続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第8話:銀盤に潜む牙

 乗り合いバスで移動しながら、改めてアルカはメグルとミアからセレクト団の事を聞いていた。

 因みに完全に機嫌を損ねたニンフィアは、ミアに抱きかかえられており、そこから離れる様子が無い。

 

「……じゃあまたタイプ:ゼノみたいなポケモンが生み出されている可能性があるって事!?」

「そうなります」

「もしかして、そのセレクト団って奴らが……野生ポケモン暴走の原因って可能性も」

「正直、十二分に有り得る」

 

 以前のテング団の所業を考えれば、そう結びつけてしまいたくなる気持ちも分かる、とメグルは考える。

 とはいえ、今はまだ情報が少なすぎる。そもそもセレクト団の残党がまだマーニャに残っているかどうかも分からない。

 文書自体がミッシング・アイランドが頓挫した直後に書かれたものであるためだ。

 

「ただ、ごめんなさい……セレクト団に関しては、私が勝手に突っ走っただけなんです。いるかどうかも分からないので……」

「頭の隅に留めておいて損はねぇだろ。もしも今起こってる暴走が人為的に起こされたものだったら大問題だぜ」

「……うん。許せないよ」

 

 テング団の事を思い出したのか、いつになく低い声でアルカは答えた。

 

「でも、此処までは全部只の憶測だ。先ずは情報を足で集めねえとだろ?」

「地元の漁師さんのSNSコミュニティから、海上で昨晩不審な動きがあったことが確認されています。何やら……海諸共船が凍ったとか」

「酔っ払いの戯言じゃなけりゃ、大事だな。ポケモンの仕業かもしれないぜ」

 

 ヴァリカン漁港に着くまで早10分ほど。

 辿り着いた彼らは──現場の人だかりを掻き分けていき、そして絶句する。

 誇張などではない。海面からは冷気が漂っており、その原因を示すかのように船を巻き込んで海に氷が張っている。

 物珍しさで人が大量に集まるのも無理はない。常夏のはずのヴァリカン島に、一晩だけ厳冬が来たかのようだ。

 この暑さでも未だに氷が溶ける様子はない。

 

「何だこりゃ……!?」

「……見て下さい。海面だけではありません、そのずぅっと下まで。まるで氷河のように海が凍らされています」

「こ、これさ、何をどうしたらこうなるわけ!?」

「海中ですさまじい冷気を放っているポケモンが居るはずです。此処はランクルスに任せて下さい」

「ぐりゅぐりゅりゅ」

 

 桟橋に立つミアはランクルスをボールから出す。現地の漁師たちが彼女に近寄る。

 

「おいおい嬢ちゃん、あぶねえぜ?」

「そうだ、落っこちたらどうなるか──」

「漁師さん。観光客の皆さんを下げていてください。……下手したら死人が出ます」

「うぐっ、しかしだな……」

「それにこのままだと、船が凍ってしまっている所為で船が出せないんですよね?」

「そうだが……」

「ああ、此処は俺達に任せておいてくれよ」

「大丈夫なのかぁ……?」

 

 前に出たミアの肩を叩き、メグルとアルカも並ぶ。

 ニンフィアとサニーゴも凍った海面を見つめ、すっかり臨戦態勢だ。

 

「ランクルス。”めいそう”は終わりましたか?」

「ニンフィア、”てだすけ”でランクルスをサポートだ!」

「ふぃっ!」

 

 パンパンっ、とリボン同士を鳴らしてランクルスを鼓舞するニンフィア。

 そのランクルスはと言えば、静かに目を閉じていたかと思えば巨大な腕を思いっきり握り締める。

 ゼリー状の物質に包まれたそれはサイコパワーに包まれ、腕には力が漲っていく。

 

「念動力で強化した腕力であの氷を叩き壊します──ッ!! 離れて!! ”サイコショック”!!」

 

 物質に作用する特殊なサイコパワーを纏わせた腕を思いっきり振り上げると、ランクルスは海面に飛び出し、思いっきり殴りつける。

 分厚い氷は砕け散り、轟と音を立てて海水が溢れ出し始めた。

 そして、その衝撃は当然海中まで伝わり──潜んでいたヌシを目覚めさせるのだった。

 

 

 

「ジョォオオオオオオオオオオオオオーッッッズ!!」

 

 

 

 ジェットもかくやの勢いで分厚い氷を突き抜け、それは飛び出した。

 巨大な鮫の頭部に鰭が付いたような異形のポケモン・サメハダーだ。

 列島でもホウエン地方を中心として生息している非常にポピュラーなポケモンである。

 しかし、その姿はメグル達が知るものとは大きく異なっていた。

 先ずはサイズである。鰭を入れて1.8メートルとされている通常の個体の倍以上の体躯だ。

 それに加え、全身には歴戦を潜り抜けてきた猛者である証拠とも言える無数の傷が目についた。

 

【サメハダー(ヌシ) きょうぼうポケモン タイプ:水/悪】

 

 巨大サメハダーの登場で、漸く危機を感じ取ったのか、観光客たちは散り散りに逃げ始めた。

 漁師たちはたまげた様子で「お、大物だどーッ!?」と叫ぶ始末。

 暴れた後の休眠を邪魔されたことで怒っているのか、サメハダーは飛び出すなり鰭のジェット噴射で進行方向を変えて氷の海を滑り、逃げ惑う人々目掛けて飛び出そうとするが──

 

 

 

「フィッキュルルルルル!!」

 

 

 

 それを真正面からニンフィアが”でんこうせっか”の勢いで突っ込み、そして受け止める。衝撃で氷の海が揺れる。

 久々に真っ向から喧嘩出来る相手にニンフィアはとびっきり凶悪な笑みを浮かべてみせる。

 一方のサメハダーも、目の前のニンフィアを捕食対象ではなく敵として認めたのか、再び氷海の中に潜ってみせる。

 

「水の中に潜った!! これじゃあ、何処から出てくるのか分かんないよ!?」

「ぷきゅー……!」

 

 あの速度ではサニーゴでも追いつけはしない。

 何よりサメハダーは悪タイプ。ゴーストタイプに対して非常に強い。加えて、うっかり水底に引きずり込まれたら小さなサニーゴでは二度と戻って来れない可能性が高い。

 バキ、バキバキと音を立ててニンフィアの足元から再びサメハダーはジェット噴射の勢いで跳び出すのだった。

 辛うじて飛び退いて避けたニンフィアだったが、足場が崩れたことで海に落ちそうになってしまう。

 

「ふぃるきゅー……!!」

「氷の上じゃあ、あいつが有利か……!! しかも下は海、落っこちたら……ひとたまりもねえだろうな!!」

 

 おまけにあの巨体で暴れる所為でニンフィアの足場はどんどん減っていく。

 そのため、サメハダーに接近しようとすると此方も滑落のリスクが上がっていく。

 氷の上では不利と踏んだのか、船の上に飛び乗るニンフィア。しかし、それを見るなりサメハダーは再び海面を突き抜けて飛び出すのだった。

 

 

 

「そこです。ランクルス、”トリックルーム”!!」

 

 

 

 それが最大の罠であるとも知らずに。

 ニンフィアとサメハダーを中心として周囲は巨大なドームに包み込まれ、その間は時間の流れが逆転する。

 

「歪んでいるぞ……!? おかしい……!? 何かが……!? 周囲の……!?」

「変じゃねえか!? オイ!! 喋り方が!? お前!?」

 

 速いものは遅くなり、遅いものは速くなる。

 時の奔流が逆転したこの空間では、飛び出したサメハダーは良い的でしかない。

 ニンフィアは口を大きく開けて息を吸い込む。

 

「”ハイパーボイス”だ!! ニンフィア!!」

 

 特大の音声がサメハダーを揺さぶり、銀盤へと叩き落とす。

 氷の海にゆっくりと落下したサメハダーは絶叫し、そのままずるずると滑っていくのだった。

 素早さというアドバンテージを奪われ、紙装甲の身体に弱点の攻撃。

 誰もがサメハダーが倒れた事を確信したのであるが──

 

 

 

 

「ジョォオオオオオオオオオオオオオーッッッズ!!」

 

【ヌシ咆哮:ポケモン達は怯んで動けない!!】

 

【ヌシ咆哮:不思議な空間が解除された!!】

 

 

 

 その場の全員が立ち竦み、耳を抑える程の咆哮が響き渡る。

 そしてあろうことか、ランクルスが展開したトリックルームはその大音声によって内側から砕けてしまったのだった。

 ニンフィアですらリボンで耳を塞がなければならない上に、足が震えてその場から動けない。

 一方のサメハダーと言えば、目から紫電を迸らせながら、鰭に、そして頭に氷の鎧を纏っていくのだった。

 その場に冷気が溢れ出る。海が凍り付き、船にも霜が張っていく。

 辺りは一瞬で氷海と化した。

 

「イ、イレギュライズした……!? でもサイドンの時とは違う……!! こっちは氷を纏ってる……!!」

 

 思わずアルカが口走る。

 肌身に感じる嫌な気配は、ヌシサイドンのそれと全く同じだ。

 

「気を付けろニンフィア、そいつまだ倒れてねえぞ!!」

「ふぃー……!!」

「ジョォオオオオオオオオオオオオオーッッッズ!」

 

 怒り狂うサメハダーはジェット噴射に任せてニンフィアに向かって突撃する。

 その速度は先程の比ではない。避け切れなかったニンフィアは──鰭によって前脚が斬られ、鮮血を氷の上に散らせるのだった。

 

「フィッ……!!」

 

 しかしそれで怯むニンフィアではない。

 むしろ喧嘩相手が殴り返してこなければつまらない。

 彼女はバチン、とリボンで銀盤を叩くと、愚直に突っ込んで来るサメハダーに向かって身構える。

 

【サメハダーの アクアジェット!!】

 

【ニンフィアの でんこうせっか!!】

 

 二匹がぶつかり合う。

 しかし、サメハダーの勢いは先程の比ではない。ニンフィアの身体は撥ね飛ばされ、空中へ。

 そしてそれを狙って、サメハダーは大きな口を開けてニンフィアを丸呑みにしようとするが──

 

「ランクルス、”トリックルーム”ですっ!!」

 

 ──再びランクルスが空間を歪める。

 ニンフィアはするり、とサメハダーの咬撃を逃れ、何事も無かったかのように地面に着地した。

 そうなると後に残るのは無防備に空中に跳びあがったままのサメハダーのみだ。

 

 

 

「ジョォオオオオオオオオオオオオオーッッッズ!!」

 

【ヌシ咆哮:ポケモン達は怯んで動けない!!】

 

【ヌシ咆哮:不思議な空間が解除された!!】

 

 

 

 だが、サメハダーも流石に学習しているのか、凄まじい音圧の咆哮を放つと無理矢理トリックルームを破壊し、再び凄い勢いで海中へと潜っていく。

 そして己の速度を限界まで極め、水を全身に纏い、再び氷上へ現れた時、もう”トリックルーム”を再度展開する隙など与えなかった。

 サメハダーは最大の脅威をニンフィアではなくランクルスに定めたのである。

 氷の鎧はサメハダーの身体にエネルギーを供給することで更に速度を高めていく。

 その様はまさしく弾丸の如く。

 

 

 

 【サメハダーの かみくだく!!】

 

 

 

 

「速──ッ!?」

 

 

 ──氷を砕き、ランクルスの足元に突如飛び出したサメハダーは、その右腕を食い千切るのだった。

 

「ッ……ランクルス!!」

 

 獲物を食い千切ったサメハダーは反撃を受けないために再び海中へと潜り込む。幸い、速度を極めた”かみくだく”ではランクルスの腕を持っていく事は出来ても、彼を丸ごと食い破る事は出来なかったのである。

 腕を失ったショッキングな光景を前にメグルは思わず固まってしまった。

 

「ランクルス、戻ってくださいっ!!」

 

 ──当のミアはランクルスをボールに戻すだけで、然程動揺はしていないようだった。そればかりかメグル達に「気を付けて!! ニンフィアは”じこさいせい”出来ないでしょう!?」と呼びかける。

 それで両者は漸く戦いに意識を戻す事が出来たのだった。

 

「あっ、そっか!! ランクルスって再生できるのか──!!」

「フィッ!!」

 

 巨大鮫は未だに氷河の下を泳ぎ回っている。

 ニンフィアが何処に居ようとも、喰らい尽くしてやると言わんばかりに狙っているだろう。

 船の上ならば、船諸共食い破る。

 氷の上ならば、氷の上諸共食い破る。

 もしも陸地に上がったならば、そこに居る人間諸共食い破る。

 そんな野生の殺意を目の当たりにして、ニンフィアは極限まで己の感覚を研ぎ澄ませてサメハダーの居場所を探る。

 

「ニンフィア、気を付けろ……あいつ何処から出てくるか……!!」

「ふぃー……!!」

「それに、あいつのスピード……もし噛まれたら只じゃ済まねえ……!!」

 

 口を開けて、”はかいこうせん”のチャージをして身構える。

 勝負は一瞬。

 サメハダーがニンフィアを轢き潰すか、それともニンフィアがありったけの”はかいこうせん”をサメハダーにぶつけるか。

 氷上と水下。

 両者は互いの出方を伺いながら──ぎりぎりまで引き付け合う。

 そんな中、メグルはアルカに向かって目配せ。彼女も頷いた。

 極限までニンフィアの緊張が高まる。

 周囲が完全に静寂に包まれたその時だった。

 

 

 

「ジョォオオオオオオオオオオオオオーッッッズ!!」

 

 

 

 【サメハダーの アクアブレイク!!】

 

 

 

 間もなく。

 サメハダーが氷を砕き、ニンフィアの背後から大顎を開けて飛び出す。

 そのままニンフィアに身体全部でぶつかりに行くが──その勢いはニンフィアの周囲に展開された障壁によって殺されるのだった。

 ”リフレクター”。物理技の威力を半減する壁だ。

 効果時間に制限がある上に咆哮によって壁を破壊されることを懸念したアルカは、サメハダーが決戦を仕掛けてくるこのタイミングで、サニーゴに”リフレクター”を使用させたのである。

 これならばサメハダーの攻撃を障壁で阻むことで、インパクトを遅れさせることができる。

 

 

 

【サニーゴの リフレクター!】

 

 

 

 サメハダーの身体がニンフィアにぶつかりそうになるコンマ1秒。

 振り向いた彼女が、限界までチャージした”はかいこうせん”を吐き出すには十分だった。

 

 

 

【ニンフィアの はかいこうせん!!】

 

 

 

 一直線に青白い光線が解き放たれる。

 サメハダーの巨体は吹き飛ばされ、そのまま桟橋の上に叩きつけられる。

 氷の鎧は砕け散っており、港を凍らせた大物は文字通り釣りあげられるのだった。

 すぐさま駆け寄ってボールを投げ、捕獲を終えるとメグルは全身から力が抜けてしまうのだった。

 

(お、終わった……)

 

 振り返ると、ミアがランクルスに”げんきのかたまり”を与えた上で”じこさいせい”の指示を出しているのが見えた。

 食われた腕がみるみるうちに再生していっているのが分かる。

 その光景を見て、改めてメグルは安堵する。ジェル状の身体で出来ているランクルスにとって、身体の一部が千切れてもさしたる傷ではないのだ。

 

(でも──もし。食い千切られてたのがランクルスじゃなくてアルカやミアだったら──)

 

 そう思うと恐ろしさで足が震えてくる。

 ヌシポケモンのみせる凶暴性。そして、イレギュライズの未知数極まりない挙動にメグルは戦慄する。

 彼らは人が相手でもポケモンが相手でも、変わりなく平等に、そして残忍に襲い掛かるのだ。

 早速スマホロトムで戦闘データを解析していたアルカは不思議そうに言った。

 

「サイドンは溶岩の鎧、対して今日のサメハダーは氷の鎧……でもタイプは変わらず。一体どうなってんだろうね」

「……よくもまあ、切り替えられるな。俺はまだ生きた心地しねえよ」

「そりゃボク、今回はあんまり良い所無かったし。こういうところで頑張らないと」

「最後にリフレクター張ってくれたのはマジで助かったよ。じゃなきゃニンフィアはブッ飛ばされてた」

「ふぃるふぃー」

 

 褒めて遣わす、と言わんばかりにニンフィアが胸を張る。そんな中、困った様子でミアが言った。

 

「取り合えず、此処から離れませんか? ……物見遊山の観光客が近付いてきてるので」

「それもそうだな。地元紙の一面飾りたくなきゃ、さっさと行こうぜ」

「うーん……イレギュライズ……本当にイレギュラーだよ」

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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