彼女が活路を求めるのは「債務コンテンツ」だ。借金生活の苦労をSNSで動画配信し、インフルエンサーとして収入を得る人気ジャンルがある。「自分は1000万元(約2.2億円)の借金がある」「いや私は1億元(約22億円)だ」と、配信者たちは競い合う。だが、すでに配信自体が供給過多の状況にあり、この女性のチャンネルもぱっとした成果は挙がっていない。
裁判所が中国版TikTokで債務者をさらす
返済に苦しむ債務者に対し、当局の対応は容赦ない。
中国最高裁判所は2013年から、債務不履行者のブラックリストを公開している。これまでに約700万人が登録された。氏名や身分証番号が公開され、社会的圧力をかけて返済を迫る仕組みだ。
ひっそりと行政のブラックリストに載るだけならば、特段注目を集めることはない。しかし、この制度の影響力を高めるべく、恐ろしいテスト事業が広西チワン族自治区の首都・南寧で始まっている。
米ビジネスメディアのクォーツによると、地元の裁判所が債務不履行者の顔写真と名前、身分証番号を動画にまとめて、音楽に合わせて晒しているという。若者に人気の動画アプリ「ドウイン」で公開しているのだ。国際版アプリのTikTokに相当する、同じバイトダンス社による中国国内版アプリだ。
狙いは的中した。6月20日、約7万8000ドル(約1200万円)の債務を抱えた男性が裁判所を訪れ、支払いを申し出た。「友人全員に見られるのでとても恥ずかしかった」と、男性は人民日報に語っている。裁判所は動画内で、債務者の居場所を通報した人へは報奨金を支払うと告知している。
裁判所がこうした手法に踏み切った背景には、債務者の所在把握が難しい事情がある。同裁判所執行部門長は人民日報に対し、「ドウインは人気があり、視聴者が増えている。ユーザーに『老頼』(借金を踏み倒す者)を見つけてもらえれば、驚くべき効果がある」と語った。
裁判所が動画プラットフォームを活用するとは意外性があるが、債務者にとっては人生を台無しにされかねない。友人や同僚に顔と名前を知られ、社会的信用を完全に失う。返済のため素性を隠して地道に働いている人であれば、働き口を失うおそれもあるだろう。
個人破産が許されない中国の制度
社会的制裁を受けた債務者に、再起の道はあるのか。答えは絶望的だ。
多くの先進国では個人破産をすることで債務が免除され、人生を再出発することができる。日本でも一般に、個人破産をした場合でも、5〜10年ほど経過すれば金融事故の履歴が削除され、クレジットカードを作ることができる可能性がある。
だが中国本土に、そうした制度は存在しない。ニューヨーク・タイムズ紙によると、一度でも債務不履行を起こすと信用記録に消えることのない傷が付き、将来の借り入れは完全に不可能となる。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、個人破産制度の整備や企業ローンに対する個人保証の制限など、起業家を守る法的枠組みの構築が中国にも求められると論じる。