ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第25話:サルナスの滅亡

「見えるかマイミュ……」

「まみゅー?」

「……あれはサルナス、この世の罪の塊で出来たような街だ」

 

 

 

 憎たらしそうに──リンネは自らの生まれ故郷だった場所を見下ろした。

 かつて、この”ムナール地方”では二つの派閥による内乱が起こった。

 そして彼の出身地であるサルナス──かつての名はイヴ・シティ──も戦場と化した。

 モンスターが、兵士が、一瞬で平和と多くの命を蹂躙し、街を灰燼に帰した。

 残った跡地は戦後に再開発され、多くの都市と合併する形で現在のムナールの首都・サルナスに造り変えられたのである。

 多くの屍の上に、サルナスの栄華は存在している。

 リンネは、アブソルに焼き斬られたことで視力を失った右目を押さえながら──呻くように言った。

 

「……こんなものが許されて堪るもんかよ。クロウリーがあれだけ苦悩している間に、この町の連中は何をしていた?」

「みゅー……」

「マイミュ。この町は今日からお前の巣だ。……沈めてやれ」

「まみゅー!」

 

 可愛らしく鳴いたマイミュは、ふわふわと宙に浮かび上がる。

 丑三つ時。誰もが寝静まる中──災禍は唐突に始まった。

 

 

 

「──まーみゅーず」

 

 

 

 ──突如。辺り一面、空に罅が入る。 

 パキパキと音を立てて割れたそれらから──滝の如き量の水が一気に流れ込んだ。

 

「んがぁっ……何だ……?」

 

 水が流れる音で、その家の住民は目を覚ました。

 思わず窓を開けて外を見ると、既に路地に大量の水の塊が押し寄せていた。

 

「んなァァァーッッッ!? おい、起きろ!! 水がぁっ!?」

 

 そう言って振り向こうとした時には全てが遅かった。

 住民の部屋中にも裂け目が現れており、そこから大量の水が降り注ぐ。

 間もなく、サルナス中の家屋が、建物が、内側から大量の水を伴って崩壊していくのが──リンネには見えた。

 そして、多くの戦乱の果てに築き上げられた巨大な王宮もまた、建物の中から水を噴き出していく。

 

「はっ、はは、良いぞ。良い!! 俺達の血と悲しみで築き上げられた罪の国は……綺麗さっぱり洗い流してやるッ!!」

 

 間もなく辺りから悲鳴が上がる。

 あるいは、悲鳴を上げる事も出来ずに溺れ死んだと思しき死体が流れていく。

 大人も子供も、男も女も、そしてモンスターも関係なく、皆、前触れなく起こった大洪水に飲み込まれていく。

 津波などとは無縁の内陸地に、避難のノウハウなどあるはずがない。

 ましてや、建物の外だけではなく、建物の中からも水が溢れて満たしていくのだ。

 彼らは逃れられない死を前に逃げ惑うしかない。

 

「おごっぼぼぼっ……!?」

「逃げ、逃げられなっ……あああ……!?」

「おかあさーんっ、おとう──ごぼっ」

 

 あるものは水に溺れ、水に押し潰され、あるものは内側から圧壊した建物に呑まれ──皆、水の底へと沈んでいった。

 目の前で人が水に飲まれ、建物が崩れていく。

 その光景を前にして、リンネは──笑い声が止まらなかった。

 

「ハハ、ハハハハハ!! これが、お前達の罪だ……!! 俺を、そしてクロウリーを踏み躙って、安穏と暮らしてきた報いだ。せめて、寝ている間に死ねたのを幸せに思うんだなッ!!」

 

 その様を──マイミュは、無邪気な子供のように面白がって、ずっと眺めているのだった。

 

「まみゅー! まみゅまみゅーっ!」

「見ろマイミュ。あれだけ栄華を誇っていた王国が一瞬にして崩落していく……! 自分達の暮らしが凄惨な血の争いの上で成り立っていた事を知らない愚民共が水に飲み込まれていく!」

「みゅー!」

 

 こうして、ムナール地方首都・サルナスは一晩にして滅びることになる。王侯貴族は勿論の事、無辜の民諸共、水の底に沈むことになったのである。

 しかし、この町に住んでいた「無辜の民」などリンネから言わせれば、後から勝手に住み着いた挙句、戦争で国家が得た利益にタダ乗りし、贅を貪る醜い咎人以外の何でもなかった。

 かつて彼が生まれ育ったイヴの町の民は、彼以外残して皆死んだのだから──

 

「みゅー! まみゅー!」

「これは始まりだマイミュ……まだ序章でしかない」

 

 瓦礫と屍が浮かんでくる中。

 無邪気にマイミュははしゃぐ。

 サルナスは一晩にして、彼の住処と化したのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──これより、改めて大合議を始めるでござる」

 

 

 

 ──ベニシティ・ミヤコ島のポケモン協会本部。

 メグル達が帰還してから初めてのキャプテン達による大合議が始まろうとしていた。

 その場に集まったのは、御三家側がユイとハズシ。

 一方、旧家二社側がヒメノ・ノオトの双子、そしてキリの3人だ。

 大合議は基本的に、1つの緊急を要する議題について、この全員で対策の方向性を探るといった討議を行うのである。

 

「先ず、此度のヒャッキ遠征への協力、大変心に痛み入る。ユイ殿、ハズシ殿」

「良いのよ。困った時はお互いサマ」

「ただ、当初の目的のアルカさんの奪還は達成できたけど……他の問題が解決していないんだから」

「現状のヒャッキの状況を整理するのですよー」

 

 クロウリー軍団は本拠地である黒船を完全に制圧されたことで、鎮圧。

 しかし、苦し紛れにどうやら敵側が船を自爆させたらしく、結局の所”王国”への足掛かりは無くなってしまったのだという。

 人質も全員解放し、ヒャッキには仮初ではあるものの平穏が訪れたのだという。

 

「残ったのは軍団長のリンネだけでござるよ」

「そのリンネが問題ッスけどね? 先ず、ヒャッキの三大妖怪が封じ込められていたとされていた渓谷。でもそこに実際に封じられていたのはオーラギアスなる怪物だった」

「更に、そのオーラギアスの腹の中に、正体不明のポケモンが居たっていうじゃない。どうなってんの?」

「だからこそ、今日は──特別に来賓を呼んだでござるよ。彼無くして、オーラギアスの生態、そして正体不明のポケモンの謎は分からないでござる」

 

 キリの呼びかけに応じるようにして──()は現れた。

 忍者に両脇を固められて、自由に身動きが出来ないようにして。

 

「ど、どぉーもぉー……」

 

 全員の視線、殺気が現れたアロハシャツの男に向いた。

 重罪人と全く同じ顔、そして全く同じ声の人間がそこに居る。

 

「えーと、キリさん。オレっち、ずぅっと思ってたんスけど緊急事態だから敢えて触れなかったんスよね」

「うん……」

「おやおやー? 的当ての時間なのですー?」

「止すでござるよヒメノ殿……」

「こいつ信用して本当に大丈夫なんスよね? え?」

 

(いやいやいやいや、本当に嫌われてるんだな、こっちの僕!!)

 

 感じたことも無いようなアウェーな空気にイデアは竦み上がる。事情は分かっていても、いざこうして敵意剥き出しのキャプテン達を前にすると気落ちした。自分の知るサイゴクのキャプテン達はもっとアットホームな空気だったはずだ、と回想する。

 

「安心しなさい。あたしもソイツを信用したわけじゃないんだから。何なら裏切った瞬間にそいつを殺して、あたしも腹を切るわ」

 

 ユイの口元は笑っていた。目は笑っていなかった。

 

(クソッ、こんな時はポジティブな事を考えてショックを緩和するんだ僕!!)

 

 イデアの脳内では、それが嫁の言葉に勝手に変換される。

 

 ──ねえ博士っ。浮気したら博士を殺してあたしも腹を切るわ♪(※妄想です。実際には言ってません)

 

(あっ、意外と悪くないかもしれない──!!)

 

 どうやら強めなお薬が必要のようだった。

 

「やれやれいい加減にしなさい、皆……気持ちは分かるけど、この人は別世界の博士なのよ。顔が限りなく似てる別人みたいなものなのよ」

「そ、そう! そうだぞう! どいつもこいつも僕の事胡散臭いって言って、ちょっとは悪いと思わないかなあ!」

「……ごめんなさい、やっぱちょっと腹が立ってきたわ。ウェルダンで頼むわリザードンちゃん」

「ハズシさんまで敵に回ったら味方いなくなっちゃうからやめて!!」

「やれやれ、争うとる場合か愚か者共」

 

 助け船を出すかのように、イデアの後から現れたのは──付き添いの褐色肌少女であった。

 

「……そういや結局素性が分からなかったッスね。あんた何者なんスか?」

「妾はミコ。そうだな……オーラギアスの事ならば、妾は全部知っておるぞ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──帰還してから数日が経った。

 キャプテン達が大合議をしている間、メグルはベニシティに滞在することになった。

 ベニには大きなポケモンセンターがある。アブソルの具合もそこで診て貰える。

 しかし、調子はあまり芳しくはなかった。

 

「恐らく、アブソルは完治に一週間ほどかかるかと……体内の蓄積ダメージがあまりにも大きく……」

「……そうですか。ありがとうございます」

 

 ベニシティのポケモンセンターの一角。カプセルの中で息をするアブソルを眺めながら──メグルは息を吐いた。

 良かった、と心底思う。自分のように一生残る傷でなくて良かったのだから。

 

(……本当に良かったのか? 俺の勝手に付き合わせただけじゃないか)

 

 だが、同時にまたアブソルに無茶をさせてしまったことをメグルは悔いていた。

 ギガオーライズによる同調で、アブソル自身も全力を出すことに躊躇いが無かったことは理解している。

 しかし自分はポケモントレーナーである以上、本来なら何処かでブレーキをかけるべきだった。

 

(俺はポケモントレーナー失格だ……)

 

 センターを後にしながら、メグルは外に出る。 

 そこには──イクサ達が立っていた。

 

「メグルさん。アブソルは……」

「心配してくれてありがとな。何とか大丈夫そうだ」

「でも入院なんでしょ?」

「んまーな……」

「でも、そんな顔してたら他の手持ちも心配させちゃうわよ」

「ふぃるふぃー……」

 

 ニンフィアが心配するようにメグルの顔を見上げている。

 二度と元には戻らない右目を案じているようだった。

 

「お前、いつの間に出てきて……」

「ふぃー……」

「ごめんな。他の事でいっぱいいっぱいで、お前に構ってやれなく──あだだだだ!?」

 

 がりっ、とニンフィアはメグルの足を噛んでいた。

 そして──そのまま、「もう知らない!」と言わんばかりにぷい、とそっぽを向いてしまうのだった。

 

「ニンフィア~、何でだよォ~……」

「どー見ても今のはメグルさんが悪いですね……」

「こんな時くらい自分の心配をしろ、って言われてるねー♪」

「馬鹿野郎。俺の事は良い。心配なのは──アルカだ」

「そんなに心配なら会いに行ってみれば良いんじゃない?」

「……」

 

 メグルは押し黙る。

 「怖い」と言われ、拒絶された時のショックがまだ響いていた。

 

「いや、やめとく。俺……怖がられてるみたいだし」

「こんな時にビビって、どーすんのさっ!」

「あんたの彼女なんでしょーが……他に誰が見てあげるのよ」

「あいつは全部忘れてるだろ」

「でも、メグルさんは忘れてないんでしょ?」

「なあイクサ、この女子たちめっちゃグイグイ来るんだけど……」

「オシアス女子は超が付く程肉食系なんだよー♪」

 

 ※諸説あります。

 

「えーと……メグルさん。僕も……出来るだけ、アルカさんに会いに行った方が良いと思います」

「……お前も同じかよ」

「今すぐに記憶が戻るわけじゃないですけど……何かの足掛かりにはなるかもしれないですし」

「だと良いんだけどなあ……」

「しゃんとしなさいな」

「あいっだぁ!?」

 

 ばちん、とレモンが思いっきりメグルの背中を叩いた。

 

「話はノオトさんから聞いてるわよ。アルカさんを支えられるのは、貴方だけなんじゃないの?」

「ふぃー……」

「……だと良いけどな」

 

 気乗りはしない。だが、今となってはメグルが「身内」と呼べるのはアルカだけだったし、彼女にとっても同じだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 アルカが入院してる病室に、4人は辿り着く。面会の許可を特例で貰うと、看護師の案内の下、部屋に入るのだった。

 

(不安だ……)

 

 病室のベッドで──びくり、と身体を震わせたアルカは──そのまま「あっ、貴方は……」と声を漏らす。 

 怯えた様子ではないようだった。それよりも、申し訳なさそうな表情だった。

 

「その。こないだは──」

「あのっ。ボクの方こそゴメンなさい」

「……」

「あの後、色んな人から聞いたんです。その……メグルさん、でしたよね? 一番、ボクの事心配してたって」

「……そうだな」

「ボク、酷い事、言っちゃったみたいでゴメンなさい。……でも、まだ頭がぐわんぐわんしてて、何が何だか分かんないんです」

 

(俺の記憶のどのアルカよりも……大人しい。記憶が無くなってるなら、これがアイツの素なのか?)

 

 そこに、自分の知るアルカは居ないのだ、と思わせられる。

 その場に、重たい沈黙が横たわった。見かねたデジーは「あっそうだ!」とアシスト。

 

「──ねえ、アルカさんっ。もういつでも退院できるんだよねっ」

「そ、そうですけど」

「ボクらと一緒に、色んな所巡ってみようよっ! 何か思い出すかもしれないしっ!」

「……おい、そんな勝手に──」

「ねっ♪」

 

 デジーがぱちり、とメグルに向かってウインクしてみせる。

 

「僕もそれが良いと思います。サイゴクはアルカさんにとっても思い出深い場所が多いでしょうし」

「……なあ、無理しなくても──」

「えっと──迷惑でなければ、ボクは構いません」

「!」

 

 思いの外、アルカはこの話に食いついた。

 

「ボクも……不安なんです。自分が何者かも分からないなんて……だから、一刻でも早く、思い出したいんです」

「……アルカ」

「良いですか? メグルさん」

「……決定だねっ♪ 皆でいろんな場所回ってみよーよっ!」

「なあ、迷惑じゃないか? 悪いぜ流石に……」

「何言ってんのよ。うちのデジーは言い出したら聞かないんだから」

「ホントに上手くいくのかよ、こんなので……」

「ふぃるきゅー……」

 

 ニンフィアが、ベッドによじ登り、アルカの顔を覗き込む。

 それを見て、アルカは──微笑んでみせた。記憶を失う前の彼女ならば考えられない表情だ。いつもならば厄介そうに手で追い払うところである。

 

「ふぃー……」

 

 それでニンフィアも、状況を完全に把握するのだった。今目の前に居るのは、自分が知るアルカではないのだ、と。

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