ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第16話:分岐点

「えーと、キリさん。改めて自己紹介を」

「……ぴぃぃ」

「キリさーん? 克服するって言ったじゃねーッスかぁ、人見知り」

「仮面、仮面が無いとぉ……ひゃぁあ!?」

 

 自分で置いた仮面に手を伸ばそうとして、キリはスーツを踏んでしまい、スッ転ぶ。

 鼻を床にぶつけ、真っ赤にして──泣きそうな顔で目を擦るのだった。

 ついでに、膝を突いた場所がメキッと音を立てて凹んだ。

 あの有能忍者の姿は何処へやら。今目の前にいるのは、ただの金髪ドジっ子であった。

 

「……えーと、色々聞きたい事があるんだけど」

 

(てか転んだ拍子に床に穴開けるってどんな馬鹿力なのよ……)

 

(ゴリランダー先輩にだけは誰も言われたかないよ)

 

(は?)

 

 女子二人が取っ組み合い──そしてデジーがレモンに勝てるはずもなく組み伏せられている──を横目に、イクサは手を恐る恐る上げて問うた。

 

「……そこの女の子はキリさん、なんですよね?」

「ひゃ、ひゃぃ、拙者は確かにひぐれのおやしろの……忍者の頭領、キリでござるぅ……ぴぃぃ」

「ピカチュウみたいな鳴き声してるわね」

 

 恥ずかしがっているのか、ノオトの陰に隠れたまま、彼女は出てくる様子が無い。

 

「……あのー、ノオトさん。これって」

「キリさんは極度の人見知りで恥ずかしがり屋なんス」

「そっか! もしかしてあの仮面って目隠しも兼ねてるってこと!?」

「そうなるッスねぇ」

「何で全部言うんでござるかぁ、ばかばかばかぁ……! 拙者のカッコいい忍者像がぁ……!」

「味方には知っててもらわないと困るっしょ、キリさんの弱点。それに、見られちまったモンはどう誤魔化すんスか」

「拙者、ゴマノハと言って、キャプテン・キリの付き添いでござる!!」

「思い出したように昔の偽名持ち出してきたッスねこの人」

「通らないよ流石に」

 

(なんというか……仮面付けてる時と別人レベルだね、キリちゃん……すっごい変わりよう……かわちー♡)

 

(毎晩イクサ君に鳴かされてるウサギさん程じゃないわよ)

 

(は?)

 

 女子二人が取っ組み合い──そしてデジーがレモンに勝てるはずもなく組み伏せられている──を横目に、イクサは「まあ、良いじゃないですか」と言った。

 

「ほら、ギャップはその人の魅力を引き立てると言いますし。キリさんは普段とてもお強いですから、弱点の1つや2つあった方が愛嬌が出て良いですよ」

「おいコラうちのキリさんを口説いたら肩外すッスよ」

「痛い痛い痛い、そういうつもりじゃなかったんですが!」

 

 めきめきと音を立てるイクサの肩。

 ナチュラルガーリーフェイスもあってか、彼に落とされる女子は数知れない。その危険性はノオトも理解していた。

 尤もキリの方は、今更ノオト以外に靡くつもりは1ミリも無く、イクサもそのつもりはミジンコも無かったのであるが──ノオトの不興は大いに買ったのだった。

 

「ナチュラルに女の子を口説くのよこの子、気を付けなさい」

「今のはフォローを入れただけなんだってぇ……」

「こんな所に居たんスねえ、獅子身中の虫ポケモン」

「ナンパなら……昔のノオト殿も人の事を言えないでござる……」

「はぁーっ!? オレっちをこんなタチの悪いナンパ野郎と一緒にしねえでほしいんスけど!?」

「悪いけど昔のノオトの方がよっぽどタチの悪いナンパ野郎だったのですよ」

 

 口から血を漏らしながらヒメノが答える。

 全員の冷たい視線がノオトの方に向いたのだった。何も反論が出来なかった。過去からは逃れられない。輝かしい実績が確かに残っている。

 

「へっ、何言ってんスか。オレっちの何処がタチの悪いナンパ野郎──」

 

 

 

 ──抗えねぇんスよ……カワイ子ちゃんには……どんなに修行しても、こればっかりは……!

 

 

 

 ──ひとめ見た時から、貴女にオレっちのハートはゲット・ワイルドされちまって……今夜はノオトに、しときませんか? あっ、ルカリオ!! 痛い!! 千切れる!! 耳千切れちゃうッス!!

 

 

 

 ──全裸のお姉さんがオアシスで手招きしてるッス!! ウッヒョー!!

 

 

 

 ※輝かしい実績の数々。

 

「……あー、えーと、そのぉ」

 

 ノオトは言いよどむ。

 どうやっても、過去は石の下から這いずり出てくるミミズズのように追ってくるのであった。

 

「まあ、なんつーんスかね。あの頃は、若気の至りだったってことで」

「……あんた達、似た者同士だったのね」

「一緒にしないでくださいッ!! 全然違うでしょう!?」

「一緒にすんなっス!!」

「どっちもどっちなのですよ」

 

 そんな中、キリだけが──何も言わずとも彼の味方であった。

 ぽしょぽしょ、とノオトに耳打ちしてみせる。

 

「拙者の事も、もっと口説いてほしいのでござるが……」

「キリさんんん!?」

「……どうなのでござるか? その辺り」

「ぜ、善処するッス……」

「ー♪」

 

 心なしか、彼を抱きしめる力が強くなるキリであった。ポニーテールが尻尾のように揺れる。

 それを見ていたヒメノは──喀血してその場に倒れ込むのだった。南無。

 

「しっかし、よく見ると──イクサ君とノオトさんって結構顔付きが似てるのよね」

「ほんとだーっ。可愛い寄りの見た目だし」

「可愛いって……いやもう慣れたけど」

「ハッ、可愛い? そんな事ねえッスよねぇ、キリさん」

「……」

「何でそこで黙るんスかぁ!? 泣くッスよ!?」

 

【特性:ライトメンタル】

 

 鉢巻の所為で一見すると分かりづらいが、両者の顔立ちは結構似通っていた。

 

「あと、使うポケモンも同じだよねー」

「同じ?」

 

 喀血しっぱなしのヒメノを寝かせて電気治療を施している二匹のパーモットをデジーは指差す。

 片方は、イクサの相棒・パーモットのパモ様。もう片方は、ノオトが連れているパーモットであった。

 残念ながら失恋の痛みと嫉妬の炎は”さいきのいのり”では回復しないのである。

 

「ぱもーぱもぱも」

「ぱもーぱもぱも」

「ふたりともいるとどっちがどっちか分かんないね。ノオトさんもパーモット持ってたんだ」

「うちのパーモットは確か、オシアスから輸入されてきた血統書付きッス。見間違えたりなんかしねーッスよ!」

「いや、どう見ても同じにしか見えないでござる……」

「……」

「……」

 

 それを聞いて、レモンとデジーは黙りこくった。

 イクサのパーモットは、オシアス産の血統書付きである。 

 元々シトラスグループの下で育てられていたので当然と言えば当然なのであるが──なぜか偶然とは思えないのだった。

 

「ねえ偶然ってさ、何個まで信じるようにしてる? レモン先輩」

「そうね……2つまでかしら。そっから先は必然」

「転校生に双子の姉がいるかどうか聞いてみる?」

「止しましょう。怖くなってきたわ」

 

 鏡合わせの自分でも見るように、互いの顔を不思議そうに眺めるパーモット達。

 それを見て、レモンは偶然と言うものの恐ろしさをひしひしと感じるのであった。

 

「あのー、拙者……そろそろ仮面付けて良いでござるか?」

「えぇ? 折角キリさんの可愛い顔お披露目だったのに」

「そうですよ、勿体ない」

「だから可愛いくなんてないでござる! 拙者はカッコイイって言ってほしいのでござるよっ!」

「仮面付けている時は文句なしにそうだったのだけどね……」

「親しみが持てて良いんじゃない?」

「酷いでござるよぉ!?」

 

 そうやってわいわいと盛り上がる全員に──自力で立ち直ったヒメノがとうとうキレた。

 

 

 

「って、ちょっとはヒメノの心配もするのですよ!!」

 

 

 

 尚。胃と十二指腸の壁は開いても再び執念で自然治癒する模様。これがキャプテンの成せる業である。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……オーラギアスゥ!? 何なんスか、そのバケモノォ!?」

 

 

 

 キリが仮面を被り、ヒメノが何とか正気を取り戻した辺りで真面目な話に立ち返った。

 会議に居なかったノオトは、初めてオーラギアスなる怪物の名を知らされることになる。

 世界を壊し、そして歴史の分岐点とも言えるそのポケモンの話を前に、流石の彼も半信半疑であった。

 

「この辺さぁ、ミコっちが居ればもっと簡単に説明できるんだけどねー」

「仕方ないわ。あの子はあの場に居なかったし」

「心配掛けてるよね……絶対」

「んで、オーラギアスって結局何者なんスか」

「異世界からやってきたポケモンよ。そして、私達の世界の歴史に大きく影響を残してる」

「我々の世界では影も形も無いでござるな。そんなものを飼いならしている組織があれば、先んじてマークしているでござるよ」

「クラウングループも潰されてるし、やっぱそっちにはオーラギアスが居ないんだ」

 

 メグルが転移したポケモンの世界、これを世界線Aとする。一方、イクサが転移したポケモンの世界、これを世界線Bとする。

 両者の世界の歴史を分岐させたのは、間違いなくこのオーラギアスと言っても過言ではない。

 オーラギアスが居た事によって、世界線Aのオシアス文明は滅びることなく現代までにその痕跡を残し続けており、またオシアスも自然豊かな地方となっている。

 しかし、世界線B──オーラギアスが持ち込まれた世界線では、オシアス文明は滅び去り、更にオーデータポケモンとオシアス磁気が残り続けた。

 

「オシアス磁気は、オーラギアスが獲物を捕食した際に変換する粒子エネルギーよ。オシアス地方では、これを動力に使ったテクノロジーが発展したの」

「そして、オーデータポケモンはオシアス磁気をエネルギーにして動く特別なポケモンだよ。でも、強さは折り紙付き! ヌシポケモンと遜色ないかも!」

「待つッス、オシアスにはそんなものが大量にあるってことは……オシアスはオーラギアスの食いッカス塗れってことッスか!?」

「そうなるわね。奴は捕食波動によって周囲のものを無機物有機物問わずに分解し、吸収する。古代のオシアス文明はオーラギアスの暴走で滅んだ」

「そして、現代のオシアスもオーラギアスが暴れてあわや滅びかけたんです」

「まっ、ボク達が止めたんだけどねー♪」

 

 得意げに話すが、自分は途中離脱していたことは伏せるイタズラウサギであった。

 

「ッ……確かに、そんなものが野に放たれたら、世界が終わるのですよ」

「同時に、この世界を覆っていた瘴気とやらの正体も、オシアス磁気と近似的な性質を持つんです」

「オーラギアスは宇宙にいっぱいいるポケモンなんだよ。だから、大昔のヒャッキに落ちてきたんじゃないかなって」

「何でそんなバケモンが沢山居るんスか、おかしいっしょ」

 

 壁紙に描かれている災禍と、ヒャッキを覆う瘴気の性質がこの説を完全に裏付けている。

 太古のヒャッキに災厄を齎したのは、間違いなく例の大蜘蛛である、と。

 

「オーラギアスは最初は隕石のような姿をしているんです。こいつが捕食波動を放って辺りを分解します」

「そして、そいつがエネルギーを溜めると掛け軸の絵にあった蜘蛛の姿に成長するの」

「って事は、もっとたくさん捕食波動を撃てるようになるってことッスか!?」

「ううん。この形態になると、捕食波動は撃たなくなるよ」

「ほっ、良かったぁ……弱体化じゃねーッスか」

「その代わりバカみたいに耐久が上がって、宇宙から隕石の姿の仲間を呼び寄せるようになるけどね」

「……終わりじゃねーッスか!!」

 

 終わりである。

 そもそも隕石で周辺地域が丸ごと消し飛び、更に捕食波動を放つオーラギアスが現れるので、間違いなくその星はオーラギアスに食われ尽くされる未来しかないのである。

 

「つまり拙者たちの最大の目標はオーラギアスの解放を阻止すること、でござるな」

「幸い、チャチャさんのおかげでオーラギアスが封印されてる場所は分かってる。先回りして、クロウリー達と全面対決よ」

「上等じゃない。喧嘩は十八番よ」

「とても風紀委員長のセリフとは思えねえッスね……」

「レモン先輩根っからの武闘派だから」

「全面衝突となると、僕らだけでも足りないですよね。ヒャッキの人たちにも協力してもらわないといけないし」

「ああ。何よりメグル殿に立ち直って貰わねば。だが、あのケガでは……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──ケガは確かに決して軽いものではなかった。 

 ソーラーブレードを浴びたことにより、身体のあちこちには深い火傷が刻まれていた。

 だが、それ以上にメグルの心に深く深く突き刺さっていたのは真っ向勝負では勝てなかったリンネの存在だ。

 今までも強い敵は居た。

 しかし、自分と似た戦い方、似た戦術を取るほぼ互角の相手でありながら──リンネはその先を行く。

 そして結局守るだの何だのと言いながら、死に損なってこの体たらく。

 

「クソッ……!!」

 

 メグルは床を拳で叩く。

 こうして寝かされている間にも、アルカがどうなっているか分かりはしない。

 しかし、彼女を助けに行くならば間違いなく、あのリンネが障害となることは確実だった。

 更に、敵はワスレナの記憶魔術で増援を呼ぶ。故に他の仲間の力は借りられない可能性が高い。

 そして何より、好き放題言われたままでは居られなかった。

 

 

 

「……あいつに、どうすれば勝てる……?」

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