ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第19話:一番怖いもの

 爆炎が巻き起こる。

 粉塵が渦を巻いて、炎の塊と化し、爆ぜ上がる。

 大花火でも打ち上げたかのような跡は、煙と炎が巻き上がるのみ。

 それを前にして、ただただ無表情にアルネは「残念」と一言。

 

「でも安心して、姉さん。どんなにダメな姉さんでも、私がゼロから造り変えてみせる。私の理想の姉さんに、造り変えてあげる」

「あっちは終わったかねえ?」

 

 ワスレナが笑みを浮かべた。

 流石のヒメノも振り返る。

 人間が耐えられるとは思えない規模の爆発。そして炎。

 丸焦げであれば、まだ良い方だ。人体の原形が残っているかどうかも怪しい。

 それほどの熱風が此方にまで吹きすさんできたのである。

 

「──レモン様ッ!?」

「ほらぁ、余所見は良くないねえッ!!」

「……ッ!!」

 

 ジュペッタの口から大量の影を吐き出させ、タイプ:ゼノをズタズタに引き裂かせたヒメノ。

 しかし、その奥から羽根の生えた火の玉を大量に生み出したマフォクシーが突っ込んで来る。

 当然、影の手の軌道を変えてマフォクシーを狙うジュペッタだったが、そのいずれもが魔法陣によって防がれてしまうのだった。

 

「つ、貫けないのです──ッ!? メガシンカしたのに──ッ!!」

 

 魔術師は、ポケモン達の力を自らの魔法で強化しており、実質的に全能力をデフォルトで一段階上昇させており、防御面もまた例外ではない。

 だが、それ以上にヒメノの不安定なメンタルがジュペッタに悪影響を与えているのは確かだった。

 霊感が減少した影響で、それをエネルギーに変えていたポケモン達の力は以前よりも落ちている。

 そしてそれに加えて、ジュペッタの身体を青い炎が覆っていることにヒメノは気付く。

 

(”おにび”──ッ!! あの火の玉を捌いている間に被弾したのですッ!?)

 

 火傷状態だ。物理攻撃が主体のジュペッタにとって、物理技の威力が半減されるこの状態異常は致命的であった。 

 しかし、それでもヒメノもキャプテン。必死に食らいついていく。

 

「”でんじは”なのですッ!!」

 

 口から伸ばした大量の手から電磁波が流し込まれ、マフォクシーの身体を捕らえた。

 素早さが持ち味のマフォクシーは、一気に足が止まり、立ち竦んでしまう。その隙にヒメノは──ジュペッタに命じる。下がった能力値は、此方も変化技で補えば良いだけの話だ。

 

「”つるぎのまい”なのですッ!! これで攻撃力は元通りなのですッ!!」

 

 宙を華麗に舞い踊るジュペッタ。

 これで火傷による物理技の威力半減は帳消しとなった。そして、口から再び大量の影の手を放ち、マフォクシーを狙う。

 しかし──

 

 

 

「ほうら引っ掛かった──怖いねえッ!! ”みわくのボイス”ッ!!」

 

 

 

 ──妖精の加護が乗せられた呪歌が奏でられる。

 それを耳に入れてしまったジュペッタは藻掻き苦しんだかと思えば、ふらふらと踊り狂い始めてしまう。

 その技の詳細はヒメノも知っていた。能力が上がったポケモンを確実に混乱状態に陥れる技だ。

 これによりジュペッタの動きは更に封じられる事になる。自らの招いた危機を前にして、ヒメノの顔は青くなっていく。

 

(ヒ、ヒメノの選択がどんどん裏目に……ッ!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ッ……たく、やってくれたじゃないのよ……ごふっ」

 

 

 

 がらん、ごろん、がらがら。

 

 爆炎の中から彼女は這い出てくる。

 辺りにはハタタカガチの身体のパーツが散らばっていた。

 爆発の寸前で、自ら主人に巻き付いて電磁パルスによるバリアを展開したのだ。

 しかし、それでも当然ダメージは受ける。爆圧と熱の両方がレモンに襲い掛かった。

 しかもまともにこれを受けたハタタカガチは戦闘不能。戦えない。

 

「流石姉さん……でも、そろそろ楽になってアルネの所に戻ってきた方が良い」

「……ありがとう。貴女が居なきゃ死んでたわ、カガチ」

「バラバラにしてから、私の理想通りに改造してあげる」

 

 アルネは笑顔ひとつ浮かべずに言った。

 洒落にならないわね、とレモンは吐き捨てる。

 

「……多分このままだと、どの道死ぬけど」

 

 相棒をボールに戻し、レモンはへたり込む。

 全身は火傷と煤塗れ。よく自分が生きているものだ、と自嘲する。次は無い。決して。

 

(とんでもないオオワザだわ……粉塵が漂っている箇所全部を一気に爆破するだなんて! これじゃあ、回避のしようがない……!)

 

 百歩譲ってポケモンは範囲から逃れられるだろう。

 しかし、一緒にいるレモンは逃げおおせることは不可能だ。

 加えて──アルネとフーディンのオオワザは、生前よりも強化されている。

 それは彼女達が本人ではなく、かつてのヒメノやメグルの「恐怖」から生み出された存在だからだ。

 ”ばくえんあらし”は強力なオオワザではあるが、前触れなく辺りを爆発させるような無法な技ではなかったのである。

 

「──フーディン。”ばくえんあらし”──」

「また来る──ッ!?」

 

 レモンは足を引きずってその場から逃れようとする。 

 しかし辺り一帯は既に粉塵が充満していた。

 炎が弾け、爆ぜ、火が点いた──

 

 

 

「”ぜったいれいど”ッ!!」

 

 

 

 パキッ!!

 

 

 

 ──周囲の空気が一気に凍り付く。

 引火点から大きく遠ざかった粉塵は勢いを失い、只の火の粉と化す。

 シャインの名を呼びかけたレモン。

 低下する気温の中──誰かが彼女の手を取って連れ出した。

 

「しっかりしてっ!! 火傷だらけなんだからっ!!」

「火傷の次は冷凍地獄……? 殺す気……?」

「それはゴメンなんだから」

「……貴女は」

「あたしは──シャクドウシティのキャプテン、ユイ! そしてあの子は──私の頼れるポケモンなんだからっ!!」

「ぶっふぅぅぅ!!」

 

 辺り一面の空気を凍てつかせたのは、樹氷の如きポケモン・ユキノオー。

 そして、それを従えるのは稲光のように明るい髪色の少女だった。

 空からは雪がしんしんと降り落ちている。

 オオワザが不発に終わったことで、フーディンにも大きな負荷がかかり、動けなくなるのが見えた。

 

(──冷気で粉塵が無力化されてオオワザが不発──フーディンに後隙が生まれたッ!)

 

「戻って、ユキノオーッ! 今度はアナタの出番なんだから──パッチルドン!!」

「ばっちるるるーっ!!」

「……私も負けていられないわね」

「その傷でまだ戦うつもり!?」

「生憎、やられっぱなしは気に食わないの。──ブリジュラス、行きなさいッ!」

 

 息も絶え絶えではあったが、次のボールをレモンは投げる。

 

「どうあがいても無駄。閉じ込めてあげる──フーディン、オオワザ──”ハッカイ・コトリバコ”」

 

 

 

【フーディンの ハッカイ・コトリバコ!!】

 

 

 

 周囲の空間は塗り替えられ、蠢く肉塊の床、そして壁に覆われる。

 更にレモン達の身体を、呪いの炎が焼いていく──

 

「……こ、これは──!?」

「ノオトから聞いたんだから。フーディンの身体を箱型の空間に変えて、対象を閉じ込めるオオワザだって」

「……そう。貴女達は逃れられない檻に閉じ込められた」

「あら? そうでもないんだから。フーディンが檻に姿を変えたってことは──この空間をブチ壊せば全部解決ってことなんだから!」

「成程。単純ね」

「──ッ! やらせない。呪いの炎で焼き尽くされて消えると良い!!」

 

 目から紫電を放つアルネ。

 それに伴い、レモン達の身体を覆う炎も強くなっていく。

 しかし──

 

「弱点が分かってるなら……()()()()()()()()()っ!!」

「そうね。人間は()()()()()()()()()()()()。ならば()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──そこは共に電気使い同士。すぐさま馬が合ったのか即興での連携を始める。

 パワフルハーブを噛み締めたブリジュラスは全身に電気を迸らせ、橋のような形態へと変形する。

 

「──ブリジュラスッ!! ”エレクトロビーム”を撃ち込みなさいッ!! 狙いは──パッチルドンの嘴ッ!!」

 

 大きく口は開かれ、そして紫電の束がパッチルドンの嘴目掛けて放たれた。

 それを受けたパッチルドンは──その電力を糧にして、全身に電気を迸らせる。

 

「──パッチルドンッ!! ”でんげきくちばし”ッ!!」

「”しきがみらんぶ”ッ!!」

 

 大量の式神がパッチルドン目掛けて飛んだ。

 だが、どれもひと筋の雷光に撃たれて焼け落ちた。

 ブリジュラスの”エレクトロビーム”を嘴に溜め込んだパッチルドンによる、限界を超えた一点突破の刺突によって空間はあっさりと崩れ落ちる。

 そして、フーディンが倒れ伏せると共に、アルネの身体も砂のように消えてなくなっていく。

 

「姉さん……? 私は、姉さんと一緒に居たかっただけ、なのに──っ」

 

 悪夢はこれで終わった。

 ユイに肩を支えられたレモンは──顔を上げるのもやっとで、搾り出すように「……何とか退けたわね……」と呟く。

 

「ヘーキ? ……じゃないみたいね」

「ええ。おかげさまで……火傷が痛むわ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 混乱状態に陥ったジュペッタは、ふらふらとよろめいており、一方的にマフォクシーからの攻撃を受けるばかり。

 最後には、渾身の威力の”ムーンフォース”を受け、ヒメノ諸共吹き飛ばされてしまうのだった。

 

「ジュ、ジュペッタ、平気なのです……?」

「ケタケタ……」

「ヒメノが、ヒメノが不甲斐ないばっかりに……!!」

「ケタ……」

「さぁてと。そんじゃあ最期は、とっておきの怖いトラウマでトドメを刺してやろうかねぇ?」

 

 にじり寄るワスレナは、”おっかな石”を取り出す。

 それが映し出すはヒメノの中に眠る恐怖の記憶。

 辺りに充満する冷気、転がる氷の林檎。そして──彼女を取り囲む二匹の氷の竜。

 アップリューとタルップルの姿がそこにあった。呪いの氷を以て、ありとあらゆるものを永遠に閉じ込める彼らは、かつてヒメノの相棒・ミミッキュを氷漬けにし、彼女の心を徹底的に壊し尽くした。

 敗北の前に、彼等を前にしたヒメノは竦んでしまう。言葉が出ない。指が動かない。

 その場から立ち上がる事が出来ない。

 呪いの冷気がヒメノとジュペッタの身体を凍てつかせていく──

 

「嫌、イヤだ。守れない。また、守れない──」

 

 ──ああ、結局自分は怖かったのだ、とヒメノは思い知らされた。

 ノオトが遠くに行くのが、キリが居なくなってしまうのが、そして──大好きな相棒を喪うのが。

 

(でも、もうダメ……誰も、助けてくれない──ッ)

 

 ぎゅう、とジュペッタを抱きしめたその時だった。

 

 

 

「みみっきゅっ!!」

 

 

 

 何かが彼女の腰のモンスターボールから飛び出し、氷の竜たちを薙ぎ払う。

 ズタ布でピカチュウを象ったようなポケモンが、影の爪を吐き出し、氷の竜たちを貫き、退ける。 

 それを見たヒメノは──思わず顔を上げた。

 

「ミミッキュッ!? ダメなのですっ! あなたまでやられたら──ッ!」

「みぃーっ!!」

 

 甲高く鳴いたミミッキュは、それでも孤軍奮闘し、アップリューとタルップルに立ち向かう。

 主人を守るため。たった1匹で、呪いの竜たちの前に立ちはだかる。

 それを前にフラッシュバックするのは、氷漬けになったミミッキュの姿だった。

 

「何で、何で突っ走るのです、ミミッキュ!? ヒメノは……あなたを喪うのが──怖くて──」

 

 そこまで喉から出て、彼女は気付いた。

 

「そうなのです──ヒメノはずっと、怖かった。ヒメノの傍から、誰かが喪われるのがずっと」

 

 両親が亡くなった日のこと、相棒を失った日のこと、リュウグウを喪った日のこと──そして何よりノオトとキリが交際の報告をしにきた日の事を思い出す。

 いつも自分は置いていかれる側だ、と彼女は吐き捨てる。

 ノオトとキリの件だって、彼らが何処か遠くへ行ってしまったような疎外感を覚えていた。

 残っているのは自分だけなのだ、と。

 

「ジュペッタ……ミミッキュを援護するのです」

「けたけた……?」

 

 ”なんでもなおし”の注射を取り出し、ジュペッタに撃ち込む。 

 時間はミミッキュが稼いでくれている。それでも、マフォクシーの火の玉を受けて身代わりとなる”ばけのかわ”は剥がれてしまった。

 ミミッキュを一度だけダメージから守るズタ布は、既にくてん、と倒れてしまっている。

 

「ミミッキュ……霊能力が使えなくなって、貴方達の気持ちが分からなくなって──ヒメノはとっても不安だったのです」

 

 だがそれでも、必死に戦うミミッキュを前にヒメノは叫ぶ。

 

「貴方達もヒメノと同じで怖かったのです……ッ! ヒメノは大馬鹿野郎なのですよ……ッ! それに報いないならば、トレーナー失格なのですっ!!」

「マフォクシー!! トドメを刺してやるんだよねえ!!」

「ジュペッタ!! ミミッキュ!! 連携攻撃、なのですっ!!」

「!?」

 

 ジュペッタは口を開き、大量の影の手を生み出す。

 そして、ミミッキュもまた、ズタ布の下から影の手を生み出して氷の竜たちのまやかしを一瞬で引き裂いた。

 既にヒメノに迷いはなかった。

 

「マフォクシーッ!! ”みわくのボイス”──」

「口を塞いでやるのですよ」

 

 消えたかと思えばマフォクシーの影から再び姿を現したジュペッタが、マフォクシーの口を背後から大量の影の手で押さえつけて塞ぐ。

 そして、ミミッキュが追い打ちをかけるようにして宙をくるくると舞う。”つるぎのまい”。そして、そこからスムーズに移行する”シャドークロー”がマフォクシーの胴を引き裂いた。

 

「口を閉ざせば呪文は唱えられない。単純明快な話だったのです」

「なっ、マフォクシーまでやられた!? な、何故ッ!? さっきまで此処まで強くなかったはず──」

 

 息をすることも出来ず、その場から動くことも出来なかったマフォクシーはそれをまともに受け、遂に崩れ落ちるのだった。

 手持ちを全て失ったワスレナは後ずさり、最後の”おっかな石”をヒメノの前に翳す。

 

「こ、怖いねえ~!! だけど、お前の心の闇を映し出してやろうかねぇ!! ”おっかな石”!!」

 

 記憶魔術で彼女の心を覗こうとするワスレナ。

 しかし、石から溢れ出した靄からは──ゲンガーやシャンデラ、ギルガルドといった、彼女の手持ちのゴーストポケモン達が溢れ出してきて、ワスレナの方に向かう。

 

「そう、そうなのです。ヒメノが一番怖かったのは、大事な人たちを喪うこと。ヒメノはずっと、寂しかったのです」

「な、何故!! 何故オジサンの方を向く!? 何がどうなっているんだねぇ!?」

「──く、き、くきひひひひひひ──ッ!!」

「オバケさん達ーっ♪ お遊戯の時間なのですよー♪」

 

 ゴーストポケモン達はワスレナを地面に抑えつけ、最後に──ミミッキュが、ずるずる、と布を引きずりながら首元に迫る。

 

「ひっ!! やめっ!! やめろっ!! 何をするんだねえ!?」

「そんなに人の怖がる顔が見たいなら、貴方にも見せてやるのですよー♪ ……覗いて生きて帰った者は居ないという()()()()()()()()

「みみっきゅ!」

 

 ミミッキュがそのまま、ワスレナの顔の上に覆い被さる。

 当然、布の下は深淵が広がっている訳で──

 

 

 

「こ、こ、こ、怖いねェェェェェーッッッ!?」

 

 

 

 絶叫がその場に響き渡る。

 そして、びくんびくん、と何度か腕や足が痙攣したかと思えば──人の過去を散々弄んだ記憶魔術師は動かなくなるのだった。

 

【ミミッキュ ばけのかわポケモン タイプ:ゴースト/フェアリー】

 

【常に布を被っている。布の下を見た者は、謎の病に苦しむとされており、決して覗いてはならないタブーとされている。】

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