頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム   作:もちもち物質@布団

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1日目昼:双子の乙女*2

 海斗がそう言った途端、ヒバナは目を剥いて固まってしまった。

「な……俺、と、ビーナスが……?」

「ああ、そうだ。そしてバカから聞いて、僕ももう、お前とビーナスが元々の知り合いだということを知っている」

 海斗が更に続ければ、いよいよヒバナは沈黙してしまう。

「……そして、このバカはお前達を助けたいらしいぞ」

 だが、続いた言葉を聞いて、ヒバナは勢いよく顔を上げた。

「は……?な、何のために、んなこと……くそ、どこまで知ってやがる……!」

 ヒバナの表情には、怯えがあった。

 そう。ヒバナは、怖がっている。未来を知っているバカのことも怖いのかもしれない。そして、自分やビーナスが死んでしまう未来は、もっと怖いのだろう。

 そうだ。ヒバナは怯えている。怯えているから、疑って……そして、防御のために、人を殺そうとするのかもしれない。

 ……バカは、『それはやっぱりよくないよなあ』と思った。

 

 そう。バカは、前回の海斗との打ち合わせならば、ヒバナを脅して……怖がらせて、防御に走りたい気分にさせなければならない。

 そうしなければ、ヒバナとビーナスは、人を殺したがるだろうから。

 だが……それはなんだか、違う気がした。

 怖がって、怖さから逃げるために行動を選んでいったら……上手くいかない気がするのだ。

 人は皆、安心できた方がいい。恐怖故に行動を選ぶのではなくて、安心の上で、よりよい方法を選んでほしい。

 

 そうだ。前回のバカは、もっとヒバナと海斗を怖がらせないようにしたい、と思ったのだ。

 海斗の指示とは違うが……それでも、バカはバカなりに、考えたのだ!

 

「安心してくれ!ヒバナ!」

 だからバカは、ヒバナを脅すことを止めた。

「俺、このゲームで誰も死なないようにしたい!お前だって、ビーナスだって、絶対に死なせねえ!いや、ゲームが終わった後だってそうだ!俺がお前らを守ってやっから!先輩とか、親方にも協力してもらうから!絶対に大丈夫なようにするから!」

 どうか、と祈るような気持ちで、バカは必死にヒバナに訴えかける。ヒバナは戸惑った様子だったが……バカは、そんなヒバナをじっと見つめて、お願いするのだ。

「だから……その、人を殺さずに願いを叶えるってことに、してくれねえかなあ」

 

 

 

 ヒバナは、ぱち、と瞬きした。

 それから、ふい、とバカから目を逸らして、はっ、とわざとらしく鼻で笑った。

「……意味わかんねえな。そんなこと、お前らに何の得がある?」

「ええー……損とか得とか無いよぉ。ヒバナは人が死んじゃうの、嫌じゃないのか?」

「そんなもんとっくに忘れたっつうの」

 ヒバナのにべもない返事を聞いて、『まだ怖がってんだろうなあ』とバカは思う。

 多分、ヒバナは今まで沢山怖い目に遭ってきていて、だから、『自分を助けてくれる人』のことを信じられないのだ。怖いから。安心できないから。だから。

 

「……テメェよお、俺とお嬢の素性も知ってんだろ?」

 やがて、ヒバナはため息と共にそんな言葉を吐き出した。なのでバカは頷いて、一生懸命思い出す。

「うん。にょろにょろ会の娘さんとその子分!」

「……本当に知ってんのか怪しくなってきたな、おい……」

 途端、ヒバナが何とも言えない顔をした。バカは『いや、でも結構いい線行ってたはず!』と自信をもって胸を張った。

「まあ、テメエがバカなのは置いておくとして……俺とお嬢は蛇原会のモンだ。要は、ヤクザだ。真っ当な生き方はしてきてねえ。俺も、お嬢もそうだ」

 それから、ヒバナは話し始めた。

 ……話してくれる、ということは、少しは、バカのことを信じてくれている、のだろうか。

「だが……お嬢は、疲れちまったんだよ。人を踏み躙って生きていくのに疲れちまってる。ましてや、自分の親父が組長で、率先してそれをやってるってんだから……」

 ヒバナはそこまで話すと、一旦口を噤んだ。

 そっとヒバナの顔を覗き込んでみたら、今までに見たどんなヒバナの顔よりも不安そうで、心配そうな顔がそこにあった。……ヒバナは、ビーナスのことを考えていると不安で心配になってしまう、のかもしれない。

 つまり、優しいんだなあ、とバカは思う。

 自分のことより、他の人のことで心配になったり不安になったりしちゃう奴は、優しい奴だ。つまり、いい奴だ。バカはそう思うのだ。

「俺はこのゲームを勝ち抜いて、お嬢を解放してやりてえんだ。それが、俺を拾ってくれたお嬢にできる俺なりの恩返しってやつで……だが、確かに、人を踏み躙るのに疲れたっつってんのに、人を殺すつもりだってのも、筋の通らねえ話か」

 ヒバナはそう言うと、ふ、と疲れたような笑みを浮かべた。

「少なくとも、お嬢に殺しはさせねえ。やるんなら、俺がやる。お嬢は、自分で自分の分はやるっつってたけどな……」

「……ということは、今この瞬間にビーナスがミナさんか土屋かを殺している可能性もある、ということか……参ったな」

「いや、そりゃねえだろうよ。お嬢は……お嬢は、まだ、人を殺したことがねえんだ。自分の手でやるには覚悟が足りてねえよ。一生、足りなくていい。そんなもん」

 ヒバナがそういうのを聞いて、ふと、バカは理解した。

 ……ビーナスが、土屋を殺したらしい。そしてその後、多分、ビーナスの異能が、ミナを。

 あの時のビーナスは……ヒバナが死んだ後だったから、覚悟を決めてしまった、のだろうか。

 ということは、ビーナスは、ヒバナが生きていてくれたら、人を殺す覚悟なんて決めないままで、居てくれるのだろうか。

 

 バカがちょっと考えていたところ、ヒバナは深々とため息を吐いて、ぎろ、とバカを睨みつけた。

「……だから、俺が、人を殺す。文句ねえだろ?ああ?」

「えええ……困るよぉ……」

 が、ヒバナの鋭い眼光に対して、バカは気の抜けた顔しかできない。困った、困った、とバカがおろおろしていると、次第にヒバナも気が抜けてきてしまったらしく、またため息を吐いた。

「なあ、なあ、ヒバナぁ。なんとか、悪魔にお願いする以外で願い事、叶えられねえのかなあ」

「『生まれを変える』なんつうこと、悪魔でもなきゃできねえだろ」

「生まれを!?そりゃ確かに無理だよなあ……うーん、なんとかならねえのかなあ……人を殺さずに、なんとかなる方法、ねえのかなあ……」

 バカは、ちら、と自分の会社のことを思い浮かべる。

 キューティーラブリーエンジェル建設に入社してくれたら、ビーナスのことも、ヒバナのことも、にょろにょろ会の刺客から守ってあげられると思うのだが、それをどうすれば信じてもらえるだろうか。

「俺、誰にも死んでほしくないんだよぉ……」

「ならテメェが死ぬか?あ?」

「それも嫌だよぉ……ミニストップの季節限定のソフトクリーム、まだ食べてないし……」

「他にもうちょっと無いのかお前は」

 誰にも死んでほしくない。そしてバカも死にたくない。バカはミニストップのソフトクリームが大好きである。出張の度に大体、ミニストップに寄ってソフトクリームを食べてにこにこしている。

「あと、海斗にポケモン貸してないし、海斗に小説書いてもらってないし……」

「……僕以外に何か無いのかお前は」

「うーん……」

 海斗が何とも言えない顔になってしまった横で、バカは考える。考えて、考えるが……。

「後は、職場の先輩達に恩返ししたいし、親方に教えてもらったことちゃんとできるようになったの見せて安心してもらいたいし……もっと色々仕事したいし、ニジマスまた焼いて食いたいし……」

 ありきたりなことしか出てこない。多分、ヒバナだって海斗だって、こういうことを考えるんじゃないかなあ、とバカは思った。

 きっと誰だって、死にたくない。それは当たり前のことで、そしてそんな当たり前のことしか、バカには思い浮かばなかった。

 

「……おい、バカ。よく聞け」

 すると、そこでヒバナが呆れたような顔をして話しかけてきた。

「お前が殺しをやりたくねえってのは分かった。俺やお嬢に殺しをさせたくねえってのもな。……だが、俺には俺の通すべき筋ってモンがある。その邪魔はすんじゃねえ」

「えええ……邪魔したいよぉ……」

 バカは『もうヒバナを邪魔するしか無いのか!?』と思い余ってヒバナの前で反復横跳びを始めた。残像でバカが3体ほどに増えた。

「止まれバカ」

「うん」

 が、言われたことにはちゃんと大人しく従うバカなので、バカは1体に戻った。

「あー……もっかい言うぞ?俺は、絶対にお嬢の願いを叶える。絶対に、だ。その邪魔はさせねえ。……だが、1つ頼みがある。やってくれるってんなら、その、人を殺すのは、一旦待ってやってもいい」

 ……そして、ヒバナは、案外真剣な顔でバカを見つめていた。

 

「樺島。お前、お嬢と組め。それで、お嬢が絶対に傷つかねえようにしろ。悔しいが……俺より、お前の方が強そうだからよ」

 

 

 

 ……ということで。

「えー、でも、俺と海斗とヒバナとビーナスの4人組になっちゃったら、ミナと土屋のおっさんが2人きりになっちゃって大変だと思うぞ」

「その場合はミナさんと土屋さんを1人ずつ、別のグループに振り分ければいいだろうな。5人と4人に分けて、5人チームの方に首輪の無い樺島を入れれば、解毒装置の数は足りる」

「ってなると、土屋のおっさんかミナって女か、どっちかには俺とお嬢の関係が知れる可能性が高いってことじゃねえか!んなもん、賛同できっかよ!」

「ヒバナお前、結構ワガママだよなあ……あんまよくないぞ、そういうのぉ……」

 バカ達は、部屋割りについて頭を悩ませることになった。

 ビーナスとバカが一緒に組むとなったら、土屋とバカを交換するのが手っ取り早い。

 だが、そうなるとバカは海斗と離れ離れになってしまう!それは寂しい!

 では、ミナをたまと陽のチームに入れて、天城を土屋とヒバナと組ませて、そしてビーナスをバカと海斗のチームに入れる、ということになると……天城がなんとなく反対しそうな気がしてならない。天城は、たまと陽に異能を明かしたと言っていた。となると、ずっとあの3人組で行動していたいだろう。

 ……と考えていくと、どうにも、上手くいかないのだ。

 バカはバカな頭で一生懸命考えるが、海斗とヒバナから『こういう組み分けがある』『こういうのもある』と教えられたものをひたすら頑張って頭に入れるので精いっぱいである。

 

 ……そうして、いよいよバカの頭が噴火しそうになった頃。

「……3人組が3つ、という形にこだわるなら、僕とお前が別れることも考えた方がいいかもな」

 海斗がそう、言い出したのである!

 

 

 

「さびしい!」

「……こら、離れろ。くっつくな」

「さびしい!」

「分かった。分かったから」

 バカは海斗を捕まえた。離す気はない。やっと友達になれたのだ。ここで別れるなんて、さびしい!

「だが、お前とヒバナとビーナスの組、僕とミナさんと土屋さんの組、あとは陽とたまさんと天城さんの組、と分けるのが一番安全だぞ」

「え!?そうなのか!?」

 だが、安全は大切だ。バカの職場にも『安全第一』とたくさん書いてあるのでよく知っている。

「ヒバナが本当に人を殺さない保証は無いからな。その点、ヒバナが絶対に殺さないであろうビーナスと、絶対に殺せないであろうお前とだけ同じ組なら、ヒバナが人を殺す可能性は限りなくゼロに近くなる。ミナさんが女性1人になってしまうが……その、土屋さんに多少慣れていれば、そう反対しないでくれるだろう」

 海斗がそう言って聞かせてくるのを、バカは、ふん、ふん、と頷きながら聞いて、指を使って人数を数えて……組み分けを理解した。

「……分かった。もしミナがそれでいいって言うなら、俺もそうする……」

 海斗を1人にするのは心配だが、ミナも土屋も、いい奴だ。少なくとも、『にょろにょろ会』のことが関わらなければ、ミナは人を傷つけるようなことはしないはずだ。バカはそれを知っているので、海斗を預ける先としては、土屋とミナのペアは理想的である。

 

「……そもそも、本当に9人居るのかねえ」

 が、ヒバナが不穏なことを言い出す。

「もう誰か、死んでるかもしれねえぜ?」

「やだよぉ……そういうこと言うなよぉ……」

 バカはヒバナにそう返しつつ、不安になった。

 ……よく考えたら、9人の中でも一番死にやすい人が、居たのだった。ビーナスとヒバナの心配をしながら、こっちも心配すべき、という人が。

 

 そう。天城はいつも、1日目のゲーム中に死んでしまっている。

 今回はたまと陽も一緒だが……果たして、どうなっただろうか。

 

 

 

 リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴った。

「……答え合わせ、といこうか」

 そうしてバカ達は、緊張しながら部屋を出て……。

 

「おお、樺島君達も無事なようだな!」

「あっ、土屋さん達も樺島君達も全員無事なんだね。よかった」

 ……ぞろぞろ、と集まって来たのは、9人。

 9人だ。

 誰も欠けることなく、1日目の昼が、終わったのである!

 

 

 

「やった!やった!」

 バカは、嬉しくなった。

 初めてのことだ!今までに3回か4回か5回か……とにかく、いっぱいやり直してきたが。

 その中で初めて!ようやく!全員が1日目の昼を生き残ることが、できたのである!

 

 だが。

「けど……火が、灯ってるね」

 たまが指差す方には、カンテラ。

 そしてカンテラには……1つ、火が灯っている。

 

 つまり。

「木星の人が死んだ、ってこと、かな……」

「ええええええええ!?木星さあああああああん!」

 バカは、叫んだ。

 居なかったはずの木星さんがどこかに居て!

 どこかで!死んでるらしい!

 嗚呼、木星さん!木星さん!木星さん!

 

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