続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「かんぱーいっ!!」
カツン、とカクテルの入ったグラスを三人は鳴らす。
ノオトに教えて貰った夜のオススメ観光スポット──ということで教えて貰ったのがこの場所、ビーチ・クラブだ。
観光客だけでなく地元の人間たちも酒を飲み交わし、語り合う社交の場である。
店内では陽気に楽器が奏でられる。
薄暗い灯りが照らす中、慣れないクラブの雰囲気にどぎまぎしているミア。
大好きな酒が飲めるので、すっかり上機嫌なアルカ。
「飲み過ぎんじゃねーぞ?」
「分かってるって」
「私、こういうところに来て良いんでしょうか?」
「お酒飲まなきゃ平気だってば。あー、美味しっ。ごくごくジュースみたいに──」
「おい馬鹿やめろ、いっぺんに飲むんじゃねえ。後で酔っ払いの処理するの誰だと思ってやがんだ」
「ご、ごめんって」
「るんぱぱぱ」
振り向くと、ウェイター係なのかラテン系の河童といった容貌のルンパッパが陽気な踊りと共に料理を運んでくる。
香辛料の匂いが香る串焼きに、ナシゴレン──現地風のチャーハン──そして、シーフードのグリルなどなどが華麗な手さばきでテーブルの上に乗せられた。
「るんぱぱぱぱぱ」
「すっげえなアイツ、踊りながら料理運んでんのに零してねぇぞ」
「ルンパッパは体幹と三半規管がとても強いんです。だから、ずっと踊っていても目を回さないんです」
「るんぱ~♪」
「さっすが、ミアちゃん、物知り~! ミアちゃん、すっごく賢いし、ウチのゼミにも欲しいよう……」
「そんな事無いですよ……まだまだ勉強中です」
「よーしっ、気分が良くなってきたし、もう一杯いっちゃおーっ!」
「ふぃるふぃー♪」
「ああっ、ニンフィア!! お前、俺の串焼きまで食うんじゃねえよ!!」
「ふぃー?」
ニンフィアは器用にリボンで串焼きを巻き取ると、そのまま口に運んでいく。これでも肉食なのである。
「あ、ああ……俺の串焼きが全部、食われてる……」
※※※
「ちょっとアルカさん、何本目ですか!?」
「らいじょーぶだって、ヘーキヘーキ!」
(あれから……どれくらい経ったっけか)
追加のカクテルに手を伸ばす酔っ払いを嗜めるミアを見て、メグルはふと息をついた。
年不相応にしっかり者で聡い彼女に生物学等の知識を与えたのは他でもない彼女の父親である。
しかし──その関係は非常に複雑だ。
その事実を父の死の間際に知った彼女は非常にショックを受け、更に亡父が非道な実験に手を染めていた事も合わさり、己のアイデンティティに苦悩することになる。
そうして自分のルーツを知るべく、封印されていたミッシング・アイランドを再起動したことが事件に繋がったのである。
彼女からすれば、父もミッシング・アイランドで行われた数々の実験も忌むべき対象だ。
彼女が何処まで吹っ切れたかは分からない。しかし──メグルとしては、今でも彼女の事を気にかけている。
「ほらアルカさん、もうお酒を頼むのはやめ──あれ、メグルさん? どうしたんですか? 私の顔、何かついてます?」
「……いや、何でもない。そういや──
アルカが追加の酒を飲み干している間に、メグルは小声でミアに問うた。
ゼノとは即ちタイプ:ゼノ。あの人工島で生まれた人造ポケモンだ。
流石にマーニャに連れて来られないはずだが、彼のその後もメグルは気になった。
ミアは「心配要りませんよ」と返す。
「流石に今は、自宅のボックスに預けてますけど……」
「だよなぁ」
彼女から顔を離し、メグルは腕を組む。しかし、そうなると気にかかる点が一つ出てくる。
ミアにとってはタイプ:ゼノは兄弟のようなものだ。それこそ、テレパスによって互いの痛覚や心境が分かってしまうような関係でもある。
そんな彼女が、ゼノを置いていってまでマーニャに出かける理由は何だったのだろう、とメグルは考える。
「なあ、ミア。お前がマーニャに来た本当の理由って……」
「……」
「んぇ? どったの?」
すっかり出来上がっているアルカを後目に、メグルは小声でミアに問う。彼女は頷いた。
「……父の研究室から気になる資料が出てきたんです。暗号文書で書かれていたので、考えられる全ての手段で解読した結果……」
そう言って、すぐにミアはスマホロトムを使ってメグルに文書ファイルを送る。
その中身はメグルにとっても驚くべき内容が書かれていた。先ず問題はタイトルである。
『(極秘)セレクト・ラボラトリィのマーニャ地方への移転計画』
「……おい待て、冗談だろ!?」
思わず大きな声が出てしまい、ミアもまた、目を伏せた。
かつて、ミッシング・アイランドで大規模な遺伝子実験を行っていた研究チーム──それがセレクト団だ。
彼らは水タイプのポケモンの細胞を使って万能細胞を作り出し、それを用いて全てのポケモンのクローニングを行おうとしていた。
結果、実験の過程で大量のポケモンの命を奪う事になり、更に万能細胞を用いてタイプ:ゼノやミアを生み出すことになったのである。
彼らのバックにはロケット・コンツェルンやGSカンパニーといった悪名高い企業の名前も入っており、文字通り死の科学者の集団と言える。
しかし。彼等の研究を危険視したスポンサーたちは、研究団に対して実力介入し、強制的に解体。
ミッシング・アイランドも海の底へと沈んでいた──はずだった。
「……何で今更こんなもんが……!! セレクト団は解体されたんじゃねえのかよ!?」
「はぇ? せれくとぉ……?」
机に突っ伏したアルカがむにゃむにゃ言ってるのを見て、ミアは「しーっ」と指を口に当てた。メグルも申し訳なさそうに頷く。
そして、彼女の耳元に向かって囁いた。
「アーユースリーピン、アーユースリーピン……」
「ずごー……ZZZ……」
「……ウソでしょ、それで寝るんですか……」
「酒が入ってると特にな。酔っ払いに話の腰を折られても困るし、このまま続けよう」
メグルは、いつの間にか増えていたカクテルグラスに戦慄した。果たして何本飲んだのだろうか。
『我々同志は、新セレクト団として再結成し、マーニャ地方にその活動拠点を構える事にした。』
『万能細胞の研究は解体されてしまったが、それでも我らの当初の目的である、ポケモンの更なる可能性の追求という夢は終わっていない。』
『セレクト・ラボラトリィを、マーニャ地方に移し、かつての同胞だけでなく、新たな同胞たちを募り、そして名前をも変え──我らは世界をも変える実験を再開しようと思う。』
「文書はこれだけでした。でも正直、疑問だったんです。あれだけの集団が……上層部からの圧力だけで研究を諦めたのかって」
「その結果がコレか……! あいつら、まだ残党が……!!」
「名前を変えられてる以上、すぐにセレクト団の居場所を突き止めるのは難しいとは思います。でも、彼らがやろうとしていた事を考えると、居ても立ってもいられなく……」
「ミア、それを1人で何とかしようとしてたのか?」
「……ゴメンなさい」
「そりゃ無茶だ。前だってそうだ、どうして1人で何でもやろうとするんだ……!? そりゃあゼノだって心配するぜ」
きゅっ、と彼女はスカートを握り締める。
「他に……頼れる人がいなかったんです。一度サイゴクも訪れたんですけど、メグルさんが、あれからサイゴクから居なくなっちゃったって聞いて……」
「……そーいや、連絡先交換してなかったもんな、俺達……」
無理もない。ミッシング・アイランドの件ではあれで終わり。自分たちがこの先交わることもないだろう、と考えていたからである。
しかし、実際悪夢の残滓は残っていた。セレクト団の悪意は、マーニャ地方に隠れ潜んでいた。
「それで、何か手掛かりは見つかったのか?」
「まだ、何も……」
「だよな……」
「……だけど、その文書ってもう何年前のモノだよ? 何事も起こってないなら研究計画だって、とっくに頓挫してる可能性もあるよな」
「それなら、それで良いんです。でも……胸騒ぎがして。あの島の悪夢がまだ終わってないって思うと……」
「……この件は一回持ち帰ろう。此処で話していて妙な奴に聞かれたら……」
「誰に聞かれたらマズいってぇ?」
顔を真っ赤にしたアルカが、ぎゅう、とミアに抱き着く。どうやら完全に寝ていたわけではなく、半分起きていたらしい。
「あ、アルカさん……!? ……アルコール臭が凄いです」
「おいこら、未成年に絡むんじゃねえ、酔っ払い」
「……
知らん間にまたカクテルグラスが増えている。お会計の金額を考えると今から胃が痛いメグルだった。
「うにゃー、ボクがおにーさんのお嫁さんなんらぞう……!!」
にゃーにゃー言いながら、アルカはミアに抱き着く。完全に面倒くさい酔っ払いであった。
「おにーさんにー、いっぱい抱っこしてもらってるんだもんー、あれ? おにーさんじゃらい? えへへへえへへへ」
「あの、メグルさんに抱っこくらいなら私もしてもらいましたけど」
「んにゃぁ!? ……ッ!! うーわーきーもーのーっ!!」
「おい馬鹿火に爆弾を投げ入れんじゃねえ!!」
「ごめんなさい、あんまり面倒くさかったのでつい」
「違う違う!! あれは助けた時にそうなっただけなんだって!!」
「ミアもメグルの事好きなのーッ!? でもボクはねー、毎晩メグルに抱き潰」
「おいやめろ子供相手に張り合うな!!」
無理矢理酔っ払いを引き剥がし、そのまま慣れた手つきで背中に負ぶう。
勘定を済ませて、そのまま彼女に肩を貸したままビーチ・クラブを出るのだった。
「うへへへへー、おにーさん大好きー♡」
「……慣れてますね」
「一回や二回じゃねえからな」
「にゃーにゃー……♡ えへへへへー、お酒飲むと、ぽわぽわして気持ち良いんだもんー♡ そーら、おにーさん、もう一軒ーっ!」
「捨て置くぞ」
「うー、意地悪ー……っ」
勿論そんな事はしないのだが、毎回深酔いする度に世話をする身にもなってほしい、とメグルは考える。
「……こんなのも久しぶりだな」
「?」
「……こいつに気を遣わせたのは俺の方かもしれねえんだよ」
「どうして? どっちかと言えば、迷惑かけられてるのはメグルさんの方では……?」
「大人には色々あるんだよ」
「色々で誤魔化さないで下さい」
じとっ、とした目でミアはメグルを睨んだ。彼女は聡い。誤魔化しは通用しない。
「説明を求めます」
「一から十まで?」
「メグルさんは自分を頼ってほしいと言いました。だから、メグルさんが困っていることがあるなら、私にも共有してほしいんです」
「……ミアならいいかな」
メグルは足を止める。
そして──隈の消えない目の下を擦る。
「……俺さ、最近変な夢見んだよ。コイツが……居なくなったり、俺の事を忘れちまう夢」
「……」
「ちょっと前にコイツ、
メグルはもう見えない右目を思い出したように抑える。
「それからずっと、変な夢を見るんだ。俺も……すっげー怖い思いしたからだと思う」
「……もしかしてアルカさんなりに、メグルさんを元気づけようと……」
「コイツはきっと、全部分かってる。だから俺に悪い事を考えさせないようとしてるんだと思う。自分と一緒に居ても、俺の調子が良くならねえって気付いてる。そんなの──俺の問題で、アルカが気にすることねえんだけどな」
結局彼は──自分もミアと同じだったことに気付いた。
自分一人ではどうしようもない問題を抱えて、そのまま沈もうとしていた。
「結局、俺がどうしようもない時、こいつはいつも察して手を引っ張ってくれるんだ。俺が一人で何とか出来た事なんて殆どねえんだ。だから──」
メグルは改めてミアの方を見やる。彼女もまた頷いた。
「俺も乗りかかった舟だからさ。お前のことも心配なんだよ、ミア。アルカが俺にやってくれたように、俺も……お前の力になりたい」
「……メグルさんは……本当にお人好しですね」
「一緒にミッシング・アイランドで戦った戦友を放っておけねえだろ」
「ふふっ……戦友、ですか」
少しむずがゆそうに彼女は頬を掻く。
「有難く受け取っておきますね。その言葉」
「一緒にブッ潰してやろうぜ、セレクト団なんてな」
「はいっ」
※※※
「さて、と」
「ぐかー……」
ミアの安全も考えると、彼女と同じホテルにチェックインすることにした。
何かあったらすぐに連絡するようにも伝える。
マーニャ地方で起こっているポケモンの暴走。伝説のポケモンの謎。
そして、セレクト団の行方。
いずれも気になることだらけだが、今はどうしようもないことだらけだ。
酔っ払いをベッドの上にブチ込み、メグルは一言。
「おい起きろアルカ。せめて上着くらい脱げ。後水を飲め水」
「……うにゃ? なぁにぃ。えへへ、おにーさんのエッチ」
「簀巻きにするぞ」
「ごめんて」
上着を脱いでベッドに横たわった彼女は気持ちよさそうによだれを垂らしていた。
インナーだけになると、その大きな胸肉が嫌でも目に付く。会った頃から暴力的なサイズだったが、最近また大きくなった気がしないでもない。
ヒャッキの民は、此方の人間とは発育の仕方が違うのだろう。無防備に自分の身体を曝け出す酔っ払いに対し──やっぱりここで全部ひん剥いて遅いデザートにしてやろうか、とメグルは手を伸ばす。
だが、アルカはその前に何かを思い出したように飛び起きたのだった。
「あっ!! ミアちゃんと内緒の話してたでしょ!! 浮気だ浮気ーっ!!」
「浮気じゃねーよ」
そもそも何歳下だと思っているのだろうか。
メグルはミアに対してやましい気持ちは一切ない。あったら大問題である。
とはいえアルカが本気で怒っている様子はなく、冗談めかして言っているのは確かだった。
むしろ気になるのは自分が寝ている間の会話の内容のようだ。
「んじゃ何だったのさぁ。気になるじゃんか……」
目を擦りながら彼女は起き上がる。隠しておく事でもないのでメグルは簡潔に伝える事にした。
「悪い奴がマーニャに隠れて潜んでるかもしれねえって話だ」
「……そっか」
「そいつは、ミッシングアイランドの研究員……ポケモン使ってロクでもない実験してたやつら、だと思う」
すん、とアルカは大人しくなる。寝ぼけながらだったが少し話の中身は聞こえていたのだろう。真剣な面持ちで彼女は「……忙しくなるかもね」と呟く。
「でもどうせ酔っ払いの頭で考えたって無駄だろ。明日、またちゃんと話す」
「そーだよねぇー。ボク達に勝てない相手なんていないもんねー♪ にへへへへへ」
ふにゃふにゃ笑うアルカ。彼女を見ていると──喪失の恐ろしさが湧いてくる。それを最初から分かっていたのだろうか、彼女は腕を大きく広げるのだった。
「大丈夫……ボクが居る。ボクが居てあげるから」
「お前が俺に居てほしいんだろ」
「お互い様の癖に」
そのまま、自然にアルカはメグルの身体を抱き寄せるのだった。
震えている。また恐怖が込み上げてくる。
「強がらなくたっていいのに……おいで」
「……ん」
こんな時、メグルは嫌でも彼女が姐さん女房なのだと思い知らされるのだった。彼女の前では、どんなに恰好を付けても──無駄なのだと思い知らされる。
だからメグルも、みっともなく彼女に慰められることにしたのだった。今更遠慮など要らない。
「あのさ、アルカ」
「なぁに?」
「……久しぶりすぎて、あんまり優しく出来そうにない」
「え”ッ」
尚、酔った彼女に抵抗など出来るはずもない。掌を指でこじ開け、絡ませ、組み伏せる。
種族差から生じる力の差は完全に覆されてしまった。
「お前さ、前から思ってたけど、無防備過ぎんだよ。男の前であんなに酒飲んでさ、只で済むと思ってんのか?」
「っ……良いよ」
「なに?」
「……
何かがプツリ、と頭の中で切れる音がした。
「も、もちろん、
「……はぁー……お前さ……
※※※
「あれ? お二人共、どうされたんですか……?」
「いや、ちょっとな……寝不足で」
「……」
──翌朝。ビーチで集合しようという話になっていたので、三人は集まっていた。
しかし、メグルとアルカは──何故かミアと目を合わせようとしない。
アルカに至っては、顔を真っ赤にして俯いたままになっている。
尚、全てを察しているニンフィアは二人の足元で苛立ちを隠せない様子だった。可哀想。
「いやすまん、ちょっとな……
「はぁ……そういうことですか。アルカさん、しっかり謝って下さいね」
「あーうん……沢山……謝っとく……」
尚、もう昨晩声が枯れる程に謝った後である。
「ところでメグルさん……首に大きな噛み痕がありますけど」
「あっ」
「あっ」
「もしかしてポケモンに噛まれたのですか!?」
「あー……」
メグルの首元には、言い逃れのしようがない痕跡がくっきりと残っていた。
どっからどう見ても歯形である。
自分のやらかしを認め、両手で顔を隠すアルカ。一方のメグルは、何と言い訳をしようかと考えて、ふと足元に居る凶暴ピンクリボンに目を向けた。
(……昨日、串焼き勝手に食われてるし別に良いよな?)
そして──サムズアップして答える。
「ニンフィアに噛まれた」
「フィッキュルルルルルィィィ!!」
【ニンフィアの ハイパーボイス!!】
【メグルは 倒れた!!】
ニンフィア、キレた。
「ほんっとゴメン、メグル……あとニンフィア……」
「えええ……!? ニンフィアどうしちゃったんですか……!?」
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