続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第11話:イノセント・インセクト

 ※※※

 

 

 

「何だ何だ、何事だ……!?」

「凄い音、聞こえなかった……!?」

 

 

 

 ガサガサとカーテンの向こうから音が聞こえてきて、メグルは思わず近寄った。そして後悔する。

 

「わぎゃーッ!?」

「テッカニンの群れーッ!?」

 

 じりじり、と引き下がる二人。

 ぴし、ぴしぴしと硝子に罅が入る音に恐怖すら覚える。

 このままではセミの群れが部屋に入り込んで来るのは確定だ。

 すぐさま荷物を纏めて扉を閉め、外へ飛び出すのだった。

 そして、外に出たのを後悔した。ホテルを出ると、無数の羽音が木霊しているのである。

 おまけにどいつもこいつも建物にへばりついたり明かりに集ったり、とにかく町は虫塗れになっている。 

 パキン、パキン、と窓ガラスが割れて虫ポケモン達が建物の中へ入っていくのが外から見えた。

 間もなく悲鳴があちこちから聞こえてくる。

 

「ど、どうするの!? テッカニンだけじゃない!! 辺り一面虫ポケモン塗れ!!」

「しかもこいつら、目が光ってやがる……!!」

 

 耳を押さえながらメグルが叫ぶ。

 この数はどうやっても対処しようがない。

 

「SNSも阿鼻叫喚!! スピアーにペンドラー、テッカニンにイオルブ、虫塗れ、虫パニックだって──あっ、サーバー落ちた」

「マーニャ全域で同時多発的に起きてるのか……!?」

 

 

 

 ぐにっ

 

 

 

 足元が暗く、何かを踏んだ。

 

「ぷにぃ……」

「うん?」

 

 思わず拾い上げた。大きな牙の生えた芋虫が街灯に照らされ露になった。

 

「何だ何だ……」

「ぷにーっ!?」

 

【アゴジムシ ようちゅうポケモン タイプ:虫】

 

 バチンッ!!

 

 メグルの鼻を二本の長く伸びた顎が挟む。

 

 

 

「おぎゃーッ!?」

 

 

 

 もう一度甲高い悲鳴が辺りに響いた。思わずメグルはアゴジムシを取り落とす。

 

「な、よ、幼虫!! でっけーイモムシだ!!」

「ぷにぷに」

「アゴジムシだよ、メグル! また足元不注意で踏んづけたの!?」

「よ、よく見たら辺り一面穴だらけだ……! こいつ、普段は地中に居るんじゃねえのか……!?」

「ぷにぷに」

 

 もう一度アゴジムシを抱きかかえてやると、大きな雫の涙を流しているのが見えた。ポケモン故に虫でも表情がかなり豊かなのだ。

 踏んづけたので痛がっていると見える。傷薬で手当をしてやり、メグルはアゴジムシを抱きかかえる。

 

「ぷにぷに!」

「悪かった悪かった、俺がよく見てなかったからよ、これで手打ちにしようぜ」

「ぷにぷに」

 

 

 

 バチンッ!!

 

 

 

 もう一度メグルの鼻を二本の顎が挟む。簡単には許してくれないようだった。

 

「ほぎゃーっ!?」

「もう、何やってんのさ……」

「ぷに……ぷにぷに!!」

 

 アゴジムシはメグルの腕から飛び出す。そして、じっとメグルの眼を見たかと思えば、そのままくるり、と方向転換して這いずり出すのだった。

 ただ逃げたとばかり思っていたメグルだったが──その方角を、ニンフィアがずっと威嚇している。

 

「フィッキュルルルルルルル……!!」

「な、なんだよニンフィア」

「ふぃる! ふぃーっ!」

 

 ニンフィアもアゴジムシを追って駆け出す。仕方がないので、メグルとアルカはそのまま後を追うのだった。

 町中に悲鳴が上がる中、漸くメグル達はアゴジムシが見せたかったものに気付く。

 

「ヤッテキマッシャーッ!!」

 

 夜を一際激しく照らす電光。

 その主は、巨大な二本の顎を持つ巨大なクワガタムシのポケモンだった。

 周囲にはキューブ状の幼虫ポケモンが転がっており、電気を放っている。

 アゴジムシの進化したデンヂムシだ。

 そして──クワガタムシのポケモンは、そのデンヂムシの進化形であるクワガノンと呼ばれる種である。

 

【クワガノン くわがたポケモン タイプ:虫/電気】

 

 クワガノンはレールガンの如き巨大な大顎を持ち、そして溜めた電気を消費することで高速で飛び回ったり相手を砲撃する、非常に好戦的なポケモンだ。

 更に目は赤い稲光が迸っており、攻撃的な性質に磨きが掛かっている。

 だが、その相手となるのも当然同じくらい好戦的なポケモンとなる訳で。

 

 

 

「キシャーッッッ!!」

 

 

 

 相対するは、此方は頭部に二本のハサミを持つポケモンだ。

 フォルムはメグルの知るクワガタムシのそれとはだいぶ異なる。

 二足歩行の上に、シュレッダーの如き牙の生えた口、そして巨大なギョロ眼。

 ハサミの生えた人型の怪物と称しても差し支えない見た目をしている。

 その名はカイロス。自然においては、クワガノンと生存競争を繰り返すポケモンの一匹だ。

 

「カイロスだ……! 実物は初めて見たぜ……!」

「デカすぎでしょ……!」

 

 しかもヌシ個体だからか、そのサイズは凡そ3メートル近くあり、ヒグマと同等クラス。

 それが町中で暴れている姿ははっきり言って恐怖でしかない。

 幸いだったのはカイロスの喧嘩相手は人間ではなく、クワガノンであったこと。

 不幸だったのは──カイロスが全身に溶岩の鎧を纏っていたことであった。

 

「あいつ、イレギュライズしてやがる……!」

「し、しかも、サイドンの時よりも鎧の形がハッキリしてる……!! オーラの総量が更に増してる!!」

 

 

 

【カイロス<ヌシ・イレギュライズ> くわがたポケモン タイプ:虫】

 

 

 

 隷下のデンヂムシを6本の脚で掴み、充電するクワガノン。

 全身に電光を迸らせ、咆哮すると巨大な電磁波の網をカイロスに投げ付けるのだった。

 

 

 

【クワガノンの でんじは!!】

 

 

 

 さして素早いわけではないカイロスはそれを正面から受け止める。

 だが、そんなことをすれば、全身を微弱な電気が侵し、麻痺してしまうことは目に見えていた。

 

「よし、麻痺した!! これで素早さは互角だ!!」

「……ねえ、待って」

「……!?」

「なんか、ヘン。あのカイロス、全然動きが鈍ってない……!!」

 

 電磁波を浴びたはずのカイロスは身体が痺れている様子が無い。

 そればかりか──地面を思いっきり強く蹴り、一気にクワガノンに距離を詰め、大顎を掴んで投げ飛ばす。

 

 

 

【カイロスには 効果が無いようだ……】

 

 

 

「素早さ、下がってんだよな、アレ!?」

「麻痺してない……麻痺してないんだ!! どうして!? あのカイロス、地面タイプってわけじゃないし……でも”でんじは”は当たったはず……!!」

 

 家屋に突っ込んだクワガノンは起き上がり、レールガン状の大顎から”10まんボルト”を撃ち出す。

 だが──のっしのっし、と歩いてくるカイロスは電撃を浴びても、拳を振り上げたまま迫る事をやめない。

 そのまま、ハサミに岩が収束するように纏わりつき、組みかかる。

 

 

 

【カイロスの ストーンエッジ!!】

 

 

 

 思いっきりクワガノンの胴体を挟み上げたカイロスは、そのまま地面に何度も叩きつけ、そして投げ飛ばすのだった。 

 勝負は決した。

 がらがらと音を立てて地面に転がったクワガノンは、もう動ける状態ではなかった。

 しかしそれでも──カイロスはガチガチとハサミを鳴らすとクワガノンの方に迫ろうとする。

 

「ぷにっ!? ぷにぷにーっ!!」

 

 アゴジムシが叫んで近寄ろうとする。だが、遅すぎてクワガノンの方には追いつけない。

 デンヂムシ達も寄って固まってクワガノンを庇おうとするが──太刀打ちできるはずがない。 

 実力差を目の当たりにして、竦み上がってしまっている。

 

「キ、キ……!!」

 

 最後の力を振り絞ろうと飛び立とうとするクワガノン。だが──目からは赤い稲光が消え失せ、もう羽ばたく気力も無いようだった。

 そんなクワガノンを前にトドメを刺すべく、一歩、また一歩とカイロスは迫る。

 

 

 

「待てよ、勝負はついただろ」

「フィッキュルルルルルルル!!」

 

 

 

 そこで、カイロスは足を止めた。

 間に割って入ったのは──自分よりも小さな人間とポケモンだ。

 しかし。先程のクワガノンに負けず劣らずの覇気をカイロスは感じ取る。

 

「ぷに……!」

「アゴジムシ、お前、自分の親分を助けてほしかったんだな。野生ポケモンの喧嘩に介入するつもりなんか無かったけど……もう動けないヤツを虐めようってなら見過ごせねえな」

「そんなに暴れたいなら、此処から先はボク達が相手だよ!!」

 

 メグルとアルカ。

 そして、ニンフィアとサニーゴ。

 彼らを新たな喧嘩の相手と認識したカイロスは──激しく咆哮する。

 

 

 

「キッシャアアアアアアアアアアアアオオオン!!」

 

【ヌシのカイロスに勝利し、力を示せ!!】

 

 

 

 ガチンガチン、とハサミを鳴らすカイロスは、その図体に任せてハサミを振り上げると地面にたたきつける。

 だが、一直線の攻撃はニンフィアにひらりと避けられてしまう。

 そのままいつものように巨体の相手の身体にしがみつくニンフィアだが──ジュッと音を立てて前脚が焼け焦げ、すぐさま飛び退く。

 カイロスが纏っている溶岩の鎧は只のこけおどしではない。高温を放っており、うかつに触れるとこちらが火傷してしまう勢いだ。

 

「サニーゴ!! あいつの火力を下げよう!! ”おにび”!!」

「ぷきゅーっ!」

 

 青白い炎が宙を舞い、カイロスの身体を焼いていく。

 だが──やはり、カイロスが咆哮するとそれはかき消えてしまうのだった。

 

「おかしい……! スマホロトムがスキャンしてもタイプは変わってない……! まさか、あの溶岩の鎧、状態異常を弾いてるの!?」

「火傷も麻痺も毒も効かねえのか……! アルカ、それなら”のろい”だ! 状態異常が効かなくてもそれ以外の変化技なら通るかもしれねえ!」

「う、うんっ! サニーゴ、”のろい”!!」

 

 サニーゴの身体、そしてカイロスの身体に五寸釘が打ち込まれる。

 ギャオオオ、とカイロスの絶叫が響き、そのまま苦しそうにのたうち回り始めた。

 効いている。麻痺や火傷といった状態異常は通らないが、それ以外の変化技ならば問題なく通用するようだ。

 

「ニンフィア、そいつの攻撃を引きつけて反撃だ!!」

「キッシャアアアアアアアアアアアアオオオン!!」

 

 真正面からくるカイロスに対し、ニンフィアも思いっきり声を放出し、迎え撃つ。

 だが、溶岩の鎧がダメージを抑えてしまっているのか、しぶとくカイロスはニンフィアに迫り、遂にハサミで挟み込んでしまうのだった。

 

「ニンフィアッ……!?」

「大丈夫!! ”ちからをすいとる”!!」

 

 再びサニーゴの目が妖しく光る。

 カイロスの身体からは力が抜けていき、霊魂がサニーゴへと吸い込まれていく。

 がくり、と膝を突いたカイロスでは、ニンフィアの身体を挟み潰すことなど出来るはずも無かった。

 むしろ獲物が固定され、好都合だ。

 ニンフィアは限界までエネルギーをチャージすると──カイロスの頭に”はかいこうせん”を浴びせてみせる。

 爆発音が轟き、煙が辺りに満ち満ちる。

 

「き、決まったか……!?」

 

 ぐらり、とカイロスの巨体が揺れる。

 しかし──倒れそうになったところで、ずしん、と大きく太い脚が踏ん張った。

 ぎょろり、と大きな目玉がニンフィアを睨む。

 まだ、斃れてはいない。

 

 

 

 

「キッシャアアアアアアアアアアアアオオオン!!」

 

【ヌシ咆哮:悪い効果を打ち消した!!】

 

 

 

 

 身体を蝕む呪いも、衰えた筋力も、その咆哮を以て掻き消されてしまう。

 ニンフィアは攻撃の反動で動けない。カイロスは思いっきり力を入れてニンフィアを締め上げ始めるのだった。

 みし、みしみしと音が鳴る。メグルがボールを取り出し、ニンフィアを戻そうとしたその時だった。

 

「──ランクルス!! ”サイコキネシス”です!!」

 

 カイロスのハサミがそこで止まる。

 そして──めきめきと音を立てて、ハサミが逆の方向に開き始める。

 拘束が緩まった隙にニンフィアはカイロスの頭の上に乗っかり、そして──力を取り戻した瞬間にお返しの一撃を見舞うのだった。

 

 

 

【ニンフィアの ハイパーボイス!!】

 

 

 

 あまりにも鮮やかな連携と反撃。

 自分達のボスが勝てなかった相手を倒してみせた戦いっぷりを、アゴジムシは──きらきらとした眼差しで見つめていた。

 

「ぷに……!」

 

 至近距離からの爆音を浴びせられ、流石のカイロスも耐え切れなかったのか泡を噴き出し始めた。

 そして、溶岩の鎧は消え失せ、巨大なヌシポケモンは目に見えない程に縮んでしまう。

 夜の闇の中ではカイロスを探し出すことなどままならない。ともあれ、これでヌシは撃破されたのだった。

 メグルは思わず振り返る。息を切らせて走ってきたミアとランクルスがそこには立っていた。

 

「助かったぜミア!! お前が居なきゃ、どうなってたか……!!」

「最後まで油断は禁物ですよ、メグルさん」

「ミアちゃん、大丈夫だった!? テッカニンたちがホテルの中に入っていってヤバかったんじゃ……」

「あ、いえ、その、ランクルスのおかげで何とか……」

「ぴきー! ぴきー!」

 

 甲高い声が聞こえてくる。

 見ると、クワガノン達に向かってデンヂムシ達が寄って集っているのが見えた。

 そして自分達のボスに、電力を供給しているのが見える。

 間もなく、飛び立つだけの力を取り戻したのか、クワガノンは羽ばたき始める。

 デンヂムシ達も、ぴょこぴょこと彼の傍に付き従うのだった。

 

「多分これでクワガノンも大丈夫だろ」

「ぷにぷに」

 

 鳴き声が足元で聞こえた。アゴジムシが──クワガノンの方を見上げている。

 

「よーしアゴジムシ、お前末っ子なんだろ? 早くクワガノンの方に戻ってやれよ」

「ぷに」

 

 バチンッ!!

 

 大きな顎がメグルの足首を挟む。

 

 

 

「ほぎゃーっ!?」

 

 

 

 悲鳴を上げ、思わず彼はアゴジムシを抱き上げて怒鳴る。

 

「お前ーッ!! 何てことするんだーッ!! 恩を仇で返すヤツがあるかーッ!!」

「ぷにぷに」

「可愛い顔してもダメ!! 野生に帰りなさい!!」

「ねえ、その子さ……メグルに懐いちゃったんじゃないの?」

「はぁーっ!?」

 

 その様を見て、クワガノンは──何処か満足したようだった。

 

「キシャーッ」

「ぷにぷに」

「……キシャーッ」

 

 そしてポケモン同士にしか分からない会話が鳴き声で行われたかと思えば、そのままクワガノンはデンヂムシ達を引き連れて何処かへ行ってしまうのだった。

 見ると、周囲で暴れていた他の虫ポケモン達も、散り散りになって何処かへ飛んで行く。

 だがそんな中で、アゴジムシだけが抵抗することなくメグルに抱きかかえられているのだった。

 

「……しゃーねえなあ……付いてきたいのか?」

「ぷにぷに」

「ぷにぷに、じゃ分からねえよ……分かったよ。俺が廃人流の育成でバッチリ強いクワガノンに育て上げてやるよ」

「ぷにぷに」

 

 バッグからモンスターボールを取り出し、こつん、とアゴジムシに当ててやる。

 元が捕獲しやすいポケモンだからか、それとも彼がメグルの手元に収まる事を選んだのかは定かではない。

 しかし、揺れることなく、ボールの中にアゴジムシは入り、そのままカチッとロックが掛かる音が響くのだった。

 

 

 

「……これからよろしく頼むぜ、アゴジムシ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「強力なシグナルを確認。場所はヴァリカン島、アグニード火山」

「火口から強力なポケモンの反応を確認」

『成程……地底ニ居ルトハ思ッテイマシタガ、ヴァリカン島ニ移動シテイマシタカ』

「火山を中心として、波及するようにヌシポケモンが出現している模様。どうされますか──コチョウ理事長」

『コレマタ、前触レ無ク目覚メタヨウデスネ……”四天王”ヲ動カシマショウ。早速実戦投入デス』

「ハッ……!!」

 

 

 

 

 

『漸ク会エマスネ……常夏ノ神……ヴォルカニド』

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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