続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第9話:四天王

「──溶岩に、冷気……」

 

 

 

 漁港から離れたビーチの一角で彼女はうんうんと唸る。

 対極とも言えるヌシポケモンのイレギュライズ事例に、頭を悩ませているのだ。結局の所、まだデータは2つだけ。

 どんなに調べても、分からない事が増えるだけなのだった。

 

「なあ、伝説のポケモンの名前がヴォルカニドとブリザベオ、なんだよな」

「ええ……そうですね」

「今まで出会ったイレギュライズが溶岩と氷。これって偶然か?」

「それ、三例目が他のタイプだったら瓦解するよね?」

「たったの二例だけで決めつけるのは科学者失格ですよ、メグルさん」

「俺科学者じゃねーから」

 

(なんつーか……ポケモン廃人のカンってヤツだけど。こんな現象を起こせるのは悪の組織か伝説のポケモンのどっちかだ。そんでもって、マーニャに伝わる伝説のポケモンはヴォルカニックなクワガタムシに、ブリザードなカブトムシだろ)

 

 問題は、それを証明する科学的な根拠など何処にもなく、後からまた例外が出てくるかもしれない点である。

 だがしかし、ポケモン廃人の特権は──メタ読みである。これまでポケモンのゲームを全部やってきたからこそ、ある程度この世界で起こる事件には法則性がある、と分かるのだ。

 特にポケモンが絡む事件に関しては。

 

(……ぜってーイレギュライズって、ヴォルカニドとブリザベオが絡んでるだろ……)

 

 たとえばダイマックスは、ムゲンダイナというポケモンが古き時代に齎したガラル粒子によって起こる現象だ。

 そして、パルデアのテラスタルの大本は古代亀のポケモンであるテラパゴスと言われている。

 更にオーライズの根源となるのは、大蜘蛛のポケモン・オーラギアスによるものだ。

 このように、ポケモン世界に於ける怪現象は他の強力なポケモンによって引き起こされていることが殆どなのである。

 となれば、イレギュライズを引き起こしているのも、ヴォルカニドとブリザベオではないか? とメグルは考える。

 問題は、肝心のヴォルカニドとブリザベオが全くと言って良い程姿を現していないところである。

 これだけの異変を起こしておいて、関連しそうな甲虫二匹が出て来ていない点が気掛かり──と言いたいところだが、封印された状態でもサイゴクに厄災を振り撒き続けた”赤い月”の前例があるので何とも言えない。

 

(実は一周回って関係無いってパターンもある? だけどな……ゲームなら絶対、あの二匹が原因だったりするんだよな……)

 

 メグルは目を瞑る。

 

(そもナンバリングタイトルでパケ伝がポケモン暴走の原因になったことってあったっけ?)

 

 前例を考える。

 たとえば「ソード・シールド」ではムゲンダイナが各地のポケモンをダイマックスさせていた。

 たとえば「LEGENDSアルセウス」では黒幕と手を組んだギラティナが各地のキング・クイーンを狂わせていた。

 だが彼らはゲームプレイ前から存在が分かっているパッケージ伝説とは違い、ゲーム中に存在が明らかになる「第三伝説」に分類される。

 故にパッケージにあるような伝説が単体で暴走したことはあれど、他のポケモンを凶暴化させるような事態を引き起こした例はない。

 

(ヴォルカニドとブリザベオ……どう考えてもコイツら、ポジションとしてはパケ伝だよな……パケ伝が悪さするような事ってあるのか?)

 

 答えは出ない。所詮メタ読みは何処まで行ってもメタ読みでしかない。

 それに、いざ新作が発売されれば今までに無かったパターンのシナリオ展開に度肝を抜かれるのがお約束なのだから。

 

(いや、商品展開的な観点から見て、顔役になるポケモンを悪役には出来ねえだろうからな……だから暴走する場合でもグラカイやディアパルみたいな人間の被害者みたいなポジションになるわけで)

 

 メグルは眉間を摘む。

 

(マイミュや……オーラギアスみてーなのが……イレギュラーなだけなんだよな……きっと)

 

 そう思いたい、と切に願う。

 だが──それでも先の戦闘を思い出す。

 何処までいってもポケモンは生き物だ。野生動物だ。

 もしも伝説ポケモンクラスの”野生動物”が見境なくこちらに襲い掛かってきたら、と考えると足が途端に震えてくる。

 

(……もしも、ヴォルカニドとブリザベオも、そのイレギュラーだったら……?)

 

 たった1人でルギアに挑んだ時のことをメグルは思い出した。

 ノオトも、キリも、そして──アルカも、ルギアの技を前に倒れて動けなくなった。

 あの時、皆死んでいてもおかしくなかったのだ。

 

「……」

 

 ぽーんぽーん、とランクルス、サニーゴとボールを打ち合って遊ぶニンフィアを眺め、メグルは──余計に目を伏せる。

 

(お前だって……怖くねえのかよ、ニンフィア。……怖くないんだろうなあ、お前は)

 

 本当に危ないのは、いつも最前線で戦うニンフィアだ。

 ポケモンセンターに行けば治る程度のケガだったのが幸いだったが、気が気でない。

 これまで危機に出くわす度に、ありとあらゆる手立てを講じ、知恵を絞り、それでも何ともならない時は運が味方してくれた。

 だが──”次”もどうにかなるとは限らない。

 きっと、このポケモンの世界に居る限り、あるいは厄介ごとに首を突っ込み続ける限り、危機は襲ってくる。

 そうなると、自然と口を突くようにしてその言葉は出かかっていた。

 

 

 

 ──この件から、手を引かないか? 

 

 

 

 ……そんな一言が、いつの間にか出かかっていた。

 今までのメグルならば、絶対に出なかった言葉だ。

 苦しんでいるポケモンは見過ごせない。ポケモンが好きな者として。

 何より、実力を以て問題を解決できる力が自分にはあるのだから、立ち向かうのは当然だ──と、若さ特有の向こう見ずさがあったのは言うまでもない。

 だが、先の戦闘でランクルスの腕が食い千切られたのを見て、メグルの中での喪失への恐れは更に強くなっていく。

 今回はどうにかなった。でも、次は──?

 

 

 

「メグル、どうしたの?」

「っ……」

 

 

 

 いけない、とメグルは己の思考がネガティブな方向に引っ張られている事に気付く。

  

「……アルカ。此処までの進捗ってハイビ先生には……」

「あ、そういえばしてない。待っててね……ん、今通話オーケーみたい!」

「良かった……」

 

 アルカがスマホロトムを起動する。

 間もなく、パルデアに居るハイビ先生と通話が繋がるのだった。

 此処までの経過、そしてイレギュライズについて報告するのだった。

 

『進展は大きかったようですね。パルデアには、ヌシポケモンと戦えるほどのトレーナーはそう多くない。やはり、メグル君とアルカ君に頼んで正解でした』

「……」

「えへへー……」

『しかし、溶岩の鎧と、氷の鎧、ですか。この2つ以外にも鎧の種類があるのか? また、ヌシポケモンにギフトを齎したのはどのような存在なのか?』

 

 上機嫌に考察を続けるハイビは──『幸先が良いですね』とにこやかに言った。

 

()()では……此処まで辿り着くことは出来なかったでしょう』

「彼ら?」

『ああ失礼。貴方達には話してませんでしたね……”ワームホール公団”の事を』

 

 と言っても、悪い連中ではないんですよ、と彼は続ける。

 

 

 

『マーニャは広い。彼らも人手不足なのでしょうか? ……ヌシポケモンに懸賞金をわざわざかけている辺り……』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ワームホール公団本部へようこそ! まさか、遠方からサイゴクのトップに来ていただけるとは……」

 

 

 

 ──ノオトとキリが出向いたのは──ワームホール公団。即ち、マーニャ地方に於ける公共事業を統括する団体だ。

 自然保護区の管理や学校の運営、そして今回の野生ポケモンの襲撃についても対策を講じているという。

 二人を出迎えたのは黒服の愛想のいい男だった。

 

「──成程、サイゴクから観光で来た矢先に野生ポケモンの襲撃に……」

「ああ。貴殿たちのトップが、この問題に対しどう考えているのか一度聞かせて頂きたく」

「しかし、トップに直接会うことは叶いませんよ」

「何故? アポイントメントは先に取ったはずだが」

「話が違うんスけどね?」

「まあそう焦らず、一先ずは此方の部屋へ」

 

 そう言われてノオト達が連れて来られたのは、最上階の会議室。

 そこには、大きなモニターが立てかけられていた。

 席に座ると──画面が明るくなる。

 そして、映し出されたのはワームホール公団の象徴であるWHの頭文字を変形させたシンボルマークだった。

 間もなく部屋中にノイズの混じった音声が響き渡る。

 

『ヨウコソ……サイゴクノキャプテン。ワタシガ、ワームホール公団ノ理事長”コチョウ”ト申シマス』

「コチョウ理事長……お忙しい中、すまない」

 

【ワームホール公団理事長”コチョウ”】

 

 聞こえてくる機械音声のようなそれを前にして、ノオトとキリも流石に不気味がった。

 どうして顔を出して直接出向かないのだろうかという至極真っ当な問をぶつけようとしたキリだったが、流石に彼女も聡かった。

 忍び装束こそ着ていないが、自身も応接用のカッターシャツに、口元だけ見えるタイプの仮面という珍妙な格好をしていたからである。

 勿論ふざけているわけではない。最大限の譲歩の結果だったのだ。

 

 ──ああああ!! 忍び装束で他地方のトップに会いにいく馬鹿は居ない!! でも、仮面を外したら絶対に喋れない!! 詰み……!!

 

 昨晩。キリは項垂れていた。

 

 ──忍び装束は解けばいいんじゃねえッスかね……。

 

 ──そうなったら喋れない!! サイゴクの筆頭キャプテンがコミュ障であることが露呈したら、サイゴクの恥部になってしまうでござる!! 

 

 ──可愛いから良いんじゃねえッスかね!

 

 ──こんなところで煽てなくて良いんでござるよ、怒るでござるよ!! 私は真面目に考えてるでござる!!

 

 敢えて再三述べる。このキリという少女、極度のコミュ障なのである。

 仮面が無ければまともに初対面の相手と顔を合わせて話す事が出来ない程のシャイガールなのである。

 平時も常にノオトにべったりしているのは、仮面無しで他者と喋ろうとすると恥ずかしくなって言葉が続かなくなってしまうためだ。

 それでも普通の服装で出歩けるようになっただけ昔に比べれば改善されたのであるが──こと、外交ともなれば話は変わってくる。

 忍者として通っている上にホームでもあるサイゴク内ならともかく、海外の中枢施設に忍び装束で入ったが最後、締め出されるのがオチだ。

 何故なら何処からどう見ても怪しいヤツにしか見えないからである。

 

 ──仕方ねえッスね。上は普通にフォーマットなカッターシャツにして、後は……この仮面でも被っておけばいいんじゃねえッスか?

 

 ──それは何処で買ってきたでござるか……?

 

 ──お土産屋さんに売ってたッスね。ほら、列島のテレビアニメって数年してからこっちで再放送してたりするっしょ? ……昔のロボアニメの悪役がよく付けてるアレッスよ。

 

 言わば「シャアッ!!」って感じのサムシングの仮面だった。目元だけ隠すタイプのアレである。

 

 ──要は視界さえ塞げれば良いんスよね?

 

 ──普通の恰好に仮面オンリーは……怪しさ満点では……!? 

 

 ──この期に及んで怪しさ解消する方の選択肢を取れると思ってたんスか!! 悪いけどコレ被って貰うしかねーんスよ、キリさんには!!

 

 ──ううううー……! 絶対に変でござる……これならまだ全身忍び装束の方がマシでござるーッ!!

 

 ──おやしろの忍者たちの気苦労が伺えるッスね……。

 

 しかし、付ける前はこうして駄々をこねていたキリだったが、一度仮面を付ければ一転して忍者モードになるわけで。

 

 ──かたじけない、ノオト殿。早速明日の謁見の準備でござるよ。

 

 ──相も変わらずすっげえ変わりようッスね……。

 

 ──何、拙者は忍者。忍び耐える者。如何なる任務でも確実に遂行するのが務め。明日はノオト殿の身に何があっても拙者が守り通そう。

 

 変声機を付けていないので、声は可愛らしい少女のままだが、それでいて勇ましい忍者の頭領としての口調で喋るので、ノオトの頭はおかしくなりそうだった。これがギャップ萌えなのかもしれない、と真面目に考えた。

 

(とまあ……こっちも顔を出せない事情がある以上、相手の事は言えねえんスよねえ……)

 

 もしも相手方がモニター越しに喋っていることを指摘すれば特大ブーメランが返ってくることは確定的に明らかだ。

 勿論、隣に居るノオトもそれを重々理解している訳で。

 

『コンナ形デノ応対ニナッテシマッテ申シ訳ナイ……訳アッテ、外ニ出ラレナイ身デシテネ』

「此方こそ。顔を出せないのはお互い様故、気にしないで貰おう、コチョウ殿」

 

(やべえッス……怪しいヤツと怪しいヤツの集会みてーになってるッス。オレっちも何か被って来れば良かったッスかね?)

 

 横で聞いているノオトは気が気でない。これでは”笑ってはいけない面接24時”である。

 もう見てくれだけで怪しさを怪しさで濃縮したような光景になっていた。

 

「拙者たちは元々、観光でこの地方を訪れたのだが……偶然、野生ポケモンの襲撃に出くわした。聞けば今、この地方ではこのような事態が頻発しているという。地方全体の問題になっている程にな」

『オハズカシナガラ、貴殿ノ言ウ通リデス……マーニャデハ現在、各地デ”ヌシポケモン”ガ発生シ、ソレラガ群レヲ形成シテ暴走シテイル』

「だが、対策、駆除は追いついているとは言えない。故に懸賞金をかけ、現地のトレーナーや観光客に対処してもらっている始末。その点はどう考えている、コチョウ理事長」

『エエ……シカシ、結果ハ芳シクアリマセン。特ニ、最近ニナッテ発生シ始メタ”ヌシポケモン”ハ奇妙ナオーラヲ纏ッテオリ、並ミノトレーナーデハ対処ガ出来ナイ』

「このままではこの地方のインフラに影響が出るのも時間の問題。更に、同様の現象が他の地方で起こらないとも限らない。その際の対策を今のうちに講じておくのは悪い事ではないだろう」

『デハ、貴方達ノ提案ハ……』

「サイゴクの筆頭キャプテンとして、マーニャの危機に介入させて貰う」

『成程……願ッタリ、叶ッタリ、デス。マーニャハ、リーグガ無ク……ナカナカ強イトレーナーガ育タナイノデ、苦慮シテイタノデス』

「では──」

『トナレバ、()()()()トナルデショウ』

 

 突如、会議室の扉が開く。

 そこから現れたのは”WH”のバッヂを身に着けた緑色のスーツを身に纏った男女たちだった。

 体格も年齢も肌の色もバラバラだ。巨漢、やせ形の男、双子の少女たち。

 しかし──瞳の色だけは皆同じだった。

 それにノオトは何処か違和感を覚える。規格化された製品のような、”綺麗に整いすぎているが故の違和感”を。

 

「彼らは……?」

『我々ワームホール公団トシテモ、コノ事態ノ解決ニ向ケ、優秀ナトレーナーノ卵ヲ各地カラ募リ、育成シテイタノデス』

「……各地から……ね」

 

(こいつら……バラバラの寄せ集めなのに、妙に統一感があるような)

 

 

 

『ゴ紹介シマショウ……彼ラガ精鋭達……”四天王”デス』

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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