頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム   作:もちもち物質@布団

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2日目夜:大広間*2

「ちょ、ちょっと……!それ、どういうつもり!?」

「来ないでください。動いたら、すぐにでもあなたの人形を引き千切りますよ」

 震えながらも、ミナの目はしっかりとビーナスへ向いていた。

「土屋さんを……どうして、土屋さんを殺したんですか!?」

 そうして吐き出されたミナの叫びが、その場の全員を震撼させた。

 

 

 

「えっ……!?な、何を言っているの!?あなたが……ミナ!あなたが、土屋さんを殺したじゃない!」

「とぼけないで!私じゃない!あなたが、土屋さんを殺したんです!銃で、彼を、撃ち抜いて……!」

 ミナとビーナスのやり取りに、バカは理解が追い付かない。

 土屋は、ミナが殺したのではなかったのか。ビーナスが土屋を殺したのか。だとしたら、あのダイイングメッセージは。

 ビーナスの言葉は演技だったのか?はたまた、今、こうしているミナこそが嘘を吐いているのか?そもそも、何のために!

「ビーナスさん……あなた、躊躇が、ありませんでしたよね」

 バカが混乱する中、ミナは、震えながらそう言った。

「……おかしかったんです。土屋さんも、ビーナスさんも、どうして銃の撃ち方を知っているんですか?」

「え?」

「構え方だって、私、知りませんでした。でも、ビーナスさんは迷うことなく、銃を構えていた。引き金を引くのだって……何の、躊躇も無かった」

 ミナは、震える声で、しかし淡々と話す。この場の全員が、ミナの言葉を聞いて、立ち竦んでいる。

「それで……多分、ヒバナさんも、躊躇が無い人だったんじゃないですか?」

「……ヒバナ?」

「ええ」

 ビーナスが、ぴくり、と反応したのを見て、ミナはその表情をまた一段と険しくした。

「彼が、私の先輩を殺したんですよね?」

 

 

 

「……ちょ、ちょっと待ってよ。何のこと?」

「ビーナスさん。あなたは知らないかもしれない。でも、知っていたって、おかしくない。……知っているでしょう?1年前の火事の現場に、私も居たんです」

 ミナの言葉に、ビーナスはただ、眉を顰める。だが、ミナは構わず続けた。

「暴力団同士の抗争だった、って聞いています。あの商店街のお店の1つが、暴力団が経営していたお店だったということも。……それで、何かの拍子に火が出て、それが延焼して、小さな商店街の一角が丸ごと、焼けてしまった」

 ミナの声が、震えながら、潤む。恐怖と緊張しか無かったミナの目に、ちらり、と別のものが覗くようになる。

「私の先輩の小料理屋も、そこにあったんです。私はそこでアルバイトをしていました。あの日、私が開店前のお店に向かった時……お店が燃え上がっていました。仕込みを終えて仮眠していたはずの先輩を、残したまま……」

 ミナの目に溢れ始めるのは、涙だ。

 それでいて、深い悲しみと……怒り。

 

「あなたは忘れたかもしれないけれど、私は忘れたこと、ありません。あのまま火に巻かれて死んでしまった先輩のことも、忘れたこと、ありません。それから……首に入れ墨がある人が、火元のお店から逃げ出してきて、そのまま、逃げていったことも。忘れたこと、ありません」

 ミナは、一歩、ビーナスに近づいた。人形を握った手には徐々に力が入って、ビーナスが、ふと苦し気な顔をする。

「ヒバナさんの首に、刺青があるの……私、見てしまったんです。蛇の刺青。私が、あの時見た刺青です」

「蛇、の、刺青……なんて、いくら、でも、居るでしょう……?」

 ビーナスの首が、絞まる。それは、ミナがビーナスの人形を握りしめているからだ。

 そして。

「……無関係な人を殺してまで、願いを叶える気にはなれませんでした。先輩はきっと、そんなこと、望まないから。……でも」

 ミナは、いよいよ大粒の涙を零しながら、ビーナスに怒りをぶつける。

「先輩を殺した人が相手なら、話は別です!それに、その元凶になった人も!ビーナスさん!あなたは蛇原会の」

 

 ぱぁん、と音がして、ミナの胸に穴が開く。

 ……ビーナスがいつの間にか手にしていた銃から、硝煙が上がっていた。

 

 

 

 ミナがその場に倒れる。途端、絞まっていたビーナスの首が、ふ、と緩んで、ビーナスは激しく咳き込んだ。

「これは……」

 そうして、ビーナスは咳き込み終わると、皆の沈黙の中で、ぽつり、と零す。

「……どうして、生まれた瞬間から運命が決まってるのかしらね」

 ビーナスは、表情も無くそう零すと、そのまま体を起こし……。

「生まれた瞬間からどうしようもないことが決まっている。そんな感覚、あなた達に分かるかしら」

 ……持っていた銃を構え直し、銃口をたまに向けた。

 

 

 

「……何のつもりだ」

 たまの代わりに前に出たのは、陽だった。

「見て分かるでしょう?場合によっては殺す。そういうつもりよ」

 ビーナスの、銃を構える手つきは実に滑らかだ。不慣れなところがまるで見えない。そんな様子を見て、陽は緊張を表情に過ぎらせた。

 ……さっき、ミナが言っていた。『躊躇が無い』と。

 そうだ。ビーナスの動きには、躊躇が無い。

 ビーナスは間違いなく、やると思ったらやるのだろう。それが、人殺しであったとしても。

「……さっきの、ミナさんの話と合わせて、色々と聞きたいことがあるんだけれど」

「どうぞ。冥途の土産っていうことで教えてあげてもいいわ」

 一方、陽よりもたまの方が、肝が据わっていたのかもしれない。たまは多少緊張しながらも、それでも冷静に、ビーナスを見上げていた。

「あなたとヒバナの関係について」

「関係?……舎弟よ。それでいい?」

「しゃてい……?」

 バカが『しゃてい……しゃてい……』と呟きつつ、頑張って頭の中の辞書(ほとんどのページが白紙である!)をめくっていたところ、ビーナスは少しばかり呆れたような緩い息を吐き出した。

「私はヤクザの娘。ヒバナは私の父の下についている若衆の1人。そういうことよ」

 

 

 

「ヤクザの娘……実在するんだなあ……」

 バカがそんなことを言うと、ビーナスは、ふ、と笑った。

「そうね。父が若かった頃と比べたら、大分減ったと思うわよ。もう、暴力団自体が成り立たなくなりつつあるから。知ってる?もう、最近じゃあ暴力団は飯を食っていけないのよ?」

 そうして……ビーナスは、ふ、と視線を床に落とす。

「だから……ヒバナも、こんなところまで付いてくる義理、無いのにね。本当に、バカなんだから……」

「……本当なのか。その、ヒバナが、商店を燃やした、というのは……」

 ビーナスに海斗が恐る恐る問いかけると、ビーナスは肩を竦めた。

「さあ……うちの組の者は一定以上の地位になったら、全員、首に蛇の刺青を入れるから。ヒバナじゃなくったって、刺青くらいあるのよ」

 どうやら、ミナの勘違い、ということも、ありそうだ。とはいえ……全くの無関係、とは言えないようにも思えるが。

 

「……1つ、推理を発表してもいいかな」

 それから、陽が手を挙げてそう発言した。

「ええ。どうぞ」

 すると、ビーナスはたまから銃口を逸らさずに許可する。……陽は相変わらず緊張を走らせつつ、それでもはっきりと、言い切った。

「土屋さんを殺したのは、やっぱり、ビーナス。君だ」

 

 

 

「……とはいえ、直接的な証拠は何も無い。ただ、君が嘘を吐いていたことだけは確かだから」

「……というと?」

「銃だ」

 陽がそう切り出すと、ビーナスは『ああ』と何かを理解したような顔をした。

「君は、銃が1つ足りない、というようなことを言っていたけれど……その1つが、君の手の中にあるんじゃないかな」

 ビーナスの手には、未だ、銃がある。しかと、たまに向けられた銃が。

「それから、ダイイングメッセージ。あれは、いくらでも偽造ができる。……金星を水星のマークに書き換えるのは簡単だからね」

 ……分からないバカは頭の上に?マークをいっぱい浮かべていたが、それを見ていた海斗が、横から教えてくれる。

『♀』が金星のマークだが、その上部、円の上に角を2本生やせば、それだけで水星のマークになる。……つまり、後から少し書き足すだけで、土屋のダイイングメッセージは偽造が可能なのだ。

「そうね。それで?」

「それにやっぱり……躊躇が、無さすぎる」

 そうして最後に、陽はそう言うと、少し迷って……それから、言った。

「人を殺したことがあるとしか、思えない」

 

 

 

「……そうね。確かに私、そういうのに抵抗、無い方よ」

 ビーナスはそう言って、笑う。

「悪魔のゲームみたいな殺しの現場に居たこともあるし……だから、一発銃弾を撃ち込むくらいは、まあ、簡単、ってことよね。これでも肝は据わってる方だし」

「……何のために、土屋さんを?」

 笑顔のビーナスを前にして、陽はいよいよ緊張気味に、そっと、たまと手を繋いだ。それを見てビーナスは微笑ましげにまた笑って……。

「何のため?そんなの、願いの為、以外にある?」

 

「生まれた時から決まっていた運命を捻じ曲げるためなら、悪魔の言いなりにくらい、なってやるわよ!」

 いよいよ、ビーナスの指が引き金を引く。

 

 

 

 その時だった。

 ぶちり。

 ……嫌な音が響く。

「……え」

 

 それと同時、ビーナスの首が、千切れ飛んだ。

 

 

 

 血飛沫があまりにも鮮やかで、現実味が無い。

 バカがただぼんやりしている横で、ミナが、ふらり、と立ち上がっていた。

「……忘れたんですか?私の異能は、治癒です。撃たれたって……一度なら、なんとでも……」

 だが、ミナがそう言うと……。

 

 ぱぁん。

 ……1つ銃声が響いて、ミナの胸にまた、穴が開いた。

 いつの間に現れていたのか、白大理石の彫像が銃を手にして、ミナの胸を撃ち抜いていた。

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