ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「──リンネ──あいつは、付いていく奴と、やり方を間違えちまっただけで……大事な誰かの為に戦ってたのは俺と同じだった」
「そう? メグルとリンネは全然違うよ」
「俺も一歩間違ってたら、あいつみたいになってたかもしれないって事だよ」
水が引いていく町を見ながら──メグルは呟く。
もう何も見えない右目を撫でる。
別の世界の、自分の辿った可能性を考えるうちに、恐ろしい気持ちになる。
アルカが居ない間、そして彼女が記憶を失っている間、どれだけ心を乱されたかを思い返す。
「でも、君はリンネのようには絶対ならない。ボクが保証するよ」
「何でそう言いきれるんだ?」
「おにーさんは……ボクからは離れたくても離れられないからだよ」
「よく言うぜ」
ぎゅうっ、と彼女が腕に抱き着く。
記憶を取り戻し、全てが終わり──彼女も元の調子を取り戻したようだった。
「アルカ」
「……なぁに?」
「ごめんな。記念日、一緒に居てやれなくて」
「……いいよ。ボクも怒りすぎた。君が浮気なんてするわけないって、信じられなかった」
「アレは状況が悪ィよ」
「てか、あのキスマークって、ほんとにムチュールだったの?」
「ムチュールだった」
「そっか。なら信じるっ」
抱き締める力が一層強くなっていく。
「……サニーゴ……本当に居なくなっちまったな」
「そだね……」
「あいつ……最期まで健気だったんだな。お前、ポケモンに好かれる才能あるよ」
「ん……」
水面を眺める。
町の水はいずれ、消えて無くなる。サニーゴの居た痕跡と共に。
あのポケモンはマイミュの一撃でバラバラに砕け散った。
その破片すら回収することはままならない。
サニーゴの死は、二人に暗い影を落とした──
「おーい何なんスかねコレ? 漬物石ッスか?」
「ぷきゅー」
「うわっ、鳴いた!? ねえコレ……もしかして」
「ははは、まっさかー! 漬物石のポケモンなんて、いるわけないよーっ!」
「……」
「……」
──落としたはずだった。
向こうの方から聞こえてきた声。
そしてノオトが拾い上げた漬物石にしては随分と大きいソレを見て、二人は沈黙する。
おまけに「ぷきゅー」と鳴き声まで聞こえてくる。何故。
「これってどういうこと? ボクらの涙は何だったの?」
「あれもう漬物石って事にして俺達帰らねえか?」
「いやあんな穴ぼこだらけの漬物石あるわけないじゃん、通らないよ」
「じゃあ何なら良いんだよ」
「それは──じゃあもう漬物石しかないか……」
「オバケさんは、この世に未練があると、浄化されても成仏せずに戻ってきてしまうことがあるのですよー♪」
後ろからひょっこりとヒメノが現れ、ニッコニコで語る。流石ゴーストタイプの専門家であった。
「……じゃあ未練って何?」
「お世話になったお二人に恩を返したいのではないでしょうかー?」
「あいつ思いっきり再生してるんだけど」
「”じこさいせい”したんじゃないの……?」
「原種しか覚えねーんだよ!!」
謎であった。何処までいってもサニーゴが復活した理由には謎が付きまとう。
そこが──「ポケモンは不思議な生き物」である所以なのかもしれないが。
「ぎゃああああ!! 呪いがががががが」
「な、なななな、何で、何にもしてな、ぐるじじじじ」
「ノオト殿ーッッッ!! めっちゃ呪われたーッッッ!! ノオト殿が呪われたーッッッ!!」
「デジーッッッ!! ついでに呪われたーッッッ!! デジーも呪われたーッッッ!!」
「うわーっ、サニーゴ!! ストップ!! ストップ!! 人をオヤツ感覚で呪っちゃダメーッ!!」
「……まーた騒がしくなりそうだな……」
「ふぃっきゅるるるー」
足元でニンフィアが鳴き、くすくすと笑う。
人の不幸は蜜の味。何処までいっても凶悪リボンは凶悪リボンなのだった。
「ところでよ。マイミュが消えて、時空の裂け目が無くなったのは良いんだけどさ」
「そうだね」
結局、アルカの腕の中にすっぽりと納まり、ご満悦のサニーゴ。
気を取り直し──水が引いていく町を前にしてメグルは当然の疑問を口に出す。
辺りにはもう、裂け目は無かった。どうやら各地で観測されていた裂け目も、消え失せたらしい。
というのも主犯のマイミュは既にボールで捕獲されており、二度と自分からは外に出られない状態になっているからだ。
ボールに捕獲されたポケモンは、その能力を制限される。それが伝説のポケモンならば、これまで振るってきた超常的な力の一部が行使出来なくなるらしい。
「オシアス組……どうやって帰るんだ?」
「……あっ」
「……」
「……」
「……」
「……」
推薦組+博士は黙りこくった。
真っ先に飛び出して来たのはイデア博士であった。
「嫌だぁぁぁーんッッッ!!」
「うわッ!! 大の大人が鼻水と涙垂らして泣いてるッ!!」
ぼどぼど、と顔から色んな液体を撒き散らしながらイデアが叫ぶ。
「何が悲しくって自分が大罪人扱いの世界に留まりたいのさッ!? 僕もう早く帰りたいッ!! 嫁さんに会いだいッ!!」
「よっぽどストレスが溜まってたみたいね」
「えーと……結局裏切らなかったし……なんか、ホント、ゴメンなんだから」
「微妙な感じで謝るのヤメテ!?」
「まあ、住めば都という言葉もあるだろう?」
「冗談でも言って良い事と悪い事があると思うよミコっち!?」
「悪かったって」
「……丁度良かったじゃない。サイゴクに留学してたし」
「冗談でも言って良い事と悪い事があると思いますよレモンさん!?」
「悪かったわよ」
だとしたら、どうやって元の世界に帰るのだろう──と全員が思案する。
思案したところで、時空の裂け目はもう二度と現れないので、答えなど出るはずもない。
ここにきてマイミュをすぐに解放するのはあまりにもリスキーが過ぎる。
そう考えていた時だった。
イクサのすぐそばに、金色の輪が現れる。そこから──小さな魔人のようなポケモンが現れた。
「オデマシ、オデマシーッ!! フーパガ、オデマシーッ!!」
「あっ……一瞬で解決した」
「何このポケモン!? ちっこいカワイイ!!」
「フーパじゃねえか!! お前、フーパ持ってたのかよ!?」
「いや、持ってたっていうか……知り合いみたいなもので……」
「何だって良いわ。私達がどうやって帰るかって問題は解決したわね。今回もお手柄だわ、フーパ」
※※※
──それからしばらくして、別れの時がやってきた。
改めて、全員は向かい合う。並ぶキャプテンの中から、キリが代表して歩み出た。
「此度の異変の解決に協力していただき──本当に感謝痛み入る」
「なぁに、僕は大したことしてないって。頑張ったのは子供たちとポケモンさ」
「ね、博士」
「ん? 何だいユイちゃん」
「
「分かってるよ。こっちのユイちゃんも可愛かったって言っておくから」
「なんかその言い方キショいんだから!!」
「あはははっ。しおらしいのはユイちゃんらしくないからね! 安心したよ」
「──アルカっち!」
デジーが、アルカの前に走り出した。
「今度はバトル、負けないかんねっ!」
「うん。またやろう! ま、次もボクが勝っちゃうかもだけどさ」
「んにゃーっ!? ちょっと!! それは本当はボクが言うはずなのにーっ!!」
「潔く負けを認めなさい」
「ところでボク……古代のオーパーツ的なポケモンに興味があってさぁ」
「的って何だよ、そんなのオーデータポケモンしか居ないじゃん」
「考えれば考える程興味が湧いてきたよ、何で記憶を失ってたんだろボク!! ちょっと触らせてくれないかなあ!?」
「ここにきてアルカ殿が暴走したでござる!!」
前髪に隠れた目が妖しく光る。
視線が──まさにオーデータポケモンそのものであるミコに向いている。
実際は未来文明の力で作られた機械のポケモンであるのだが、アルカからすれば年月が経ったものならば何でも良いらしい。
「なあイクサよ。コイツ、目が隠れてるのに目がヤバいんだが……さっさと帰らんか?」
「つれないこと言わないでさ、ね? ね!? 先っちょだけ!! 先っちょだけだから!!」
「はいはーい、帰宅の邪魔をしないように、ッスよー」
「むーっ!!」
石商人はノオトに耳を引っ張られ、退場してしいった。残当であった。
「──イクサ。今回はお前に沢山助けられたな。向こうでも達者にやれよ」
「ええ。アルカさんと仲良くしてくださいね」
「はは、気を付ける」
「それと──今度会った時は、バトルしましょうっ!」
「ああ……
メグルとイクサは固い握手を交わす。
フーパがぐるり、と宙を舞うと金の輪が大きく広がった。
そして彼らは一人ずつ輪をくぐっていき、元の世界へと帰っていく。
「……終わったな。今度こそ、本当に」
「ん──そうだね」
金の輪が閉じていく。
名残惜しくも、それが本来あるべき形なのだ、と受け入れる。
今此処に、三つの世界を股にかけた大異変は幕を閉じたのだった。
※※※
「むむむむむーっ!!」
「──そんで、あれから姉貴……ずっと霊能力が元に戻らないか頑張ってるんスけど」
「戦果は芳しくない、でござるか」
──数日後、よあけのおやしろにて。
ノオトに膝枕してもらってるキリは、先程からずっと向こうでうんうん唸っているヒメノを指差す。
傍ではアケノヤイバも欠伸をしながらうとうとしていた。
そんな彼らを見て、ヒメノが叫ぶ。
「って、貴方達がこれ見よがしにイチャイチャするから集中できないのですよっ!!」
「姉貴ィー、そうやって人の所為にするのがいけねーんじゃねーか?」
「エリィス」
「ヌシ様も”そうだそうだ”と言っているでござる」
「むむむむーっ!! 本当にいけ好かないのですよっ!!」
「みみっきゅ!! みみっきゅ!!」
「うん? どうしたのです? ミミッキュ」
ミミッキュがぐいぐい、とヒメノの袴を引っ張る。
影の爪が指差す先には──背が高く、色素の薄い少年の姿があった。
表情は柔らかく、何処か儚さを纏ったような笑みは、ヒメノの心を一発で撃ち抜く。
つまるところ、好みドストライクであった。
「ごめんくださーい、僕……おやしろ参りに来たチャレンジャーなんですけど」
「は、はわ……」
ヒメノは固まる。
こんな衝撃は、キリと初対面で会った時以来であった。
「あれ? もしかして何か間違えました?」
「あ、いえ! 今日はおやしろはお休みなのですよっ! でも、明日なら開いてるので、ぜひ来てほしいのですよっ!!」
「そうでしたか。ところで……此処はとても良い場所ですね。ゴーストポケモン達がとても生き生きとしている」
「見えるのです? オバケさんが……?」
「ええ。物心ついた時から。可愛いですよね、ゴーストポケモン」
「は、はひっ、ヒメノもそう思うのですよ……!」
「じゃあ──また明日。挑戦に来ますね」
去っていく少年を見て──ヒメノは飛び上がり、叫ぶ。
「今の殿方……ヒメノのハートに効果バツグンなのですよーっ!!」
「あっ」
「あっ……」
ぶわぁっ!!
勢いよくヒメノの身体から靄が噴き出し、辺りのものが前触れもなく宙に浮かび上がる。
それは、完全に彼女の霊能力が元に戻った事を意味していた。
「こんなにもあっさりと戻るものでござるか……」
「ははー……まーた一目惚れッスよ」
「面食いな所は昔のノオト殿そっくりでござるな」
「うぐっ──それを言われると弱いッスね……」
「拙者……忍者なので。弱い所を突くのが忍のセオリーでござるよ」
じとっ、とした目で見上げてくる最愛を見て、ノオトは確信した。
バトルはさておき、恋愛では一生、彼女に勝てる気がしない。
「姉貴……今度はちゃあんと捕まえるッスよ」
※※※
「まみゅみゅみゅみゅみゅ……!!」
──特別意訳:おのれ、絶対に滅ぼしてやる、人間ども……!!
サイゴク地方──と言ってもイクサ達が転移した方の世界にあるサイゴク地方であるが──シャクドウ大学の研究室。
その地下室でマイミュは保管されることになった。
ボールの中で虎視眈々と復活のチャンスを狙っていたマイミュだったが、エネルギー源である水が供給されないこの部屋では、一生叶うはずもない。
そんな中現れたのは、したり顔のイデア博士だった。
「はぁーい、マイミュ。元気してる?」
「まみゅみゅみゅーッ!!」
ボールの中からマイミュはカプセルを叩くが、今の彼に外へ出る力は無かった。
「ボールの中、暇だろ? 出してあげよっか?」
「まみゅ!? まみゅー♡」
「もー、そんなに喜ばなくっても良いって……シャクドウ大学の研究員総出で、たぁーっぷり実験してやるからさぁ……覚悟しときなよ?」
イデア博士の後ろには、白衣の研究者たちの姿。
その全員が、好奇心と嗜虐心に満ちた目でマイミュの入ったボールを見ていた。
「
「イデア博士、こいつが例の?」
「あ、うん。僕が責任持つから好きにやっちゃっていいよ。でも絶対に外に出さないように」
「押忍ッ!!」
「み”ゅーッッッ!!」
──この後。マイミュが研究所の外へ出る事は二度と無かったという。
※※※
──パルデア地方、テーブルシティにあるアパートの一室。
そこで、今日もメグルは朝を迎える事になる。
一緒に寝ていたニンフィアとアブソルも欠伸をして、部屋の方へ出て行くのが見えた。
眠い身体を起こし、恋人の身体を揺すり起こす。
「おーいアルカー……起きろよー。休日だからって、だらけすぎだぞ」
「うぇー……?」
「ぷきゅー」
サニーゴを抱きしめたまま寝ていたアルカは、そのまま起き上がり、時計を見る。
「まだ10時じゃん……見てよ、デカヌチャンだってまだ寝てるよ」
アルカが指差した方には、ハンマーの上で豪快に寝そべるデカヌチャンの姿。
完全に主人の寝坊癖が映ってしまっている。
「もうすぐ昼なんだわ。なんかテキトーに作るよ」
「おねがーい」
「おいコラ、また寝るんじゃねえ──おっとと。やば、転びそうになった」
「ふぁーあ……お腹空いた……」
トーストを焼き、更に盛るだけの簡単な朝食。
だが、空きっ腹を満たすだけならこれでも十分だった。
向かい合い、互いにいつもの朝食を食べる中、アルカは──ふと、彼に問うた。
「ねえ、メグル。右の目……やっぱりもう見えないの?」
「多分な……」
「……」
未だに──右目が全く見えないことに、メグルは慣れない。
だが、それでも良いか、と最近は思えるようになってきていた。
隣には彼女が居る。そんな現在を守れたのだから。
「お前は気にしなくても良いんだぞ? これは……俺にとっても勲章みてーなもんだし」
「ふるーるっ!」
「……そうかなあ。気にするなって言われても、ボク一生気にするよ」
「この傷のおかげで──俺はもう迷わないと思う」
きっとそれは決意の証。そして、約束の証。
これだけの逆境を乗り越えたのだから、これから起こる事も全部大丈夫だ、と自分に言い聞かせる為のものだ。
「カッコつけすぎだよ……全くもう」
「ぷきゅー」
「誰かさん程じゃねえよ。無茶する癖が俺にまで伝染っちまった」
「んなっ。そうだけどぉ……」
「だから気にすんな。俺は──お前が居てくれるのが一番嬉しいんだ」
「……ボクもだよ」
「フィッキュルルルル……」
テーブルの下で丸まっているニンフィアは気が気でない。
今日もバカップル共は仲がいいなー、と心の底から僻んでみせるのだった。
──ぴーんぽーん。
呼び鈴が鳴る。慌てて上着を羽織り、メグルは玄関に出た。
「はーい──宅配便……え”」
ドアを開けて、そこに居た人物に思わず彼は目を丸くする。
もう二度と会う事は無いと思っていた少年が、モンスターボールを持ってそこに立っていた。
「どーも! 遊びに来ましたっ!」
「イ、イクサァ!? 何でお前こんな所に居るんだよ!?」
「えっ、イクサ君来たの!?」
どたどたと音を立てて、アルカもやってくる。
見間違うはずもない。
「フーパに頼んで連れてきてもらったんです──言ったでしょう? 今度会った時はバトルしましょう、って」
「ぱもぱもーっ!」
「爆速で有言実行する奴があるかよ……!」
「約束は守らないとですからねっ!」
「……はは、一本取られたぜ」
※※※
「──手加減はしねえぞ。本気で掛かって来い!」
「──はい、勿論ですっ!!」
──場所は変わり、テーブルシティの広場。
そこで、メグルとイクサはボールを構え、向かい合っていた。
間で審判役を務めるのはアルカだ。
「それじゃあ始めるよーっ!! バトル、スタート!!」
「勝負だイクサッ!!」
「負けませんよ……メグルさんッ!!」
「ふぃるふぃーっ!!」
「ぱもぱもーっ!!」
──「ポケモン廃人・ザ・ユニバース」(完)