ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第30話:ベニシティの戦い

 ※※※

 

 

 

「──アルカさんっ」

 

 

 

 ──カブラギ遺跡から出るところで、アルカは──イクサと対面する。

 走って来たからか、彼は体全部で息をしており、顔は真っ赤になっていた。

 

「……貴方は……」

()()()……!」

「……ボクを追いかけてきたんですか」

「いきなり居なくなると……心配するよ。行きそうな場所をあちこち探して……」

「……ごめんなさい。でも、記憶を──取り戻さなきゃって。じゃなきゃ──あの人を悲しませてしまうから」

 

 アルカは目を伏せた。

 成果は──何も無かった。

 

「わっかんないなあ、って……ボクは遺跡や化石が好きだったみたい。だから、此処に来れば──また何か思い出せるんじゃないかって。でも──ダメでした」

「……やっぱり記憶を取り戻したいんだね」

「自分が何者かすら分からないのは──イヤだし、その所為で皆を悲しませてしまう。でも、どうしても……思い出せなかった」

「……そうだね……怖くて、不安、だよね……」

 

 息を整えると──イクサはへたり込んだ。

 

「だいじょうぶですか!?」

「町中走ったから、疲れちゃった。慣れない事はするもんじゃないな……」

「何で皆、ボクの為に……ボク、何もできないのに。何もお返しできないのに」

「だって放っておけないから。きっと──メグルさんだって同じなんじゃないかな」

「ボクは何者でもないし、何も……持っていないのに」

「そうだね。でも、貴女はきっと、それだけ沢山のものをこの世界に……そして色んな人に残したんじゃないかな」

「残した……?」

「うん。それはきっと、貴女の記憶が消えたくらいじゃ、消えやしないんだよ。だからみんな……貴女の事を心配して、気遣うんだと思う」

 

 それは例えば、繋がり。

 人同士だけではない。ポケモンに対してもそうだ。

 きっとそれは彼女の記憶が消えても尚、彼女の記憶を持つ全ての者には残り続ける。

 

「それはきっと、貴女にとっては迷惑で……何なら余計なお世話かもしれない。貴女にとっては、知らない誰かの事のように思えるかもしれない」

「……」

「でも忘れないで。貴女が思ってる以上に、貴女の残した物は……大きいんだ」

「貴方にとっても、ですか?」

「僕は──はっきり言って、記憶を失った後の貴女としか会った事が無い」

「……じゃあ、何故ボクを心配するんですか」

「知ってるからだよ。君が居なくなって、ずっと苦しんで、悩んで──それでも負けずに戦ってきた人の事をさ。だから、報われて欲しいって思うんだよ……あの人も、貴女も」

 

 きっとそれも「残したもの」に入るんだろうね、とイクサは続ける。

 

「優しいんですね……ボクは──ボクの事ばっかりでいっぱいっぱいだ」

「……無理もないと思うけどね。でも、大事なのはアルカさんがどうしたいかだと思う」

「ボクが、どうするか?」

「うん。結局貴女自身の事だからさ」

「ボクは……記憶を取り戻したい」

 

 瞑った瞼の裏には──メグルの顔が映った。

 

(ッ……! 何でボク、あのおにーさんの事を今、思い浮かべたんだろ……)

 

「その為なら、出来る事は何でもやりたい……ッ!! 諦めたくない……ッ!!」

 

 それはきっと他の誰かのためだけではない。

 自身のためにも、記憶を取り戻したいという気持ちが改めて強くなっていく。

 そればかりか、冷え切っていたはずのハートに炎が灯るような感覚が蘇っていく。

 迷いが、躊躇いが、遠慮が全部消えていく。

 

「それがきっと……ボクを待っててくれる皆へのお返しになるんだ……ッ!」

 

 

 

 ピキッ、パキパキパキッ──

 

 

 

 ──ガラスが割れるような音が聞こえ、二人は空を思わず見上げた。

 

「……何あれ」

「空が割れてる……ッ!!」

 

 ベニシティの上空に、巨大な時空の裂け目が現れていた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……のこのこと出てきたねエ!!」

 

 

 

 各地に発生した時空の裂け目をカメラで監視、分析していた博士(二徹目)は──白昼堂々と巨大な裂け目から降りてきたリンネ、そして水トカゲを前に歓喜の笑みを浮かべた。

 水トカゲとリンネは巨大な水の泡の上に乗って浮かんでいる。そして、彼等の周囲を起点として裂け目から水が溢れ出してくるのだった。

 

「こいつが、例の水トカゲのポケモンッスかあ!?」

「ああ。そしてメグル君そっくりの人間までセット! こいつらが、今回の黒幕さ! 全キャプテン達に通達! 敵はベニシティの上空にあり、そんでもってなーんか嫌な予感がするから、住民たちをさっさと避難させちゃって!」

『オーケー。ワタシに任せて頂戴。住民は私の言う事ならすぐ聞くと思うから♡』

 

 通信機からはハズシの声が聞こえてくる。既に状況は把握しているのだろう。

 

「さっさと出発しようか。あんな奴、戦力が何人居ても足りないでしょ!」

「見りゃあ分かるッスよ、あいつが居るだけで裂け目が辺りに増えたッス!!」

 

 ノオトはカラミンゴを、そして──博士はオオスバメを繰り出すと、すぐさまライドギアを取り付けて跨った。

 

「ところで君のお姉さんは!?」

「おやしろの方に行ってるッスね……霊能力が戻る方法を探してるッス。ま、ハズシさんも一緒ッスからすぐ来るっしょ」

 

 

 

「ノオト殿! イデア殿! 待たせているでござるな!」

 

 

 

 何処からともなく声が聞こえてくる。

 上空からエアームドが滑空し、オオスバメとカラミンゴに並んだ。

 乗っているのはキリだ。

 

「キリさん!」

「敵が現れたのは知っている、早急に叩くでござるよ!」

「さっすが有能! ウルイさんの娘さんなんだっけ? ……ウチのサイゴクも、君が居たら楽だったんだろうなあ」

「……?」

「何でもない! 徹夜した学者の言う事を真に受けちゃあいけないよ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 辺りの空間が割れ、裂ける。

 そこから水が溢れ出し、人々が逃げ出す。

 しかし──ムナール地方の都市とは違い、水を溢れ出させてもすぐに何処かへ逃げてしまうこと。

 何よりも、人々が直ぐに避難を始めたことに、リンネは苛立ちを覚えていた。

 

(治水……! この都市の文明は、ムナールのそれよりも遥かに発展している……! そう簡単に沈みはしないってことか)

 

 街のあちこちには、大雨災害が起こった時に備えた側溝や下水道に繋がる穴が存在する。

 加えて、元より災害とは無縁だったムナールとは違い、列島はかねてより大雨、地震といった災害に幾度となく遭っており、人々の危機感も段違いだ。

 

「……まーみゅーず」

 

 町に水が満ちない事に業を煮やしたマイミュは再び咆哮する。

 更に時空の裂け目が現れていく。だが今度は、溢れ出てくるのは水ではない。

 

「ヤー・ターン!!」

「ババァルゥク!!」

「かがよふ」

 

 パキパキ、と罅が割れると共に、溢れ出してくるのは異次元から来訪した異形のポケモン達。

 

「むきゅー」

「ぷひぃいいいいいいいっぷ!!」

「ゴォオオアアアーッ!!」

 

 既存のポケモンに酷似しながら、荒々しい恐竜の如き意匠を持つポケモン達。

 

「サザン・ドォォォー」

「ウィル・ドン・ファーッ!!」

「キィイ・イイイン!!」

 

 そして、全身を鋼に包んだロボットの如きポケモン達。

 

「かぁーあ!! かぁーあ!!」

「ノットリガァァァアアアアーッ!!」

「かっぱばばばばばばああ!!」

 

 更には魑魅魍魎の如きポケモンの集団。

 

「どぐりゅりゅりゅりゅーっ!! ピピピピ」

 

 終いには恐竜土偶の群れまで大挙して裂け目から零れ落ちていく。

 

「……思わぬ副産物だな」

「まーみゅ! まーみゅー!」

 

 異形たちの群れを見て心底嬉しそうにマイミュは鳴く。

 だが、それだけには留まらず、マイミュの目が赤く光ると共に──町を這いずり回る異形たちの目も赤く光るのだった。

 

「さあ獲物は釣れるかな? その前に……食われてしまうか」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「わっぁあああ!? 何だこのポケモン達はぁ!?」

 

 

 

 町はすぐさまパニックに包まれた。

 雨も降っていないのに、町中に水が溢れ出す。

 そればかりか、裂け目から現れたポケモン達が襲い掛かるという事態が発生していた。

 ベニシティは修羅の国サイゴクの中でも大都市圏であるが故に、野生ポケモンの襲撃からは無縁であった。

 故に、未だかつてない事態に人々は混乱していた。

 しかも現れたのは只の野生のポケモンではない。港町周辺に現れたのは荒ぶる太古の本能のままに暴れる怪物たちであった。

 

「むきゅー」

 

【ハバタクカミ パラドックスポケモン タイプ:ゴースト/フェアリー】

 

 逃げ回る人々に向けて、面白がるようにして幽霊のポケモンはシャドーボールを放ち続ける。

 翼竜の翼の如き髪で羽ばたきながら、悠然と空を舞い、獲物を見定めると更に追い打ちをしかけるのだった。

 更に、逃げ道を塞ぐようにして、港湾作業者たちの前に立ちはだかるのは、巨大な蛾のような怪物だった。

 しかし、その尾は恐竜のそれのように長く太く、そして鱗が生えている。

 おまけにその複眼からは荒ぶる闘気を示すかのように赤いオーラが漏れ出していた。

 

 

 

「ぷひぃいいいいいいいっぷ!!」

 

【チヲハウハネ パラドックスポケモン タイプ:虫/格闘】

 

 

 

 振り下ろした前脚でアスファルトが粉砕され、辺りに飛び散る。

 作業者たちはポケモンを繰り出して迎え撃とうとするが──

 

「カ、カイリキー!! あいつを何とかしてくれぇ!!」

「ぷひぃいいいいいいい!!」

 

 

 

【ヌシ咆哮:ポケモン達は怯んで動けない!!】

 

 

 

 ボールから飛び出したカイリキー達は、チヲハウハネの放つ悍ましい咆哮を前に竦み上がってしまう。

 そこに、空中からハバタクカミが”ムーンフォース”を絨毯爆撃し、蹂躙。

 更に追い打ちをかけるチヲハウハネは全身を炎に包み込むと、残っていたカイリキーも突き飛ばし、海へと叩き落としてしまうのだった。

 

「ひっ、ひいいい!! 何なんだこいつら……!!」

「カ、カイリキー!! 今助けるぞ!!」

 

 

 

「──その必要はない!」

 

 

 

 作業員が海へ飛び込もうとした瞬間だった。

 カイリキーの身体が海からひとりでに引っ張り上げられ、そのまま陸地に揚げられる。

 暴れる古代のポケモン達の前に現れたのはオオヒメミコ。

 そして、チヲハウハネの前に単騎で立ちはだかるのは、同じく巨大なミミロップだった。

 遅れてやってきたミコが叫ぶ。

 

「オマエ達は疾く逃げよ! 此処は妾達が相手だ!」

「あ、ありがとうっ……!!」

「ぴょんぴょーん! 悪い子達にはお仕置きだよっ!!」

 

 スマホロトム、そして町中に鳴り響く警報で異変を察知した二人は、いち早く町を飛び出し、裂け目の方へ向かっていたのである。

 作業員やカイリキー達が逃げていく中、不機嫌そうにハバタクカミが鳴き、シャドーボールを大量に放つ。

 しかし、それに対抗するようにしてオオヒメミコがレーザーの雨を降らせて先に貫いて掻き消してしまうのだった。

 

「おっと弾幕勝負か? 妾が相手になってくれようぞ!」

「ぷきゅ……!」

「ぷひいいいいぃいいいいっ!!」

 

 地を這い、そして飛び掛かるチヲハウハネ。

 しかし──その身体は鉛でも括りつけたかのように鈍重になってしまう。

 

「ざーんねん。トリックだよっ♪」

「みーみみっ!」

 

【ミミロップの すりかえ!】

 

 後ろ脚には”くろいてっきゅう”が括りつけられていた。ミミロップが既に押し付けていたのだ。

 

「そーゆーわけで、一発痛いのをお見舞いだッ! ”ほのおのパンチ”!」

 

 ミミロップが拳に炎を纏わせる。

 一方のチヲハウハネも、立ち上がると前脚を振り上げ、最大限力を溜め込んだ一撃を見舞う。

 

 

 

【チヲハウハネの ばかぢから!!】

 

 

 

 しかし。

 その一撃はミミロップに対しては空を切ったかのように摺り抜けてしまった。

 

「ごっめんねー♪ 今のミミロップは──ゴーストタイプだよっ!」

「みー!」

 

【ミミロップ<AR:ゴルーグ> タイプ:ゴースト/地面】

 

 全身に土の鎧を身に纏い、目からは鬼火を迸らせるミミロップ。

 そのままチヲハウハネの懐に潜り込むと、炎の拳を叩き込む。そしてトドメと言わんばかりに蹴り飛ばすのだった。

 

「ぷ、ぷぴぃ……!」

「お仕置き完了っ☆ さあてミコっちは──」

 

 空をふわふわと浮き、辺り一面にシャドーボールをばら撒くハバタクカミ。

 それに対してオオヒメミコは周囲に”ひかりのかべ”を展開して弾き返してみせる。

 なかなか攻撃が通用しない敵に対し、不満そうに歯ぎしりしたハバタクカミは、姿を消すと一瞬でオオヒメミコの眼前に迫って”シャドーボール”をノータイムで放とうとした。

 だが、ワープを決めて背後を取った瞬間、ハバタクカミの頭上からレーザーの雨が降り注いだ。

 

 

 

【オオヒメミコの サイコイレイザー!!】

 

 

 

「……悪いな。計算通りだ。オーデータポケモンの頭脳をなめるな」

「ぷっ、ぷっきゅ……!!」

「オマエの行動パターンは既に見切った。無駄に動いてくれたおかげでな」

 

 浮かび上がろうとするハバタクカミ。

 しかし、幽鬼の影さえも消し去る勢いでオオヒメミコの目から光が迸る。

 

 

 

「プレゼントしてやろう──必殺・ルミナコリジョン!!」

 

【オオヒメミコの ルミナコリジョン!!】

 

 

 

 余りの眩さに昏倒したハバタクカミは、そのまま地面に落っこちてしまうのだった。

 こうして、港で暴れていた二匹の古代ポケモンは鎮圧されたのである。

 

「……おーお、流石ミコっちぃ!」

「ミコっちやめんか。……さぁて、次の場所に向かうぞ」

 

 そうミコが言った時だった。

 

 

 

「ゴォオオオオオオアアアアアアアーッ!!」

 

 

 

 工場の窓が全部割れる程の咆哮が辺りに響き渡る。

 そして、屋根から飛び降りてきたそれは、体重全部を乗せて彼女達の前に降り立った。

 先程の二匹とは比べ物にならない程の威迫。

 トカゲのような体躯に三日月のような羽根。

 目から迸る獰猛な赤い光が稲光のように軌道を描く。

 

「……あれってラズパイセンが使ってたボーマンダにめっちゃ似てない?」

「……こいつが本命か」

「ゴォオオオオオオオアアアアアアアアーッ!!」

 

 

 

【トドロクツキ パラドックスポケモン タイプ:ドラゴン/悪】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 リンネの方に向かいたい博士たちだったが、市街地で暴れるウルトラビーストを見過ごせるわけもなく、交戦に入っていた。

 

 

 

「こんなところで、時間食ってる場合じゃないんだけどねえ!!」

「ババァルゥク!!」

 

 

 

 赤く膨張した筋肉を誇示するかのようにポーズを取ったかと思えば、それはイデア博士目掛けて飛び掛かってくる。

 それを受け止めたのは怪力自慢のガチグマだ。

 しかし、それでも尚、相性差ゆえか押し切られそうになっている。

 

「ぐまぁ……!」

「ババァルゥガ!!」

 

【マッシブーン ぼうちょうポケモン タイプ:虫/格闘】

 

 その頭部は蚊そのもの。ドリルのように太く尖った口を思いっきりマッシブーンはガチグマに突き刺す。

 ぎょっ、と博士がリターンビームを当てようとしたが時すでに遅く、ガチグマの額から思いっきりエネルギーを吸い上げてしまうのだった。

 

「ヤバいヤバい! 戻ってガチグマ!」

「ぐまぁ……」

 

 すっかり疲弊してしまったガチグマをボールに戻した博士は──ちらり、とノオトとキリの方を見やる。

 彼らの前には巨大な竹の如き怪物、そして熨斗のような小さなポケモンと彼らは相対していた。

 竹の方のポケモンは、脚部をブラスターのように火を噴いて空を飛び、此方を見下ろしており、一方で熨斗のようなポケモンはその小ささに見合わず、辺りを飛び回ったかと思えば、乗り捨てられた車を両断して爆破させるのだった。

 

「確かこいつら……!!」

「アローラの情報ファイルにあった。テッカグヤとカミツルギでござるな……!!」

「デカい方がテッカグヤ、小さい方がカミツルギ、ッスね!!」

 

 

 

【テッカグヤ うちあげポケモン タイプ:鋼/飛行】

 

【カミツルギ ばっとうポケモン タイプ:草/鋼】

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