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⑥『2025年"赤"』制作裏話


※この記事は制作者向けです。純粋なプレイヤーの方は閲覧を推奨しません。

はじめに

私たちは、京都を中心に活動するアマチュア制作団体『白鯨』です。
この記事は、白鯨が作った2つ目の作品『2025年"赤"』の制作裏話です。
制作の時に考えていたことを、ここにまとめています。


そもそも私たちをよく知らない方は、下のnote記事ポータルにアクセスして、①から順番にご覧ください。


また、この記事は謎解き制作者向けの「2025年"赤"」制作裏話です。
作品内容は、以下の記事をご覧ください。


セージ :主に文章/司会/デザインを担当。見せ方へのこだわりが強い。
たっつー:主に制作進行/物品を担当。コンセプトへのこだわりが強い。

全体構造


テーマ・コンセプト

たっつー:緑光実験と同じように、まずはテーマとコンセプトの話ですね。

セージ:赤は悩んだような、悩んでないような……。

た:どの作品もかなり時間掛かってるんで、その中では比較的悩んでない方なのかも……?

セ:いやまぁ2週間以上進行ストップしたものを悩んでないっていうのは無理があるわな笑

た:そう。めちゃくちゃ悩んでます。結局どの記事でも「テーマやコンセプトをどう設定するか」については触れられてないんですが、これはもうゼロイチなのでノウハウどうこうではないからです。でも、裏ではここに一番時間をかけて悩んでる。面白いと思う情景を、そのコンテンツの唯一性を、どうにか絞り出すしかない。

セ:1回の会議が5~6時間として、5回くらい進捗が生まれないこともザラだし、進んだあとで違うなと思ってそれまでの進捗が白紙に戻る、なんてこともよくある。

た:ハードナッツ時代の先輩の好きな言葉があって。「どうしたらそんなに謎が作れるんですか」って聞いたら、「出るまで考えるんだよ。四六時中考えればいつか出るよ」って普通の顔で言ってました。その人は今、創作で生計を立てています。俺にはできないな、って思った瞬間です。

セ:でも結局、こだわろうとすると他の生活を阻害するくらいには考えちゃう。面白いアイデアが生まれる瞬間ってやめられないから。

た:そういうもんなんでしょうね。
さて、赤の進行はセージさんメインでしたね。

セ:でした。たっつーが忙しかったんだよね。
テーマとしては「遺す」っていうのは確定していて……(テーマ・コンセプト論については『緑光実験』制作裏話を参照してください)、あとは、「遺す」から何を膨らませられるか、で2週間経過した。

た:割と色々出てましたよね。「フォトスポットだけ展示して、存在しないホール型公演の絶賛ムーブを作ろう」も赤のアイデアのひとつじゃなかったでしたっけ。

セ:そうでした笑 感想ツイートっていわゆる謎解きの「残り香」みたいなもんだなって思って、公演そのものがないのに残り香だけ残るのは面白いかもな、って思った。
でも、採用しなかった。結局、残したいものの種類が違うなってのが1つ。
あとは、白鯨ってずっと「真顔で変なことを言う団体」なんだよね。プレイヤーもそれを分かっていて、それでも乗ってきて真正面から捉えてくれている面がある。この優しさを裏切ることは、白鯨のブランディング的に許容できないかなと思ってボツにした。もう少しファニーなブランディングだったら違う結論だったかもしれない。

た:それくらい雑多なアイデアが3つか4つ出た上で、最終的にいまの形になりましたね。

セ:ですね。「遺す」っていうワードと見つめ合ったときに、「持ち帰り謎」以外の形式は考えられなかった。物質として手元にずっとある、というのが映像として浮かんできて、それがしっくりくる感覚があった。

た:セージさんずっと不安そうだったのに結局持ち帰り謎っていうところは動かなかったですね。

セ:そうね。あとは、どこが持ち帰り謎として唯一無二のポイントなのか、っていうところなんだけど……。ここは……。

た:ですね。触れられない。まだ開けてない人がいるから。

セ:読者の皆さんには本当に申し訳ない……。記事に残す前提で企画を始めたのに、結局公開しにくい形に実装してしまった。
公開した範囲からくみ取って欲しいかも。

た:可能な範囲でのイメージを伝えるとすれば、ワインですかね。

セ:そうだね。コンセプトの1つにワインがある。「遺す」ことを主題にした謎ってあまりないと思うんだけど、「遺し方」を考えていくうち、人が何かを遺す行為にも種類があるな、と思うようになった。

た:と、いうと?

セ:う~ん、上手く言えないんだけど、ざっくりいうと、面白いとか価値があるから遺す、というパターンと、遺ってるから価値が生まれた、みたいなパターンかな。

た:あんまり掴めてないかもしれないです。

セ:前者の例でいうと、宝の地図とか。それにきっと価値があるから残ってるわけだよね。後者の例で思ったのが、ビンテージアイテムかな。

た:ワインは後者から出てきたアイデア、と。

セ:そう。僕らの作るモノが、中身として面白いからずっと世に残る、というのは現実的に無理があるからね。社会人の片手間で、タンブルウィードより面白い謎解きが作れるわけないんで。でも、タンブルウィードが作らないモノを作ることはできる。
個人的には、人的・時間的・才能的リソースを正確に把握した上で最大値を取れる作品を真摯に作りましょうねと思ってるんで、これは諦めだとは思ってない。正面から"遺す"事に向き合った結果、唯一無二の価値が生まれれば良いなと思って作り始めた。

た:結果、悪癖として挙げられがちな「謎を積む」という行為を肯定することになるわけです。

セ:ワイン積んで怒る人って誰もいないのにね。エンタメ作品は消費にこそ価値があると思われていて、積むことに価値が生まれるものってない。そこを突破できたら、多分面白い。
結果、この作品で頑張るのは、面白い謎を作ることではなくて、いかにこれまでなかった考え方や試みをプレイヤーに飲み下させるか、ということなんだろうな、と思った。ここからはそういう視点に注目して欲しいかも。

コンテンツを作るときは、背伸びをする必要はない。様々な点での自分の限界を把握して、それに見合ったものを作る。
でも、それは面白さへの妥協を意味しない。リソースが限られるからこそ欲張らず、伝えたい面白さを正確に掴んで、それを最大限に伝えられるよう努力する。


外注

た:赤が特徴的だったところで言うと、公演パートの中身が完全外注だったことですね。

セ:そうだね~。

た:「2025年"赤"」の公演内容って小謎15問なんですけど、これすべてチャル脱出さんに手がけていただいてます。1問も作っていないというね。

セ:チャル脱出の説明が必要だな。チャル脱出は、2024年にできた2人組の謎解き団体。そのうち片方は僕とハードナッツ時代の同期なんだな。もう一人も京大出身ってことで、関西圏のフェスを中心によく顔を合わせてる。一緒に遊ぶこともある友達だね。

た:同時期・同年代の競合他社ってことですね。作風が違いすぎますが。少なくとも俺たちはチャル脱出に押し負けないものを作ろうとしてきたから、良い刺激を受けてきましたね。
コンセプトとか体験とかについては僕らの方が考えてる自負がありますけど、純粋に面白い中謎のアイデアや小謎のクオリティは、勝負にならないくらい向こうの方が上ですからね。

セ:チャル脱出っていう存在が身近にいるのに、僕らのクオリティの小謎で「赤」を出すのは企画倒れになると思った。チャル脱出さえよければ小謎を頼みたい、っていうのは一瞬で決まったよね。

た:実際、めちゃくちゃクオリティの高いものをあげてくれました。おこがましくも納品は20問してもらって、そこから5問不採用にしたんですよね。

セ:20問とも間違いなく僕たちが作るよりクオリティが高かったけど、そこから更に厳選した。諸事情で全部乗せられないのが残念だけど、解説記事に載ってる1問目だけ見ても、そのクオリティが分かってもらえると思う。

た:それでも「赤」が俺たちの作品だという意識は変わりません。
質の高い小謎を利用して、俺たちの届けたい体験を届けることができた。俺たちのコンテンツの本質はそこのアイデアやブランディング、それこそチューニングなどにあると自負しています。

セ:最近の謎解きイベントって、ビジュアル、デザイン、音楽、演出……諸々の要求クオリティが上がりすぎてて、米津玄師くらいしか手がけられないんじゃない?ってくらいだよね。何より、最も高負荷なものとして謎制作があるのは変わらないし。全部作れたらそれに越したことないけど、そうじゃない方法も全然あるんだよね。

た:流石にアマチュア謎解き制作団体で謎を全部外注するのはあまりないと思いますけど、ビジュアルとか映像とかデザインとかはよくある話ですね。

コンテンツ制作の本質は、あくまで届けたいものや体験を届けること。
謎は、ある意味で公演備品の一つでしかなく、その作り方は自由。
満足のいく出来のために、外注することも場合によっては正しい選択。
そのためには、人脈も大事。


プロデュース

セ:上で書いたとおり、赤で中心的に頑張ったのは雰囲気作りとかブランディングとか、そういうプロデュースだよね。

た:ですね、間違いなく。同じ一枚謎を使っても、こういう風に味付けする団体ばかりではない。プロデュースって何なんでしょうね?

セ:これがわからねぇんだよなぁ。僕らは感覚でプロデュースをやっている……。でも「僕はどういう評価がほしいか?」じゃなくて「僕ならこのコンテンツ/人/団体にどういう評価をするか?」で常に考えて、必要な行動を適宜とっている、という節はありそう。

た:ほう。続けてもらいましょう。

セ:常々思う例なんだけど、飲食店って謎解き制作に似てるなあと思うのね。

た:嘘つけよ。ほんまか?

セ:嘘かも。まぁでも真面目に続けると、僕たちは飲食店を味ではなくて総合的に評価している、という話。

た:あ~、ちょっとわかったかも。

セ:君はこのあたり飲み下しが早そう。要するに、僕らは飲食店に料理を食べに行ってるんだけど、その評価は料理だけで決まってるわけではないよね、という。
まず、リサーチの段階でインフルエンサーがおすすめしてたりとか、友達から聞いたりとかでぼんやり頭に期待のイメージを作る。Twitterで燃えてる店主のいるラーメン屋とか、普通の人は行きたくないでしょ。次に、実際に行ってみて、外装や内装、店員さんの気遣いにも色々感じるところがあるかもしれない。料理が出てきたときも、単に美味しいだけじゃなくて映えるかどうか、とかね。料理を出すスタッフの態度、出す順番、机や食器の清潔感、色々満足度を左右する要素がある。あとは価格だね。

た:高級ホテルではコーラに1000円出すんだけど、全然納得する。それはコーラに金を払ってるんではなくて、そのレストランで大事な人と時間を共にして、ホテルのクオリティでコーラが提供されるから。飲食店ってまさに体験だよね、みたいな話ですよね。

セ:要約ありがとうございます。

た:ほんで、それがどう繋がるんですか。

セ:飲食店で満足度を左右するのが、お出しされた料理以外のポイントなように、謎解きでもそうなんじゃね?ってことなんだよな。

た:あ~なるほど。

セ:さっきもいったけど、店主の燃えてるラーメン屋なんか絶対行きたくないじゃん。謎解きも同じで、炎上してる人のコンテンツは、正直少し不安になるよね。これはどうしようもない。

た:そうですか?コンテンツの中身を何も発信してない静かな人の方が、それはそれで不安になりません?

セ:別にTwitterで静かにしろって言ってるわけじゃないよ。ただ、人は何かを評価するとき、コンテンツの中身以外もめちゃくちゃ見てますよ、それを分かってやりましょう、って話。制作者ってがんばって作ったモノはウケてほしいから、気持ちは強く出ちゃうよね。僕もわかる。
「面白いと言って欲しい」という気持ちをぐっとこらえて、「この作品に遊びに来たら(中身以外もすべて)自分は何にどう感じるか?」「そもそも、今の露出度やPR方法で誰が何人来てくれるのか?」「終わったあと、自分なら何についてどのような感想を抱くだろうか?」みたいな視点を持つのが良い。

た:白鯨のプロデュースは全体的に無機質な質感を目指してますね。個人で親しみやすい団体というよりは、少し近づきがたくて中の人が見えないとしても、安定や信頼を感じさせるものでありたいと思ってます。

セ:そうだね。例えば、団体ロゴはカラーに白抜きで簡単な図形、っていうデザインを使ってる。このデザインは、大手SNSアプリがこぞって採用してるものだね。LINE・ディスコード・インスタグラム・Twitter・YouTube……。本当に大手のほとんど。これは、根源的に人の目を引くと同時に、無機質で安心感を与えるデザインらしい。思わず触りたくなるよね。僕はデザインをちゃんとやってないので、こういう理由で選ぶのは的外れかもしれないんだけど。結果的に、どんな色にしても安定してロゴっぽくなることに気がついたから、一連の白鯨プロジェクトとは相性が良かったね。

た:あ、そんなこと考えてたんですね。

セ:うん。あとは、スタッフの時は基本スーツ統一ね。緑光実験の時は、宗教とかマルチっぽさを出すってことでスーツだったんだけど、赤とか青に関しては別に要らない。でも、中の人の私服のイメージが入り込んで欲しくなかったから、スーツを継続することにした。
Twitterでも、個人アカウントで作品について言及することは極力控えたね。団体アカウントが小さかったから、告知は引用リツイートせざるを得なかったんだけど。少なくとも「制作ヤバい!」みたいなつぶやきは一理なしだと思ってる。「仕込みやってない!」っていうラーメン屋に誰が行くかい。

た:他にも5倍くらい話せそうですけど、キリがないのでこの辺にしましょうか。外からの見られ具合を常に意識してコンテンツをリリースしましょうね、というお話でした。
ところでセージさん、今Twitterっていうの老人ですよ。

セ:ウワーッ!(死)

コンテンツは総合評価。
コツは、飲食店をイメージしながら、「自分ならこのコンテンツ/人/団体にどういう評価をするか?」という視点で考えること。
常に見られている意識でコンテンツをリリースしよう。


自信がなかった話

セ:偉そうなこと言ってきたけど、ウケるか全っ然自信なかったんだよね。

た:無さそうでしたね。

セ:だって小謎15問と得体の知れない持ち帰り謎を2000円で売るんだぞ!?正気じゃないだろ。

た:その字面だけ見ると高すぎです。

セ:小謎のクオリティは絶対自信があったんだけど、とはいえ小謎だけの公演ってないからね。だから正直、絶賛というよりは「評価がわからねぇ」みたいな方向に持ち込めれば良いかなと思っていて……。司会をするときは、決して照れ隠しに走らず、「おれはこの面白さを信じているんだ!」っていう目をして堂々と変なことを言うようにした。自信のある人間を疑うことは簡単じゃない。

た:制作過程でも「ここまでしたら酷評はされないだろう」という確認を何度もしました。たぶん、参加した人は美術館で現代アート見てる時みたいな感情だったでしょうね。これが評価されるのか……みたいな。

セ:実際ほとんどマイナス評価が無かったからその方向は成功したと思ってるんだけど、絶賛、つまり明確に刺さった人が緑光実験よりも多かったのは本当に予想外だった。

た:二人してずっと戸惑ってましたよね。

セ:これに関しては自分の感性を信じるしかないよねって話なんだけど、まだまだだね。一般化できるとすれば、6年作った制作者でもリリースするまで感想は全然分からない、ってことと、酷評されないために堂々とするのは1つの手、ってことかな。

た:あとは、『緑光実験』をリリースしてるから、というのは大きそうです。

セ:それは確かに。『2025年"赤"』の参加者としては、①『緑光実験』を体験してキャプションボードを読んでいる人、②『緑光実験』の感想や評判を見聞きしている人、③事前情報のない人、が大きく考えられる。
そのうち、③の人がいきなりこの作品をぶつけられて、しっかり飲み下してくれる自信はない。僕らがテーマやコンセプトに対する信念を持っていて、かつそれなりの完成度で具現化する人間だ、という事前情報がある①や②の人ほど、このコンテンツを楽しんでくれたと思う。

た:最終的に採用した『2025年"赤"』のアイデア自体は割と最初の方からあったんですよね。でも、意地でも『緑光実験』の大阪再演をやってからじゃないと大阪では開催できないと思ったし、もっといえば、芸風が定着した頃の3作目にするか?みたいな迷いもあった。どこかと重複するかもしれないですが、「誰が作っているか」というのは間違いなく作品の評価に影響します。

中堅制作者でも、コンテンツが絶賛してもらえるかの予想は全然つかない。
ただ、酷評されないためにできることはいくつもあって、ここをさぼらないことがコンテンツの防御力につながる。すべてを堂々とするのは1つの手。
また、芸風や普段の性格など、「誰が作っているか」が作品の評価を左右することもある、ということを頭に入れておく。


『2025年"赤"』についての事後分析

た:『2025年"赤』が刺さった人がいる理由を考えたんですけど、「気持ちを引き出したこと」にあるんじゃないかなと思うんです。

セ:確かに、「前から思っていたんですよ」という感想も結構もらったね。

た:なんというか、「言語化までは至っていないけど、確実に脳内にあったもの」を引き出すと、人には強く印象付けられると思うんです。今回は、意図せずこのような構造になったのかなと。

セ:ん~、もしかすると考えてることは同じかもしれないんだけど、引き出されると強く印象に残る、っていう遊び手側の話じゃなくて、引き出す行為が簡単に感情を作り出せる強い手法だ、っていう作り手側の話ってことなんじゃないかしらね。

た:そうかもしれないです。自発的にそう感じていたくらいには強い感情なので、そこを刺激すると良い感想になるのは当たり前で。ゼロから感情を作り上げるのは大変だけど、元々あったものを引き出すことならできる、という。
例えば、参加できていないですけど、「あの夏休み自販機」もその一種じゃないかなと思います。


セ:あ~これね。知った時「やられた」と思ったもん。面白いに決まってる。正しい使い方か分からないけど、いわゆる原体験を刺激する感じ。

た:そうですね。皆が共有している「懐かしい」という気持ちを刺激する。そりゃ強いですよ。

セ:そうだね。ちなみに、"言語化までは至っていない"って言うのは重要なの?

た:なんというか、言葉にできるものって神秘性が無いというか。言語化できていないことが重要なんじゃなくて、プレイヤーの中で言語化に至れないほど大きな感情であることが大事というか。

セ:なるほどね。

た:とはいえ、これは終わってから事後的に分析したものなので、全然実証してるものじゃないです。ただ、俺たちが次に「確実に刺しに行くコンテンツ」を作るならこういう原体験とかから作りそうだな、とふと思いました。

セ:あっているかは分からないけど、こんな風にいろんなものを分析して、普段から議論して、なんとなく一致する"面白さの核"を見つける。これを繰り返して、修正して、自分なりの体系を作っていくのよね。

ゼロから世界に入り込ませることができれば素晴らしいが、それができるとはかぎらない。元からあった感情の大きさを利用すれば、それを引き出すだけで強い感情を誘発できる。
ちなみに、これはたっつーとセージの分析でしかない。重要なのは、自分なりに「なぜ面白いのか?」を言語化して体系にしていき、その体系の中に、新たに出会ったコンテンツを組み込んでいくこと。収まりが悪ければ、体系の方を修正していく。これを繰り返す事で、作り手に重要な"面白さの核"が見えてくる。



内容の整え方

た:そもそもなんで赤はこの形になったんでしょう、って話もした方が良いですね。小謎だけのコンテンツってかなり特殊で、しかも、問題数が多いわけでもない。

セ:これは根幹のコンセプトに触れるから話せないところがあって申し訳ない。ただ、コンセプト体験の純度を高めるべきだ、という思いがあったことは話せる。

た:純度を高める、ですね。たくさん話しました。

セ:持ち帰り謎で、とあるコンセプトを実現したいと考えたときに、その前フリとして、小謎を解くことがベストだと思った。逆に、それ以外のアソビは要らない。このコンテンツは、提供するアソビが面白いことが重要なわけではない、と踏んだ。う~ん、どうしても言葉が鈍くて申し訳ないな……。
とにかく、「コンテンツ自体が面白い」という大きな目的のために動くべきで、「面白いステップ」とか「面白いアソビ」を詰め込むことが必ずしもその大きな目的に資するわけでもない、と。

た:まあ分かる人には分かりそうですけどね。とにかく、削る覚悟というか、オモロいこと何でもかんでも詰め込むとかえって渋滞してコンセプト埋まっちゃうこともあるよね、という話でしょうか。

テーマやコンセプトを伝えるために、思いついた面白いアソビをカットすべきこともある。コンパクトで尖った作品なら特に、余分なところはガツガツ削る意識が重要。




公演内容

音楽

セ:公演の内容でいうと、赤は音楽に特に気を遣ってるね。

た:BGMですか。

セ:そう。といってもフリー素材ですけどね。僕は知識も無いし作曲もできないので、詳しいことは全く触れられないんだけども。
でも断言できるのは、全ての謎解きコンテンツは音楽をつけろ!!ということ。

た:ちょっと乱暴なの来ましたね。でも分かる気がします。

セ:音楽って公演のイメージを直接抱かせるツールだと思っているから。

た:「直接」っていうのは大事ですよね。ストーリーとかで頑張ることもできるけど、音楽だと一発で「こういう雰囲気」っていうのが伝わりますもんね。

セ:コナンに顕著なんだけど、要所で流れるあのBGMって説得力凄いんだよね。映画もリアル脱出ゲームも、内容が面白くなくても、ああコナンだなって思わせるパワーがある。鳥肌が立つ。真実はいつも一つ!

た:あれは刷り込みの力なんですかね。アニメとか映画で何年も聴いてきたから、ああコナンだなって思う。だとすると、アマチュアのコンテンツでさすがにあそこまでインパクトのある音楽は用意できなさそうですが。

セ:いや、そんなこともない。結果論だけど、僕らの作った「黄昏と京の足跡」が割とウケた要因の1つに音楽があると思ってる。

た:ずっと過去作こすってるオジさんで嫌ですけど、「黄昏と京の足跡」の説明をしましょうか。「黄昏と京の足跡」は、コロナ禍の時代に僕らがハードナッツで作った、3日間のオンライン周遊企画ですね。詳しくは無料のネタバレ記事を読んで欲しいです。
2020年の京大文化祭の3日間、ある楽曲をめぐって、架空のキャラクターが京都の観光地を周遊します。そのキャラクターの動向をX上で追いかけつつ、最後にはネット上で協力してプレイヤー皆でそのキャラクターを救う、というストーリーでした。
この楽曲は、paraisoさんという知り合いの2人組の歌手の方に完全外注しています。
結局黄昏は、NazoAwardっていう、常春さん主催で当時開催されてた賞レースでウェブ謎部門の金賞をもらいましたね。

セ:黄昏では、その楽曲は3回登場するんだよね。まず、X上にミュージックビデオの一部がアップされてるんだけど、それは謎解きに必要な情報として参照する。次に、僕たちは黄昏でその曲の路上ライブをして生配信をやったので、企画のクライマックスで登場する。そして最後に、エンドロールでその曲が流れる。

た:こうしてみると、確かにプレイヤーは複数回この曲に出会うんですね.

セ:僕も無自覚だったんだけど、「ミュージックビデオだとサビだけだったから、早くフルで聴きたかったんだよね!」みたいな感想を見て気がついた。この曲は、少なくともこの人の中ではパワーのある存在になっているんだ、と。

た:黄昏は楽曲をめぐるストーリーで楽曲を登場させやすいコンテンツだったから、あまり再現性がないかもしれないですけどね。でも、例えば告知前に音楽を完成させておいて、告知ムービーから繰り返し流して覚えさせておく、とかは手ですよね。「秋めぐる君と一葉」とかがやっている。

セ:良い手法だよね。そこまで特徴的な使い方まで行かなくても、やっぱり公演中の音楽の存在は大事。わかりやすいところで言うと、制限時間10分前に緊迫感の高い音楽に変えるとかで、無意識のうちにイメージは全然変わる。音楽は僕のこだわりが強いところだから、たっつーに探しておいてもらいながら何回も却下した記憶がある。
知識がなくて説明ができないのにビジョンはあるから、ずっと感覚的な話しか出来なくて申し訳なかった。

た:結果的にイメージに合致したBGMになったと思いますよ。

セ:ここまで積極的な理由を述べてきたけど、消極的な理由も大きいね。

た:消極的?

セ:そう。「無音」が続くと想像以上に陳腐化してしまう。公演の中で「無音」の時間を作らないためにも、なにかしらのBGMはあったほうがいいんじゃないかな。フリー素材で十分だと思うけど、イメージに合致する曲をしっかり探すこと。

た:なるほど、BGMは基本あるべきで、そのうえでイメージを伝えられるような音楽だと良いと。

セ:ただ、いつの場面もBGMがあるべきかというと、それも違うんだよね。

た:ほう。

セ:『緑光実験』や『2025年"赤"』の司会の大事な場面では、逆にBGM消してるんだよね。全校集会の時、校長先生が前に立ってるのに気づいて自然とざわざわが減っていって全員の注目が集まるアレ。アレを人工的に作る、みたいなこともできる。応用編です。

音楽は、直接コンテンツのイメージを形成する大事なパーツ。まずはフリー素材で構わないから、イメージに合致する曲をしっかり探すこと。
音楽を自作するような力の入ったコンテンツであれば、刷り込みを活かして音楽を中心にした感情のデザインを生むこともできる。
逆に、無音を活かすこともできる。


ヒントとデバッグ

セ:赤に関しては、お詫びしなきゃいけないことがあるんだよね。ヒント。初演初回のあとで追加したやつ。

た:あ~。

セ:2025年赤はどの問題もめちゃくちゃ難しくて、公演中、15問のうち1問も解けない可能性もあると思ってリリースしたんだよね。その可能性は分かってた。そのうえで僕たちが届けたい体験の純度だけを考えるのであれば、"ヒント無しの方が正しい"という判断をしていたんだね。
ただ、実際1問も解けない方が出ると、その場での気まずさと申し訳なさが勝ってしまって。解けないストレスがあまりに大きくて、そのあとのメッセージが入らないんじゃないかな?っていう肌感があったのね。

た:難易度自体は把握してたし予想の範囲だったから、デバッグ不足ではないのが難しいところなんですよね……。広義のデバッグ不足と言われたらそれまでなんですが。

セ:それで、10分間で1問だけヒントを出せるっていう事にして、何も答えられずに帰ることはない、という形にしたのよね。この変更は初演初回に参加してくださった方には本当に申し訳ないんだけど、後進のためにミスも含めて書くという方針があるから、あえてここは隠しません。

た:プロとアマチュアのリソースの決定的な違いがいくつかあると思うんですが、そのうちの一つがこれですね。内容自体のデバッグはできても、イベントとしてのデバッグができない。用意できるデバッガーはよく謎が解ける身内の制作者数人で、会場は大学や近くの会議室が良いところ。なので、会場・導線・人数・プレイヤーの実力・雰囲気あたりが、初回まで微妙に掴めない。たくさんデバッガーを呼んだらお金払ってきてくれる人がいなくなっちゃいますしね、アマチュアは。

セ:僕らも見誤ってるくらいだから適切なノウハウはないし、なんなら永遠の壁じゃないかなと思う。内容にミスがなさそうかを判定するデバッグの他に、イベントとしてどうか?っていう視点まで持ったデバッグができればとても良いと思う。基本的には、なるべく本番の条件に近い形で多くのデバッグを開催するほかない。あと、最近は初演初回だけ割安にするっていう手法も出てきたね。僕は好きな態度だけど、賛否はある。

なるべく本番の条件に近い形で多くのデバッグを開催するほかない。


後説と司会論

セ:今回一番力が入ってるところです。

た:テキスト担当のセージさんのですね。

セ:はい。どちらかというとホール型の司会と同じ意識でやったね。

た:ホール型とルーム型で意識違うんですか?

セ:全然違います。求められる技能が違う。ホール型の司会は役者とかプレゼンターに近くて、ルーム型の司会はガイドさんです。一番の違いはインタラクションがあるかどうか。

た:あぁ、確かに。ホール型の司会で掛け合いとかはあんまりないですね。

セ:主観だと、ある程度経験積んでくるとホールの司会の方が簡単だと思うね。掛け合いがないから、台本の強度と練習に比例して上手くなるし、ホールは一度に50人くらい相手にするから、お客さん毎のリアクションの違いがある程度均質化されてる。予想外のポイントが少ない。

た:ルーム型は?

セ:個人的には難しい。公演内容によるけど、そもそもつきっきりでしゃべりっぱなしのことも多いし、相手のリアクションや悩みに即座に反応してグッと導かなきゃいけないしで。強いて言うなら、お客さんが少なくて見られてる感覚が少ないから、人によっては緊張しないかもしれないけど。

た:それで、今回はホール型に近かったんですか。規模で言うとルームだと思いますけど。

セ:規模を除けば、赤はそもそも形式がホールに近いね。個人で黙々と小謎を解いて、そのあとに僕の言葉を聞いてもらう。

た:確かにそうか。

セ:ほんで、特に台本通りにやれば良いホール型の司会なんだけど、原稿の完成度が8割だと思って原稿を作らないとダメだと思う。原稿が本当によければ、誰がやってもある程度公演は締まる。それくらい原稿の力が大事。小ネタを作るなら、絶対にそれも書き込んでおく。アドリブはダメ。セリフの箇条書きとかはもってのほか。

た:何でですか?

セ:細かいところをアドリブで埋めようとすると、どうしても「あー」とか「えー」とかが入るんだよね。フィラーというんだけど。でも、国語の授業で音読するときフィラー入ってる人あんまり見ないでしょ。つっかえたときは別として。フィラーを入れないようにするには、基本的に時間をかけて訓練をするか、脳を使わずに読み上げれば良い形にするか、の2択しかないと思う。前者が上手くいくとは限らないから、ひとまず後者が確実だよって話ね。

た:なるほどっすね。

セ:あと、個人的には台本は持って良いと思うタイプ。司会が台本持ってるからテンション下がった、みたいな経験あんまりない。
練度が上がってきたらアドリブも全然良いと思うんだけど、アマチュアで、台本固まってなかったり覚えてなかったりするのに何も持たずに司会やってフィラー連発!みたいな人も見てるので……。遊び手としてはそっちの方がテンションが下がる。

た:セージさんは毎回持ってますよね。

セ:持ち方さえ気にすればかっこ悪いことないと思うんだよね。まず、スマホよりは紙印刷してちょっと良いファイルに挟むのが良いね。ホテルマンとか営業マンが持ってる書類ファイルみたいな。2000円くらいで買えるから。iPadは裸で持つとあまりかっこよくないけど、ファイルで覆うと目立たないし、暗転した部屋で光る画面が重宝することもある。色々調整だね。
あとは、ファイルは利き手じゃない方の手に持って、体の正面じゃなくて斜め横に。利き手はマイクを持つし、正面にファイルがあると顔が見えなくなるからね。首は正面を向く意識で、目線だけ原稿に落とそう。
紙はゆっくりめくって良いと思う。台本を読んでるみたいで見られるのが嫌かもしれないけど、むしろ演出になる。大事なセリフの途中じゃなくて、段落どうしの間にめくるポイントを置いておくと、自然になるね。
でも、台本は自分で書いてるし、初回までに何回も読んでおくから、正直覚えてて読まずに喋ってるところもめっちゃ多いけどね。安心材料として持ってる。

た:意外と気を遣ってるところ多いんですね。

セ:割とね。この辺は東京のプロ司会者さんを何人か観察して真似たところだから、そんなに外れてないと思う。

た:ほんで、赤の話に戻しましょう。

セ:めちゃくちゃ脱線した。赤は強いメッセージをミスなく均質に伝えたいなと思ったので、基本は練習したとおり台本読んでるだけ。相手が難しそうな顔をしていても、アドリブで例え話とかは入れない。"堂々と強いメッセージを発信している僕"そのものを提供するべきだと思った。

た:なるほど。結果的にウケ良かったので功を奏したって感じですかね。
ここまではホールの話ですけど、ルームだとどうするんですか。

セ:ルームも大きくは変わらないけどね。ただインタラクションがあるから、台本に沿うっていう意識はかなり減る。どんなおしゃべりの展開になっても、謎解きの展開上絶対に言わなきゃいけない事は、フォントを大きくしたりマーカー引いたりして漏れがないようにするかな。
あとは、インタラクションといってもほとんどその場では考えてなくて、事前に"ありそうなやりとりリスト"をイメージしておいて、そこから適切なものを引っ張りだして喋ってる。その場でヒント考えてたらやってられないし、ミスも出るから。デバッグのときに出た会話をメモしたり、台本に反映したりしておくのが良いね。

ホール型の司会とルーム型の司会は意識が違う。
ホール型は、台本をしっかり整えて練習あるのみ。役者のつもりで。
ルーム型は、インタラクションが増えることが特徴。やりとりに気を取られて必要な情報を飛ばさないこと。事前にプレイヤーが悩みそうなポイントは想定しておいて、ヒントを事前に用意しておいたり、台本に加えたりする。


物品系

た:物品は大分こだわりましたね。

セ:そうだね。「良い品質の物」を渡しておけば酷評はされないだろうという打算的な理由もあった。でもそれ以上に、長く残る持ち帰り謎を作ろうと思ったときに、本棚の間に挟まれて保管されるの嫌だなぁって思ったんだよね。

た:ペラペラの持ち帰り謎が漫画本にギュウギュウに押しつぶされてるやつですね。俺の本棚見て言いましたか。

セ:自分の本棚見て言った。どっちでもいいけど、ワインを保管するときにそんな雑な方法はとらない。ワインセラーで大切に寝かせておく。
その感覚を作るなら、謎の中身とは全く関係ないけど、手触りとか大きさとか重厚感は大事だなって思った。だから紙類には相当お金かかってるね。

た:ですね。普通、持ち帰り謎を作るときは同じ謎が解ける範囲で安い紙を選ぶんですが。今回は、一般的な業者の範囲では一番高いくらいの値段の紙を使いました。勿論、値段じゃなくて手触りのサンプルとか調べて良いなと思ったので採用しましたけど。箱に至ってはサイズからオーダーメイドですね。

セ:2000円で売ったけど、原価で1500円くらいだからね。これって他の創作だと珍しくないのかな。あんまり分からないんだけど、謎解きってアイデアひねり出すのに手間がかかりすぎて、キット自体の原価は割と安いことが多い。だから、少なくとも謎解きとしてはかなり原価高いのでは?と思う。

た:デザインも紙に合うように大分調整してましたよね。彩度落として落ち着いた雰囲気にしたりとか、イラストのテイスト合わせたりとか。

セ:良いと思ってもらえてるかは分からないけど、自分たちでできる範囲の物品は用意できたんじゃないかな。あくまで今回の話で、何でもかんでも手触りを大事にしようねって話じゃないからね。


物品やデザインには可能な限りこだわろう。とはいえ採算も大事。


告知

た:あとは告知の話ですかね。

セ:そんなに特別なことはしてないけど、ミスマッチを防ごうねって話くらいかな。詳しくは「ブルーバードバトル」の記事に譲るかも。

た:ですね。最低限、小謎のコンテンツであるってことは明記しましたよね。

セ:ただ、「赤」が持ち帰り謎であることは伏せたね。出来る限り情報が無いほうが、神秘的で良さそうというか。あと、赤が持ち帰り謎だと分かって騙されたと怒る人はいないだろうから、隠してよかろうという。

た:謎解きってよく考えると全てが秘密のイベントなんで、何を話して何を隠すかは難しいところですよね。

告知でどこまでの情報を開示するかは永遠の課題。


あとがき

『2025年"赤"』制作裏話の内容は以上です。
この記事は、私たちなりに、「遺す」というテーマに向き合った記録です。

私たちの悩みが、若手制作者にほんの少しでも役立つと嬉しいです。

私たちは、ノウハウを残す目的で、作品内容を公開しています。多くの人の目に触れ、今後も存在が認知されると嬉しいです。下のボタンか、note公式の共有ボタンから、拡散をお願いします。


お読みいただき、ありがとうございました。

白鯨
セージ/たっつー


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京都を中心に活動する制作団体。 体験とは何かをずっと考え続けています。
⑥『2025年"赤"』制作裏話|白鯨
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