続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第3話:猫の町

『それではご覧ください! 右に見えますは、マーニャ地方! 大きく分けて3つの半島と島に分かれており、西のサニー半島、東のキングダム島、そして南に連なるムーナ諸島に分かれております』

 

 ──マーニャ地方は、言ってしまえばインドネシアの一部とマレーシアを包括したような地域だ。

 特に、マレー半島、ボルネオ島、スマトラ島から連なる島々──この3つのエリアは、先の音声ガイダンスの通り分かれている。

 オマケに、生態系の保護がかなり厳しいからか地域によってポケモンの入国制限も異なるらしく、ある地域では連れていけるポケモンが他の地域では連れていけない……といったこともザラらしい。

 今回の目的地は、マレー半島──

 

「メグル、起きて。もうすぐ着くよ」

「うーん……うーん……」

「ふぃるふぃー……」

 

(飛行機の中で寝ちゃったのは良いけど……ずぅっと魘されてた……)

 

「ん? うあ……ああ、アルカ……?」

「大丈夫? ずっと、苦しそうだったよ……」

「……アルカ、俺の事が分かるんだよな」

 

 怯えたような顔でメグルが彼女の頬に手を当てる。

 

()()()()()()()()()……?」

「な、何言ってるのさ。もう忘れる訳ないじゃんか」

「……なら、良い……」

 

 汗を拳で拭うと、メグルは何処か安心したように背もたれによりかかる。

 結論から言えばメグルもここ数日はほとんど眠れていない。

 その理由は簡単で、悪い夢を見たくないから極力寝る時間を遅らせていたから──である。

 先の戦いの影響は彼が思っていた以上に酷く、悪夢となって彼を度々襲った。

 アルカが帰ってきてからも尚、彼の眠りが深くなることはなかった。

 飛行機に揺られると、いつもの睡眠不足を補うように体は無理矢理彼を睡眠に落とした。

 だが、そうなれば、また悪夢が彼を襲う訳で。

 

「ねえ……悪い夢……見たの?」

「別に……見てねーよ……」

「……だってさ……すっごく酷い顔してるもん」

「うるせーうるせー……平気だっつーの……」

「俺は、大丈夫だから」

 

 窓の向こうからは島が連なる亜熱帯──マーニャ地方が一望できる。

 酷い目覚めだったが、この景色でメグルは漸く現実に引き戻されたのだった。

 

(本当に、酷い夢だった……)

 

 思い出すだけで寒気がする。

 アルカが、また記憶を失う夢だった。

 ノオトやヒメノ、他の人やポケモン達の事は覚えているのに、自分の事だけは忘れてしまっている夢だ。

 そのうち彼女は自分からは離れていき、何処かへ行ってしまう夢だ。

 唯一人、メグルだけが取り残されて置いていかれてしまうのだ。

 それでもあまりにも現実味が強すぎて、忘れようと思っても忘れられない。

 一度メグルは、記憶を失った彼女と向き合い、そして心が折れかけたのだから。

 

「ね、メグル。こっち向いて」

「……ンだよ──むぐ」

 

 不意にアルカはメグルの唇を奪った。

 柔らかい感触に戸惑いながら、メグルはそれを受け入れ──そして、驚いたように彼女の目を見つめる。

 アルカの方から積極的に迫ってくるのは、とても珍しい事だからだ。それも、人の目がある中で。

 

「……ね、少しはリラックスできた?」

「……悪い。気ィ遣わせた」

「謝るの禁止っ! ボクは……君に元気になってほしいだけなんだよ」

 

(ボクが攫われた所為で……メグルはこうなっちゃったんだから……)

 

「ボクは……ちゃあんと君の傍に居るから。もっと、頼ってよ……」

「……そーだな」

 

 少なくとも、今この瞬間だけは悪い夢を忘れられそうだった。

 

「ね、もうすぐ着くよ。準備しなきゃ」

「そうだな……」

「ふぃるふぃー……」

「……」

 

 ニンフィアが不安そうな顔でメグルを見上げる。

 彼女をわしゃわしゃと撫でると、そのまま抱き上げた。

 

「……大丈夫だ。ちょっと元気出たからさ」

「ふぃー……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 キティーシティは大昔の宮殿や寺院が立ち並ぶ伝統的な街並みが特徴的だ。

 何より特筆すべきは、町中に散見される様々なニャース像。ニャース、ニャース、何処を見てもニャースばかり。

 それどころか、ニャースを始めとした本物の猫ポケモン達が町のあちこちに居るのだ。

 

「にゃーん」

 

【ニャース ばけねこポケモン タイプ:ノーマル】

 

 像の上には、真っ白な毛並みをして頭には小判を付けた子猫たちの姿が見える。

 ばけねこポケモンのニャースは、最もポピュラーな猫のポケモンと言えるだろう。

 その可愛らしい仕草を前に、アルカはメロメロになりながら町を行く。

 

「あはーっ♡ かわいーっ!」

「……なんつーか、ニャースって思ったよりも可愛かったんだな」

「何言ってんの、ニャースは可愛いポケモンでしょ」

「いや悪い、気にするな」

 

 ニャースという字面を見ると、どうしても二本足で立って喋る個体が頭に過るメグルであった。

 

「にゃーにゃー……えへへへ、ねえ、ボクも猫耳付けたら可愛いかなっ」

「お前はそんなもん付けなくても可愛いよ」

「……っ」

 

 そう言われ、アルカの青白い頬は一瞬で真っ赤になっていく。メグルは苦笑した。

 やはり直球に弱い。メグルは揶揄ってやろう、と口角が自然に上がるのだった。

 

「……惚けてんじゃねーよ、本当に可愛い奴だな」

「んなっ、誰の所為だと思ってんのさ!?」

「それにしても、本当に猫ばっかだな。辺り一面、猫、猫、猫」

「ちょっと!? おいてかないでよ!?」

「ニャースと戯れてる場合じゃねーぞ」

「フィッキュルルル」

「んもーっ、意地悪なんだから!!」

 

 ニャースだけではない。

 たとえば、チョロネコやエネコと言った他の猫ポケモンの姿も多く見られる。

 街のオブジェは、それらの猫ポケモンがモチーフになったものばかりだ。

 本当に猫の町、と呼ぶにふさわしい場所なのだった。

 当然、道行くところにはやっぱり猫耳のカチューシャが売られている訳で。

 

「えっへへ、結局買っちゃった……」

「ぷきゅー♪」

 

 にへへ、と笑いながらアルカはニャースモチーフのカチューシャを頭に付ける。観光をしに来たわけではないのだが、すっかり彼女も浮かれていた。

 ついでに、横に浮かぶサニーゴの頭にも猫耳を付けてやる。それを見て「お揃い」と言わんばかりにニンフィアも跳んで喜ぶのだった。

 

「ぷきゅきゅー♪」

「ふぃるふぃー♪」

「ニンフィア、すっかりサニーゴの妹分だね。ほら、メグルの分もっ」

「いや俺は良いよ……」

「えー? でもさ、見てよ」

 

 アルカは町を歩く他のアベックを指差す。猫の町で猫耳カチューシャを付けるのは一種の通過儀礼みたいなところがあるらしい。

 

「ボク、メグルにもお揃いになってほしいなーって思うんだけど」

「浮かれたバカップルみてーな事やる年でもねーよ……」

「何勝手におじさんみたいな事言ってんのさ!! ボクのが年上なのに!!」

「いや、そうだけど……」

「ボクはやりたいけどね? 浮かれたバカップルみたいなこと」

 

 するする、と彼女は指を絡ませる。対してメグルは渋い顔。

 

「……懇願されたってやらねーよ、そんな恥ずかしい事」

「あーあ、傷ついちゃうなー。ヒャッキに居たら、絶対出来なかったこと、()()()()()とやりたかったんだけどなー」

「うぐ……あー、もう!! 分かったよ、付けりゃあ良いんだろ、付けりゃあ」

 

 結局折れたメグルも、猫耳カチューシャを付けることになるのだった。

 

「えへへへー……可愛い♡」

「外すぞ……」

「あ、ダメだよ! 折角付けたのにさっ! 移動の間、ずっとこれを付ける事!」

「何かの拷問かよ!!」

「乙女の純情を揶揄った罰なのですっ。にしし、メグルったら顔真っ赤♪」

「ふぃるふぃー♪」

「お前ら二人して覚えてろよ……」

 

 キティーシティは水路が多く、船やボートを使って移動することになる。 

 宿泊先のホテルに大荷物を預けた彼らは、いよいよ本格的な調査先に乗り出すことにするのだった。

 キティーシティ周辺にある自然公園は二つ。

 そのうち、事前調査でポケモンの暴走が確認されているのは、町から南に位置する第一公園の方だ。陸路を使っても良いが、最短経路はクルーザーによる移動になる。

 

「改めて情報を整理しよう」

 

 その上で二人はスマホロトムを突き合わせながら、此処まで手に入れた情報を確認していく。

 表示されたのは、マーニャ各地で起こるポケモンによる獣害であった。ポケモンが人間の領域に踏み入るのは、此処近年でのこと。

 それまでは此処まで激しい獣害は起こっていなかったという。

 

「直近の一番大きな事例が──”キティー第一公園”での暴走事件だったか」

 

 尤も、自然()()等という規模ではないことは写真を見れば明らかだ。

 街ひとつの規模に匹敵するレベルで広大な「管理された」熱帯雨林である。特にキティ第一公園は、野生のヤレユータンやナゲツケザルを保護し、野生に帰れるようになるまで育てる場所だ。

 しかし、それらは当然、野生林や森と隣接しているため、もしも野生ポケモンが暴れた場合、真っ先に被害を受ける訳で。

 

「そして多くの場合、ポケモン達を扇動してるのは──ヌシポケモンなんだって」

「またこのパターンか……」

「でも、マーニャのヌシポケモンとサイゴクのヌシポケモンは当然だけど在り方が違うよね」

 

 サイゴク地方のヌシポケモンは、おやしろに仕えるキャプテンを選定する守護者だ。

 人間とポケモンの境界を守る超常的な存在であり、その世話をするのがキャプテンの役目でもある。

 しかし、マーニャ地方で確認される「ヌシ」と呼ばれるポケモンは──野生下で確認されるアルファ個体の事を指す。

 彼らは「ヌシ咆哮(アルファコール)」によって他の野生ポケモン達を扇動し、群れを率いて暴れるとされている。

 問題は、近年このヌシと呼ばれるアルファ個体の数が激増していることであった。

 これこそがマーニャ地方で問題となっているポケモンの暴走事案だ。

 

「ヌシポケモンの強さはピンキリらしいけど、その数はサイゴクのそれとは比べ物にならないみたい」

「何でヌシの数が増えたんだろうな……」

「それが問題だよね。ヌシ咆哮が使えるのって、それこそ限られたポケモンだけだと思うんだよ。あれって、特殊な周波数を持つ音波を放つだけの力が必要だからさ」

「引き寄せられた野生ポケモンが大群をなして町や自然公園を襲う、か。だけど、分からねえな。何故襲う? 自分達の住処だけじゃ餌が確保できないのか?」

「分かんないな……開発、環境破壊、確かにどれも考えられる原因さ。でも、ヌシポケモンが増加する直接的な原因かって言われるとボクは首をかしげるね」

 

 おまけに、マーニャ地方は自然豊かで保護区も多数有している。野生ポケモンが住処に困るような環境とは思えない、とアルカは語る。

 

「大体、何にも無くてもポケモンって凶暴化するし、意外と理由は特にねえのかも」

「ちょっと考えるのを投げないでよ。絶対何か理由があるでしょ」

「うちのお姫様なんて見てみろよ、生まれた時から凶暴だぜ。ひょっとしてコイツもヌシ咆哮(アルファコール)使えたりして」

「フィッキュルルルルルィッ!!」

「あっ、やば、怒らせた」

「今のは怒られても仕方ないと思うよボクは」

 

 

 

 ベシーンッ!!

 

 

 

「あ、ああああああ……痛い……」

「ケッ」

 

 ついでにぺしゃっ、と唾がメグルの顔面に吐きかけられる。

 

「擁護出来ないノンデリ野郎……今のは謝るべきだよ」

「滅茶苦茶いてぇ……」

 

 思いっきりリボンでビンタされ、メグルが悶絶する。

 何故この男は余計な事を言ってしまうのだろうか。

 そして、どうしてこのニンフィアは、我慢という言葉を何時になっても覚えないのだろうか。

 これこそ永遠の謎である。

 

「さ、さて、と……真面目な話に戻ろうか。直近でヤレユータンやナゲツケサルの保護区を荒らしたのが──こいつらってわけだ」

 

 SNSに上がっている動画には、暴れるポケモンが群れを成して木々を薙ぎ倒して保護区に侵入していくのが見える。

 大きな一本角を持ち、頑強な鎧の皮膚を持つサイのようなポケモン。

 その名はサイホーン──マーニャ地方に於いては湿地帯や河川の近くを好んで生息するとされている種類だ。

 

【サイホーン(マーニャのすがた) とげとげポケモン タイプ:草/水】

 

「こんな連中が町の中に入ってきたら、それこそ大惨事だ」

「先ずは、こいつらのヌシを探さないとだね……」

 

 その為には少しでも多くの情報が必要となる。

 早速、ハイビ先生の名前を出しつつ、管理人から直接話を聞くことにしたのだった。

 

「えーと、貴方達が例の……?」

「ああ。マーニャの異変の調査をしてるんですが……管理人さん、是非とも此処で起こったことをお聞かせ願いたく」

「おお、おお、それはそれは……遠い所からはるばる、ご苦労様ですもじゃ」

()()()?」

 

(いや、まあ確かにモンジャラみてーな頭してっけどさ……)

 

(語尾までモンジャラみたいにしなくっても……)

 

 モンジャラのような、というか本当にモンジャラのような頭をしていた。

 もじゃもじゃのアフロヘア―が顔の辺りまでせり出しており、円らな瞳がパッチリと見えているだけ。

 人間版モンジャラとはまさにこの男の事を指すのだろう。

 

「ところで何故猫耳を付けてるもじゃ?」

「おっといっけね──ああ、いや、これはちょっと彼女が悪ふざけで……」

「ムッ」

 

 外し忘れていたカチューシャを取ってしまうメグルを見て、アルカはむくれた。

 恥ずかしいのは分かるが「悪ふざけ」呼ばわりされるのも、それはそれで気に食わないのだった。

 

「コホン。それより、サイホーン達が現れた時の状況を改めて聞きたいんですけど」

「うーむ、警報が鳴った時には時すでに遅し、柵を破壊してサイホーン達が雪崩れ込んできたんですもじゃ」

「その時に変わったことは無かったの? 管理人さんっ」

「うむ。野太い怒号のような鳴き声が聞こえてきたんですもじゃ。サイホーン達は、それに追い立てられているようだったもじゃ」

「恐怖、か。やっぱりヌシポケモンの仕業みたいだな」

「ねえ、サイホーンが襲ってくるのってこれが初めて?」

「ええ。奴らは普段、水辺に住む大人しいポケモンですもじゃ。わざわざ、こんな場所にやってくるなど……」

 

 その結果、ヤレユータンやナゲツケサル達の一部はケガをしてしまったらしい。

 自然保護区を案内してもらう中、包帯をした個体の姿や、此方を見てやけに怯える個体の姿も見受けられた。

 

「酷い……」

 

 サイホーンは本来、人やポケモンを襲うような生態はしていない。

 だとすれば、わざわざ頑強な柵に囲われている自然保護区に群れ諸共侵入してくる事が異常事態と言っても良い。

 

「サイホーン達はその後、何処に行ったんです?」

「恐らく近くのジャングルに……しかし、あの辺りは町も近く、皆警戒しているのですもじゃ」

「ヤバいじゃねーか……」

「ヌシポケモンを倒せば、大人しくなると思う? 管理人さん」

「ワシが知る限りでは、そう思いますもじゃ」

「やることが簡単で助かるぜ」

「しかし、調査ならば急いだほうが良いですもじゃ。既にサイホーン達の元には何人か腕利きのトレーナーが向かってしまっていますのですもじゃ」

「いっ!? 早い者勝ちかよ!?」

「他のトレーナーも調査に向かってるの!?」

 

 管理人は首を横に振る。

 

 

 

「──このマーニャでは現在、ヌシポケモン達の討伐・捕獲に賞金が懸けられているのですもじゃ……!!」

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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