ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──数時間後。
学園では、マイヅルを斃したハッカが、2人からこれまでの経緯を聞き──驚愕していた。
尚、当の副会長は簀巻きにされ、転がされている。耳からは血が流れており、当分は何も聞こえないだろうとのことだった。
生徒会室には既にもう役員らしき生徒はいない。アトムが不在だったこともあり、完全に、生徒会棟は制圧されたのである。
「じゃ、じゃあ、そのオーラギアスっちゅうヤバイポケモンを、あいつらで止めに行ったんですか!?」
「何、俺達も後から続くさ。追いつくだけなら、すぐに追いつける。ポケモンの力を借りれば、な」
「ただその前に、この学園でやっておくべき事があってね」
「何です?」
「学園に、不穏なヘリコプターや装甲車の大群が迫っている」
「え”!? ポケモンやなくてですか!?」
ハッカが目を丸くしたその時だった。
生徒会室に取り付けられた巨大なモニターに、突如として男の顔が映り込む。
それだけではなく、生徒の持つスマホロトムの画面も突如としてジャックされるのだった。
『全校生徒の諸君。初めまして──私はアカシア。本日より、スカッシュ・アカデミアの新理事長に就任した』
初老の男は悪びれることもなく言ってのける。
「アカシア……!!」
『いきなりで済まない。だが、既にこの学園は我々クラウングループが買収した』
「聞いてへんわ!? いきなりすぎるやろ!?」
「ど、どないなってはるん……!?」
「私達が調査した結果、此処の人事には既にクラウングループの息がかかっていたことが分かったんだ。経営陣が毎年1人ずつ……彼等の傀儡と入れ替わる形でね」
しかし、マスカットグループが全容に気付いた時には既に遅し。
スカッシュアカデミアは──クラウングループの乗っ取りを受けた後であった。
『故に、学園の名前も──クラウングループに就職する未来ある子供の養成機関……そうだな、CLOWN職業訓練学校に改名するとしよう』
「その名前ダサいからやめた方が良いんじゃない?」
「シッ!! 黙ってろテメェはッ!!」
『何、直にオシアスは我らのものになる。今此処で納得が出来ず、従わぬとしても関係無い。在籍している教師たちは即時解任、生徒達も全員退学とする。全員、私の学園から排除する』
「滅茶苦茶な……!!」
「ねえ、なんかバリバリ聞こえてきたんやけど、ハッちゃん!?」
「まさかヘリってのは……!!」
「あいつら、力づくで学園を乗っ取るつもりだね。反抗されるのが分かってるから」
『先ずは学内の掃除を行わねばならない。美しい世界が生まれる前に』
校庭に装甲車が乗りこんで来る。
そして、屋上にはヘリが着陸し、そこから戦闘服を着こんだ男達が着地していく。
間もなく、生徒会室にも見慣れぬ男達が乗りこんで来るのだった。
「あかんやろ!? これ司法が黙ってへんで!?」
「司法は既にクラウングループの手に落ちてるよ」
「終わってはる……!! うちらどうなるん!?」
「決まってんだろ。俺らの学園で、好き勝手はさせねえよ!!」
モンスターボールを投げ、ポケモンを従えて襲い掛かってくる戦闘員たち。
しかし、ラズが繰り出したアマツツバサのガトリング掃射の前に、次々に倒れていく。
だが、敵の数は多い。次から次へと、再びポケモンを繰り出してくるのだった。
「こりゃあ、オーラギアスはレモン達に任せるしかねえな……!!」
「……参ったね。生徒会室を制圧するはずが、学園そのものを制圧されるハメになるなんて。とんだサプライズだよ」
シャインは──マイヅルの持っていたイテツムクロのボールをひったくると、倒れている忠臣に呼びかける。
「イテツムクロ!! いつまで寝てるんだい!! ……君の輝きは、そんなもんじゃないだろう!?」
「あ、あかん!! 数が多すぎるわ!!」
「こんなんどうしたら──」
「──なあに簡単さ」
ばちん、と夢から覚めたかのように、イテツムクロのオシアス磁気が再び溢れ出す。
「まとめて、凍らせればいい!!」
【イテツムクロの ぜったいれいど!!】
我に返ったイテツムクロは、すぐさま侵入者と判断した者達を一瞬で氷の像へと変えてしまった。
その鮮やかな神業を前にして、1年生は勿論、ラズも言葉を失う。
「あ、相変わらずえげつねえな……イテツムクロ」
「校内が心配だ。すぐに向かおうじゃないか」
「いっつもふざけてはるのに、本気なったら、えらい強い……!!」
「これが寮長クラスの実力かいな……!!」
驚愕するハッカの視線は──シャインのボクサーブリーフに向く。
「……脱いでなかったら完璧やったんやけど」
「何を言う!! マスカット家の人間は、脱いでからが本番だ!!」
「だから服を着ろやテメェは!!」
※※※
校庭に出て行くラズたちは、その異様な光景に息を詰まらせた。
校舎のあちこちから火の手が上がっており、生徒達は、襲い掛かるポケモンや装甲車、そして重機たちに自らの手持ちや重機で対抗しているが、それでも物量を前に押されている──という状況だ。
そればかりか、校庭に散見されるのは、土偶の如きオーデータポケモン・ドグウリュー。1匹や2匹ではない。十匹ほどが生徒達を取り囲み、攻撃を続けている。
劣勢としか形容しようがない。しかし、それを見かねた二人は飛び出し、すぐさま敵を薙ぎ払う。
「マグマシンガンで掃射しろ!!」
「フリーズドライだ、美しく彩ろう」
爆炎。そして冷気。
決して交わらないはずの両者が、並び立つ。
突如として現れた援軍、そして見覚えしかない二匹のオーデータポケモンを前に、生徒達は固まる。
そして、その姿を見て──歓声、あるいは戸惑いの声が聞こえてくるのだった。
「な、何故ラズ先輩が此処に!?」
「シャイン先輩、帰ってきたんだ!?」
「……遅くなってすまない、君達!」
「俺らがテメェらのリーダーに相応しいかはテメェらが決める事だ。だけどな──今この瞬間はッ!! この学園を守る為に戦うッ!!」
「だから君達は──私についてきたまえ!!」
生徒を前に高らかに宣言する寮長達は、圧倒的戦闘力で敵のポケモンたちを斃していく。
それを目の当たりにして、生徒達は沸き立つ。
「おお、おおおーっ!! やっぱりラズ先輩は俺達のリーダーだ!! 帰ってきてくれるなんて!!」
「シャイン先輩ーっ!! あたし信じてましたーッ!!」
「ったく、調子のいい奴等やな……」
「うちらも戦おう!!」
「ああ!!」
アマツツバサとイテツムクロ。
この二匹は、ラズとシャインの練度もあってか、集団で攻めてくる敵を前にしても一歩も引かない程の戦いっぷりを見せていた。
それに加えて、ハッカとテマリ、更に特記戦力たちも戦線に加わったことで、クラウングループの軍勢は徐々に押し返されていく。
戦力は無限ではない。しかし──相手も当然、切札を用意している訳で。
「クソッ、流石はオーデータポケモン……だが!!」
「こちらにも対抗策が無いわけではない!!」
新たに校庭に入って来た装甲車。
そこから──ローブを纏った人物が手錠をかけられたまま連れ出されていく。
そして、彼らは手錠を外された途端、腰にぶら下げていたモンスターボールから──ポケモンを繰り出すのだった。
「──エテボース」
「──ドラピオン」
その声と共に現れたのは、見上げるも巨大な赤い装甲に身を包んだ砂蠍。
そして、樹木で出来た巨大なペンを掲げる大猿であった。
しかし、いずれも顔は鋼の仮面によって覆い隠されており、オシアス磁気が常に漏れ出している。
「……ヌシポケモンか!?」
「……ということは」
ローブの人物たちがフードを取る。
正体は──マスク状の装置を付けられた男女。
シャイン、そしてラズも、直接会ったことがないにせよ、知る人物たちであった。
「無限書庫の主・トトに……遺跡のキャプテン・アジュガ!?」
「成程。悪趣味だね。ポケモン諸共洗脳したのか」
「……」
「……」
クラウングループに囚われた二人のキャプテン。
しかし、その目は虚ろで既に意思は感じられない。
ヌシポケモンと同様、傀儡と化している。だが、そんな状態でも──ふたりは腕に嵌められた漆黒のオージュエルにカードを翳す。
「……ギガオーライズです、エテボース」
「……ギガオーライズだ、ドラピオン」
※※※
「──相変わらず、デシタね。イクサ」
「ああ。強いままだ。だが、それ故に不安になる」
「分かりマスよ。自分より年下だから、デショ?」
「むぅ……」
空中から偵察を行う二人。
奈落の穴と呼ばれるこの谷底の奥を先んじて観察し、敵が来ないかどうかを見張っている。
「やはり、年長者である俺達が……」
「そう思ってたんデスけどね」
「?」
「……もう、私達が守ってあげようって思ってたイクサは居ないんデスよ」
「どういうことだ」
「私達の知らない間に、イクサは……強くなったんデス。もう、私達が頼ってもいいくらいに」
「……良いのだろうか」
「勿論、イクサが危ない時は私達が助けるデス! デモ……イクサは、それ以上に私の仲間デスから!」
「……感慨深いな」
「デショ?」
ふわふわ、とデリバード、そしてクワガノンで谷底を観察する二人。
そしてようやく──奥底に巨大な建造物の姿を二人は認める。
「見えた! 僅かにデスけど、目標が! ……? それと、何か聞こえてくるデスよ? 先パイ」
「何? 俺には何も──む」
「ほら、聞こえるデショ!?」
ぐらぐら、と何かが揺れるような音が聞こえてくる。
地鳴り。地震。それとも違う。
岩壁の片方だけが、ずしん、ずしん、と軋んでいるのだ。
「ッ……!! 何かが這い上がってくるデス!!」
「イクサ達に知らせるぞ──」
【──の ア・ステラ・ホライゾン!!】
間もなく、閃光がバジルとゼラ目掛けて飛ぶ。
すんでのところで躱した二人だったが、それは真っ直ぐに岩壁を貫き──更に穴をこじ開けたのだった。
遮蔽物に身を隠し、離脱する二人。
すぐさまスマホロトムでイクサ達に現状を説明する──
※※※
「な、なになに!? 何が起こってるの!?」
険しい岩道で谷底へ下っていた4人は、轟音を聞きつけて、すぐに臨戦態勢に入る。間もなく、バジルから通信が飛んできた。
「大丈夫!? バジル先輩!! なんかすっごい勢いであっちの崖が崩れてるけど!!」
『こっちは無事デース!! デモ、何かが近付いてきマス!!』
「オシアス磁気……!! オーデータポケモンで間違いない!! しかもこれは、とびきり厄介なヤツだぞ!!」
「ミコっち、何が来るの!?」
「それは──」
「イーッヒヒヒヒヒィィィィィーッッッ!! ヤ、あっと見つけ、ました、よォォォォ!!」
ノイズ混じりの音声が谷底に響き渡る。
その声に、イクサ達は心の底から恐怖を覚える。
人間の声と機械、それが混じり合ったような歪な声。
明らかにそれを「人」と認識するのを拒まざるを得ない声。
そして、地鳴りと共に、それは──谷底から這い上がってくる。
奈落の底からやってきた、蟲の如く。
「……オオミカボシ、なのか……!?」
ミコが疑問を零すのも無理は無かった。
それは、他脚の戦車にオオミカボシが埋め込まれたかのような異形であった。
歯車の部分には案の定、仮面の如きパーツが組み込まれており、ポケモンの意思は感じられない。
だが、もっと恐ろしいのは、そこからは常にオシアス磁気で形成された怪物の咢が顕現していたことであった。
「オオミカボシが重機になってるのか……!?」
「重機のパーツになってる、ってところだね。全く、シュミの悪いことを考えるよ!!」
「しかもこの声……アトムね!! あいつ何処に居るのよ」
もっと生理的嫌悪を掻き立てられたのは、その異形には不自然に増設されたユニットが取り付けられているところであった。
戦車の機能としても、オオミカボシにとっても、明らかに不必要としか思えないそれ。
そこから──なぜか、このオーデータポケモンを従える男の声がノイズ混じりで聞こえてくる。
「なんて悍ましい……!!」
その真実にいち早く気付いたのはミコだった。
「ミコさん、どういうこと?」
「……クラウングループめ、何処までも性根が腐っておるわ!!」
「レモンサンレモンサンレモンサンレモンサンレモンサンンンンンンッッッ!!」
ガシャンガシャン、ガシャン、と足音を立ててそれは近付く。
そうして、イクサは気付いた。
その戦車に、人が乗り込むであろう場所など何処にも存在しない事を。
言ってしまえば、車体はオオミカボシを担ぎ上げる為の台座としての役目しか果たしておらず、そこに追加武装と多脚が装備されているだけだ。
後はよく分からない不明なユニットだが、これも人が入れるような場所はない。
そして、これだけよく声が通るのに、肝心のアトムの姿は何処にも無い。
「まさか、いや、流石に、そんな事は……!!」
「アトム……貴方、どうしたのよ……!! 何処に居るの!? 居るのよね……!? ねえ!?」
「ッ……ねえ、ボクさ、すっごくヤな予感がするんだけど……!! 技術者だからかな……分かりたく、なかったんだけど……!!」
「レモンンンンンンサンンンンンンンンンッッッ!!」
【ポケモン重機”オオミカボシ・アトム”】
※※※
──数日前。
「一度ならず、二度までも敗北。しかも、そこらへんの1年に負けるか、アトム」
「お、お父様、私は……!!」
黒服たちに腕を掴まれたまま、アトムはアカシアの前に連れ出されていた。
二度の醜態、しかもオオミカボシさえも完全敗北した様を見て、彼は──怒り心頭だった。
「……だがアトムよ。お前は愚息なりに一つ、功績を
「!?」
「ギガオーライズのさらなる先の領域。それに到達する方法だ。感情が昂り、ポケモンとのシンクロが最高潮に達した時、フェーズ2に至る」
「……は、はは、ではお父様! 次は! 次こそは……フェーズ2をモノにして──」
「だが、フェーズ2に至った時、人間の身体には大きな負担がかかり、長い間継続して使う事が出来ない」
「ッ……!?」
「対して、ポケモンの身体は人間と比べものにならないくらい屈強だ。では、フェーズ2を人工的に引き起こした上で、恒久的に使えるようにするには?」
「お、お父様、何を言ってるんですか……!?」
「喜べアトム。お前には……我が社で造った最高のポケモン重機のモニターになって貰う」
「え、え……?」
「オオミカボシを強化改修し、重機に作り替えた。その最後のパーツは……」
アトムですら知らない最高のポケモン重機の仔細。それを一通り聞かせたアカシアは、最後にこう結んだ。
「つまり、人間の脳とオーデータポケモンの頭脳部分を直接リンクさせ、シンクロを疑似的に発動させる。これで安定してフェーズ2を発動できる上に、足枷となるトレーナーの身体が無くなったことで──」
「ま、待って下さい、それじゃあ私は──」
「……お前の身体は邪魔だ、アトム。……分かったな?」
黒服たちは力づくでアトムを引きずり、部屋から連れ出す。
そんな中、アトムはずっと、ずっと喚いていた。
アカシアの言葉の意味。それは、自分が重機のパーツとして組み込まれることを意味しており──
「お父様!! お父様!! お許しくださいお許しください!! 嫌だ!! 私はまだ、まだ、何も何も成し遂げてない!! 転校生へのリベンジも、学園の支配も──お父様の計画も──!!」
「……俺の目指す世界に、お前は必要だ、アトム。俺はお前の頭脳、そしてギガオーライズへの適正は高く評価している」
「嫌だ!! 嫌だ!! 死にたくない!! 死にたくない!!」
「死にはしないさ、アトム。お前は永遠に生き続ける。俺の可愛い一人息子だからな」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
びしゃり、と鉄の扉は固く閉ざされる。
そんな中、表情を一つも変えず、アカシアは言い放った。
「自慢の我が息子。……オオミカボシの歯車になれて、さぞ光栄だろう」