続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
第6話:ヴァリカン島の謎
──ヴァリカン島は、マーニャ地方の南、即ちムーナ諸島の小さな島の一つ。
世界的にも有名なリゾート地であり、古き伝統的な寺院や宮殿が残る場所である。
観光地としても最上級、ホテルやレストランなどが海沿いの町には立ち並ぶので、マーニャに来た観光客は必ずヴァリカン島に立ち寄る、とまで言われている。
その中でも”そうきょくのおうきゅう”と呼ばれるこの場所は、ヴァリカン島の中央部に位置し、最も有名な宮殿の一つだ。
かつて政は、この宮殿で行われていたらしいが、今は一般公開されており誰でも立ち寄ることができる。
赤い煉瓦仕立ての門をくぐれば、様々なポケモンの彫刻が出迎える。
豪奢な装飾が施された建造物の数々は、古から現代まで宮殿の形が常に守られてきたことの証だ。
それを前にしてアルカは目を輝かせる。
「すごいすごいすごーい!! 500年前の建物がこんなに綺麗に残ってるなんて、なかなか無いよ!」
「列島に住んでると感覚がマヒしちまうけど、結構取り壊されたり、寂びれちまう建物や遺跡ってあるもんな……」
「うんっ! ねえ、肝心の中に入ってみようよっ!」
「ああ……って、引っ張るなよ!」
(アルカのやつ、こんなにはしゃいでるの久々に見たな……)
アルカは遺跡や遺物、化石、とにかく”古い物”に目が無い。
アカデミーでは生物学を専攻して取ったものの、本人はそこから更に派生して“考古生物学=ポケモンの化石の復元や古代生物に関する応用的な学問”に駒を進めたいと考えている程である。
だが、彼女の興味関心は化石だけに留まらない。こういった伝統的な宮殿といった建物にも惹かれ、見れば前髪に隠れた赤い両目を輝かせるのだった。
メグルを連れてあちこちを歩き回る彼女の姿を見てメグルは──心底安心していた。
記憶と共に好きな物に対しての興味すら失ってしまっていた彼女を思い出してしまい、少しだけメグルはセンチメンタルになってしまう。
両の目で彼女を映すことがもう叶わなくとも、彼女がこうして好きな物を好きだと言ってくれるならば、もうそれで良い。
「さぁてと。肝心の石像はこの中?」
「みてーだな……! 宮殿は2つ。表にあるこっちが”とこなつのきゅうでん”」
「裏にあるのが”がんとうのきゅうでん”だっけ」
開かれた扉をくぐると荘厳な空気がすっ、と肺の中に入ってくる。
そして──目に映るのは、見上げる程に巨大なクワガタムシの石像だった。
ポケモンと呼ぶにはメグルの知る虫のフォルムに非常に近く、デフォルメされている箇所も少ない。
(クワガノン……? カイロス……? いや、どっちとも似てない……?)
「ぷきゅー……」
「あっ、サニーゴ!?」
何処か恐ろしさを感じたのか、サニーゴはアルカの鞄の中に隠れてしまった。
メグルからすれば、只のクワガタムシの像にしか見えないのであるが。
「……随分とリアリティの高い像だな。虫嫌いが見たら泡吹いて倒れるぜ」
むしろ──ポケモンの世界だからこそ、リアリティラインの高いクワガタムシの像という異常さが際立つのかもしれない。
「宮殿が作られたのは500年前。でも、石像が作られたのはいつ頃か分からないんだって。当時の王様が持ってこさせたみたいだから」
「このデカい像をか!? ……じゃあ、それより前は何処にあったんだろうな……」
「でも、石像に書かれていた名前を読み解いた結果……これが、夏の神と呼ばれるヴォルカニドとされてるみたい」
「これがヴォルカニド? ただのクワガタムシじゃねえか……ヴォルカニックな名前なんだから、もっとこう、あったんじゃねえか、デザインが」
「他に何があるのさ」
「ヴォルカ……ヴォルカ……ヴォルガ……ハッ」
メグルの頭には──全身が溶岩に覆われた巨大な魚竜が火山地帯からひょっこりと頭を出している姿が浮かび上がるのだった。
「よし、忘れよう!!」
「何を思い浮かべたのさ……」
「──ルカニド……それは、異国の言葉でクワガノンやカイロスのようなポケモンを指すと言います」
かつん、かつん、と高い靴音が聞こえてメグルは振り返る。
そこに立っていたのは白いカチューシャを付けた黒髪の少女だった。
ヒメノと同年代程の小さな少女だが、背がすらりとしているからかいくらか大人びているように見える。
その傍らにはゼリー状の物質に包まれた人型のポケモンがふわふわと浮いている。
しばらくメグルは彼女を見て惚けていたが──すぐに思い出したように大きな声を上げた。
「
「……あっ! ミアちゃん! しばらくだよ!」
「ふふ、お久しぶりです、メグルさん。そしてアルカさんっ」
「ぐりゅりゅ」
【旅のトレーナー:ミア】
【ランクルス ぞうふくポケモン タイプ:エスパー】
メグルは──しばらく姿を見ていなかった彼女を前に、嬉しそうに駆け寄った。
かつてメグルは、ミッシング・アイランドと呼ばれる人工島の最期に立ち会った事がある。
幻のポケモン・ミュウを目指し、試験管から生み出された生命体であるタイプ:ゼノを助け出すため、ミアはメグルと共に戦った。
ミアがタイプ:ゼノに対して並々ならぬ思い入れを持つのは、彼女もまた同じ島で生まれたデザイナーベビーであり、その感覚の一部を共有しているからであった。
全てが終わった後、ミアはかつての名を捨て、再び旅に出る事にした。今度は他の誰でもない「ミア」としての人生を歩むために。
「元気にしてたか!?」
「はい……あれ、メグルさん。目が……? どうされたんですか……!?」
メグルの真っ白になった右目の瞳を見て、思わずミアは駆け寄る。彼女はカントーに居たので知らない。あの水龍に収束した一連の戦いを。
「あー、いや、色々あったんだよ。ほら、マイミュってポケモンがベニシティに出た時のニュース、お前も知ってるだろ?」
「その時に──!?」
「ああ。でも大丈夫、慣れたら右目くらいどうって事ねぇって」
「ふぃるふぃー♪」
ニンフィアが珍しく機嫌良さそうにミアに飛びついた。
「……ニンフィアも元気そうですね」
「ミアは、どうしてマーニャに来てたんだ?」
「あれから私も……色んな所を巡って考えたんです。自分が何をしたいのかを」
彼女は胸に手を当て考える。
己の出生、アイデンティティ、それに思い悩んだ日々の事を。
それを全て知った上で、背中を押してくれたメグルの事を。
「今は……貴方みたいなトレーナーになりたいと考えてます。そして、私が今持ってる知識を、今度は……辛い思いをしている誰かの為に役立てたいんです」
「なんつーか、そうハッキリ言われるとこそばゆいモンがあるな」
「あの頃の私からすれば、貴方は救いだったんですよ。だから、今度は……私の番なんです。今は、色んな地方を回っています」
「むふー、何だか鼻が高いなあ」
「お前が得意げにしてどうするんだよ」
「……メグルさんはどうしてマーニャに?」
「俺がって言うよりは、どっちかって言うとアルカかな」
「ボクのゼミの先生がマーニャ出身でさ……その先生の代わりにポケモンの暴走について調べてるんだ」
「成程、例の……」
ミアはタブレットを取り出した。やはり彼女もマーニャで起こっている異変はチェックしていたらしい。
「私はヴァリカン島にずっといたのですが、ついこの間も此処で暴走事件があったみたいで」
「そうだな」
「どうやら、マーニャに居るはずもない忍者が全て鎮圧したという話があるらしく……」
「……そうだな」
(どうしよう、思いっきり身内だ……)
「おかしな事ばかり起きますね……折角のリゾート地だというのに」
「だからこそ俺達が調査してるんだ」
「……調査、ですか。何か分かったことが?」
「それがまだ始めたばっかりでさ。ヌシポケモンと1匹交戦しただけ。でも、それが問題なんだよね」
「……アルカさん。その時のデータは残ってますか?」
「うん? 勿論っ」
ベンチに並び座る二人。
こうしてみると年が離れた姉妹のようだった。
ミッシング・アイランドの事件が終わった後、二人で交流する機会があったらしく、その間に仲良くなっていたのである。
アルカはノートPCの画面から1つのソフトを起動すると、そのうちの1つをミアに見せた。
「ミアちゃんは凄いよねぇ。その年で此処にあるデータの事、全部分かるんでしょ?」
「はい。スマホロトムに搭載された汎用的な研究アプリの事は一通り……」
「じゃあ、これは昨日、ボク達がヌシポケモンと交戦した時のデータ。スマホロトムに観測させてたんだ。ポケモンの放つオーラの波形もこれで分かるよ」
「……サイドンですね。マーニャのすがたの……でも、このオーラは一体……?」
「うん。こいつを纏った瞬間にサイドンの能力値が桁違いに上がったんだ。でもタイプが変わった様子はないし……」
「ポケモンのタイプが変わるのは相当の大事なんですけども……」
(ヤッバぁ、オーライズで麻痺してたけど、普通はポケモンのタイプも特性もバトル中に変わったりしないんだった)
「映像とか、オーラの波形とか、色々分析させてみたけど、未知数の現象なんだよね。ボクらはイレギュライズって呼んでる」
「ミア、何か分かる事はないか? 因みに俺は全く分からねえ」
「幾ら私でも未知の現象については何とも……ただ、これが外的要因によってもたらされた現象であることは確かですね」
「サイドンが生まれつき持ってたものじゃないってことか」
ミアは頷く。
「パルデアのテラスタル、ガラルのダイマックス、カロスや列島のメガシンカの例を考えても、外的エネルギーを受けてこうなっていると仮説を立てることが出来ます」
それを受けてミアは思考する。
イレギュライズしたサイドンがメガシンカを無効化したのは──他の外的エネルギーの結びつきを解除したからではないか、と。
「どちらにしても、もう少しサンプルが欲しいところです」
「マーニャだと、野生ポケモンの暴走が頻発してるみたいだ。サンプルには困らなさそうだぜ」
「……そうですね。ただ、1つ言えるとするなら」
戦闘中のサイドンの映像を見ながら、ミアは辛そうに言った。
「……この子、とても苦しそう……内側から漏れ出す自分の力に、耐えきれてないみたいです」
最後は、あくまでもミアの主観でしかない。
だが、それをメグルは信じることにした。タイプ:ゼノと相対した時、彼の苦しみを理解しようとした彼女だからこそ至った結論だ。
「ねえミア……1つ、お願いして良いかな」
「はい、何でしょう……?」
「ボク達の調査に協力してもらえない!? 前会った時から思ってたけど……ミア、すっごく頭良いし!」
「アルカ……ミアだって忙しいんだぜ? 付き合わせるのは……」
「構いませんよ」
彼女は何処か決意したようにアルカの手を取った。
「私……辛い思いをしているポケモンを見過ごせないんです。その、お力になれるなら……是非、お願いしますっ」
「にしっ、決定! じゃあミア、ボク達、同じ異変を調査する仲間だね!」
「……でも、良いんですか? アルカさん」
「なにが?」
「お二人は……その……
困惑したように言う彼女に対し、メグルとアルカは顔を見合わせ──そして、取り乱す。
「ちょっと!! 子供が気を遣わなくて良いんだよ、そんなことぉ!!」
「あの、メグルさん……」
心配そうにミアは彼に耳打ちした。
「やっぱり……アルカさんに申し訳ない気が……」
「いや本当に気ィ使わなくて良いから。お前何歳だっけ? 13とか14とかそこらだろ」
「てか聞こえてるんだけど」
「出来るだけ、二人きりになれるような時間を作れるように、善処は……しますので」
「そういう気遣い何処で覚えてくるんだよ!?」
「てか聞こえてるよ全部!!」
前から年の割に随分と大人びている少女だとは思っていたが、年上の男女関係を気遣う心まで持っているとは思わなかったメグルであった。
少なくとも肉体年齢はノオトやヒメノよりも下のはずである。しかし、デザイナーベビーであるが故に、頭脳面と精神面は同年代の少年少女よりも成長が早いのかもしれない、とメグルは考えるのだった。
ただし、唯一ミアの過去を知るメグルとしては内心穏やかではない。
(どっちかと言えば心配になる部類の大人び方なんだよな……なんか、この年で色々悟ってはいけないものを悟っちまっているような……)
「ふぃるふぃー……」
「ニンフィアも、よろしくお願いしますね」
「ふぃー♪」
ニンフィアが気持ちよさそうな声を上げながらミアに撫でくりまわされている。
「すっごい、あの凶暴お姫様が懐いてる……」
「珍しい……俺以外に触られるのマジで嫌がるのに……」
※※※
「この像が……ブリザベオ。凍てつく冬を運ぶ神と呼ばれています」
「只のカブトムシじゃねーか……虫嫌いは泣くぞ」
ミアに連れられ、二人は”とこなつのきゅうでん”の裏にある”がんとうのきゅうでん”に立ち入る。
そこにあったのは、丁度ヴォルカニド像と同じくらいの大きさのカブトムシの像だった。
「そもそもカブトムシっつーか虫ポケモンは寒いの苦手だろうが。氷タイプが弱点ってわけじゃないんだけどさ。生態として、変温動物だから寒くなると動きが鈍くなるだろ」
「シンオウ地方では流石のヘラクロスも冬眠して越冬すると聞きます」
「逆に言えばそれくらいじゃねえと冬眠しねえって事か? 強すぎるな、この世界の虫は」
バサギリも寒がりではあるが、冬眠まではしないので、やはりそういうものと考えて良いのかもしれない。
「あるいは、このブリザベオと呼ばれるポケモンが氷タイプだったのかもしれません。虫でありながら寒さを克服した完全生命体といったところでしょうか」
「寒さを克服した代わりに4倍弱点二つも増えてんだよ、気の毒だわ」
「とんだ完全生命体だよ」
「モスノウのように、特性で弱点の多さをカバーしているポケモンもいます。もしもブリザベオが実在し、私達の前に立ちはだかって来たとして、果たして……弱点を突けるポケモンを用意しただけで対抗できるのでしょうか?」
メグルとアルカのツッコミに対しても、理路整然と返してみせるミア。流石にそこは元々学者気質だっただけはある。
仮に弱点が多いタイプのポケモンだったとして、それが何故伝説のポケモンとして君臨出来る程に強かったのかを逆に考えているのだ。
そう言われてしまうとメグルも唸らざるを得ない。虫タイプの伝説のポケモン等絶対に弱いと思っていたからだ。
実際はオーラギアスのようなバケモノが居たので、タイプだけでは強い・弱いは判断できない(4倍弱点が2つある点は擁護出来ないにしても)。
「……宮殿が作られたの500年前。でも、石像が作られたのはもっと前」
「そうだね」
「ヴォルカニドとブリザベオ……こいつらが最後に人前に現れたのは一体いつなんだろうな……」
「……結局何も分かってないんだよね。でも、石像をわざわざ作ったってことは……畏れられてたのは間違いないんじゃないかな」
アルカは──石像を前に呟く。誰も答えはしない問を投げかける。
分かっている。答えなど誰も分かりはしないことを。それでも、彼女は問い続ける。
もう居ない過去の人間たちに、思いを馳せる──
「……教えてほしいな。
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