男性が借入を始めたのは、大学時代だったという。通販サイト・アリペイの後払いサービスで、生活費の支払いを少額ずつ後回しにするところから始まった。2019年に卒業すると、借入額は7000ドル(約110万円)以上に膨らんでいた。安定した職があれば少しずつ返せる額だが、卒業後も3年間半分ほどをほぼ無職で過ごした。気づけば借金で借金を返し、金利は雪だるま式に膨らんだが、それでも彼は、金利の仕組みすら理解していなかったという。

若者だけではない。かつて成功を収めた起業家も、同じ泥沼にはまり込んでいる。

杭州に住むある女性は大規模な教育事業を手がけていた。ピーク時には30カ所以上の学習塾を展開し、生徒数は5万〜6万人。年間売上は1億〜2億元(約22億〜45億円)に上った。事業をさらに拡大すべく、個人ローンを組んで数百万元(100万元は約2200万円)を事業に投じていた。

年商45億円の女性経営者がブラックリスト入り

だが、コロナ禍に加え、中国政府による学習塾規制策が追い打ちをかけた。行きすぎた教育熱を抑えるため、学校以外での学習事業を取り締まった施策だ。

事情を報じた英エコノミスト誌によると、この女性の事業は破綻。家と車を売って返済に充てたという。銀行との交渉は、比較的穏やかだった。パンデミック中、政府が債務者への柔軟な対応を求めていたこともあり、数万元(1万元は約22万円)の利息が免除された。

一方、女性がネットで借りた貸金業者は容赦なかった。業者が雇った「圧力犬」と呼ばれる取り立て人が、本人だけでなく友人や親族にまで執拗に電話をかけ続けた。着信をブロックしても、別の電話番号から何度も連絡してくる。

「中国では親に悪い知らせを伝えないのが普通。だから両親はとても、とても傷つきました」と女性は語る。執拗な取り立てによって借金問題が両親に知れ渡り、家族との信頼関係まで崩れた。うつ状態に陥り、いつしか自殺も頭をよぎるように。夫からは離婚を告げられた。

裁判所ですら、彼女を救いはしなかったという。女性は「社会的信用」のなさを示すブラックリストに登録された。以来、飛行機にも高速鉄道にも乗れない。高級ホテルへの宿泊も禁じられている。年間売上45億円を誇った事業家が、今や移動の自由すら奪われた生活を送っている。

光が差し込む部屋で目をつぶっている女性
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「低金利ローンがあることを知らない」

これほど多くの中国人が借金地獄に陥るはなぜか。要因のひとつに指摘されているのが、金融リテラシーの欠如だ。

香港中文大学アジア太平洋ビジネス研究所の専門家は、米政府が運営する国際放送サービスVOAの取材に対し、「香港の人々なら、低金利ローンを選べることを知っています。しかし、中国本土の人はこの考えに馴染みがないのです」と指摘する。低金利で安全に借りられる選択肢があることを知らないまま、高金利のクレジットカードやネット上の融資に安易に手を出してしまうという。