ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第15話:たとえ世界が変わっても

 ──地下にあった大量の恐竜土偶がオシアス磁気を浴びた結果、変異した存在、それがオーデータポケモン・ドグウリューだ。

 彼らはオシアスの地下に現在も群生しており、クラウングループによって50機あまりが回収されたものの、未だにオシアスの地下で眠っている個体が存在している。

 裂け目によって呼び出されたのは、そのうちの数機に過ぎない。

 しかし、数が多いからといって、一機一機の強さが弱いわけではない。

 むしろオーデータポケモンの本質的な強さ──メグルやイクサに言わせれば種族値合計──は、オオヒメミコやオオミカボシのような上位機体を除けば同等。

 トレーナーによって育成され、強さが底上げされているに過ぎない。

 即ち、こうして雪崩れ込んできた一機一機が、脅威的な強さを誇る訳で。

 

「どぐりゅりゅりゅりゅ!!」

 

 高速で回転しながら突っ込んで来るドグウリュー。

 しかし、三匹の姿は忽然と消え失せてしまう。

 

(姿を消した!? いや、地面から砂煙が舞ってる、身体を見えなくしたってのが正解!!)

 

 かといって、姿が視認できなくなるということは単純に敵が捉えづらくなるということでもある。

 おまけに、数の差は三匹。回転するドグウリュー達は次々にシビルドンにぶつかっていき、そのまま撥ね飛ばしてしまうのだった。

 

「ッ……ダ、ダメ……!! 追いつけてない……しかも、数の差が大きすぎる……!!」

「ぶろぉ……」

「シビルドン、戻って! 逃げるよ!」

 

 一旦、背を向けてドグウリュー達から逃げようとするユイ。

 しかし彼女の退路を防ぐようにして──ドグウリューが一匹、立ちはだかる。

 

(ッ……しまった!! 逃げ道が──)

 

 

 

【ドグウリューの りゅうのいぶき!!】

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

 赤黒い稲光と共に龍気の塊がユイにぶつけられる。

 吹き飛ばされ、地面に叩き伏せられた彼女はせき込み、起き上がろうとするが──ぶつけられた龍気が体を駆け巡り、激痛で吐きそうになる。

 

「ッ……あ、ぐ、痛……!!」

「どぐりゅりゅりゅりゅ……!!」

 

 ドグウリュー達の目がオシアス磁気を帯びて赤く光る。

 逃げられない。逃げられるはず等無い。

 身体は龍気で痺れ、指一本動かすことができないからである。 

 そんな中でも無機質に土偶の竜たちは迫りくる──

 

(は、はは、何てザマ……結局あたしも父さんと同じ……ポケモンに襲われて死ぬんだ……)

 

 薄れゆく意識の中。

 ユイの目に浮かぶのは父の姿だった。

 強く、皆の憧れだった父。

 しかし、ポケモンの一掻きで、帰らぬ人となった。

 人とポケモンの力の差は歴然。どうやっても埋められない差がある。

 たとえそれがキャプテンであっても──変わりはしない。

 

 

 

「──ピーゴーピピピピピ」

 

 

 

 空から冷気を帯びた光線が降り注ぎ、ドグウリューの身体が氷漬けになっていく。 

 聞き覚えしかない声。

 そして、宙に浮かぶ赤と青のサイケデリックな色合いの電脳ポケモンを前に、ユイは言葉を失う。

 こんな癖のあるポケモンを使いこなしてみせるのは、彼女の知る限り1人しかいない。

 

(ポリゴンZ……!? まさか──)

 

「……悪いけど、彼女に手を出すのはやめてもらおうか」

「何で……何で来たの……!?」

 

 ユイをかばうようにして──立っていたのはイデアだった。

 

「……助けたつもり……!? こんな事を、こんな事をされたって!! あたしは──あんたの事なんか──ッ!!」

「そんなこと百も承知だよ」

「じゃあ何で──!」

「たとえ世界が違っても、君は放っておけないんだ」

「……ッ」

 

 残るドグウリュー達も光学迷彩を起動してイデアたちに迫る。

 しかし、既に彼らをロックオンしていたポリゴンZに姿を消す機能など意味を成さない。

 そのまま二匹の急所を狙い撃つようにして”れいとうビーム”が放たれ、氷漬けにしてしまうのだった。

 鮮やかな手際を前にユイは言葉を失う。

 自分が知っている博士のそれと、全く同じ。

 自分が頼りにして来た彼の後ろ姿と全く同じ。 

 だが──軽薄だったその顔は、見た事が無い程に真剣だった。

 

「イデアちゃーん!! ユイちゃーん!!」

 

 ハズシの声が空の上から飛んでくる。

 リザードンに乗ってやってきたのだ。

 

「ユイちゃん大丈夫!?」

「な、なんとか……」

 

 身体から痺れが抜けてきたのか、彼女はふらつきながらも立ち上がる。

 それを支えようとするイデアの手を振り払うと──思いっきり睨み付けてみせた。

 

「……あたしは、まだあんたの事信用したわけじゃない。助けられただなんて、思ってないから」

 

 そう言って彼女は歩き出そうとするが、そのままよろめいてしまう。

 思わずその手をイデアは取るのだった。

 

「……流石に危ないよ。ハズシさん、ユイちゃんを頼めないかい。ポケモンの技をまともに受けたみたいだからね」

「ええ。言われなくとも。ユイちゃん、こっちに来なさいな」

「……ありがと」

 

 そう言ってハズシは、リザードンの背中にユイを乗せる。

 イデアも、空で待機していたオオスバメに目配せすると、その背中に飛び乗るのだった。

 

【オオスバメ ツバメポケモン タイプ:ノーマル/飛行】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ユイが診察を受けている間。

 ポケモンセンターの一角でハズシとイデアは向かい合う。

 聞きたい事は山ほどある。

 

「……さっきのポケモン達に覚えは?」

「オーデータポケモンだよ。その口ぶりだと、こっちの世界には居ないみたいだね」

「詳しく聞かせて貰っても?」

 

 イデアは話す。

 オーデータポケモンとは、太古にオシアス地方に流れ着いた別世界のポケモンである事。

 そして、その動力となるのはエネルギー粒子”オシアス磁気”であること。

 その大本となるのは、宇宙からやって来た蜘蛛のポケモン・オーラギアスであるということだ。

 

「成程ね。そのオーラギアスというポケモンがこっちの世界には降って来なかった。そこで歴史が分岐してるのかも」

「調べた所、この世界のオシアスと、僕の知るオシアスは大分事情が異なるみたいだからね」

「にしても参ったわね。裂け目を放置してると、こうやって違う世界の恐ろしいポケモンがやってくるわけね」

「ああ、早急に解決しなきゃいけない」

「ええ……」

 

 神妙な顔のハズシ。

 キャプテンである手前、自分の町は空けまいと考えていたが──最早メグル達だけの手に負える問題ではなさそうだった。

 大人として、彼らを助け、そしていち早く原因を取り除く。それが今の自分に出来る事だ。

 

「問題はどうやってヒャッキに行くか、だけど」

「それは……うん……」

 

 

 

「あたしも行く──」

 

 

 

 声がして二人は振り返る。

 そこには、絆創膏を頬に貼ったユイが立っていた。

 服の下は包帯が巻かれており、足元もまだおぼつかない。

 

「無茶よ! その身体じゃあ、足手纏いだわ!」

「足手纏いなんかじゃないッ!! あたしは戦えるッ!! ……メグル君たちを助けに行かなきゃ」

 

 それに、とユイはイデアの方を睨む。

 

「……あたしはコイツを責任持って見張る役目があるんだから。ソイツ一人で行かせられない」

「ワタシが居るわ。問題ないでしょう?」

「ハズシさん。センセイが居るのに、そんな事言えるの?」

「う……まあ、それは」

 

 センセイ──それは、イデアが連れているヒャッキ地方のドーブルの事だ。

 この個体は長く生きていたためか非常に強力な力を誇っており、メガシンカポケモンが相手でも1対1では太刀打ちできない。

 万が一の時はキャプテン二人掛かりでも足りない、とユイは言っているのだ。

 

「ということだけど、気を悪くしないで頂戴。イデアちゃん」

「大丈夫。その条件を呑むよ」

「ハズシさんは甘い。あたしはそう簡単に気を許したりなんかしないんだからね。そいつがヒャッキで何かやらかしたら焼くのはあたしなんだから」

 

(こっわ……)

 

 脅しではない。目が本気である。

 

「でもねえ、ユイちゃん。そもそも何処から行けばヒャッキに行けるのか分からないのよ」

「いや、そうでもなさそうだよ」

 

 イデアがスマホロトムを起動させる。

 そこには──セイランシティの方で撮影されたと思しき動画が映っていた。

 SNSのサイトで急上昇しており、話題になっている。

 内容は、鏡の羽根を持つアーマーガア達が裂け目から現れて暴れているというものだった。

 

「ヒャッキのポケモン!?」

「逆に言えば……この裂け目なら、ヒャッキに行けるってわけね」

「そゆこと。急がなきゃ町の人が危ないし、裂け目が消えちゃうかもね」

 

 ヒャッキのポケモンが現れた裂け目に入れば──その先がヒャッキであることは確実である。

 3人の行き先は決まった。セイランシティだ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「だーからぁ、もう平気だって言って、いっだだだだ!?」

「ダメでござるよ、絶対安静でござる!!」

 

 胸をぐるぐると包帯で巻いたノオトは体を引きずるようにして、城の裏口から外へ出ようとする。

 それを必死で止めるのは──此処までの会議の内容を伝えにやってきたキリであった。

 まだ傷を縫っただけであるにも関わらず、もう完治したとでも言わんばかりの勢いだったが、胸をナイフで刺されているので本来なら重傷も良い所である。

 ポケモンの技による自然治癒の促進と、キリの手当があったからこれで済んでいるのであって、常人ならば死んでもおかしくなかったのだ。

 

「はーなーせー!! 全員であいつらの船ェ沈めに行くッスよ!!」

「考え無しに動いても仕方ないでござろう!?」

「姉貴とメグルさんやられたのに黙ってられるわけがねえっしょ!!」

「ノオト殿が一番重傷でござるから!! 死にかけだったんでござるよ!!」

「こんくらいの傷が何ッスか!! ピンピンしてるんスよ、俺っちは!!」

「……ノオト殿の分からず屋」

「え」

 

 彼女は──マスクを取る。

 そして、自らを忍者たらしめる装束のスイッチを押すと──するする、とそれを脱いでしまうのだった。

 中から現れたのは、普段他の誰にも見せない本当の彼女。

 蒼い目は涙で潤んでいた。

 年相応に幼い彼女の顔は、真っ赤に泣き腫らしていた。

 イクサ達の前ではどれだけ冷静に振る舞っていても、心の中ではずっと──彼女は泣いていた。

 

「キ、キリさん……?」

「ノオト殿のばかぁ……拙者がどんな思いで手当てしたと思ってるのでござるかぁ……!!」

「あっ、いや、えっと、その……」

「ノオト殿が、ノオト殿が死んじゃうかと思ってぇ……!! 必死でぇ……!!」

 

 こうやって泣きつかれると弱い。

 仮面を外した彼女が自分の前でだけ見せる素の弱い姿。

 そこから本音をぶちまけられ、更に抱き着かれ、すっかりノオトは毒気を抜かれてしまうのだった。

 

「なぁんで……なぁんで分かってくれないでござるかぁ……!! ノオト殿が死んだらぁ……どうすれば……!!」

「悪かったから、泣くのはやめるッスよ、キリさん……!」

「イヤだぁ、ノオト殿、死んじゃイヤだぁ……! ばかぁ、ばかぁ!」

「死なないッスから!! どわぁっ!?」

 

 とすん、とノオトは座り込んでしまう。

 すっかり怒りも勢いも削げてしまっていた。

 普段恥ずかしがりの彼女が傍目も気にせずに泣いている。

 

「拙者が……拙者が傍に居れば、こんな怪我、させなかったのにぃ……!」

「キリさんの所為じゃねえッスから、落ち着いて……」

「ノオト殿はいっつもそう……! 本当はボロボロなのに、虚勢を張って、前に出て……! 一緒にいる拙者は気が気でなくってぇ……!」

「分かった、分かった、もう無茶しねえッスから……!」

「ほんとに……?」

「ホントッスよ、キリさん残して死なねえッスから。だから、泣かないでほしいッスよ。ね?」

「ううう……!」

 

(キリさんをガチ泣きさせてしまった……マジ反省ッス……)

 

 ぐずぐずに泣く彼女の顔をハンカチで拭きながら、ノオトは猛省した。

 ヒメノとメグルを傷つけられ、頭に血が上るあまり──必死に自分を助けてくれた恋人の思いを踏み躙るところだったのである。

 そうでなくともこの色男、女の涙には弱い。

 特に──忍者でありながら、根が純真で純情そのもののキリの涙にはウソも偽りも無いことはよく知っている。

 しばらくして落ち着いたキリは、仮面を外したままノオトの手を取る。

 そして、その温もりを感じたいのか、すりすり、と彼の身体に身を寄せるのだった。

 

「生きてる……ノオト殿……良かった、本当に……」

「キリさん、誰かに見られても知らねえッスよ……?」

「今は、どうでもいいでござるよ」

 

 仮面を外したキリは──只の恋する乙女だ。

 使命や役割からも解放され、只の16歳の少女となる。

 身内も誰も居ないこの世界で、トレーナー達のリーダーであり続けるのは彼女の心にとっても負荷がかかっている。

 故に。今この時だけは、彼女は安らいでいられる。

 彼女が素のままで居られるのはノオトの隣でだけだ。

 その様を──見つめる三つの影。オシアス三人組が物陰から隠れて一部始終を見届けていた。

 

「騒がしいから追いかけてきたけど、あの女の子……キリさんなのよね?」

「あのスーツの中に、あの子が入ってたの!? すっごい……!! ボクらとそんなに年変わらないよ!!」

「ねえ、やっぱマズいよ。覗き見だなんて」

「何言ってんの、人様の恋愛は蜜の味! キッス! キッス! そのまま押し倒してチューしろ!」

「最悪だよ、メンタリティが小学生男子のそれなんだよ」

「とんだ野次馬根性ね、親の顔を見てみたいわ」

 

 そう言っているレモンは、双眼鏡を手にしている。人の事は言えないのだった。

 

「何なんだこの人ら……」

「全くなのです……!! やっぱりここは正面からノオトのヤツをひっぱたいてやるのが正解なのです」

「うん?」

「ん?」

「え?」

 

 オシアス三人組は──振り向いた。

 そこには、口から血を垂れ流しているヒメノの姿があり、三人はあまりのホラーっぷりに飛び退いた。

 

「ギャーッ!! オバケッ!!」

「ちょっと失礼なのですよ!」

「すみません、てっきりゴーストポケモンかと」

「やっぱり失礼なのですよ!! それより許せないのはノオトなのです、こんな非常時にイチャイチャ……! 貴方達も考えてることは同じはずなのです!」

「いや、僕らは別に……」

「ボクは身も心も転校生のモノだし」

「ちょっと余計な事を言わないでよ、デジー!!」

「はぁーっ!? 貴方達もそう言う関係だったのです!? クソッ、どいつもこいつも浮かれてるのです、許せないので──ごふっ」

 

 びちゃびちゃ、と血が床にぶちまけられる。またストレスで喀血したのだ。イクサは顔を青くして駆け寄った。

 

「ちょっと、大丈夫なんですか!?」

「心配要らないのですよ……持病が悪化しただけなのです」

「あんた前も似たようなこと言ってたじゃない」

「うるさいのです! この分だと貴女も私と同類なのでしょう!? 余り物同士仲良くしようとは思わないのです!?」

「ごめんなさいね、私とデジーは二人で彼を()()()()()()()()

「ちょっとレモンさんまで変な事言わないで下さい!?」

「シェア……? それってハーレム……ごふっ」

 

 ヒメノは──再び血を思いっきり吐いて倒れ込んだ。

 

「ちょっ、ヒメノさん、死なないで!?」

「イ、イクサ様……今のはウソだと言って……欲しいのです……」

「ごめんなさい、全部本当です……」

「ごぶふっ」

「ヒメノさんんんッ!?」

 

 ──特性・ライトメンタルは伊達ではない。

 結局戦っても無いのに、そこには血だまりが出来てしまうのだった。

 そしてこれだけバカ騒ぎすれば、当然キリとノオトも気付くわけで。

 

「ね、言ったっしょキリさん。誰かに見られても知らないって」

「~~~~~!!」

 

 顔を真っ赤にして手で覆い隠すキリ。

 仮面を外している時の彼女は──忍者ではなく、只のポンコツ少女でしかない。

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