ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「漸く達成される──私の悲願がッ!!」
磔にした3人の巫女たち。
その真ん中には──アルカの姿もあった。
既に、クロウリーによる封印解除の儀は目前に迫っていた。
渓谷の中央にある大穴。そこからは既に光が漏れ出している。
「さぁ、巫女たちよ! 貴方達の身体に刻まれた鍵で、三大妖怪を解き放つのだッ!!」
「ッ……」
アルカは歯を食いしばる。
この状況。自分は何もする事が出来ない。
ずっと傍に居るサニーゴも、不安そうにただただその場でおろおろしているだけだ。
そして、完全に絶望して諦めてしまっているのか、他の巫女たちは暗い顔で俯いているだけだ。
「……逃げて」
「ぷきゅー?」
アルカは小さく呟いた。
「逃げてよ……! 何で居るのさ……! 危ないから……!」
「ぷきゅー……」
「君は何の役にも立たない! 立たないから……逃げてよッ……!!」
しかし、サニーゴはその場を離れようとしない。
そればかりかアルカを気遣うようにして、彼女の顔を見上げる。
かと言って、今更サニーゴに何かが出来るわけではないのだが──
(分かってる。君が優しい子だって──だから、これ以上、巻き込みたくないのにっ!! お願い、どっかに行って!! これ以上、君に──辛い顔をさせたくないよっ!!)
「──復活の儀を、執り行うッ!!」
クロウリーが杖を振り上げ、それを前にしてリンネが眩しそうに眼を細めた。
黒い稲光が大穴から迸っていく。同時に、磔にされた巫女たちの胸に、光で出来た鍵のようなものが現れ、差し込まれる──
「があああああああああああ!?」
同時に、彼女達の全身に激痛が走り回った。
身体を真ん中から無理矢理こじ開けられ、裂かれるような感覚。
常人ならば発狂しかねない程のそれを前に、彼女達は叫び悶え、苦しむしかない。
そして、そんな彼女達の苦痛を他所に、地獄の蓋は開かれようとしていた。
「あああああああああ!?」
(裂けるッ!! 身体がッ!? 頭からッ!! 死ぬ、死んじゃうッ──!?)
その間、クロウリーはずっと呪文を口ずさみ続ける。
稲光は大穴から絶え間なく放出されていく。
巫女たちが口から泡を噴き出し、気を失ってだらん、と指先から力を失わせれば──パキン、と鎖が砕けるような音が響く。
「鬼の封、解錠──九尾の封、解錠──ッ!! 天狗の封──ッ!!」
(死ぬ……? 此処で? 死ぬわけには……? ボクが死んだら……!!)
──アルカ。俺がお前を守るから。
(メグルは……どうなるの……?)
がりっ、とアルカは口の中を思いっきり噛む。
こんな激痛、何てことはない、と自らに言い聞かせる。
ひたすら耐え、耐え、耐える。
昔、ひたすらに殴り、蹴られ、嬲られ、斬られたあの日々に比べれば、と自らに言い聞かせ続ける。
血の涙が目から流れようとも。裂かれるような激痛に襲われようとも、彼女は──耐える。
そうしている間に、大穴から迸る稲光は徐々に弱まっていき──そして、消えてしまうのだった。
「ッ……バカな!? 儀式が失敗した……!」
魔力を使い果たしたクロウリーはその場にへたり込んでしまう。
他の巫女たちが激痛に耐え兼ねて失神し、封印を解き放つ中──アルカだけが彼の魔法に耐えきってみせたのだった。
そして、魔力を使ってしまったので、すぐに儀式を再開することも出来ない。
「……耐えきったのかよ、儀式を……!」
「言ってる場合か、リンネ!! これでは……三大妖怪が復活できないではないかッ!!」
息も絶え絶えの彼は、杖を突いてアルカの前に歩み寄る。
「とんでもない精神力だ。それは褒めてやる──だが!! それでも!! 結末は変わらないッ!!」
「……!」
「我慢比べといこう。幾ら貴女でも、何度もこの苦痛に耐えられるか?」
「ッ……耐えるよ……! お前達の思い通りには、ならない……!」
「余程大切なものがあるようだ。守りたい何かへの思いは、人の精神を強くする。精神は……魔法への強さに直結する。しかし──」
クロウリーは、懐から結晶を取り出した。
それを見て、リンネは目の色を変える。
「クロウリー、それは……!」
「ワスレナから預かったものだ。こんな事もあろうかと用意していた」
「……何をするつもり……?」
そう言って、クロウリーはアルカの額に結晶を翳す──
「奪うんだよ。……守りたいものを」
──ズドガァァァンッッッ!!
衝突音。
そして爆音が遠くから響く。
それを聞いて、クロウリーは忌々しそうに言った。
「……リンネ」
「分かってる。俺に任せろクロウリー」
※※※
「──はぁ、はぁ──!!」
死屍累々。
その真ん中にメグルは立っていた。
襲い掛かるポケモンも、魔術師たちも、皆──ギガオーライズしたアブソルが斃した。
こうも守りを固められているとなると目標地点は間近に迫っているのだ、と確信させられる。
しかし。
「──フルルエリィィィスッ!!」
アブソルが何かを察知したように甲高く鳴いた。
メグルはすぐさま彼女に跨り、その場を離脱する。
数秒後、地面を抉る勢いで巨大な光の刃が貫いた。
脱していなければ間違いなく巻き込まれていた。
それを撃ち放ったのは──あの全身が黒い外骨格に覆われたストライクだった。
「……おでましかよ」
「やはりしぶとい──だけどな、此処で打ち止めだぜ」
メグルの視界に入ったのは──リンネ。
先程打ちのめされたばかりの相手だ。
だが、その前髪は大きく切られており、素顔が顕になっている。
それを見てメグルは思わず目を丸くした。自分と全く同じ目、鼻、口元。
まるで鏡映しになったような、そんな気分だ。
「……おいおいおい、何の冗談だコラ。オマエ、メタモンか何かだったのかよ?」
「うるせーうるせー、それはこっちのセリフだ!! 俺と同じ顔、同じ声、それで俺より弱いんだ、虫唾が走るッ!!」
飛び出したアブソルはストライクと切り結ぶ。
しかし、その膂力は想像を絶するものだった。
ギガオーライズしているアブソルに対しても尚、ストライクは互角に踏ん張り、刃を振るう。
日本刀の如きしなやかな尻尾を振るうアブソル。
対するストライクは力任せに、その巨大な鎌を振るい、地面諸共アブソルを切りつける。
メガシンカ状態と違い、耐久が据え置きのギガオーライズでは一度喰らっただけでも致命傷になり得る。
故に。絶対に攻撃に当たってはならないのだ。
そしてアブソルのギガオーライズはそれを実現し得るだけの能力を持っていた。
ストライクがどれほどの速度で攻撃を繰り出そうとも、それが当たる前に地面に潜り込み、後隙に尻尾による斬撃を見舞う。
超速度の未来予知により、常にストライクの一歩先を行っているのだ。
「そのアブソル、さっきとは比べ物にならない程の速度!! 何故それを隠し持っていたッ!!」
「使えりゃ使えてたよッ! さっさとアルカの居場所を教えて投了しろや!!」
「誰がするか!! ──聊か後ろがお留守のようだぜ」
メグルは後ろを振り向く。
見えないクナイを握ったゲッコウガが彼の背中を刺し貫くべく迫っていた。
今更避けることなど出来はしない。
しかし、彼は驚きも何もしなかった。
危険予測が出来るアブソルが戦闘に集中しているということは、これは──危機に値しないということだ。
「パモ様、”かみなりパンチ”!!」
電光がゲッコウガを突き飛ばした。
アサシンは地面に撥ね飛ばされ、そのまま起き上がり、新たなる敵を視認して身構える。
そこに立っていたのはイクサ、そしてパーモットだ。
「全くメグルさん、僕が先に行ってたと思ってたのに追い越しちゃうんですから……! ヒヤヒヤしましたよ!」
「わりーわりー……! 後ろは任せたぜ」
「はいっ!!」
イクサもまたオージュエルにカードを翳す。
パーモットの全身は電光の鎧に包まれて、頭には王冠が現れる。
そして、背中には電気で出来たマントが現れ、王者の如き風格を醸し出す。
「ギガオーライズ……此処で切るよ、パモ様!!」
「ぱもーぱもぱもっ!」
思いっきり地面を踏んで飛び出したパーモットは、ゲッコウガへの追撃を開始するのだった。
そして、邪魔者が居なくなった以上、アブソルとストライクは最大出力での激突を再開する。
「援軍──ッ!! どうしてそこまでして、俺達の邪魔をするんだッ!? ああ!?」
「何度も言わせんじゃねえ!! テメェらが、アルカを攫ったからだろーがぁ!!」
ストライクの刃がアブソルに届くことはない。全てがすんでのところで避けられ、不可視の死角からの反撃が待つ。
腹に据えかねたリンネはとうとう「メグルを──あの人間を斬れッ!!」と指示を出す。
当然、地面を蹴ってメグルに迫るストライクだったが──
「”ゴーストダイブ”だ、アブソルッ!!」
──地面を腹に低空飛行で迫るストライクの影から、アブソルは姿を現し、その首根っこに思いっきり噛みつくのだった。
影の世界では移動時間など関係はない。どれだけ速くストライクが動こうとも、アブソルは常に一歩先を行って食らいつく。
そのまま揉み合った二匹だったが、アブソルは尻尾の刃をストライクの背中に突き刺し、そのまま地面に組み伏せる。
だが、ストライクの膂力も凄まじく、羽ばたいた勢いだけでアブソルを吹き飛ばしてしまうのだった。
「追いついた……ストライクの速度に!? ストライクが、遅いとでも──!?」
初めて目の当たりにしたギガオーライズの凄まじさにリンネは驚愕する。
しかし、それはメグルも同じだった。このストライクのスペックは想像以上。
ギガオーライズしても尚、圧倒することは叶わない。倒しきる事が出来ない。
そして此方には人間、ポケモン、共に過重負荷がかかり続けている。持久戦は不利だ。
「ッ……これでは埒が明かない──!! ”ソーラーブレード”で全部薙ぎ払えッ!!」
「アブソル、こっちも真っ向勝負だッ!! ”しん・あかつきのごけん”!!」
※※※
──船内はヒャッキ産ネムリキノコの胞子で充満しており、ポケモン達は”ぼうじんゴーグル”ありきでの行動を強いられる。
しかし、その眠気を強靭な精神力のみで耐えきったデカヌチャンは、メテノとの激突を繰り返すのだった。
コアを露出させたメテノは、圧倒的速度でデカヌチャンを狙い撃とうとする。
一方、オーライズによって電気タイプ──即ちサンダースの力──を身に纏ったデカヌチャンは、ハンマーに稲光を纏わせてそれを跳ね返すのだった。
狙いは船内を探索しに向かうノオトとデジーだが、それを遮るのはメテノのパワージェム。
「チィッ、逃がして堪るかいっ!!」
「悪いがノオト殿とデジー殿の邪魔はさせないでござるよ。貴殿は、此処で拙者が斃すでござる」
「やれるもんならやってみなぁっ!!」
ミネルヴァの足元に魔法陣が浮かび上がる。
すると、デカヌチャンの目から紫電が迸り、更にその速度が増すのだった。
ミネルヴァの持つ魔術──ウォークライ。従えるモンスターの力を爆発的に引き出すというものだ。
その凄まじさはギガオーライズに匹敵する。メテノは既に力負けしてしまっており、ハンマーの一撃で通路の奥まで吹き飛ばされてしまう。
「ハッハーッ!! 残念だねぇ!! 軽い!! 軽すぎて──」
ずぅん──
そう言いかけたミネルヴァの足は、重い鉛の如く船の床に沈み込む。
彼女だけではない。デカヌチャンのハンマーと足も、沈み込み始める。
「軽すぎる? 逆でござる。全てがエネルギー体同然のメテノにとって、幾何学移動は容易。ハンマーのインパクトをいなし、後へ飛んだに過ぎない」
「じゃ、じゃあこれは──」
「メテノの”じゅうりょく”でござる。どんなに膂力が凄まじくとも、星の引力に勝てはしないでござろう。貴殿たちの周囲だけ、重力を跳ね上げさせた」
加えて、キリの身体から放出された鉄糸が彼女達の身体を縛りつけている。
これでは身動きがとれるはずもない。
しばらく藻掻いていたデカヌチャンは、電撃を流そうとするが、絶縁素材で出来ているキリの忍装束には全く効果が無いのだった。
「う、動けない……!! ち、畜生!! だけどこの状態でもオオワザは──」
「撃たせるわけないでござろう。何のためにメテノが下がったと思っているでござる」
一気にキリは後ろへ下がる。
同時に前へと飛び出すメテノ。
その身体には極光が溜めこまれていた。
メテオビーム。チャージ時間の代償に破滅的な威力を誇るメテノの必殺技だ。
そして、チャージ時にメテノの特攻は一段階上昇する。
「──全ては発射時間を稼ぐため」
「マズイッ──やらせるか!! デカヌチャンッ──オオワザ──」
「そして、ヌシポケモンのオオワザを勝手に借り受けた報いは受けて貰う──その血の代償を以て」
間に合うはず等無い。
「最大出力──メテオビームッ!!」
【メテノの メテオビームッ!!】
デカヌチャンもミネルヴァも極光に包み込まれて吹き飛んだ。
彼女達は向こうの壁も突き抜けて吹き飛ばされ──めきめきめき、と木材が破砕した音が聞こえてくる。
しばらくすると、焦げ臭い嫌な匂いが漂ってくる。
一撃必殺。相手がどれほど強かろうが関係はない。
極限の光を以て消し飛ばすのみ。
そしてどれだけ策を練ろうと関係はない。キャプテン・キリは常に、一歩先を行くのだから。
「……他愛もない」
後は──ノオトやデジーと共に、船の中の人質を探すのみ。時間も猶予もあまり無い。
※※※
「姉さん……姉さん、帰ってきて」
「私は貴女の姉さんじゃないのだけどッ!?」
フーディンの強襲を受けるハタタカガチ。
フェーズ2を使ってしまったが故に、まだクールタイムが明けていないレモンは、切札を切る事が出来ない。
一方、アルネと戦っているヒメノはジュペッタをメガシンカさせたことで、一転してタイプ:ゼノに対して優位に立ち回っているようだったが──
「マフォクシー!! そのジュペッタを攻撃するんだねェ!!」
「増えたのです……!」
ワスレナのエースであるマフォクシーが加勢したことで、一対二に追い込まれる。
レモンの方を救援する余裕など在りはしない。
更にフーディンが辺りに粉塵を撒き散らせば、そこが間を置かずに爆発するので、戦いにくいことこの上無いのである。
(だから猶更、このフーディンを真っ先に始末しないといけないのだけど──!!)
レモンは自らのオージュエルを握り締める。まだ仄かに熱い。
ギガオーライズの連続使用は、オージュエルそのものに負担が掛かり、最悪の場合破損する恐れがある。
そうなれば、最早戦うどころではない。トレーナーとポケモンにも大きな疲労が残るだけの最悪の結果になってしまう。
故に彼女はこの場ではギガオーライズを切るわけにはいかないのである。しかし。
「フーディン、”サイコキネシス”で吊り上げて」
念動力がハタタカガチを襲う。相性があまりにも悪い。
炎、フェアリー、エスパー。この3つのタイプを使いこなすフーディン相手には、流石のハタタカガチも苦戦を強いられる。
特に弱点を突かれるのが単純に持久戦に於いては厳しいものがあった。
かといって、こちらの”ヘドロウェーブ”は相手の御札や念動力で凌がれてしまっている。
想像以上の難敵にレモンは歯噛みしていた。
(空を飛ぶ御札が厄介極まりないわね……電気で撃ち落としてもそう簡単には焼けない。特殊防御力が高いフーディンならでは、かしら)
そう考えていた矢先。
レモンとハタタカガチの周囲にはいつの間にか、赤い粉塵が充満していた。
(しまっ──!? もうこんなに粉塵が!?)
「──オオワザ。”ばくえんあらし”」