異常に低い日本のクルド人難民認定率
ただ、クルド人の難民申請がほとんど認められない背景には、日本の難民認定の抱える構造的な歪みが影響している事情も見逃してはならない。データから日本の難民認定の異常さが浮かび上がる。
日本の難民支援協会が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などのデータをもとに集計したところ、ドイツ、カナダ、フランス、米国、英国、オーストラリア、日本の7ヵ国でみると、2014年からの10年間で日本以外の6ヵ国は合計で6万3674人のトルコ出身者を難民認定していた。多くはクルド人とみられる。6ヵ国の難民申請者に対する認定率は20.8%だ。
これに対して、日本が同じ期間に難民認定したトルコ出身者は4人にしかすぎない。難民申請者は1万200人に達しているので、難民認定率は0.03%だ。このうちクルド人と確認されているのは、22年に入管庁が裁判で負けた結果、難民認定した1人だけだ。つまり、ほかの先進国が多数のクルド人を難民認定しているのに、日本の入管庁はほとんど難民認定していないのだ。
難民不認定とされても、「母国に帰れば再び迫害されることが怖くて帰れない」という人もいる。日本も批准する難民条約は「母国で迫害される可能性がある人を母国に帰してはならない」と定めており、入管庁も、こうした人々が再度、難民申請することは認めている。ただし、難民申請のために与えられていた在留資格は、遅くとも2回目の難民申請の不認定が確定した段階で更新が認められなくなるため、以降は在留資格がないまま、難民申請を行うことになる。
これが仮放免のクルド人が多く発生するメカニズムだ。日本の難民認定制度に歪みがあるのだとすれば、是正すべきは日本側の制度のほうとなる。これまでみてきたトルコ国内での迫害の実態と先進各国のクルド人の難民認定状況をみれば、一方的にクルド人を非難することは正当性を欠くだろう。
クルド人を難民認定しない理由
クルド人を難民として受け入れるかについて、先進各国との間でなぜこれほどの差が出るのだろうか。入管庁による難民審査は、難民申請者に、物的証拠の提出を求めるなど、ほかの先進国に比べて厳しいことが知られている。これに加えてトルコは親日国で、政治的に友好関係にあることも影響しているといわれる。クルド人の難民事件を多く手掛けてきた弁護士の大橋毅は「クルド人を難民として認めると、トルコ政府がクルド人に対して行っている行為が、トルコの主張する『テロ対策』でなく『人権侵害行為だ』として認めることになることから、外交関係や、トルコ治安当局と法務省の協力関係に配慮し難民認定しないようにしている」とみる。
実際、入管職員向けの教材には長年、友好国から逃れてきた国民の難民認定は「慎重にならざるをえない」と明記してあった。現在の教材には明記はされていないものの、外交関係に暗黙の了解で「忖度」する慣行は根強く残っているとみられる。日本も加入している難民条約では、人種・宗教・出身国で差別してはならないと定めており、日本の対応は条約違反の可能性もある。
(※外国人当事者及び家族は注記のない限り仮名。敬称略。当事者らの年齢は取材時点。)
『なぜ突然、クルド人へのヘイトは激化?...強制送還後の実態とは』へ続く。