あなたはボンプだ。
ラージャンと呼ばれる彼の最初の信奉者であり、勇気を持って道を示す者。
ガン、という金属音と共に周囲に振動が走る。
あなたの協力者であるラージャンが地面に拳を叩きつけているのだ。
理由はわからない。マーキングか、トレーニングか、それとも何の意味も無いのか。
日課である地面叩きを止めると、ラージャンは散歩を始める。“哀れな犠牲者”を探すのだ。
昨日はビルを相手に拳を叩き込んで満足したようだが、寝て起きればすぐ
「GYOOOOOOOO!!!」
丁度良いところに、複数のエーテリアスが居た。単体では弱くとも、集まれば厄介な敵に─────
「──────!!!」
エーテリアスを視界に収めた瞬間、ラージャンは飛び出した。
巨体に見合わぬ超高速の挙動───いわゆるデンプシーロール───が炸裂し、エーテリアスは蹴散らされた。
『オオオオオオオオッッ!!』
ラージャンは雄叫びを上げる。あなたに伝わるように。どれほど遠くに居ても届くように。
当然の勝利である。
建物の柱のように分厚い剛腕から繰り出される攻撃を防ぐような者がいれば、それこそラージャンと同じ怪物だろう。
この程度で彼は満たされない。またエーテリアスを探して歩き始める。
旧都陥落の際、あなたは危険だらけのホロウから動けず、建物の影に身を潜めていた。
とても恐ろしかった。広がり続けるホロウ、侵蝕が始まるあなたの体。
一番恐ろしかったのは、あの
───山を呑むような巨きな躰。チロチロと覗かせる大木のような舌。
あんな生物がいるなど聴いた事がなかった。あなたはただ震える事しか出来なかった。
あなたは、そうだった。
──────。 揺れた。
あなたには関係ない事だ。あなたは隠れている。
轟音が鳴り響いた。外の様子はわからない。
見る勇気はあなたにはないし、あなたに残された電力も少ない。
………あなたには、関係ない話だ。
──バンッ。 何かが地面に叩きつけられた。
「ぐ、………ハッ」
黒い毛並みの、おそらくシリオンだと思われる彼は倒れている。
あの大蛇と戦ったのだろう。
ぶつかった勢いで地面にはクレーターが出来た。シリオンの彼は、体が歪に曲がっている。
………あなた、には。
────ゾクリとした。避けられない『終わり』があなたを見つめていた。
「───ン、ナ」
巨大な蛇の紅い眼がこちらに注がれている。否、あなたにでは無かった。
倒れ伏したシリオンの彼に、興味は向いていた。あなたには関係無かった。
「クソ………ぁ」
不意に、倒れた彼と目が合った。助けを求めようとしているのだろうか?
関わってはいけない。あなたのようなボンプなど刹那の間に消されるだろう。
「に……にげ………」
「
あなたは1mほどの大きさだ。彼は2mはあるだろう。2倍の大きさだ。
大蛇は………どうだろう。建物を締め上げる姿から見て、400mほどだろうか?
彼は自分より200倍大きい大蛇を相手に戦った。命懸けで。
そんな彼は、あなたを心配している。
建物に隠れているあなたを。
自分には関係ないと、動かないあなたを。
「───ンナ!」
あなたは咄嗟に走り出した。
自分の浅ましさに耐えられなかったわけではない。そんなことはどうでもいいのだ。
彼への尊敬の念と、彼を死なせまいとする心だけが、あなたの体を恐怖から解き放った。
「ンナ! ンナンナ!」
襤褸切れのような布を彼に被せ、抱き締める。
無駄だったかもしれない。あなたのような耐用年数を超えたボンプなど、ただの金属塊と変わらないだろう。
それでも良い。一瞬でも彼が生き長らえるのなら、あなたは自分の身も惜しく無かった。
当たり前の優しさを持つ彼のために、あなたは勇気を持って走ったのだ。
「───ありがとう」
「ンナ‥‥」
あなたが渡した襤褸切れをマントのように靡かせながら、彼は大蛇と向き合う。
そこから、彼は立ち向かった。
彼は目にも止まらぬ速さで動き、蛇もまた彼を排さんと巨体を動かした。
剣のような鱗が幾つか欠けた。本来蛇には無い腕のその爪はバキバキに折られ、胸と思われる部位は抉られた。
あまりの速さに目が追い付かなかったが、おそらく、この全てを彼がやったのだ。
大蛇は山脈の化身の如き巨体を持つ怪物だ。
だが、それ以上に─────
「─────!」
───破壊の化身がそこに居た。
刃のように鋭い歯を剥き出しに、血管が膨張したのか全身がメキメキと大きく赤色に変貌し。
怒髪天を衝くという言葉の通りに、黒い毛並みが逆立った。
あまりに力み過ぎたせいだろうか。
彼の尻尾は
「オオオオオオオオオッッ!!!」
彼が咆吼を上げる。
そのままの勢いで大蛇の頭目掛けて飛び掛かり、宝玉の如き眼を抉り取った。
「──────!!!」
周囲の建物を薙ぎ倒しながら痛みにもがく大蛇。
その隙を逃さず、彼は大蛇の鱗を腕で貫き、間欠泉のようにエーテルの血飛沫が上がる。
全身がエーテルに染まることを意に返さず、彼はぶちぶちと嫌な音を立てて尻尾を引きちぎった。
命を顧みない事によって得られる生物の限界を超えた力。
強過ぎる力の奔流の代償として彼はこの戦闘の後、速やかに絶命するだろう。
折れた骨も、潰れた内臓も、弾け飛びそうな肉体の危険信号も無視して、彼は戦った。
命を圧縮した超暴力が大蛇を襲う。土砂崩れが発生した山のように体が欠けていき、そして。
「──ゥゥウウウォォオオオ!」
大蛇の頭蓋を拳で叩き割り、彼はその命を終えた。
戦いが終わった。頭蓋を破壊した彼が、あなたの側に落下した。
彼がエーテルの光に包まれる。
「何か」が彼に接触している。
エーテル濃度が急激に上昇している。彼の頭部に角が生える。
彼の傷の悉くが癒される。止まったはずの心臓が再び振動している。
あの大蛇に匹敵するエーテル濃度をその身に備える彼の眼に、妖しい煌めきが宿る。
「ッ……ゥ、ゥウ──」
呻きながら、彼は抗っている。
自分を手駒にしようとする「何か」の思惑を跳ね除けようとしている。
「ン………ナ」
あなたが音声を発すると、また目が会った。
「──────!」
ゾッとするほどの殺意があなたを貫いた。先程の大蛇に感じた『終わり』を再び感じた。
───許せない。
見ず知らずの、人権すらない自分のようなボンプを助けるために、あれ程勇敢に戦った彼に対して。
優しく正しいその心を操り、支配するなんて。
こんな所業、許せない────!
「────ンナ!」
壊れかけのその身体を動かして、あなたは血に染まった襤褸切れを引っ張った。
隠れることはもうしない。逃げるなんてことはしない。
一緒に行くのだ。彼が迷っているのなら、あなたが道を示せばいい。
あなたは───私は、ボンプ。
道案内こそ、私の役割なのだ。
「ンナ、ンナ!」
あの時壊れたはずの自分は、何故かまだ動いている。
だが、何でもいい。過ぎたことを無駄に考えるより今に意識を向けるべきだ。
「──────!!!」
彼が居る。なら、これでいい。
どのようなことが起きても、あなたは小さな体で勇ましく、道を示すのだから。
“あなた”/ボンプ
耐用年数*1が過ぎたボンプ。
旧都陥落の際、ホロウに呑まれ逃げ切れず、建物に隠れて動けずに居た。
エーテルに侵食され、電力が切れ、動けないはずだった。
一般通過ラージャンが戦っている様子を見て、彼を助けようと動いた。
勇気がボンプを動かした。その後、ラージャンと共に避難誘導に手を貸した。
今も動いている。
襤褸切れ
最初の貢物。物理的な強度は期待出来ないが、これはラージャンの心を守る鎧である。
勇
細長い手おけの形であり、通り抜ける、突き通すという意味の「甬」。
畑を耕す「耒」を表し、力が内側から迸る様子の「力」が合わさった漢字。
大蛇
もちろんダラ・アマデュラ。モンハン世界最大のモンスターがエントリー。
死体は確認していないが、ここまで重症なら普通の生物は死んでいる。ヨシ!
心臓は動き続けている。
シリオンの彼/
極限化と聞いて4G個体だと油断したな。残念だが、MHF個体だ。
まともな人(シリオン)だった頃からやっぱりラージャンだった。
命を削って力を振るったらやり過ぎて死んだ。生き返った。
ボンプの勇気に胸を打たれ、勝利し続ける事を誓った。
その後、避難誘導を手伝った。儀降を助けたり、少年を逃したり。
今も勝利を叫んでいる。何処に居ても聞こえるように。騒音の根元。