍しく寝坊をしてしまっていた。


 日は昇り、普段ならとっくに起きている時間の筈のアークだが、今は布団で夢の中だ。


 そんなアークの部屋の扉がノックされる。


 コンコンコン――


「アークさん。ご朝食をお待ちしました! アークさん? あれ? お出かけしていますか? 入りますよ?」


 片手に朝食を乗せたトレーを持ったポルカがアークの部屋へと入って来た。


 今朝の朝食はシチューとパンの様だ。


「おや、まだ寝ていましたか。お寝坊さんですね。しかしこれだけ大きな声と音を立てても起きないとは…………ちょっと試してみますか」


 ポルカはトレーをテーブルの上に置き、それほど大きくない声でアークに声を掛ける。


「起きないと、エイジェムを叩き壊しますよ~……」


「うわぁ!!!! 止めて下さい!!!!!!」


 アークがガバリとベッドから飛び起きて、枕元に置いてあった15cmのエイジェムを大事そうに抱きかかえる。


「おお~! 効果は抜群ですね!」


 ポルカは楽しそうににこやかに笑う。


「え? ポ、ポルカさん? あ、お、おはようございます」


 アークは眠そうに瞼を擦る。


「はい。おはようございます。昨夜は遅くまでお楽しみだったみたいですねぇ。ささ、アークさん。朝食が出来てますよ。冷めないうちに食べちゃって下さいね」


「え、えっと……その前に顔を洗って来ても良いですか?」


「ええ、勿論です。目ヤニが付いていますからね」


 ポルカがふふっと笑い、アークは慌てて洗面台へと向かった。



「アークさん、こちらプレゼントです」


 朝食を食べ終わったアークにポルカが差し出したのは、昨夜ポルカがダンジョンに赴いて、タブレットの中身を現代の言葉で説明した内容を書いたメモ帳であった。


「これは?」


 アークは不思議そうな顔でそれを受け取った。


「第3階層までの景品の内容が書いてあります。あ、ネタバレになってしまうので、見るのは攻略した階層の景品だけにする事をお勧めします」


「またネタバレですか? ……というか、これ、どうやって調べたんですか?」


「もちろん、昨夜自分で行って来たんですよ。そこで自分の目で確かめたんです。私は古代の文字が読めますからね」


「な、なるほど……しかし、女性が夜中に1人で出歩くのは……いや、誰が誰に注意してんだって話になりますけど……」


 アークは初日にアークに絡んだ男を鎮圧したポルカを見ているし、大男3人を鎮圧した話も聞いている。

 だから自分如きが心配するような相手ではないとは思いつつも、自分の所為で夜中に出歩く事になったポルカに心配の言葉を掛けずにはいられなかった。


「ふふ、ご心配有難うございます。ですが、アークさんの仰る通り、私は強いのでご安心下さい。それより、それ、早速お読みになってみては?」


 ポルカはアークの手にあるメモ帳を顎で指した。


「そ、そうですね……えっと……」


 アークはメモ帳をパラリとめくる。

 最初のページに書かれてあったのは、謎の黒い箱の説明だ。


「生成系魔道具? 野菜や調味料が生成出来る? ……は?」


 それはアークにとって信じられない内容の物だった。

 魔道具が物を生み出す。

 そんな話は聞いた事すらなかったのだ。


「な、なんですか? これ? え? 砂糖、塩……え? 冗談ですよね?」


 困惑気味に問いかけるアークに、ポルカは少し不思議そうな顔をした後、1人納得したような顔をして、手をポンと合わせた。


「ああ、生成系の魔道具の殆どが、ただの木の箱に魔法陣を描いた物だから、現在まで残っている物がないんですね。えっと……アークさんはダンジョンで宝箱が出現する事はご存じですか?」


 ポルカはアークの質問に対し、質問で応えた。


「え? ええ……詳しくは知りませんけど……」


「実は、その理論と近い方法で、物を生成する事が可能なんです。これはそう言った魔法陣を応用した物ですね」


「ま、まさか――……い、いや。でも確かに、ダンジョンの構造なんて誰も知らないし――それが嘘だなんて言いきれない……」


「アークさんは魔法陣の事もちょっと齧っているらしいですが、多分解読は不可能だと思いますよ? あのダンジョンの景品の魔道具の殆どにはプロテクトが掛けられていて、まず普通の方法では魔法陣を目で確認する事すら出来ませんし、それを見れる方法を見つけても、今度は魔法陣事態に複製防止の為の無数のダミーの魔法陣が描き込まれています。並みの者では解析は勿論、コピーすら無理でしょうね」


 何故かちょっと得意げに語るポルカに、しかしアーバンは意外にも反論してみせた。


「え? でも……昨夜15cmのエイジェムをちょっと調べてみましたが……魔法陣は装甲の裏にですが、普通に描かれていましたよ? 確かに物凄く複雑な物でしたが――複製すら不可能とまでは……いえ、かなりの時間が掛かりそうではありましたけど……」


 そんなアークの反論に、ポルカは今度は少し困ったような表情を浮かべた。


「え~……っと……そうなんですねぇ……はは……ま、まぁ、ゴーレムはサイズ的に玩具ですからね。きっと魔法陣がコピーされても、問題がないと判断したんじゃないですか? さ、ささ。そんな事より次のページを見て下さい。次はアークさんの大好きな、そのゴーレムの項目ですよ」


 明らかに、何か知っていて話を逸らしている。ポルカからそんな雰囲気を感じ取ったアークだが、相手が話したがらない以上、それ以上の追及は止めておいた。


 それよりも――


「ゴーレムの? 15cmエイジェムの細かい説明が書いてあったんですか?」


 古代文字は読めないアークだが、文章量的に、そこまで細かな説明が書かれているとは思えなかった。

 アークは何が書いてあるのかとワクワクしながらページをめくる。


「え?! 貰えるゴーレムは1種類じゃなかったんですか?! 全5種類?! あ、あの空を飛ぶゴーレムまであるじゃないですか!?」


 アークは興奮気味に声を上げると、まるで虜になったように、メモ帳を凝視している。


「生成用の魔道具も全部で10種類あったでしょう? ミニゴーレムの画面を下にスワイプすると、別のゴーレムの紹介ページに移るようになってたんですよ。魔法銃もそんな感じでしたね」


「ポルカさんがいなければ、これに気が付けなかったと思うと、ゾっとします……そっかぁ……全5種類かぁ……ああ、でも先ずはお金になる魔道具から入手しないと……うぅ……コンプリート出来るのは何時になるだろう……全種類を最低でも3つずつぐらい欲しいけど……」


 涙目でゴーレムのページを送ったり戻したりしているアークに、ポルカは苦笑を浮かべる。


「調査員の方が来るまでに、出来るだけ上層に行きたいんですよね? だったら、毎回第1階層から挑戦するのは効率が悪すぎませんか? まぁ、どういう挑み方をするのかは、アークさんの自由ですけど――……ネタバレになっちゃいますけど、全階層の景品に、その回層でしか手に入らないミニゴーレムがあったと思います……それでもコンプリートを目指しますか?」


「全階層に!?」


 ポルカの衝撃の発言に、アークは思わずメモ帳から目を外し、ポルカを見ながら叫んだ。


「私の記憶では…ですけどね。コンプリートを目指すのは流石に大変過ぎると思いますよ? 他の景品も取れませんし」


「う、うぅ……そ、そうですね……取り敢えず、絶対欲しいデザインのゴーレムだけに絞ります……仕方ないですよね……」


 視線を再びメモ帳に戻し、未練たらたらといった具合のアーク。


「それが良いかもですね。ちなみに、その後の魔導コンロやトイレですが、そちらも現在の物より高性能になっていて、かなり良い品ですからご確認下さい。金持ち相手になら、トイレなどはかなりの高価格で売り付けられますよ」


「……はい……後で確認しておきます……」


 そうつぶやきながら、ゴーレムのページから目を離さないアークに少し呆れつつ、ポルカはテーブルの上の食べ終わった食器をトレーに乗せて、それを持って退室して行った。


「飛行ゴーレム2機に――4つ脚1機……筒状のヤツも1機は欲しいよなぁ……白いヤツも1機は……あぁ、これじゃ全然絞れてない……うぅ……俺は一体どれを切り捨てれば良いんだ……」


 アークは全てのゴーレムを諦めきれず、けれど結局、この日の景品は、一番金になりそうな魔法銃にしようとだけ心に決めて、この日もダンジョンへと向かったのだった。


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2026年1月2日 17:00 毎日 17:00

魔力ゼロのゴーレム乗り 大前野 誠也 @karisettei

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