山盛りフルーツとたっぷりの昼食~世界のスープ探訪・ポーランド編②
前回は、ポーランドのスープについてのレポートをお届けしました。2本目では、市場と家庭料理体験から、ポーランドの食全般についてお話します。
市場には旬の食材がぎっしり!
今回の旅でいちばん興奮したのは、なんといっても市場です。クラクフ、ワルシャワ、二都市で大きな市場に出かけましたが、ここではクラクフの市場を中心に、店で売っている食品を紹介しますね。
スタリ・クレパシュ市場(Stary Kleparz)は、クラクフの中でも最も歴史あるフードマーケット。朝から張り切って向かいます。
まずはチーズがお出迎え。パンみたいなのは、ポーランド南部の山岳地帯で作られる、オスツィペック(Oscypek)という羊のチーズ。後ろのビニールに入っている生チーズが元のチーズで、型に入れたものは乾燥させ、保存性を高めています。色つきはスモークタイプ。筒状や紡錘形など形もさまざまです。
クセが少なく、とてもおいしいチーズです。乾燥したものはキュッキュッとした歯触りに楽しさがありました。
ポーランドのメジャーなチーズでは、トファルク(Twaróg)というあっさりしたカッテージチーズに似たフレッシュなチーズがあります。ビャウィ・セル(biały ser)という白チーズの塊を食べやすくほぐしたり挽いたりして、発酵乳などを加えたものです。市場では写真が撮れなかったのでホテルの朝食で見かけたのを参考までに。
四角い皿一番右がビャウィ・セル(biały ser)。
ハムやソーセージやパテはいろいろな部位が混ざったものも多く、どれも量り売りしてくれます。このバリエーションはやっぱり肉食の国。
見つけました、だし用の丸鶏。ポーランドの家庭において最も重要かつポピュラーなチキンスープ・ロスウもこれで作ります。日曜のスープには欠かせません。
次は野菜。いい時期なので種類も豊富。きゅうり=オグレック(Ogórek)は、ピクルス用のきゅうりが山ほど売られていました。長いきゅうりは生食するとのこと。
滞在中スープで何度も食べたビーツ。今の時期は、葉っぱのついたヤングビーツが主流です。この葉っぱ、何かに似ていると思ったら、スイスチャードですね。
ヤングビーツは葉がついて売られています。大きなビーツはブラキ(Buraki)と呼ばれ、区別されています。新じゃがいもとじゃがいもの違いみたいなものかしら。
野菜は基本、量り売り。量が多い!
山盛りの白インゲンや袋にぎっしり入ったそら豆、根セロリやきのこ。なかなか日本では見かけない野菜が並んでいます。
圧巻はフルーツでした。おいそうだし可愛いしで、写真を撮る手が止まりません。
果物はもちろん生でも食べますし、家庭でコンポートやジャム、果実酒など加工品にして大量に消費するようです。
肉に比べて少ないですが、魚介も食べます。海の魚よりは川魚、湖魚が多いとのことでした。サーモン、鯛、ニシン、鯉、マス、うなぎなども。
お惣菜屋も。屋台ではなく固定の店が何件かありました。
ピエロギ(pierógi)は中国がルーツと思われるポーランド風餃子で、フルーツが入ったものもあります。ザワークラウトときのこ、チーズとじゃがいも、ひき肉などさまざまな具材がありますが、フルーツ入りもあって、これも軽い食事や子どもの食事としてよく食べられています。
そういえば、ポーランドのテニスプレーヤー・シフィオンテクが、ウィンブルドンの試合後インタビューで今夜食べるものを聞かれて「いちごヨーグルトのパスタ」と答えたことが話題になっていたとのこと。ポーランドではこれは子どもの食べ物として愛されているそうです。考えてみれば私達もお餅にあずきぜんざいをかけて食べたりしますよね。
パンのバリエーションも豊か。写真の菓子パンや惣菜パンだけでなく、プレーンな食事パンもさまざま揃っています。ライ麦のパンも多いです。
アテンドのアグニェシュカさん、なんと市場に紙皿とナイフを持ってきていました!空いていた屋台の上で買ったものを広げて試食。ソーセージやチーズ、ピクルス、フルーツやパンなど、ポーランドらしい食品を体験できました。
市場を巡って疲れたら、コーヒースタンドでひと休み。人気店らしく、賑わっています。
通訳でついてくれたポーランド広報文化センターの平岩さん
ポーランドの人は、冷凍食品やレトルトは食べないの?と聞かれそうですが、もちろんそうしたものもありました。日が短く作物がとれにくくなる冬場は冷凍食品などに頼ることも多いそう。ただ、日本ほど製品は洗練された感じではなく、まだ手作りがいいという価値観が主流のようです。
ポーランドの食事時間
ポーランドのご飯事情についても少し聞いてみました。
伝統的な食べ方としては、1日3回もしくは4回。特に、15時頃にしっかりした食事をするのが特長的で、スープ+メインディッシュ+デザートが基本の形です。
①朝食(śniadanie)6時ごろ早起きして、パンにチーズやハムをのせるような簡単な朝食
②第2の朝食(drugie śniadanie)10-12時ごろ、サンドイッチや菓子パンなど。いうなれば「十時のおやつ」です。
③昼食(obiad)帰宅後13~16時 きちんと料理されたものをたっぷり。
④夕食(kolacja)寝る前2~3時間前に、軽いもの
こんなタイムテーブル。昼食が15時から16時になることもあるというのが驚きです。
もともと農業従事者や工場勤務の人たちは朝が早く、昼休憩もなく職住接近という環境の中、14時過ぎには帰宅できていました。子どもたちも14~15時には下校します。そこで平日でも14~16時くらいに家族揃って食卓を囲むことができるというわけです。
ただ、社会自体は近代化され、現在も右肩上がりに経済発展しています。当然ながら、会社や店でフルタイムで働く人も多いわけです。
ですから都市部のホワイトカラーの人々は、これまでの習慣にはなかった昼食(lunch)を12時~14時ごろにワンプレートで済ませ、帰宅後はkolacjaのみ、あるいはpodwieczorekと呼ばれる、午後遅めのおやつタイムを設けているとのこと。
平日は家族揃っての昼食は難しくても、休日にはまだその習慣が残っていて、昼ごろから料理をはじめ、15時ごろにたっぷりの昼食を家族全員で食べながら団らんを楽しみます。
このあとに続くのは、そんな家庭の昼食風景です。
ポーランド家庭の、休日ごはんとおもてなし
この旅でもうひとつ楽しみにしていたこと。それは一般のご家庭を訪ねて食事を体験するという企画でした。幸いにもワルシャワ郊外に住むご夫婦の、家族での昼食(obiad)にお招きいただけることに。
今回訪ねたオスミツキさんの自宅はワルシャワから車で約40分ほどのコンティ・ヴェンギェルスキェという住宅地にあります。東京とは違って、駅やホテル、旧市街などのある中心地から車で15分ほど走ると、高い建物はめっきり減って緑の多い風景に切り替わり、建物はぽつんぽつんとまばらに出てくる感じです。
オスミツキ家に近づくと道の舗装もされていません。私たちにとっては郊外というよりは田舎の風景に近いものでした。しかし農村のイメージではなく振興住宅地なので、見かけるのはどれもスマートで新しい家ばかりです。
車を降りて、家の門扉を開けると犬が飛び出してきました!オスミツキ夫妻が4匹の愛犬と一緒に住む家です。
ヴォイチェフ・オスミツキさんは30年以上にわたって、造園・園芸業を手掛ける会社を経営しています。2005年からはログハウスの建築にも携わり、自宅もご自身で手掛けられています。この家で日本風の庭を造ったり、野菜やベリーを自家栽培するなど、ガーデニングも楽しまれています。
大の日本好きで、部屋の中にいけすを造り付けて鯉を飼っているほど。
今日料理をしてくれるのは、妻のグラジナさんではなく、夫のヴォイチェフさん。ポーランドでは男性もよく料理をするのだそうです。「平日は私がやっているのよ」と笑うグラジナさん。
この日半日オスミツキ家で過ごしましたが、一人だけが立ち働くことはなく、家族全員がキッチンに変わるがわる立って、何かしらやっていた風景が印象的でした。
まずは漬物の皿が次々と運ばれてきます。キュウリのピクルスは浅漬け、古漬け、酢漬けの3種類が全て手作り。ピクルスは酢を使わず、きゅうりと塩とハーブだけで、乳酸発酵させて作ります(テーブルには甘酢漬けもありました)。キャベツのザワークラウトも同様です。キノコやかぼちゃの酢漬けは日本では珍しいですが、ポーランドではポピュラーなものだそう。
スマレッツ(smalec)も保存食で、ラードにたまねぎやベーコンを混ぜて固めた、悪魔のようにおいしい食べ物。ヴォイチェフさん、これをパンにたっぷり乗せて差し出してくれます。
なんとも可愛いオードブル!クラクフの市場で見たオスツィペック(Oscypek)の筒状のものを薄切りにし、フライパンで焼いてクランベリーのジャムを乗せたもの。こんなふうにして食べるんですね。ワインが進みます。
そして、待ちに待ったスープ登場。
ポーランドらしさ満点のボレスワヴィエツのスープカップがめいめいの前に置かれます。
蓋を開けると…ソーセージたっぷりのジュレック!
ジュレック(Żurek)は、ライ麦を発酵させたジュル(Żur)を味付けに使った、ポーランドの代表的なスープで、白ソーセージとスメタナというサワークリームが入ります。ヴォイチェフさんが、鶏・七面鳥・ベーコン・牛肉を2日煮込んで脂をのぞいた肉のだしに、だし野菜も加えてとった、なんとも贅沢なブイヨンをベースに手作りしたもの。ジュルは市販の瓶入りのものを加えているということでした。
スープについて聞くと、ジュレックはもともとイースターの伝統食なので、普段はそれほど食べない、ロスウ(鶏のコンソメ)やトマトスープ、キュウリやキノコのスープなどが日常のスープということでした。
圧巻のメインは、鴨のローストに、クランベリーのソースを添えたもの。付け合わせは千切りビーツを煮たものとベイクドポテトです。
もうここまでで食べきれないほどの量のご馳走をいただいたのですが、デザートの前に森に散歩に出かけましょう!と誘われました。
森というより小さな雑木林で、少し歩くと広い道路に出ました。この辺りは新しい住宅地として開発が進んでいて、いずれかなりの家が建つ予定のようです。
散歩から戻ると、庭のテーブルへ場所を移してデザート。この時点で17時。
たっぷりのフルーツとお菓子、お茶やコーヒー、果実酒が出され、お喋りが続きます。
写真右上はケシの実とドライフルーツ、スパイスなどを混ぜたもの。クリスマスに食べるデザート・クティア(Kutia)をヴォイチェフさんが特別に作ってくれました。スパイスをたっぷり使う習慣は、歴史的に多くの国との交流があったから。ポーランドではケシの実をたっぷり巻き込んだマコヴィエツ(Makowiec)というケーキが有名ですが、これはまた別のものだそう。
写真左下はシャルロトカ(Szarlotka)というりんごのお菓子。ポーランドではとてもポピュラーなもので、サブレ生地にりんごがたっぷり挟まっています。
ポーランドのおもてなしは手厚いと聞きましたが本当にその通りで、食べ物も飲み物も次々と勧められます。また、会話を楽しもうという雰囲気や、家族の和気あいあいとしたやりとりが居心地よく、こちらもつい腰を落ち着けてしまいます。
++++
市場と家庭の食事を通じて、レストランの食事だけでは見えてこないポーランドの食文化を知ることができました。
食材の量り売りや、保存食品用の食材やハーブなどを一般の人も買い求めているという風景を目の当たりにしたり、家族で集まってのんびり休日の食事を楽しむ様子を体験すると、まだまだポーランドにはスローフードな暮らしが残っているんだなと感じます。
それぞれの国の暮らしは、自分たちの感性に合うように出来上がっていくもの。日本の食も、土地や経済や人の嗜好などに合わせて少しずつ変化して今の形が出来上がっているという意味では最適化されたものだと思います。食材よりも便利な食品が求められるのも時代です。
それでも、今の市場で山盛りになったさくらんぼと日本で小さなプラスチックケースに入ったさくらんぼを心の中で比べて、暮らしの豊かさということについてすこし考えてしまいました。
ポーランドは冬の寒さも厳しく日照時間も短くなるので、日本の気候と比べたら決して恵まれているわけではありません。だからこそ長い冬に備える保存食も根付いています。その分、夏には野菜や果物、ハーブなどフレッシュなものを思い切り楽しみたいという気持ちが働くのかもしれませんね。
この次のレポートでは、いよいよスープ作り。ポーランドで習ったスープ作りの様子をお伝えしようと思います!
今回のポーランド旅について
昨年「おいしい学校 世界のスープ探訪」というゼミで取材させていただいたポーランド広報文化センターからのご提案によって、食を中心にしたポーランドのツアーを組んでいただく機会に恵まれました。noteでは数回に分けてレポートを発信していきます。マガジンにまとめて収録しています。
協力・記事監修
ポーランド広報文化センター
Facebook: @InstytutPolskiTokio
X: @PLInst_Tokyo
Instagram: @instytutpolskitokyo
https://instytutpolski.pl/tokyo/
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読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。


コメント
2なんと素敵!行ってみたいです。
治安も悪くなく、人も親切です。落ち着いて旅できますよ