「黒船」徳洲会 室蘭の病院再編に激震 赤字改善見込めず日鋼が「助けて」 市に「通告」わずか15分<限界地域医療 第2部①>
話題
北海道内各地の病院経営が静かに限界点に近づいている。患者数は減り、医療従事者の確保は難しい。再編統合を迫られるが、安定経営は見いだせない。胆振地方の工業都市・室蘭市で起きた再編劇は、それを象徴していた。
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「このままでは経営改善が見込めない。助けてほしい」。2025年8月20日、室蘭市の日鋼記念病院(348床)を運営する社会医療法人「母恋」の幹部は、国内最大級の医療グループ「徳洲会」(東京)に、関係者を通じて秘密裏に経営支援を打診した。矢継ぎ早に徳洲会と機密保持契約を結び、詳細な経営情報を引き渡した。翌週には、徳洲会の執行理事会で統合に向けた検討が始まった。
母恋は23年度から2年連続で赤字に転落し、24年度の赤字は全体で13億円に達していた。看護師ら140人の希望退職を募るなど、現場にも影が落ちていた。
多くの地方病院が母恋と同じ問題を抱えている。それは市立室蘭総合病院(517床)、製鉄記念室蘭病院(347床)も例外ではない。経営体力のあるうちに次の一手を打てるかどうかが、命運を分ける。
母恋が徳洲会に接近する約9カ月前の24年11月7日。母恋の日鋼病院と、市立病院、製鉄病院の3病院は再編に向けた合意にこぎ着けた。
室蘭市が中心となって描いた合意の絵図は、3病院の役割を明確に分ける「機能分担構想」だ。
心筋梗塞や脳卒中などを扱う「高度急性期・急性期」を製鉄病院に集約。日鋼病院と市立病院は統合し、骨折などそこまで重症ではない「軽度な急性期」と長期的な療養を続ける「慢性期」を担う新病院を設立する。統合は理事を半数ずつ出す「対等合併」を軸にする―。
政府は「人口減少下での患者の奪い合いは共倒れを招く」として、急性期拠点機能を担う医療機関を人口20万~30万人ごとに1カ所を目安として確保する案を示し、地方病院の再編を促している。人口約7万5千人の室蘭市に総合病院が三つある状況は、病院数が過剰とされる北海道の縮図とも言える。
特に、病院の約7割を民間が占める北海道では、自治体病院と民間病院が協調する再編が不可欠だ。室蘭の合意は、他自治体から「進め方を教えてほしい」と問い合わせが相次ぐモデルケースとして注目された。
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だが、母恋はこの「理想図」に、苦境から完全に脱する未来を見いだせずにいた。
市立病院の25年度の赤字額の見通しは過去最悪の19億8千万円。母恋の試算では、統合による一定の効率化を織り込んでも、両病院の赤字を解消する道筋は描けなかった。統合はかえって経営を不安定にしかねない。母恋内部では、そんな危機感が強まっていた。
最初の打診から2週間後の9月5日。母恋の有賀正理事長(当時)らは、残暑の厳しい東京・皇居近くの徳洲会本部を訪ねた。
全国90病院を擁する巨大医療グループの応接室で、東上震一理事長(71)はすでに日鋼病院の再生像を描いていた。高度急性期から慢性期までを担う中核病院とし、市立病院との統合も「対等」でなく、日鋼主導とするという内容だ。
それは、室蘭で合意された再編構想とは明らかに異なっていた。
「日鋼病院の再生に、力を貸したい」。東上理事長が有賀理事長に力強く言った。
日鋼病院が呼び込んだ「黒船」徳洲会の登場で、地元が描いた計画は一変した。
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一方、統合の当事者であるはずの室蘭市が、日鋼の動きを知ったのは9月30日。母恋幹部らが突如市役所を訪れ、「徳洲会の傘下に入る」と通告したときだった。説明は最小限で、記者会見の準備が進んでいることだけが伝えられた。滞在はわずか15分。市関係者は「事務的な通告に近かった」と振り返る。
徳洲会の東上理事長は「地域医療を救済する」と強調する。確かに、経営難に陥った病院を支える役割は、現実に多くの地域で求められている。だが、徳洲会の動きは必ずしも地元の思惑とは一致していない。
徳洲会を巻き込んだ母恋の決断は、裏切りだったのか。それとも、追い込まれた末の「生き残り策」だったのか。
病院経営がもたない時代に、地域医療を誰がどう守るべきかは見通せない。室蘭の出来事は、全国の地方都市に突きつけられた問いでもある。
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