あの…ここの灘・真・神影流道場って拳術館式の鍛錬法を導入してるところもあるんスけど…いいんスかこれ
「はぁ……讃頌会に入ればこんな人生でも好転すると思ったのになぁ。今じゃどこからも狙われ放題、ボヤボヤしてると後ろからバッサリだ」
『ふうんそういうことか』『元気だして美奈…』
ラマニアンホロウ鉱区にて。
マネモブはそこら辺にいた讃頌会の信徒(あまり敬虔ではない)と会話していた。
いつもなら残党狩りを行うところだが、マネモブはモスと出会ったことで讃頌会にもマシな人がいることを確信したのだった。
「しかし、まさかエーテリアスが人生相談に乗ってくれるなんて思ってもみなかったよ。おかげで気が楽になった、ありがとう」
『ククククク恥ずかしがることはないよ』『うぬぼれは若者の特権よ』
「うぬぼれたつもりはなかったが……」
讃頌会の彼は、苦労が続いたことで道を踏み外し、讃頌会へ入信したようだ。
さもありなん。ホロウや暗黒メガコーポ、闇のフィクサー達が支配する新エリー都は、タフでなければ生きていけないのだ。
「ともかく、ここを出たら自首することにするよ。まあ……今さら真っ当な道に戻れるかは分からないが……」
『まあ小さな間違いは気にしないで』
マネモブが適当な励ましをする。
実際、彼は入信してから大した悪事はしていないのだが。
もちろん、その励ましは言葉だけではない。
『お…叔母さんこれあげる』『ウサピョンがいると寂しくないよ』
「自分がおじさんだが……これは?」
マネモブが手渡したそれは、名刺。
「灘心陽流系列フィットネスジム筋肉会……?」
『立てよ龍星』『お前をぶちのめすのは俺だ』
「そ、そうか……罪を償ったら、ここで働いてもいいってことか……」
『そうですけど何か?』
それは、灘心陽流系列のジム、筋肉会の名刺だった。
マネモブは権謀術数の渦巻く新エリー都で、迷える者達に道を示すために名刺を渡すことがある。
ちなみにイドリーはまだ讃頌会のことを押しが強いフィットネスジムだと思っている。
「こんなところにも讃頌会が……って、あれ? マネモブ?」
『おーっ』『どうもお久しぶりです』『ゴアです』
「ゴアではないでしょ」
マネモブがくたびれた讃頌会メンバーと話していると、そこへやってきたのはマネモブも良く知るリンと、知らない人と知らない人……
『
誰
な
ん
だ
』
「あ、マネモブは初対面だね。この人は葉瞬光、こっちはダイアリンだよ」
『それはどうもです』
マネモブは軽く会釈をした。
『はじめまして拳獣リカルドです』『龍星くんをブッ倒しに来ました』
「これはどうも初めまして! ワタシは葉瞬光。あなたが噂のエーテリアスのマネモブさんね? 喋るエーテリアスなんて初めて会ったわ!」
「初めまして、TOPS部署横断型カスタマーサポートのダイアリンです……」
マネモブと握手する瞬光と、何だか微妙に嫌そうな顔をしているダイアリン。
嬉しそうにしている瞬光をよそ目に、リンはダイアリンへと話題を振った。
「どうしたのダイアリン? 難しい顔してるけど」
「うーん……あたし、以前に灘・真・神影流の人とお話ししたことがあるんですよ」
ダイアリンは語り出した。
「あたしも武術家の端くれだから分かったんですけど、その人の鍛錬の跡が……まるで虐待じみたものだったんです」
「あ、あはは……マネモブのシゴキは、ちょっとアレだからね……」
灘・真・神影流道場の一部では、拳術館式と呼ばれる鍛錬方法を導入している。
巻き藁バットで顔面を打つことから始まり、熱された石に手を突っ込む、文字通り針の
「異常な大きさの拳ダコとか、人間とは思えない頑丈さとか……武術とは何かを考えさせられましたね」
「でも、マネモブだって誰彼構わずそんなことをしてるわけじゃないよ。本当に強くなりたいと望んだ人だけ」
「それは分かってます。でも、彼らは力そのものを信仰する野蛮人みたいで苦手なんですよ。それに――」
ダイアリンはため息を吐いて言った。
「受け答えが変! なんか定型文じみてるんですよ」
「マネモブの影響受けてるね」
「どんな批判うけても『酷い言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど』で流す人なんて、舌戦で戦うあたしがバカみたいじゃないですか。まあレスバじゃ勝ちましたけど」
「勝ったんだ……」
とにかく、ダイアリンはマネモブを苦手としているようだ。
「まあ、あたしが一方的に苦手意識持ってるだけですから。気にしないで」
「嫌でも仲を取り持ってあげるよククク……というのは置いといて。マネモブ、こんなとこで何してるの?」
『いやっ聞いて欲しいんだ』
マネモブはこれまでの事情を話した。
「ふうん、讃頌会の人生相談に乗ってたってことか」
「エーテリアスなんかに人生相談するなんて、相当追い込まれてるみたいですね……」
その後、一行は讃頌会の信者から情報をもらうと、救助者を探してその場を後にした。
Now Loading......
寧謙を救助した後、一行は大量のエーテリアスに多勢に無勢とばかりに襲われていた。
そこで、突如として動きの止まったダイアリンを救ったのは、マネモブから手を使わず金玉を動かす機械人であると思われている……
「皆の者、無事か?」
「師範……」
「盤岳先生!」
盤岳だった。
「やばっ、意外とホロウに武術家っているんだね……私以外だけど」
「待ってよ、リンも適当観の門弟なんでしょ? じゃあほぼ100パーセントじゃない」
この時、この空間は驚異の武術家? 率100パーセントと化した。
「すみません、師範! 僕が軽率でした……己の力量を見誤り、人々を助けられるなどと思いあがり……」
『思いあがるなよチンカス』
『ボケ――ッ』『ペラ(私語)まわしてんじゃねえ―――ッ』
『殺すだけでは済まさない』
『はっきり言ってそれ病気だから』『お前死ぬよ』
『う あ あ あ あ』
不用意は発言をしたマネモブ(分身)は本体と分身2体から一方的に殺害された。
『ふーっよかった…』『ありがとうございました』
「何もよくないけど」
「ウム……ケジメは済んだようだな」
「あ、もしかして盤岳先生それで納得しちゃうタイプ?」
盤岳は自分の不始末を自分で始末する姿に感心していた。
彼らが積もる話も済んだ後、盤岳はマネモブに対して話しかけた。
「要救助者もホロウの外へ送ったようだな。時にマネモブ殿、この場で我輩と……武術家として、他流試合をせぬか?」
『おーっ』
あの町での騒動の後、盤岳はマネモブとサシで闘り合う機会をうかがっていた。
そしてこの時、ようやくその機会がやってきたのだ。
『カモがネギしょってやってきたぜェグへへへへへ…』
「マネモブ、盤岳先生、やるんだね!? 今ここで!」
試合という話題になった時、もうすでに二人は構えていた。
「良き闘いとしよう」
『ゴングを鳴らせっ』『戦闘開始だっ』
最初に仕掛けたのはマネモブだ。
朦朧拳。錯視を利用した拳法と名打っているが、明らかに瞬間移動じみた人外の技。
マネモブはそれを贅沢にも移動のみに使用し、盤岳へと肉薄した。
『しゃあっ』『破心掌!!』
「ぬぅん!!」
裂帛の気合と共にマネモブの掌底が打ち払われる。
すぐさま盤岳の、炎をまとった鋼鉄の拳が飛来しマネモブの顔面へと迫る。
『やるやん!』『しゃあけど…残念ながら破壊力がないわ!』
当たってすらいないのに破壊力がないと断じるマネモブだがこれは大嘘である。盤岳の拳に破壊力がないというのなら、この世の何に破壊力があるのだろうか。
拳を打ち払い、避けながらマネモブは更に懐へと入ろうとする。しかし、盤岳がそれを許すはずがない。
「ぬぅんッ!!」
『なにっ』
盤岳の、もう一対の腕が展開する。
それに加え、彼の操る数珠が同時にマネモブへと襲い掛かった。
『灘神影流“霞突き”』『速すぎて敵は殴られたこともわからないまま失神する!! 鬼龍が最も得意とする打撃の技だ!!』
「見事なり!!」
しかし、マネモブはとにかく手数の多さを武器に数珠を全て打ち落とし、盤岳の腕と勝負する。
異形の武術家同士のまるで冗談のような攻防に、一行は息をのんだ。
『しゃあっ』
「なにっ」
マネモブが盤岳の腕を取った。
盤岳はすぐさまそれを振り払おうとするが……
『“象塊”』
「軽い!?」
マネモブが、まるでティッシュのように軽い。
勢い余って、マネモブの身体が高く持ち上がる。盤岳はバランスを崩した。
『くらえっ』『コブラ・ソード!!』
「がっ」
顔面への膝蹴り。
まるで毒蛇の襲撃のようなそれは、盤岳の顔面へクリーン・ヒットした。
「ぬぅあっ」
『なにっ』『う あ あ あ あ』
しかし、盤岳はそれを耐えた。
鋼鉄の機械人に打撃は効果が薄かったのだ。
腹部へ打撃を受けたマネモブは吹き飛ばされ……すぐさま復帰し、盤岳へと迫る。
「ぬぅん!!」
『しゃあっ』
「なにっ」
盤岳はマネモブを迎撃しようとしたが、その瞬間にマネモブの姿が掻き消える。
どこに行ったのか。答えは下。マネモブは盤岳の下に潜り込んでいた。
『“地雷殺”!!』
「ぬぅあッ!?」
必殺技、地雷殺が盤岳の顎を捉える。
それを受けた盤岳はよろめく……が、その直前に力強く足を踏み込み――
「……ぬぅんッ!!」
『えっ』
炎の鉄拳を打ち込む。
そして吹き飛ばされたマネモブは……
『ウアアア炎ダーッ助ケテクレーッ』
炎にのたうち回っていた。
懐からは金の玉(純金製)が転がっている。
「ぐっ……」
盤岳のその場で膝をつく。
彼の周りには打ち落とされた数珠が転がっていた。
「引き分け……ですね」
「はいはいもういいでしょ……ったく、血の気の多い格闘家達だよ」
一行は盤岳とマネモブを助け起こした。
「かたじけない……」
『あざーす』
「満足しましたか?」
「うむ。満ち足りたる闘いだった」
『キミ』『グッドファイターとして認めるネ』
武闘家同士、闘いの中で何かを感じたのだろう。
二人の表情は読めないが、どこか晴れやかな顔だった。
「散らかりすぎだよ。盤岳先生はともかく、なんでマネモブはこんな金の玉ばっかり持ってるワケ?」
『俺なんて手を使わずに金玉を自由に動かす芸を見せてやるよ』
「下ネタ禁止!」
『うあああやめろ――っ』『やめてくれ――っ』
一行は金玉を拾い集め、盤岳とマネモブに返し、ホロウを後にした。
――だがしかし。まさか、この金玉が大騒動の幕開けとは、始まりの主ですら予想だにしなかったのである。
『MATE OMOSIROIYATU GA ARAWARETA』
『“SEIMEIKENN”DA』
『……』
『……』
『TESYUU DA TESYUU SIRO』