ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第28話:異界からの来訪者

 ※※※

 

 

 

「結局、何も思い出せなかったです……」

「仕方ないわよ。一朝一夕で戻るものじゃないしね」

「でもでも、楽しい思い出、今日だけで沢山出来たよねっ!」

「は、はいっ。皆さん、ありがとうございました」

「……ふふーんっ! 今日はまだ終わらないよっ!」

 

 ホテル前に集まった一同に対し、デジーがVサイン。

 

「部屋に集まってパーティしよーよっ! お菓子とジュース、沢山買ってさっ!」

「おいおい朝までドンチャン騒ぎする気かよ……」

「そうですね……どんちゃんまではいかないけど、僕もまだまだメグルさんと話したいこと沢山ありますから」

「アルカは──」

「折角だし、参加したいです。皆優しいし……友達になれそうだから」

「またまた~! もうボク達、マブでしょアルカっちぃー!」

「そ、そうでしたっけぇ!?」

「ボクっ娘仲間ってすっごく稀少なんだよ? 仲良くしよーっ! にししっ」

 

(……こいつらが居てくれてよかったな。もし居なかったら……俺もアルカも、ずっと暗いままだったかもしれねえ)

 

 すっかりオシアス組と打ち解けたアルカを見て、メグルは安堵の息を吐く。

 結局の所、まだ彼女の記憶が戻る気配はない。それでも一つ救いがあったとするならば、彼女に新たな友が出来た事だろうか。

 

(……このままってわけにはいかねえけど……良かったな)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──同じ狭い部屋で一頻り駄弁り、菓子とジュースに明け暮れて──皆、そのまま寝落ちしてしまった。

 そんな中、アルカだけが真っ暗な部屋の中でパチリ、と目を覚ます。

 

(……眠れない……)

 

 目を擦り──夜風を浴びようと、扉のノブに手を掛ける。

 ぼんやりとした気分のまま、彼女は部屋を出るのだった。

 

「んーっ」

 

 冷たい風が心地よかった。

 見上げると、月は大きく満ちており──自分がどれだけちっぽけなのか思い知らされる。

 それでも、悩みは尽きる事は無い。自分が何者なのか、今のアルカには分からない。

 

(……ボクは……アルカ。ヒャッキ地方からの流れ人で……ポケモントレーナーで……遺跡と化石が大好きな石商人……か)

 

 彼女は首を横に振った。

 

(……わっかんないな。目が覚めた時には、何も分からなかったのに。まるで、全部取って付けられた”設定”のようで、現実味が湧かない)

 

 ただ一つ、自分の在り方を証明するのは──体中に刻み込まれた傷跡。

 きっとヒャッキ地方では、ロクな扱いを受けて来なかったであろうことだけは分かった。

 そして、この世界の住民は皆、自分に対して優しかったこともこの数日間で分かった。

 だからこそ申し訳なくて仕方が無かった。自分はもう、彼等の記憶など一つも残っていないのだから。

 

(……ダメだ。結局何も思い出せなかった。ずっと、このままなのかなあ)

 

 目を閉じると涙が零れそうになる。

 頼れるものなど他に無い。自分を構成するものなど他に無い。

 

(おにーさんは……ボクの何がそんなに好きなんだろう。どうしてあんなに……頑張ってくれるんだろう)

 

「こんなところで月光浴? 随分とロマンチストなのね」

「ッ!」

 

 びくり、と後ろから飛んできた声にアルカは体を震わせる。

 

「でも、少々危機感が足りないんじゃないかしら」

「あっ、えっと……レモンちゃん……だっけ」

「メグルさんもそうだけど……”ちゃん”付けはこそばゆいわね。私がちっこいからだろうけど」

「?」

 

 レモンは──アルカの胸にぶら下がる大質量のソレを見て嘆息した。

 

「そんな事はどうだっていいの。メグルさんが心配するわ。帰りましょう」

「……良いんでしょうか」

「うん?」

「ボク、皆に迷惑かけてばっかりです。おにーさんにだって……」

「男の子ってのは──好きな子の為なら命まで懸けちゃうバカみたいなところがあるもんなのよ」

「……それは、本当にボクで良いんでしょうか」

 

 膝を抱え込み、アルカは呟いた。

 

「おにーさんが好きなのはきっと、記憶を失う前のボクでしょう? もし、ボクの記憶が戻らなかったら……きっと、辛い思いをさせるだけです。もし、そうなるくらいなら……ボクは──」

「ダメよッ!」

「ッ……でも」

「ヤケになっちゃダメ。部外者の私が言うのもなんだけど……メグルさんは絶対に悲しむと思う」

「……ごめんなさい」

 

 レモンは──思い返す。

 かつて、自分の会社も、手持ちも、学園での立場も全て奪われた時──それでも一緒に居てくれた仲間達の事を。

 一途に約束を守る為にともに戦う事を誓ってくれた恋人の事を。

 

「他でもない貴女が……貴女を大事にしてくれる人を悲しませるようなことをしちゃダメ」

「……」

「不安になっちゃったのよね。でも、メグルさんは心配してくれてる。帰りましょう」

「……うん」

 

 アルカの手を取り──レモンは、踵を返す。

 

「強いんですね……レモンちゃんは」

「私は記憶を失った事は無いけど……それ以外のものなら一通り無くしてるからかしら?」

「え”ッ……」

「ま、でも何とかなるもんよ。どんな時でも貴女の味方になってくれる人が居れば、ね」

「……」

 

 ピキッ

 

 ぴくん。

 アルカの青白い耳が動いた。

 何処かで窓が割れたような音が聞こえたからだ。

 

「今の、何処かで──」

 

 ピキッ、パキパキパキッパリンッ

 

 

 

「かぶりん」

 

 

 

 思わずレモンとアルカは振り返る。

 月光を浴びる真っ白なシルエットは、極限まで無駄を削ぎ落したかのような鋭利で細いフォルムをしていた。

 美しくしなやかな人型。しかし、その頭には虫のような長い触覚が生えている。

 それは辺りを見回すと、失望したかのように首を横に振り、そして──二人を睨み付けるのだった。

 

「な、何アレ。ポケモン……!?」

「ッ……逃げるわよ!」

「は、はいっ!」

 

(こいつ、何かがヤバい気がする!!)

 

 二人が駆け出そうとしたその時だった。それが地面を蹴ったかと思えば、瞬間移動でもしたかのように回り込まれていた。

 吹き抜ける風で、レモンは──この怪物の脚力が異次元の速度を生み出していることを察する。

 そして、逆手に持ったモンスターボールのスイッチを躊躇なく押した。が、間に合わない。

 

(速過ぎる!? 何なのコイツ──!? 距離を取ってポケモンを出すつもりだったのに!!)

 

 怪物の細い脚が、二人を薙ぎ払うべく鞭のようにしなる──

 

「ぷきゅーっ」

 

 しかし、そのインパクトの瞬間。

 アルカの目の前に、何かが現れた。

 そして──怪物の脚に打たれたかと思えば、そのまま地面に転がっていく。

 

「ッ……なに!?」

 

 ごろん、ごろん、と転がっていくのが──何かのポケモンであることをレモンは察した。しかし、暗がりの所為で見えない。

 

(私達を守った──ッ!? でも、これで時間が稼げた!!)

 

「──かぶりん」

 

 ノイズ音混じりの鳴き声が辺りに響き渡った。

 

「ヒッ……!」

「アルカさん。大丈夫──相手がポケモンなら、戦えば良い……!」

「は、はいっ……!」

 

 街灯に照らされたことで怪物の全体像が明らかになる。全身が真っ白な、美しい顔立ちの蟲人だ。

 そう思わされてしまうのは、怪物の身体から漂うフェロモンの所為か──

 

(コイツのデータ、見たことがある。アローラ地方で確認された異次元のポケモン──”ウルトラビースト”ね! 多分、時空の裂け目からやってきたんだわ!)

 

【フェローチェ えんびポケモン タイプ:虫/格闘】

 

「かぶりん?」

「ッ……!?」

 

 ふと、フェローチェが別の方角を見やる。

 ピキ、パキパキ、と罅割れるような音が響き渡った。

 そして間もなく──それは空間を突き破り、怒涛の勢いで爆走する。

 

 

 

「ドン・ファアアアアアンドドドドドッ!!」

「はぁっ!? もう一匹──!?」

 

 

 

【イダイナキバ パラドックスポケモン タイプ:地面/格闘】

 

 

 

 それは二本の巨大な牙を持つ象のポケモンだった。

 レモンもよくしる”ドンファン”と呼ばれる種に酷似してはいる。

 しかし、背中には鱗がびっしりと生えており、尻尾もまるで恐竜のそれの如く太い。

 何より体躯はドンファンとは比べ物にならない程に巨大化している。

 

「このドンファン、()()()()()()()……ッ!!」

 

(パルデア地方の極秘資料で確認した古代種のそれに酷似してる……!! あの裂け目、空間だけじゃなくて時間すら飛び越えるっていうの……!?)

 

「ッ……上等ッ!! 二匹纏めて相手してやるわッ!!」

 

(推定地面タイプが相手ではハタタカガチは不利──!! それならば!!)

 

 レモンはボールを投げる。

 中から飛び出したのは──ギャラドス。

 彼女自慢のパワーファイターだ。空に飛び上がったギャラドスは、咆哮すると──イダイナキバ目掛けて食らいつく。

 しかし、その間は当然、残るフェローチェがお留守になるわけだが、

 

「ぷぴふぁーッ!!」

 

 それと組み合うは、アルカの指示無しでボールから飛び出したヘラクロスだった。

 鞭のようにしなる脚を掴むと、そのまま力任せに地面に叩きつける。

 一方のフェローチェも、衝撃を受け身で殺すと、態勢を立て直してヘラクロスと睨み合うのだった。

 

「ヘラクロス……!? 戦ってくれるの!?」

「ぷぴっ!!」

「……かぶりん」

 

 汚らわしい、と言わんばかりにヘラクロスに掴まれた脚を手で払うと、フェローチェは地面を蹴って空へと高く飛び上がる。

 そして──ヘラクロスの頭目掛けて、思いっきり急降下するのだった。

 ”とびはねる”。空へ跳んで急襲する飛行タイプの技だ。勿論、ヘラクロスが受ければ致命傷は避けられない。

 しかし、

 

「……空に飛んだ。それなら撃ち落としてやれば良い! ”ロックブラスト”ッ!!」

「ぷぴふぁーッ!!」

 

 急降下するということは此方へ向かってくる位置も予測できるわけで。

 ヘラクロスは地面を踏んで岩の礫を浮かび上がらせると、それをそのままフェローチェ目掛けて飛ばす。

 しかし、フェローチェ側も身をよじらせてそれを回避してみせるが、着地地点はずれてしまい、ヘラクロスの眼前に飛び降りるのだった。

 両者は再び睨み合い、そして組みかかる。

 鞭の如く細い脚でヘラクロスを何度も何度も蹴りつけるフェローチェ。

 対するヘラクロスも、それを見切って躱し、爪の付いた掌で反撃してみせる。

 だが流石に素早さの差は如何ともし難いのか、そしてアルカもポケモンバトルに慣れていないからか、決定打に欠く──

 

「──ギャラドス、”たきのぼり”ッ!!」

「ギャラゴォオオオオアアアアーッ!!」

 

 一方。

 イダイナキバに対し、水を纏って突撃を繰り返すギャラドス。

 だが強固極まりない外殻故か、弱点を突いても尚、イダイナキバが堪える様子はない。

 そればかりか、イダイナキバが暴れる度に辺りに被害が出る始末だった。

 既に周囲は騒ぎになっており、悲鳴が聞こえてくる。

 

「ドドドドドド──」

 

 

 

「ドン・ファアアアアアアアアアアアアンドドドドドッ!!」

 

 

 

【ヌシ咆哮:ポケモンは怯んで動けない!!】

 

 地面を揺るがし、周囲の建造物の窓ガラスを叩き割る勢いの咆哮がギャラドスを揺さぶる。

 

「ッ……こ、こいつ、ヌシポケモンの咆哮まで──ッ!?」

 

 そして、その一瞬の隙が命取りとなった。

 イダイナキバが地面を踏み鳴らせば、アスファルトが切り立った岩の刃と化して襲い掛かる。

 

【イダイナキバの ストーンエッジ!!】

 

「ギャラガガガガガ!?」

 

 悲鳴を上げ、ギャラドスがうねり、倒れ込む。それだけで砂煙が上がり、地面が揺れる。

 この二匹が暴れるだけで被害が拡大していく──

 

(マズい!! 早く鎮圧しないと、被害が!! しかもギャラドスが暴れたら余計に……!!)

 

「ギャラドス、戻りなさい! ……次は貴方よ、ブリジュラス!!」

「キイイイイイイインオオオオオオンッ!!」

 

 物理技で弱点を突くよりも、特殊技で押した方が手っ取り早い──そう考えたレモンは、ギャラドスを引っ込めてブリジュラスに交代する。

 とはいえ、相手は地面タイプ。必殺のエレクトロビームは通用しない。

 

「ドン・ファーンドドドドドッ!!」

「……当然撃ってくるわよね。こっちに弱点突ける技!!」

 

 猛進するイダイナキバは、両前足を大きく振り上げる。

 イデア博士のガチグマと同じ──”ぶちかまし”の構えだ。しかし、レモンはすさかずそこでオージュエルに手を翳す。

 

「──オーライズ”ギャラドス”」

 

 ブリジュラスの身体には魚のような鱗が浮かび上がり、更に鰭を持った鎧が纏われていく。

 すかさず、イダイナキバの一撃を頭で受け止め、そして衝撃を受け流したブリジュラスは、無防備な腹部目掛けて──必殺の”りゅうのはどう”を見舞うのだった。

 爆発音が響き渡る。

 

「……危ない危ない。町を合戦場にしたら、大目玉どころじゃ済まないわ」

 

 ぐらり、と揺れたイダイナキバはそのまま倒れていく──すかさずそこにレモンはボールを投げ、捕獲するのだった。

 

「とんでもないわね、時空の裂け目。厄ネタの宝庫じゃないのよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ぷぴっ……!!」

「かぶりん」

 

 

 

 先に疲弊が見えだしたのはヘラクロスの方だった。

 圧倒的速度の差。手数。全てにおいてフェローチェが上回っている。

 紙切れのような耐久力のフェローチェだが、その代わり”当たらなければどうということはない”を地で行く回避力でヘラクロスの攻撃を次々にいなしていく。

 

「ダメだ当たらない……! このままじゃ……!」

「かぶりん」

 

【フェローチェの ふぶき!!】

 

 豪雪が吹きすさび、辺りが氷に閉ざされていく。

 アルカの身体にも薄っすらと雪が覆われていく。

 カチカチ、と歯を鳴らしながら彼女は何とか敵の方を見やるが、既にフェローチェは追撃を開始。

 気温が下がったことで動きが鈍くなったヘラクロスに対して、凄まじい勢いで蹴りを叩き込み、吹き飛ばす。

 

「ヘラクロスッ!?」

「ぷ、ぷぴー……」

「しっかりして……!!」

 

(ダメだ、ダメだダメだ、こんな時、記憶があったら……!! ボクの所為で、ボクの所為で──ッ!!)

 

 かつん、かつん、と冷酷な足音を鳴らし、フェローチェが近付く。

 ヘラクロスを庇いながら、アルカは次のボールを投げようとするが──モンスターボールが凍り付いてしまっており、開かない。

 

「ッ……開かない! 開いて! お願い……!」

「かぶりん」

 

 フェローチェが脚を振り上げ、踵を思いっきりアルカの脳天に叩きつけようとしたその時だった。

 

 

 

「ぷきゅー……ッ!!」

 

 

 

 突如。フェローチェは体を強張らせた。

 その背後には──鬼の如き形相をした亡霊の顔があった。

 

「ッ……君は」

 

 サニーゴだ。

 その眼からは鬼火が漏れ出しており、フェローチェが怯える程鬼気迫るものであった。

 そして、その身体に大きな五寸釘が現れ、自らに打ち込むと──フェローチェも苦しみ悶え始める。

 

 

 

【サニーゴの のろい!!】

 

「……今だ。ヘラクロス、ロックブラスト!!」

 

 

 

 地面に倒れ、悶え苦しむフェローチェを脚で踏みつけるヘラクロス。

 この距離ならばもう避けられはしない。そのまま零距離で岩礫を大量に叩き込み、ぶつける。

 

「か、かぶり……!」

 

 速さと圧倒的な火力の代償は耐久性。

 それを受けたフェローチェは沈黙し、そして辺りの氷も溶けていくのだった。

 へたり込むアルカ。

 

「ありがと、ヘラクロス……! 強いんだね」

「ぷぴーっ!!」

 

 勝利の雄叫びを上げるヘラクロスをボールに戻す。脅威は去った。

 そんな彼女の下に、ふよふよとサニーゴがやってくる。

 

「ぷきゅー」

「……助けてくれたの?」

「でも君、ボクの手持ちに居なかったよね?」

「ぷきゅー……」

 

 自分の事を覚えていないアルカの発言に、サニーゴはしょぼくれてしまったような顔をした。

 

「ああ、ごめん! ごめんね……悲しませるつもりはなかったんだよ。ありがとね」

「ぷきゅ?」

 

 ぎゅう、とアルカはサニーゴを抱きしめる。硬い外殻は、フェローチェの蹴りで砕けており、穴が開いてしまっていた。

 

「アルカさんっ! 大丈夫!?」

「ボ、ボクは何とか……!」

「ぷきゅっ」

 

 レモンが駆け寄ってくる。

 すると、サニーゴはびっくりしたのか、そのまま姿を消して隠れてしまうのだった。

 

「あ、あれっ? 何処行ったんだろ、あの子……」

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