続・ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
第1話:帰ってきたポケモン廃人
──ミッシングリンクといったものをご存じでしょうか。
生物学に於ける進化の失われた空白の事を指すのです。生物AがCに進化しているが、その中間となるBの化石が存在しない……といった事例の事を指します。
例を挙げれば、ポケモン起源説の槍玉に挙げられるミュウですね。
ミュウはありとあらゆるポケモンに変身することができ、あらゆる技を使える点から全てのポケモンの先祖ではないか? といった仮説が立てられたのです。
しかし、問題はそのミュウから分岐したポケモンが見当たらない事です。ミュウが全てのポケモンの始祖ならば、ミュウから分岐した「その次の段階」の生物がいるはず──にも拘らず、現代に至るまでそれが見つかっていない。
これがミッシングリンクの一例と言えるでしょう。もしミュウ起源説を真とするならば、ですが。
※※※
「──といったところで、今回のゼミ授業は終わりです。次回までにレポートを纏めてきてくださいね」
──パルデア地方・オレンジアカデミーの”ゼミ”は、学内・学外問わず高難易度の試験を受けて合格した、研究職志望の学生たちが入学するクラスだ。
彼らは日々、自分達の定めたテーマ研究の傍ら、定期的にゼミの担当教員からの講義も受けており、それをまとめたレポートの提出も行っている。
ただし、通常の授業の単位に加えて、研究クラスの単位も取らないといけないため、かなり多忙極まる学生生活を送ることになるわけで。
(はぁー……今日の授業も難しかったなぁ。流石研究職クラスだよ。普通の授業に上乗せして、レポートの量も課題の量も多くなってきてるし、ボク卒業できるのかなぁ)
【アカデミー研究クラス:アルカ】
白衣を羽織った小柄な赤毛少女は、大量の教本を抱えながら廊下を歩き、嘆息。
日々勉強。また勉強。更に、研究テーマに関するレポートも書き上げなければならない。
最近は他の授業のレポートやテストの勉強も重なっており、かなり彼女はグロッキーであった。
(これまた研究室に籠りっきりになりそー……レポートもテーマ決まってないし……)
前髪に隠れて見えないが、目の下にはくっきりと隈が出来ていた。
最近はもう、あまり眠れていない。ストレスで胃がキリキリ鳴っている。
そして彼女の前に立ち塞がる問題は──進級課題と呼ばれる大型レポートだ。
3年間通しで行う研究とは別に、進級の為に必要となる大きな課題である。
これをまとめたレポートをゼミの担当に提出しなければ、進級するための単位を取得する事は出来ないのだ。
しかし、アルカは未だにこの課題を決める事が出来なかった。
自分が専攻している研究とは「別に」更にレポートを書くための課題を作らなければならない。これが、非常に苦痛だった。
興味関心のある分野には一直線のアルカだが、それとは並行して別の課題を探すのはかなり難しい作業となった。
なんせ、それでレポートを書かなければならないため、ある程度しっかりと仮説が立つようなものにしなければならないのである。
(どーしよっかな……残りの期間から考えて、そろそろ決めなきゃマズいんだけど……眠い……)
「アルカ君っ! ちょっと待ってくださいっ!」
【オレンジアカデミー:生物学教師 ハイビ】
「ハイビ先生……」
「1つ君に相談したいことが──」
「ああ、はい……」
「……かなり疲れてるようですね?」
「うんまあ……」
「頑張っている証拠ですが、休むことも大事ですよ」
げっそりとやつれた顔で振り返る少女──アルカに声をかけたのは、先程まで教鞭をとっていたゼミ担当教師だ。
白衣を纏ったドレッドヘアーの浅黒い肌の男である。
しかし、陽気そうな容貌に反し、落ち着いた口調でアルカを労うと、そのまま彼女に並ぶのだった。
「君はそもそも優秀な学生です。物覚えも良いし、どんどん分からない事に質問してくれる。時たま核心を突いたことも言ってくれる。そりゃあ最初の頃のレポートは酷いモノでしたが……今は大分改善されましたし? 何より興味のある分野への好奇心がとても強い上に粘り強い、やっぱり学者に向いている」
「あはは……ありがとーございます……」
生返事。完全に生気を失っている時の声だ。ハイビはそんな彼女を見かねてか、1つ提案をすることにした。
「どうでしょう? この後、一緒にお茶でも。そこでゆっくり話した方が良いでしょうよ」
「分かりましたあ……あ、一言身内に連絡入れますね」
※※※
──テーブルシティの中央広場に、激しく地面を打つ岩の音が響き渡る。
バトルコートを囲む人々は、巨体を揺らす化け蟹を前にして息を呑む。
鋏が振り払われれば地面が抉れて瓦礫が飛ぶ。観る者すらもヒヤヒヤさせる死合だ。
「──ブゥウオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
【ガケガニ まちぶせポケモン タイプ:岩】
怒りに満ちた咆哮が轟き、その装甲が真っ赤に染まっていく。
しかし、どれだけ力任せに鋏を打ち付けようとも、目の前のピンク色のリボンの精はふわりふわりと軽々躱してみせるとイタズラっ子のように微笑むのだった。
「ふぃるふぃー♪」
「相手は冷静さを失ってる!! ニンフィア、引きつけろ!!」
「ふぃーっ!」
【ニンフィア むすびつきポケモン タイプ:フェアリー】
ニンフィア──と呼ばれる獣の妖精は、軽々と宙を舞い、ガケガニの鋏にあっさり飛び乗って足場にすると、その顔面に飛び乗る。
怒り狂うガケガニは思わず鋏を振り上げると──あろうことか自分の顔面を打ち付けて仰け反ってしまうのだった。
「ブゥオオオオオオオオオオオオオ!?」
ごろん、と転がりのたうち回るガケガニに目掛けて振り返ると、ニンフィアはとびっきり凶悪な笑みを浮かべてみせる。
その形相、まさに悪魔の如し。観客たちも一瞬「えっ……?」と戸惑うほどであった。
そのままふわりとガケガニの頭部に再び飛び乗った彼女は口を開けた。
「やってもいいよな?」と主人に無言で同意を求める。
「ああ、ぶちかませ──ニンフィア、”ハイパーボイス”ッ!!」
小さな八重歯が見え隠れする口から、妖精の加護を乗せた大音声が辺りを揺さぶる。
至近距離でそれを浴びせられたことで、ガケガニの装甲は音圧で罅が入り、白目を剥いて泡を噴き出してしまうのだった。
それを見てか、ガケガニのトレーナーは急いで相棒に駆け寄ると、モンスターボールを構える。
「あああ!! ガケガニ!! 戻ってくれぇ!!」
「よーしっ、よくやったなニンフィア! お疲れさん!」
「ふぃるふぃーっ♪」
喜んだ様子でニンフィアが主人に飛びつく。
これで、今日だけでバトルは5連勝。快勝続きも良い所である。
それもそのはず。彼の名はメグル──かつて、遠いサイゴク地方を救った英雄とも言える凄腕トレーナー。
その傍らで戦うはニンフィア、凶悪リボンの異名を拝する彼の相棒だ。
これまで幾度となく冒険と強敵との戦いを繰り広げてきた彼らに、その辺のトレーナーが敵うはずもなかったのである。
賞金をスマホロトムの電子マネーアプリで受け取り、ほくほくのメグルに向かい、対戦相手だったトレーナーが駆け寄ってくる。
「あんた、強いな……何者なんだ? 最近この辺に来たってトレーナーらしいけど、随分強いじゃないか。何でそんな人が賞金賭けた野試合を?」
「ん? 俺か? 俺はな──」
ロトロトロト……。
ふと、スマホロトムに通知が入る。
対戦相手の男そっちのけでメグルがアプリを開くとアルカから来たメッセージが表示された。
『ごめんねー……今日、ゼミの先生とお茶するから、遅くなるかもー……』
基本的にアカデミーは全寮制だ。しかし、テーブルシティなどの近場に住んでいる学生に関してはその限りではない。
アルカは授業が終われば、メグルが借りているアパートの部屋に帰るのが決まりになっていた。
尤も、研究やら課題やらで忙しいのか、ここ数日彼女の顔も見ていなければ声も聞けていないので、心配はしていたのであるが。
漸く「今日帰れるかも」とメッセージを送っていたので、彼女と対面できると思っていた矢先、不穏さをメグルは感じ取る。
「……ゼミの先生?」
珍しいな、とメグルは眉を顰める。
交友関係が然程広くない彼女が、誰かとお茶をするのは稀だ。そもそも初めてかもしれない。
そこまで考えた所で、彼の脳裏には以前興味本位で調べた彼女の担当教員の顔が浮かんだ。
ドレッドヘアーの白衣を纏った若い男だったことを思い出す。
「……確か結構若い先公だったな、あの博士って」
「ふぃるふぃ?」
「……待てよ。だとしたら……」
彼の脳裏には、ふと嫌な予感が浮かんだ。
背筋が凍って嫌な汗が伝い始める。
もうすっかり数か月前ではあるが、彼女が誘拐(それも時空を巻き込んだ)に遭ってからというものの、メグルは過保護気味になっていた。
それだけではなく、ここ数日アルカに会えていないのは、彼の精神に多少なりとも来るものがあったらしい。
ストリートバトルに明け暮れて賞金を荒稼ぎしていたのも、決して無関係ではない。溜まりに溜まり続けるストレスを発散しようとする無自覚な行動である。
「ちょっと? 今名乗ってもらう流れだったよね? あんたは一体何者──」
「うるせーうるせーッ!! ンな事はどうだって良いッ!! ダストダスにでも食わせとけッ!!」
「ええ……」
対戦相手を押しのけ、メグルはスマホロトムを仕舞いこむ。そしてカチカチと親指の爪を噛んだ。
「──心配だ……アルカが他の男とお茶になんて……!!」
「フィッキュルルルル……」
呆れた顔でニンフィアがメグルの顔を見上げた。
「相手が若いなら猶更有り得る……俺の見てない所で何が起こってるか分からねえ!!」
「ふぃー……」
(特別意訳:ダメだコイツ早く何とかしないと……)
「へっへっへ、疼いてきたぜ、もう何にも見えねえ右目がよぉ!! この言葉をこの年で吐く羽目になるなんて思わなかったけどなァ!!」
メグルは手持ちを率いて、その場を後にする。
無論、目的地は──何処かも分からないどっかの喫茶店であった。
何処にあるのかも分からないのに。
つかつかとその場を去っていくメグルを見て、対戦相手だった男は一言。
「何だこの人……怖すぎる……」
※※※
執念でアルカの向かった喫茶店を探し当てたメグルは、ヘイラッシャ以外の手持ち達を皆スタンバイさせていた。
道行く人々は彼を見るなり「ヒッ」と声を上げて立ち去っていく。率直に言って気持ち悪い。行動全てが過保護というレベルを超えている。
成程確かに店内にはアルカと思しき女性の姿があった。目の前にはこんもりと特大のトーストサンドが置かれている。
彼女が大好きなハムとタマゴも挟まっている。
一方、向かい合うのは浅黒い肌の博士──彼女の担当教員であるハイビだ。
「バサギリ」
「グラッシュ?」
「お前なら……分かってくれるよな?」
「グラッシュ……!?」
何故今大斧を見ながら言うのか。流石のバサギリも恐ろしい気分になるのだった。何なら主人の目がギガオーライズしていないのに紫電が迸っているように見えた。
「大丈夫だ、いざという時はアヤシシが何とかしてくれる」
「ブルトゥーム……!?」
いざという時とはどういう時なのだろうか。ヤっちまった後に逃亡する時の事だろうか。
主の悪行の片棒を担がされるポケモンの身にもなってほしいものである。
「ニンフィア……破壊された脳みそはもう二度と戻らねえんだ……ヒメノちゃんを見たら分かるだろ?」
「ふぃるふぃー……」
それをあたしに言う神経が分からないわ、とニンフィアは既にそっぽを向いていた。脳を破壊されたのはこっちも同じである。
窓に聞き耳を立てる不審者は中の様子、そして会話を伺う。もう一度述べよう。率直に気持ち悪い光景であった。
「──単刀直入に言いましょう。貴女に頼みたい事があるのです」
「ボクに、ですか?」
「ええ」
(頼みたい事って何だ!! どうせやらしい事だろ!! そうに決まってる!!)
メグルはバサギリに向かって目配せする。やれ、斬れ、断て、のGOサインだ。必死にバサギリは首を横に振った。気の毒である。
「──マーニャ地方……私の故郷の異変を調査してほしいのです」
「……? え? 無理ですけど……?」
死んだ目でアルカが答えた。
無理もない。テスト勉強に加えて進級課題も控えているのだ。
「いや、だって無理でしょ。ボク、クッソ忙しくて頭あっぱらぱーになりそうなんですよ。忙しさで殺す気ですか先生? これが本当の忙殺ってやつですか?」
「教員は……裁量で研究課題の単位の取得条件を変える事が出来る。特に優秀だと認めた生徒に限り、ね」
「はぁ……」
「単位を取るためのレポートを君に書かせるのは勿体ないと思っていたところだ。君はパルデアの外から来ただけあって、他の学生には無い発想力があるし……何よりバトルが強い」
「つまりー……どういうことですか?」
疲れた顔でアルカが問うた。
「──進級レポートの代わりに依頼したいのだよ。私の故郷の調査をね」
「……へ? ええ!? 良いんですかソレ!?」
やっと目が覚めたのか彼女が飛び退く。
「君の事は調べさせてもらった。サイゴク地方では数々の事件を解決したらしいじゃないか。ヌシポケモンに、マイミュと呼ばれる災異の対処」
「……は、はぁ」
「そのような実力者に、単位を取るためのレポートを書かせるのは、勿体ないと思っていたんだよ。代わりに研究クラスの単位を出すことを約束しよう。既にジニア先生にも相談し、クラベル校長にも話は通してある」
「……で、でも、ボク、現地の事何も知りませんよ? そのマーニャって地方の事、何にも」
「それに──私も君一人に行かせるつもりはない」
「?」
改まった様子でハイビ先生は言った。
指と指を組み、そして真剣な眼差しで彼女を見つめる。
「──メグル君、だったかな。彼の力も借りたい。サイゴクを救った英雄……だったかな」
「──ッ!! その依頼、是非引き受けさせてくださいっ!!」
「勿論、彼にも改めて話を通すつもりではいるがね」
目を輝かせてアルカはガッツポーズ。メグルも一緒に行くならば、断る理由はないのだった。
そして、一連の話を聞いていたメグルは鼻を指で擦りながら──フッ、と笑みをこぼす。
「何だよ……あのイケメン先公、分かってるじゃねえか。ま、俺は最初っから何も起こるわけねえって思ってたけどな? ニンフィアよ」
「ふぃるふぃー……」
【メグルの てのひらつのドリル!!】
アルカの事が絡むと、乱心しがちなのだった。
手持ち達は皆、愚かな主人のボールに戻らずそそくさと立ち去っていく。
「グラッシュ……」
「ブルトゥー……」
「オヒマモラウー」
「ふるるー……」
「あっ、お前ら!! 巻き込んだのは悪かったから!! 謝るから!! 見捨てないでくれーッ!?」
そんな彼らを追いかけようとするメグル。
しかし──最後に振り返ったニンフィアが、ぺしゃっと彼の顔面に唾を吐きかけるのだった。
「フィッキュ」
「悪かったからぁぁぁーっ!?」
この後、二時間かけて謝り倒して許してもらった。
(……ところでマーニャ地方って何処だ? また知らん地方だ……)
作者の作風に期待するものは?(良ければ感想欄でも教えて下さい)
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