ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「な、なんだ……!?」
トカゲの咆哮と共に、空は割れ、そこから水が流れ出す。
それも滝のような量の水だ。辺りは土砂降りにでも降られた後のように水浸しになっていく。
更に、次々に時空の裂け目は生まれ続けており、このままでは──辺りに水が溢れ出していく。
「まーみゅーずー?」
「な、なんだコイツ、ポケモン……!?」
「有り得ん……! オシアス磁気に変換された有機物が、再生するなど! ……いや、違う」
オオヒメミコのカメラアイから取り込まれた情報は、すぐに彼女の頭脳で分析される。
「あのポケモンは──99%がH2O……即ち水で構成されておる!! 少なくとも脊椎動物のソレとは常識が異なる……!?」
「んなっ、水!? それって最早クラゲか何かじゃないですか!! トカゲですよアイツ、どっからどう見ても!?」
「妾が知ったことか!!」
しかしそれを示唆するように、真ん丸のオーブからは常に水が滴り落ちている。
じゃぽじゃぽ、と水浸しになった地面から水を吸い上げていくと──更にトカゲのオーブは大きくなっていく。
けらけらと、辺りが水浸しになっていく様を見ながら──トカゲはリンネの方にゆっくりと近付いた。
「……まーみゅずー? まみゅーず!」
「世界を壊す力……!? 良い!! 良いぞオマエ!! 俺と一緒に来い!!」
「みゅー! みゅーず!」
「や、やめろ……! どう見てもヤバいだろ、ソイツ……!!」
メグルは声を上げる。
確かに目はくりくりとしており、本体であるトカゲも、ヤトウモリ程度のサイズと体型でしかなく、可愛らしい姿だ。
しかし。問題はそれ以外の全部である。
乗り物代わりにしている水玉のオーブ。そして、咆哮するだけで時空を破壊して裂け目を作り出す力。
従えたところで、どう考えてもロクな結果を生みはしない。
それを目の当たりにしても尚、リンネは掌に刻印を浮かび上がらせてトカゲのポケモンに翳す。
一度、トカゲの目が赤く光ったかと思えば──そのまま、彼に付き従うのだった。
「あ、あっさりと……!?」
「支配された……のか!? あいつの魔術に!?」
「他愛もない。あの大蜘蛛に比べれば幾らか可愛げがあるが──まあ良い。十二分だ」
「そいつをどうする気だ……!」
「……最早この地に用はない──ッ! 俺は、俺の成すべき事の為に戦う」
「テメェ……何する気だ……!!」
「
トカゲのポケモンが咆哮すると、大きな時空の裂け目が現れる。
「……そうだ、別の世界の俺」
「……!?」
「お前の
「……どういう、ことだ──ッ!? ぐうううう!?」
「お前とは、然るべき時に雪辱を晴らす。今此処で殺しても、俺の気が晴れないからな──ッ!!」
手を伸ばそうとしたメグルだったが、右目から激痛と共に紫電が迸り、思わず押さえて転げまわる。
その間に、トカゲのポケモンとリンネは、裂け目の向こうへと消えていくのだった。
──完全に光が消えたオーラギアスの亡骸が只々虚空に口を開けていた。
あまりにも立て続けに起こった衝撃の出来事を前に立ち尽くすイクサとミコ。
「あっ……ぐ……!!」
「ッ……! メグルさん!! メグルさん、しっかりしてください!!」
全身を襲う苦痛に身悶えし、呻き続けるメグルが後には残された──
「アルカ……アル……カ……!!」
──しかし、それも長くは続かなかった。間もなく、彼はそのまま意識を失うのだった。
「オーラギアスの生命反応、完全消失……あのトカゲの化物、オーラギアスの中でずっと生命力を吸っておったな」
「……それより、メグルさんを運ばなきゃ……!! ハズシさんも大変な事になってたし……!!」
「私は心配要らないわよ」
ふらふらとよろめいてはいたが、イクサ達の視界の先には──ハズシの姿があった。
「ハズシさん!? 電撃に撃たれてたけど平気なんですか!?」
「このスーツは特別製でね。電撃も通さないのよ。それよりリザードンちゃんの方が参っちゃってね」
ま、でも安心して頂戴、ライドポケモンには困らないわ、とハズシは続ける。
取り合えず負傷者を運んで帰還することは出来そうであった。
「そ、そうだっ!! 速くアルカさんを助けに行かないと!!」
「安心して頂戴。ファイアローちゃんならすぐに目的地に辿り着く。幸い、邪魔者も居なくなったし」
「……これで終わりならどんなに良かったことか……」
途方もない、と言わんばかりにミコはオーラギアスの死骸に目を向ける。
「……あのオーラギアスが……こんなにもあっさりと……」
※※※
──どれほどの時が経っただろうか。
全身に激しい痛みが走る。それでも尚、メグルは己の力だけで起き上がった。
「アルカ……!!」
思い出せば呼吸が止まりそうになった。
すぐさま自分が何を成すべきだったかを思い出す。
座敷に寝かされ、全身に包帯、更に右目も包帯が巻かれていたが──構いはしなかった。
(あれから、どうなった……? 手持ちは……)
ボールが鞄の中に入っていることを確認し、メグルは息を吐く。
だが、そのうちのアブソルの入っていたボールだけが見当たらない。
「ッ……アブソル……!!」
アブソルはギガオーライズの負荷を大きく受けていた。
別の場所で治療を受けていてもおかしくない、と考える。
身体を引きずりながら座敷から出て、此処が何処なのか分からないまま、這い出した。
「どうなった……なにが、どうなった……? 早く、何とかしねえと……!!」
「それより、アルカは……? アルカは……?」
「アルカを……探さねえと……!!」
右目を押さえながら、メグルは廊下を進む。そんな中、ばったりと会ったのは──イクサだった。
「あっ……!! メグルさん、起きたんですか!? まだ、起き上がっちゃダメですよ!! 全身酷いケガで、しかも……!!」
「うるせェッ!!」
聞いた事も無いような怒号がイクサの耳を劈いた。
「ッ……」
「アルカは……!? アルカは何処だ!? アルカは何処に居ンだよ!?」
まくし立てながら、彼はイクサの服を掴み、叫ぶ。
「俺が助けてやらなきゃいけなかったんだ!! 会って、謝らないといけなかったんだッ!! なのに──ッ!!」
「ッ……アルカさんは……目を覚ましたんですけど」
「早く、連れていってくれ!! 早く、早くッ!」
錯乱した様子でメグルはまくし立てる。イクサの目にも、彼が正気を失っていることは明らかだった。
激しい戦い、そしてギガオーライズの過重負荷。左目は血走っており、自分の身体がどうなっているかも分かっていないようだった。
しかしそれでも、イクサにはその頼みを断ることが出来ないのだった。
「わ、分かりました……直ぐに」
「良かった……無事だったんだ……アイツ」
「ッ……」
苦虫を嚙み殺したようにして、イクサは彼の肩を背負う。
「あの後……僕とハズシさんで……アルカさんの捕まってる座標に向かったんです。結論から言えば巫女たちは命に別状はありませんでした」
「良かった……本当に良かった……」
「それで、僕らは事後処理をテング団に任せて、先にテングの町に帰ったんですけど……メグルさん、聞いてます?」
「うっ、うう……」
ぼろぼろ、とメグルの左目から涙が零れ落ちる。
しかし、イクサは──包帯に覆われた右目を見つめると俯いたのだった。
「……ただ……あ、その先がアルカさんが寝かされてる部屋で」
「アルカッ!!」
座敷の一室にメグルは飛び込む。イクサの支えなど最初から要らなかった、と言わんばかりに。
そこには布団が敷かれており、和装を着込んだ医者と思しき人が驚き「何だね君!?」と叫ぶが気にも留めなかった。
「ッ……」
メグルは言葉を失う。
アルカは──既に布団から半身を起こし、突然入って来た彼を前にして肩を強張らせていた。
「アルカ……」
「……?」
「アルカ、良かった……無事で!! 俺、ずっとお前に謝りたくって──」
彼は倒れ込むように、アルカの下にしゃがみ、その手を取る。
顔を見た。目立った傷は残っていないようだった。
「なあ、アルカ……一人にしてごめん……!! 俺、ずっとずっと後悔してて……!! お前の前から居なくならないって約束したのに……!!」
「……誰?」
「……え」
アルカは──間違いなく、あの青肌に赤髪のメカクレ女は──メグルの顔を見るなり不思議そうに首を傾げた。
握っていた右手に力が入る。
「なあ、おい、冗談止せよ、まだ怒ってんのか……? なあ、イクサ……?」
「……」
「イクサ……?」
「……ねえ、痛いです……やめてくださいっ」
「ッ……わっ、悪い!!」
思わず握っていた手を離す。
怯えた様子でアルカは──メグルから目を逸らす。
「なあ、アルカ……? 俺だよ。分かるか? なあ……」
「メグルさん……」
「何にも覚えてないんです」
「……え?」
「分かんないんです。ボクは誰……? 貴方は誰なんですか……? ボクを知ってるんですか……?」
「……そんな訳ねえだろ?」
は、はは、と乾いた笑いがメグルの口から洩れた。
「そ、そっか! そうだ、目ェ包帯で巻いてたから分かんなかったよな! そうだよな、そうに決まってるよな!」
「……」
「俺だよ、分かるだろ!? なぁこれで──あっぐぅっ!?」
頭の包帯を解いた途端、右目に激痛が迸り押さえ込む。
覆った手を除けた彼の眼球は──燃え尽きたように真っ白になっていた。
ぽっかりと目の前が欠けている。包帯を外し、目を開けているのに見えない。
右の目から光が──失われている。
(ど、どうなってんだコレ……!? 全然見えねえ……右の目……!? どうなってんだ……!?)
(てか、何でアルカの奴、俺の事が分かんねえんだよ!? なあ、何でだよ……!?)
「ッ……あの。出てってくれないですか」
「え……?」
抑揚のない声でアルカは言った。メグルの全身から血の気が引いていくのが分かった。
「ボク……訳が分からないんです。起きたらいきなり知らない人ばかりで……ボクの事知ってるって人がさっきも来たけど……何にも覚えてないんです」
「ッ……」
メグルは全身から力が抜けていくのを感じた。
「アルカ……本当に、俺が分かんねえのかよ……?」
「……ごめんなさい。分かんないんです……」
記憶のままの声で──彼女は一言、謝った。
何もかもが記憶にない、という言葉。
「それに貴方……すっごく怖いです」
「……え」
そして、アルカからの明確な拒絶の言葉は──メグルの心を完全に砕くには十二分だった。
もう、右目の痛みなど分からなかった。
──「ポケモン廃人・ザ・ユニバース(前編)」(完)
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