続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第2話:入国制限?何ソレ美味しいの?

「──ってわけで、マーニャって地方に留学って名目で調査に行くことになったんだけど」

「ああ、良いぜ、勿論俺も一緒なんだろ?」

「は? 何で知ってんのソレ。しかも無駄に決め顔なの何?」

「おっと気にすんなよ、細かいことを気にしてると可愛い顔が台無しだぜ」

「久々に会ったけどさあ、テンションおかしいよメグル」

 

 その日の夜。アパートの部屋に帰って来たアルカは、重苦しい白衣を脱ぎ捨てると喫茶店であった話をメグルに話すのだった。

 そして、彼もそれを二つ返事で了承するのだった。どう見ても挙動がおかしかった気がするが、最早スルーした。突っ込んでいてはキリがない。

 

「……だから、研究課題のレポートは何とかスルーできそーっ。良かったー!」

「でも、それ春休みが無くなる奴じゃね? 春休みで調査するんだろ?」

 

 実際、ハイビから聞いた話によれば数日で済む調査ではないという。

 長い間、マーニャ地方には滞在することにはなりそうだった。

 それに求められた調査結果が出せなければ、単位を手に入れる事は出来ないという。

 

「でも、新しい地方で冒険って聞くと、君はワクワクするんでしょう?」

「……そうだな。マーニャ地方、か」

 

 こんな感覚はいつぶりだろうか、とメグルは振り返る。

 ただただ純粋に新しい地方に冒険へ足を進める気分はいつだってワクワクする。

 問題は「異変の調査」という不穏極まりない枕詞が付いている点であるが。

 

「でも正直ヘンだよね。調査ならボクだけで行かせてもおかしくないのに……何でメグルまで付けるんだろ。ってか、ハイビ先生、メグルの事知ってたみたいだし」

「……ヘン、か」

「どしたの?」

「いや、何でもない」

 

(そう……だよな。普通は担当の学生であるコイツ一人で行かせる……もんな)

 

 そうなった時のことをメグルは想像する事が出来なかった。否、想像できなかった。

 自分が考えていた以上に、アルカに対しての依存心が強まっていることを否が応でも自覚させられる。

 決してそれが健全なものではないと分かっていても、彼女が傍に居ない時の自分を想像すると恐ろしささえ覚えた。

 

「あー……疲れた。ボク、ちょっと寝るね。最近ずっと缶詰だったからさ」

「……」

「どしたの?」

 

 ぱたり、とベッドに着の身着のままで倒れ込むアルカに──メグルは不安そうに視線を投げかけた。

 

「……いや、ちゃあんと帰って来てくれてよかったって思ってな」

「……やだなあ。居なくなったりなんかしないよ。何でそんなに寂しそうな目をするのさ」

「寂しかったよ」

「……っ」

「ずっと心配で仕方なかった。俺、ヘンだな。前は此処まで不安にならなかったのにさ」

 

 もう見えない右目をメグルは押さえる。

 ()()()()以来、碇のように胸の傷が開いたまま消えない。

 一種の心的外傷と言っても過言ではなかった。

 

「なあ、アルカ」

「何?」

「俺も一緒に寝る」

「……もー。疲れてるんだよ、ボク」

 

 くすくす、とアルカは笑ってみせる。

 

「ふふっ……いーよ。君が望んでいるなら──」

「いや、一緒にいるだけで良い」

 

 寝転ぶ彼女を抱きしめる。彼女の温もりを感じている時だけが、彼の中の安息になりつつあった。

 一度味わった喪失による心の傷は、そう簡単に癒せるものではない。

 背中から抱き着いてくる彼の指が震えていることに、アルカは気付いていた。

 

(メグル……こんなになってる……可哀想……)

 

「ふぃるふぃー……」

 

 思わず心配そうにニンフィアも声を上げた。

 主人が時折見せる怯えに近い表情を幾度となく見てきたからだ。

 過酷で凄惨極まる、あの戦い以来──メグルは完全には立ち直れていないようだった。

 

(メグル……安心したように寝ちゃった……)

 

 しばらくして、背中からメグルの寝息が聞こえてくる。

 彼の目の下の隈は酷かった。此処最近、ロクに眠れていないことが見て取れた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──メグルは異世界転移者である。

 突如現れた時空の裂け目により、彼がポケモンが居ない世界からポケモンの居るこの世界へとやってきたのが全ての始まりだ。

 そこで、元の世界に戻る手掛かりを探す為にサイゴク地方で冒険を続けてきた。

 可愛い顔に似合わぬ凶暴性の持ち主であるニンフィア。

 戦闘狂いであり、切り込み隊長であるバサギリ。

 忠実なブレーンにして、堅牢なる壁たるアヤシシ。

 巨体と高い頭脳、二匹揃えば無敵のヘイラッシャとシャリタツ。

 そして、メガシンカによって絶大な戦闘力を手に入れるアブソル。

 この6匹は、今まで彼が共に戦ってきたポケモン達である。

 彼らの力を借り、悩み、苦しみながらも冒険を続けてきたのだ。

 そんな彼は数か月前、大きな戦いで大きな挫折を経験することになる。

 異界からの侵略者によって大事な恋人であるアルカを連れ去られたことだ。

 この事件はメグルの心に大きな影を落とすことになった。一番肝心な時に彼女の傍に居られず、守れなかったからである。

 更に戦いの最中、アルカが記憶を失ったことでメグルは大きく苦しむことになった。 

 結果的に敵は討ち果たされ、アルカの記憶も元に戻った。

 だが、メグルの右目は戦いの負荷によって二度と見えなくなり、そして一時的だったとはいえ喪失のショックは深く彼の胸を今も抉り続けるのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はぁっ、はぁ──はぁっ──!?」

 

 

 

 真っ青な顔で滝のような汗を流しながらメグルは目を覚ます。 

 抱き枕代わりにしていたアルカは、すっかり熟睡してしまっている。

 時計を見た。朝の二時。まだ起きるには早すぎる。

 

「ふぃるふぃー……?」

「あ、ああ、ニンフィアか」

 

 心配そうにベッドの方からニンフィアがメグルの方に飛び乗って来た。

 明らかに顔色が悪いことを察し、心配してくれているようだった。

 

「ふぃー……」

「大丈夫だ。変な夢見たとかじゃねえんだ。寝つきが、悪くって……」

 

 メグルは、傍で寝るアルカを見やる。

 そして思わず彼女の顔を覗き込んだ。

 息をしている。確かに彼女の顔だ。それだけで彼は安心できた。

 

「良かった……ちゃんと、アルカだ……」

「ふぃー……」

「大丈夫だ。今度の旅は俺も一緒だし。一緒だから……」

 

 メグルはそこまで言って口を噤む。

 

 

 

「……もし一緒じゃなかったら、俺、どうなってたんだろうな……」

 

 

 

 もう一度、彼女の身体を抱きしめて眠りにつこうとする。

 だが、眠れない。

 頭の中に過ってしまった喪失の予感は、いつまで経ってもこびりついて消えない。

 

「ごめんな、ニンフィア。俺さ、おかしいんだ。本当に……」

「ふぃー……」

「ニンフィア……?」

 

 相棒がリボンを伸ばし、メグルの腕や頭に絡みつける。

 そして、静かに歌うような鳴き声が部屋に反響した。

 間もなくメグルの目は鉛のように重くなっていき、そのまま瞼が閉じられていくのだった。

 

 

 

「……ふぃー」

 

 

 

 妖精としての”力”を行使しなければまともに眠れない主に、ニンフィアは心配を隠せなかった。主人の顔色は、あの戦いから日に日に悪くなっていくばかりだ。

 きっと今も、ありもしない喪失への恐れに苛まれている。それを直接アルカやニンフィアに見せこそしないが──苦しんでいる。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──初めまして。私がハイビだ」

「メグルです、よろしくお願いします」

 

 

 

 ──それから二週間ほど後の事。

 全てのテストが終わり、無事単位が修得出来たアルカは、改めてハイビの研究室にメグルを連れてきていた。

 部屋の中には様々な虫タイプのポケモンの標本が置かれており、それらに見られているような気がして、メグルはずっとビクついていた。

 なんせ虫ではなく、虫ポケモンである。そのいずれもが彼の知る「虫」とは比べ物にならない程に大きい。

 ハイビは彼らをソファに座らせると、ホログラムのモニターを目の前に浮かび上がらせるのだった。地球儀が映し出され、ズームになる。

 

「マーニャ地方は君たちの住んでいた列島の東南に位置する」

()()()()()か」

「マレーじゃない、マーニャだよ、メグル」

「あ、ごめんなさい、マーニャね、マーニャ。えーと……マスカーニャだっけ」

「マーニャだよ」

 

 もっと正確に言うならば、マレー半島を中心とした東南アジア諸国全体を、この世界ではマーニャ地方と呼ぶらしい。

 アジアの東南に位置するこの場所は亜熱帯であり、ポケモンや植物にとっては生態系の天国とも呼ばれている程に自然が豊かだという。

 

(たとえばウツボカズラだとかラフレシアだとか、この辺の植物もマレーシアだっけか? 違ったっけ?)

 

 うろ覚えの知識で思い出そうとするメグル。ポケモンには、モロにそれをモチーフとしたものが居るからだ。

 

「ところで、改めて聞きたいんですけど……何で俺も一緒なんです? もしかして、結構危険だったりするんですか?」

「ああ、その通りだ。元より私は君に目を付けていた」

「はぁ」

「マイミュッ!! ベニシティに現れたという強大なポケモンをキャプテンと一緒に鎮めた手腕、私は高く評価しているんだ」

「え? 待って下さい。何で知ってるんですか……」

「たまたまその時、マーニャ地方の研究員がベニに滞在していたからさ。彼等経由でマイミュのデータを私は手に入れた」

 

 興奮した様子でハイビはモニターを操作する。

 そこに映し出されたのは天に昇るほどに巨大な水の龍──数か月前にベニシティを襲った水の災禍・マイミュの姿が映っていた。

 

バグース(素晴らしい)……!! 私は確信したよ。これだけのポケモンと戦えるトレーナーはどのような人物かをね。まさか、アルカ君のボーイフレンドとは思わなかったが」

「もしかしてアルカ経由で部外者である俺に依頼をしたかった、とか」

「いや、私からすれば()()()()()さ。調査の人員は多いに越したことはない。私は教職員でもある以上、何かと束縛されがちな立場だからね」

 

(そりゃ実質大学教員だし見た目以上に忙しいか……自分に研究に論文発表、それで外遊までしねえといけねえんだからな)

 

「それでマーニャ地方で起こっているのってどんな異変なんですか?」

「ポケモンが突然暴れ出すのさ。前触れもなく、ね」

「……それって」

 

 まるで赤い月だ、と二人は口に出しそうになった。

 以前、サイゴク地方を度々襲っていた怪現象に酷似している。

 ポケモンの目が赤く光り、凶暴化するだけではなく、個体によっては大きくなるのだ。

 

「しかし、その原因が未だに分かっていない。野生ポケモンに対処は出来ているが、今の所文字通り対症療法でしかない。原因が分からない」

「それを突き止めるのが今回の課題、ってわけですね」

「君達としてもこの手の事件は慣れっこじゃないか? と思ってね。是非、意見を聞きたいが」

「正直まだ何とも言えません。ただ、俺が前に出会った案件だと──ポケモンを凶暴化させる原因は、彼等よりももっと強いポケモンが原因だった」

 

 ──それこそ、伝説のポケモンのような……!

 

「正直嫌な予感しかしないけども……やってみましょう」

「メグル──」

「ただ、最低限旅費を出してくれるのが条件ですけど」

「勿論報酬はたっぷり支払うよ。旅費が余る程度にはね」

「やったぜ」

「とはいえ、あんまり無理はしないでもらいたい。相手は野生のポケモンだからね」

「何、任せておいてください」

 

 凶暴な野生ポケモンの相手ならば慣れている。お手の物だ、と言わんばかりにメグルは言った。

 

「俺達、慣れてるんで」

「そういうのは──大得意ですからっ!」

「なら良かった」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「って言ったのは良いけどよぉ。絶対ロクでもないぜ。そんな案件を学生に押し付けるなんてな」

「むしろ逆じゃない? 先生はボクじゃなくって、メグルの方に仕事を頼みたかったんじゃないかなあ」

「そう言う事か?」

 

 あのマイミュの件は世界中でもニュースになっていた。

 しかし、肝心の本体は既に別の世界に持ち去られてしまった後。二度とその生態が分かることはない。

 故に研究者の興味を引き付けるのだろう。そして、あれだけのポケモンを倒したトレーナーがどのような実力なのか、ということも。

 

「今度は()()()()()()()()()()の仕業なんだろうね」

「おいおい今から身構えるんじゃねえよ。本当にヤバいポケモンが出てきたらどうするんだ」

「暴れてるポケモンの種類、暴れている場所、その他諸々。全部事前に調べたのは良いけど、後は現場を見てみないと分からないよね」

 

 ──それからさらに数日後。 

 旅行鞄を片手に、彼等はパルデアを発とうとしていた。

 既に準備は万端。後は飛行機に乗り込むだけだ。

 

 

 

 ──ビーッッッ。

 

 

 

 そう考えていた時代が彼等にもあった。出国監査にて、彼等は足止めされることになる。

 海を跨ぐ場合は連れていけるポケモンが制限されるのである。

 手持ちのポケモンだけではなく、ボックスのポケモンも全部念入りにチェックされることになるのだった。

 理由は生態系の保護である。トレーナーが生態系を破壊するポケモンを野に放つ可能性を考慮して、手持ちやボックスのポケモンの種類をこうして検査するのだ。

 幾らスケジュールかつかつで準備していた彼らと言えど、この事を忘れてしまっていたわけではない。

 むしろ、分かってはいた。分かっていたのでマーニャとパルデアで生息圏が被っているポケモンを何匹か捕まえて用意までしていたのである。しかし──

 

「あー……国外からマーニャに持ち込めるポケモンは、規定の種類のポケモン1匹だけなんですよ」

「はぁぁぁー!? 1匹だけ!? わざわざリストラ対策までしたんだぞこちとら!! 聞いてねえぞ!?」

「此処に小さく書いてるね……」

「見えるかーッ!!」

 

 メグルは頭を抱える。

 これが、昨今のポケモン恒例のリストラ及び内定ポケモンの選抜というものか、と。

 パルデア地方の入国基準ははっきり言って緩く、図鑑に居ないポケモンでも持ち込むことが出来た。

 しかし、これから入るマーニャ地方におけるポケモンの持ち込みは非常に厳しいらしい。

 国外から持ち込めるポケモンは1匹まで、と厳格に制限されているのだ。

 

「ちなみに、連れていけないポケモンはどうなるんだ?」

「ポケモンHOMEと呼ばれる専用の預かりボックスに転送していただきます」

「そうかぁ……そうなっちまうか。ポケモンって便利だなあ」

 

 ポケモンはボールに入っている間は体を電子化させてパソコンに保存することができる。これによって、長期間でも身体情報を保存しておけるのだ。

 これを利用すれば、長い間ポケモンを預けておいても不安はない。

 問題は、連れていけるポケモンの数がかなり限られてしまう点であるが。

 

(こ、こんな形でサ〇シリセットみてーな現象を味わいたくなかった……!!)

 

 昔は「どうしてサ〇シは次の地方に強いポケモンを連れていかないんだろう、道中のジム楽勝なのに」とアニポケを見る度に考えていた。

 実際は描写されていないだけで、サ〇シも入国制限に引っ掛かったことがあるのかもしれない。そんなアニポケ嫌だ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──さーてと!! 目指すはマーニャ!! 未知なる地!!」

「ふぃるふぃー……」

「──()()()()()()楽しみだなあ!!」

「ぷきゅー……」

 

 

 

【メグル 手持ち:ニンフィア♀のみ】

 

【アルカ 手持ち:サニーゴ♀のみ】

 

 

 

 二人の目は死んでいた。当然だった。

 手持ちは一匹。強制的にリセットも良い所であった。

 元より、ニンフィアとサニーゴだけが入国することが出来たが、それ以外は全滅だったのである。

 オマケに他のポケモンが誰も連れていけないともなれば、結局こうなってしまうわけで。

 

 

 

(どうすんだよコレ……)

 

(先行きが不安になってきた……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あ、ポケモンの入国制限の事、彼等に伝え忘れたな……まあ良いか」

 

 

 

 コーヒーを飲み、ふとハイビ先生は呟く。重大な過失である。

作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)

  • ラブコメ、純愛
  • 戦闘シーン
  • シリアス、曇らせ
  • ギャグ、コメディ
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