コミケは鋭利な形をしている
ブスと美人が同じキャラクターのコスプレをしていました。
原神とか、たぶんその辺のソシャゲのキャラクター。
派手な髪色のウィッグを被り、被服面積の少ない過激な服装をしていました。
ブスと言いましたが、きっと人間離れした様相のコスプレが似合ってなかっただけで、普通の格好をしたら普通の容姿になる、ごく普通の女性だったと思います。
でも少なくとも、すぐ近くに立っている美人に比べて圧倒的に劣っていました。
美人の方は絶えずカメラ小僧が声をかけて忙しそうに写真を撮られていました。
ブスは声をかけられず、端っこの方で死人のツラで自撮りをしていました。
泣きそうになりました。
どうして俺はコミケに来てまで、やるせない現実を見せつけられなきゃいけないんだと、やり場のない悔しさが湧いてきました。
オタクでも主役になれるのがコミケだったんじゃないんですか?
人より劣っていても自分がやりたいこと出来ればオッケー?
そんな訳ねぇだろ、誰が自分の上位互換を前に劣等感を感じずにいられるかよ。
悲しいのは誰もその人に写真撮影を頼まない事なんですよね。
常にその人を監視していた訳じゃないので、もしかしたらちゃんと声をかけられてるのかもしれませんが、少なくとも僕が写真を撮るなら美人の方に声をかけます。
そして、わざわざ同じキャラクターのコスプレを二回も撮ろうとしません。
別に隣り合っていたわけではないんです。
もちろん2人のコスプレイヤーは距離を空けていたのですが、美人の方が入り口に近い位置に陣取っていたんですね。
誰が美人の写真を撮った後に下位互換の写真を撮るでしょうか?
さらに悲しいのは、そういった光景がこれ以外に幾つも見られた事です。
ゴールデンカムイの杉本達のコスプレをしている集団がいました。
見てくれがよく、体つきも筋肉質で、男の俺から見ても写真を撮りたくなるなと思いました。
先に進むと、同じように杉本のコスプレをしている人がいました。
30代くらいの男性で背が低く少し小太りで、なぜだかウィッグもせずに、おそらく地毛であろう陰毛のような髪を軍帽の隙間から覗かせて、ただじっと遠くを見つめていました。
クオリティが違いました。
向こうは杉本佐一で、こっちは東北から徴兵された田吾作にしか見えません。
もちろん誰もそいつに声をかけません。
当たり前です。どう見ても触れない方がいい人間なのだから。
なぜ、そこで勝負をしたのか。
僕は怒りに任せて胸ぐらを掴み、そう問い正したくなりました。
どうしてお前は自ら死地に迷い込んだ?
誰も進んで傷つきたくなんかないだろうに、なんでお前はそういう生き方しか出来ないんだ。
自己満足なんて建前ですよ。
誰だって人から評価されたいし、誰だって幸せに生きたい筈なんです。
ブサイクがコスプレで生きる道なんて、全身を覆う着ぐるみか、特撮の全身スーツだけだろうに。
悲しみと怒りとやるせなさがないまぜになり、ペール缶の底に沈澱したコールタールのようなどす黒い粘性の感情が全身に駆け巡り、僕は足早にエリアから抜け出し、暫く空を見ていました。
空はこんなに青いというのに。


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