ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第27話:思い出なぞり

 ──こと、デジーという少女は普段の言動の軽さに反し、良く言えば思慮深い性格であった。

 カブトプスに対して相性が不利なニドキングを繰り出したのも、記憶を失ったアルカに対する手心の一つであった。

 ただし、それはそれとして非常に負けず嫌いだったので、この条件下で手を抜くつもりは毛頭なかった。

 

「──とゆーわけで、ゴーッ!! ニドキング、”だいちのちから”!!」

「ブルッシャァッ!!」

 

 ズドン、と足が勢いよく振り下ろされるとバトルコートに罅が入り、溶岩がカブトプスの足元に溢れ出す。 

 それをいち早く察知したカブトプスは早速跳び上がり、それを避けてみせる。

 

「速ッ!? ……それなら──」

「先ずはコレ! ”あまごい”!!」

「空に逃げたなら撃ち落としちゃえっ! ”10まんボルト”ッ!!」

「大丈夫だ、カブトプスなら避けられるッ!!」

 

 ざぁ、と雨が降り出す。

 全身に水を浴びたカブトプスは敵のニドキングの方角を見据えると、放たれた紫電の束に対して身をよじって紙一重で躱してみせるのだった。

 思わずレモンも唸るほどの回避行動であった。

 

(凄い身体能力ね──ッ!! 修羅場をくぐってきたポケモンの動きだわ!!)

 

「そ、それで次は──」

「今は……水タイプの技が雨で強化されてる!!」

「じゃあ、アクアブレイクだよ、カブトプスッ!!」

 

 音速を超えた速度で肉薄するカブトプス。

 そのまま地面を鎌で傷つけながら水を纏わせ、ニドキングの首を目掛けて斬りかかる。

 効果バツグンに加えて、雨によって威力が上乗せされた一撃。受ければニドキングであってもただでは済まない──はずだった。

 インパクトの寸前。光が放たれる。そして──”アクアブレイク”を受けたはずのニドキングが、逆にカブトプスの頭を掴んで地面に叩きつけ、更に蹴り飛ばす。

 

「あ、あれ……あんまり効いてない!?」

「……ごっめんねー! 此処までやれるとは思ってなかったからさぁ──切らせてもらうよ、オーライズ!!」

「あんのバカ……!」

「手心は何だったんだよ、手心は……!!」

 

 呆れたようにレモンが眉間を摘み、イクサが肩を竦める。相も変わらずの負けず嫌いっぷりであった。

 ニドキングの身体にはオーラの装甲が纏われていた。真っ黒い紫電を放つ黒い鎧に、猫耳のようなパーツが付いた兜が頭には取り付けられている。

 彼女の手持ちの一匹であるレパルダスのオーライズだ。

 

「オーライズしたのか……!」

「えっと、オーライズって……!?」

「他のポケモンのオーラを、戦わせてるポケモンに纏わせる事が出来るんだよ。タイプと特性が変わるから、弱点も戦い方も変わる」

「でも、押し込めばいけるはず……! ”アクアブレイク”っ!」

「それだけじゃないよっ! オーライズしたポケモンは──Oワザが使える! ニドキング、ぴょんぴょーんとOワザ”ふいうち”!!」

 

 ”ふいうち”は通常、ニドキングは習得できない。アクアブレイクを放とうとしたカブトプスの背後に、既にニドキングは回り込んでおり、怪腕による一撃を叩き込んで地面に組み伏せるのだった。

 イクサ達の住むオシアス地方のオーライズは、トレーナーが持つオージュエルに、ポケモンのデータを記録したオーカードを読み込ませることで発動する。

 そして、オーカードには1つだけ、そのポケモンの技を記録させておくことが出来、オーライズしている間だけ使用できるようになるのだ。これが”Oワザ”である。

 

【ニドキング<AR:レパルダス> タイプ:悪】

 

(聞いちゃいたが、俺の知ってるオーライズとは違うよな……! しかも自由度が高過ぎる……! このクソウサギ、手加減する気ねーな?)

 

(ゴメンねー♪ ボク負けず嫌いだからさーっ!)

 

(ほんっとにこのイタズラウサギは……ギガオーライズ切らなかっただけマシだけども……)

 

「どうしよう、攻撃しようとしたら先に動かれちゃう……!?」

「きゅるるるるぃ……!」

 

 先制技の前では、幾ら素早さを上げても意味を成さない。

 辛うじてニドキングから逃げ出したカブトプス。しかし、強力な攻撃を受けたことで息が乱れていた。

 

「そうだな。だけど、カブトプスは諦めてないみたいだぞ」

「……っ! ……」

「それに信じろ。こいつはお前が育てたポケモンだ。お前は──強いトレーナーなんだ」

「ボクが……!?」

「ああ。化石蒐集と遺跡巡りの(自分の欲望を満たす)為にポケモンを鍛えまくってたからな……誇って良い」

「なんか今、微妙に貶してなかったですか!?」

 

 気の所為である。断じて、異常気象で極寒の中遺跡巡りに連れ出されそうになったのを根に持っているわけではない。断じて。

 

「キュルルルルルルルル!!」

 

 振り返り、カブトプスが咆哮する。「指示を」と呼びかけているようだった。

 

「ッ……ねえ。記憶を失ってるのに……ボクを、頼りにしてくれるの?」

「ポケモンには難しい事は分かんねーだろうからな」

「……ほらほらぁっ!! 来ないならトドメ刺しちゃうよ! ビリビリのーっ”10まんボルト”ーっ!!」

 

 ニドキングの身体に電気が迸る。そして角に電流が集中していくのがアルカの目にも見えた。今のカブトプスが受ければ倒れてしまうのは確実だ。

 

「……分かった。カブトプスのスピードなら間に合うよねッ!! ”シザークロス”ッ!!」

「んにっ!? 突っ込む気ィ!? でもこっちの方が速──」

 

 ニドキングが電気を放出する前に、カブトプスは既にその真正面で腰を低くして鎌を振るっていた。

 土手っ腹に斬撃が二発、交互に叩きこまれる。悪タイプになったのが運の尽き──虫タイプの技である”シザークロス”が効果バツグンとなっていたのである。

 

「ごぉっ……!?」

「うっそぉ!? 技を撃つ前にやられるなんてぇ──!?」

 

 鎧が消えていく。ふらふら、とよろめいたニドキングは、そのまま倒れてしまうのだった。戦闘不能──カブトプスの勝ちだ。

 

「あーんもうっ!! 今のは勝ったと思ったのにぃっ!!」

「……デジー。後で()()()()かな」

「え”ッ、何でェ!?」

 

 当然、オーライズが使えない相手にオーライズを黙って使うのはアンフェアも過ぎる所業だからであった。

 そんな彼らを他所に、アルカは目を輝かせて、カブトプスに駆け寄る。

 

「良かったぁ、カブトプスっ、ありがとっ!」

「キュルルルルルッ!」

「……何とか勝ったかあ」

 

 さっきまであんなに戸惑っていたのに──バトルを通して、カブトプスに親しみが湧いたのだろうか。

 あるいは、元々の相棒だったが故に、心のどこかでは彼の事を相棒として覚えているのか。

 それは分からない。だが──アルカは嬉しそうに、カブトプスに抱き着くのが見える。

 

「あっ、ゴメン。いきなり抱き着いて──」

「キュルルルルルィ♪」

「えへへ……ゴメンね、怖がったりして。君は……とっても良い子だっ」

 

 はしゃぐアルカの姿を見ると──メグルの脳裏には、かつての彼女の姿が浮かぶ。

 だが、それでも今此処に居るのは全ての記憶を失ったアルカだ。

 現実を直視する度に胸が締め付けられる。本当にもう、彼女の記憶は戻って来ないのだろうか、と思うと不安で押し潰されそうになる。

 そんな中──

 

「えっと……()()()()()っ」

「!」

「ありがとうございました。おかげで……勝てましたっ」

 

 びくり、とメグルは肩を震わせた。懐かしい呼び方だった。

 気が付けば、アルカが目の前に立っていた。嬉しそうに彼に向かって微笑みかける。

 その姿は本当に何時もの彼女のようだった。

 抱きしめたくなるのを抑え込み、メグルは首を横に振った。

 

「ちげーよ。カブトプスを育てたのはお前だ」

「でも、ボク、戦い方とか忘れちゃったから……」

「忘れたなら思い出すまで教えてやるよ」

「……そうですか。ふふっ。よろしくお願いしますね」

「キュルルルル!」

 

 もしかしたら、本当に思い出すかもしれない。このまま一緒に思い出をなぞっていれば。そう思うと、希望が見えてくる。

 それを見ていたデジーは、弁明するように言った。

 

「ねえ、やっぱりこれでチャラになったりしない? 二人共良い感じの空気だよ?」

「ダメね。お仕置きは確定事項よ、可愛いウサギさん」

「うー……しかも負けてるし、今回ボク、全然良い所なーいっ! こんなんじゃ、転校生のライバルじゃいられないーっ!!」

「そんなことは……ん?」

「フィッキュルルルィィィ……!」

「何でニンフィア、こっちに居るの?」

 

 良い感じの空気になっている主人たちに向かって威嚇するニンフィアに困惑するイクサ。

 彼女はずっとイクサの足元に陣取っていた。機嫌の悪さもマックスである。

 

「あのさニンフィア、僕の所に居ても良いの? 君の主人はあっち──」

「ケッ」

 

 ぺしゃっ。地面に唾が吐きかけられる。後ろ脚をダンダンと打ち鳴らしており、露骨に機嫌が悪そうであった。一般的なアイドルイメージとかけ離れたニンフィアの姿にイクサはドン引いた。これではヤカラかヤンキーである。

 

(えっ……信じられないくらいに態度悪ッ……まさか妬いてるのか!? アルカさんに!?)

 

 イクサは知らない。このニンフィアが、ご主人大好きな上に酷いヤキモチ焼きで、オマケに──凶暴リボンと呼ばれる程に凶悪な個体であることを。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──次は何処に行くの?」

「映画館」

「映画館はこの辺り、結構多いわよ」

「別に何処でも良いんだけどー……強いて言うなら」

 

 メグルが訪れたのは──以前、アルカとのデートの最中に立ち寄った映画館だった。

 

「……確か此処は──」

 

 ──とにかく! デートには恋愛映画が良いと聞きました! これで恋愛も一緒にお勉強というわけですよ! まさに一石二鳥!

 

 ──そういう発想が先ず良くないんじゃねえかなあ……。

 

 ──それじゃー、このポップコーンって食べ物と飲み物の代金はおにーさん持ちで!

 

 ──暴君だぁ……。

 

「……はは。懐かしいな」

 

 アルカとのやり取りを思い出す。

 恋愛に興味を持っていた彼女が観たいと言い出したのは、よりにもよって年齢制限付きの恋愛映画だった。

 好奇心の塊である彼女は、とにかく背伸びがしたかったのか、興味本位だったのか、それとも両方だったのか──明らかに刺激の強い映画を選んだのである。

 結果。青白い彼女の肌は、真っ赤になってしまい、気まずい空気になってしまったのも今では良い思い出だ。

 そう考えていたメグルは──映画館の上映スケジュールの1つに、見覚えしかない字の列を発見する。

 ”禁じられた恋─カジッチュから始まるふたりの関係2─”。

 まさに、以前観た映画の続編のようなタイトルであった。

 

(って……これの続編上映されてたのかよ)

 

 そう思ってパンフレットを手に取ると、どうやら監督は同じだが世界観が同じだけで、登場人物が違うらしく、前作を観ていなくても大丈夫な作りになっているようであった。

 

(……いやいやいや。幾ら何でもだろ。流石にガキンチョ共が居る時に、こんなもん観には──)

 

「んじゃーボク、”キングゴリランダーVSメカバンギラス”見たいかなーっ!」

 

(そうそうそういうのが良いだろ、無難オブ無難──)

 

「じゃあ()()はこれで決定ね」

「見覚えしかないタイトルだけど……別に良いか」

 

(うん? 私達?)

 

「色男さん? 流石に映画デートは二人っきりが乙だと思うけど?」

「……いや、だけど──」

「思い出なんでしょう? 大事にした方が良いと思うわよ、こういうチャンス」

 

 パチリ、とレモンがウインクする。年下に気を遣われてしまったのをメグルは察して頭をポリポリと掻いた。

 そのままオシアス組は仲良く、劇場の中へと先に入ってしまうのだった。

 そして──アルカの方をちらり、と見る。彼女は映画に興味はあるが、上映している数が多いからか、どれを見るか迷っているようだった。

 

「あのさアルカ。観たい映画無い?」

「映画の事はよく分からないですけど……あの。メグルさんは以前、ボクとどんな映画観たんですか?」

「えーと……この恋愛映画の前作」

「え”っ」

 

 流石のアルカも、パンフレットから溢れ出るアダルティな空気に困惑している。

 今となっては信じられないが──以前のアルカは本当に初心で、こういったものに耐性が全く無かったのだ。

 

「……これって」

「お前が観たいって言いだしてだな。観終わった後、すっごく気まずくなった」

「で、ですよね……あの嘘ですよね? ホントだとしたら何考えてたんですかね、ボク」

「俺が聞きてえ。でも、お前ももういい年したオトナだろーが」

「……そ、そーですけど。恥ずかしくないですか?」

「そうだな。俺も他の映画で良いと思うぜ」

「……いや、これにします」

 

 何かを決意した眼差しで(髪に隠れて見えないが)アルカは、パンフレットを指差した。

 

「良いのか?」

「……ボクだって、記憶を取り戻したいんです。これが……貴方との思い出だっていうなら」

 

(どっちかっつーと黒歴史に近い思い出だけどな)

 

「これがきっかけで何か思い出すなら──」

 

(ぜってーシリアスな空気で思い出すモンじゃねーと思うけどな。いや、思い出してほしいけどさ)

 

「……ボクは、この映画を択びます」

 

(仰々しいけど、年齢制限付きの映画観るだけなんだよな、しかもR15だしコレ)

 

 ──120分後。

 

「いやー、楽しかったなあ、映画!」

「あれ? でも最後良い感じで済まされてたけど、結局キングゴリランダーとメカバンギラスってどっちが強かったのかしら?」

「巨大カミツオロチの登場で有耶無耶になっちゃいましたからね」

「そりゃもうゴリランダーに決まってるよねーっ!」

「ねえデジー? ()()()()()()()()()()()()?」

 

 映画の感想をわいわい語りながら出てくる3人組。

 そこから遅れて──顔を真っ赤にしたアルカ、そしてメグルの二人がやってくるのだった。

 二人共気まずそうに顔を逸らしており、一言もしゃべる様子が無い。

 ロビーに出てきた彼らに対し──イクサは一言。

 

「あの。何観てきたんです?」

「……ぷしゅー……」

 

(前作より描写が過激になってた……)

 

「ナニ観てきたの!? もしかしてエッチな映画!?」

「こらデジー!! 幾ら恋人でも記憶喪失の人に初っ端からそんなもん見せるわけないだろ!?」

「お、男の人と女の人がハダカで抱き合ってた……ちゅーが、すっごくエッチだった……」

 

 その場に沈黙が横たわる。

 

「……メグルさん?」

 

 イクサの冷たい視線がメグルに突き刺さる。慌てて彼は弁明することになった。

 

「待て誤解だ! 元はと言えばな……」

「あう、あう……ダ、ダメだよ、あんなの……インモラルすぎるよ……!」

「もういいアルカ、思い出すな、映画の事は! あ、いや、待て、もしかして思い出せるのか!? 昔の事を!?」

「ぷ、ぷしゅー……」

 

 掌で顔を覆ってしまったアルカは、そのまましゃがみ込んでしまう。

 

「あの、メグルさん……? 説明責任があると思うんですが?」

「待て待てイクサ、こいつはちっこいが、これでも俺より一応年上で……」

 

(地味にデリカシー無いよね、メグルさんって……)

 

(……ちっこい? 何処が? 特大サイズじゃないのよ、腹が立ってきたわ)

 

(レモン先輩は人の胸見過ぎ)

 

「恥ずかしがる女の子にえっちな映画を無理矢理見せる性癖があったって話でしたっけ? 流石に擁護出来ないですよ」

「話を聞いてくれぇ……」

 

 この後、誤解を解いて事情を説明するのにかなり時間を要した。

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