令和まつり考

「手取り増やせ!」何を叫んでも無礼講 奇祭「悪態まつり」 茨城

巡行を終え、参拝者に餅をまく天狗=茨城県笠間市で12月21日午後3時18分、高橋昌紀撮影
巡行を終え、参拝者に餅をまく天狗=茨城県笠間市で12月21日午後3時18分、高橋昌紀撮影

 日本の各地に息づく多種多様な「祭り」。少子高齢化や過疎化、物価高から果てはコンプライアンス(法令順守)の大号令まで、時代の波に翻弄(ほんろう)され、形を変えつつも受け継がれてきた。一方で、関わる人たちのさまざまな思いが結集した時、地域に新たな活力を生み出す可能性も秘めている。“祭りは世につれ世は祭りにつれ” 祭りの現場を訪ねると、地域の「現在(いま)」が見えてきた。

歯を食いしばる「天狗」、生活臭帯びる罵声

天狗たちを祭った祠(奥)と、愛宕神社総代会会長の柳原正之さん=茨城県笠間市で11月18日午後3時16分、高橋昌紀撮影
天狗たちを祭った祠(奥)と、愛宕神社総代会会長の柳原正之さん=茨城県笠間市で11月18日午後3時16分、高橋昌紀撮影

 13人の白装束の男たちが隊列を組み、山道を黙然とやってきた。いや、彼らは人ではない。「天狗(てんぐ)」だ。神職を先頭に立て、青竹のつえを片手に近づいてくる。年の暮れが迫った12月下旬、茨城県笠間市。樹木の生い茂る愛宕山(306メートル)のふもとがにわかに騒々しくなった。

 「ばかやろーっ」「ばかやろーっ」。待ち構える参拝客から、天狗たちに容赦のない罵声が浴びせられる。「遅いぞっ」「早く歩けっ」。100人を超える参拝客が一行の後ろにつき、山頂に至る祠(ほこら)巡りが始まった。

 あぜ道、山道、見上げるほどの石段。疲労と共に悪態はやがて、生活臭を帯びてくる。「手取りを増やせっ」「物価高いぞっ」「マイナンバー、分かりにくいぞっ」。思わずつられて、叫んでみた。「この、でれすけやろー」。「のろま」を意味する地元の方言だ。

 「悪態まつり」は、山頂に鎮座する飯綱神社の神事。「日本三大奇祭」と地元の人たちは胸を張る。

巡行を終え、参拝者に餅をまく天狗=茨城県笠間市で12月21日午後3時17分、高橋昌紀撮影
巡行を終え、参拝者に餅をまく天狗=茨城県笠間市で12月21日午後3時17分、高橋昌紀撮影

 祭りを主催する愛宕神社などによると、江戸時代中期に領主が民の声を聞こうと始まったとされる。愛宕山で天狗が修行に励んだとの故事にちなみ、天狗に扮(ふん)した氏子が計16カ所の祠に供え物をしていく。それを手に入れた人には、新年に幸運がやってくるとされる。

 参拝者は何を叫んでも罰せられない無礼講。一方で、天狗たちは言葉を発してはならない。「(天狗役のときに)あまりのひどさに、心の中で『こんちくしょー』と歯を食いしばったこともあった」と、神社総代会会長の柳原正之さん(67)は苦笑と共に振り返る。

 昭和の前期ごろには、天狗をめがけて丸太が転がされるほどエキサイトしたこともあるという。今は同行する氏子が、過度な悪態が発せられないように目を光らせる。柳原さんは「1年に1回のストレス解消の場」と効用を認めつつ、「個人攻撃の類いはもちろん厳禁」とクギを刺す。

 匿名性を盾にとり、SNS上での個人攻撃が横行する現代社会。インターネット上での名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪の摘発は2024年に計487件に上った。

 情報通信会社「弁護士ドットコム」の24年の調査で、回答者(1329人)の約3割が「インターネット・SNSでの誹謗(ひぼう)中傷被害の経験あり」とした。「容姿や性格、人格への悪口」「ウソの情報」が多く、「面識のない第三者から」が約4割、「友人知人から」も2割近くを占めた。

供え物を激しく奪い合う身構える参拝者=茨城県笠間市で12月21日午後2時39分、高橋昌紀撮影
供え物を激しく奪い合う身構える参拝者=茨城県笠間市で12月21日午後2時39分、高橋昌紀撮影

 「悪態まつり」では供え物をめぐり、毎年のように壮絶な争奪戦が繰り広げられる。押し合いへし合い、我先にと手を伸ばす参拝者に、同行役だった柳原さんは悪態をついたことがあるそうだ。「あぁ、あぁ、大人なのに夢中になって、子供を押しのけて。みっともねえぞ、恥ずかしいぞ」。はっとした人もいたに違いない。

 天狗たちは1時間半ほどで約4キロを巡行。拝殿での「ばかやろーっ」の三唱で、参拝者と共に祭りを締めくくった。総代会会長として、この日は裏方役に徹した柳原さん。「人間だから、悪口をつい言ってしまうことは誰にでもある」と穏やかに指摘しつつ、祭りに込めた思いを語った。

 「むやみに相手を傷つけたり、追い詰めたりしてはならない。『上手な悪態のつき方』を考えてほしいね」【高橋昌紀】

悪態まつり

 地元の氏子約400戸が中心となる。かつては霜月(旧暦11月)の夜、午前0時から行われた。当時は事前の7日間に天狗たちは顔役の家にこもり、水垢離(ごり)などで身を清めた。一時は廃れたが、テレビ、インターネットで話題となり、参拝者が増加した。

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