(2025/11/21 12:00)
トヨタ自動車未来創生センターが偏西風からエネルギーを採掘するシステムを開発している。巨大な凧(たこ)を揚げて、風に引っ張られる力で発電機を回すというシンプルな構想だ。試算では1万5000本の凧を揚げると日本全体の消費エネルギーをまかなえるという。凧と地上をつなぐ高強度繊維や凧の飛行制御技術が市場競争力となる。資源埋蔵量ではなく、技術力で日本がエネルギー産出国になれる可能性がある。
ぶっ飛んだ発想
「市販材で必要強度に届かなければ諦めようと思っていた。計算すると許容範囲。これでプロジェクトが始った」。トヨタ未来創生センターの板倉英二マザーシップグループ長はプロジェクトが承認された当時を振り返る。凧を揚げて偏西風からエネルギーを採掘する。単純だがぶっ飛んだアイデアだ。偏西風は上空1キロメートルを流れる。飛行機が飛ぶ高さに横幅100メートル、縦幅に10メートルの巨大な凧を揚げ、安定飛行させる必要がある。
飛行姿勢は空力舵(だ)で制御する。飛行機のようにフラップの角度を調整して姿勢を保つ。空力舵を働かせるためには凧自体に剛性が必要になる。パラグライダーのように柔らかいと突風にもまれて形を維持できないためだ。一方で凧は軽量化する必要がある。そこで試作機は生地でチューブを作り、ポンプで膨らませて硬い骨組みとした。圧力は1・2気圧程度で済むため小さなポンプで駆動できる。
反対に空気を抜くとパラシュートのように凧が揉まれながらゆっくりと落下する。飛行制御を失った際の安全性につながる。板倉グループ長は「落下と同時にケーブルを巻き取れば狙った場所に降ろせることを確認した」と説明する。
エネ密度が高い
高強度繊維は原糸を東洋紡エムシー(大阪市北区)、高密度製織をサカイ産業(静岡県島田市)、織物の表面加工は東洋クロス(大阪府泉南市)が協力した。従来と比べ3割の軽量化と1・3倍の高強度化に成功している。
風力発電自体は地上や海上でも可能だ。ただ地表面の風よりも上空の気流の方が強くエネルギー密度が高い。偏西風はヒマラヤ山脈にぶつかって整流され、日本上空に集中している。日本の空は高エネ地帯といえる。
また凧はNTN(非地上系ネットワーク)の基地局としても転用できる。第6世代通信(6G)のアンテナを浮かべると衛星通信よりも安価な通信網となる可能性がある。そして凧から輸送ボックスを吊って運び、命綱付きの空飛ぶクルマとして運用することも構想している。
空中プラットフォームとして使うには可搬重量が重要になる。現在の小型試作機では最大120キログラム重のけん引力を確認した。実用化へは縦横を10倍に広げ、面積を100倍に増やす。凧を大きくして揚力を確保する。試作機では高度2500メートル弱を飛行できた。次は高度5000メートルを飛ばして凧揚げの世界記録を狙う。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)へ選択肢を広げる。
(2025/11/21 12:00)