ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第126話:受け継いだ願い

「ヴァッハハハハハハ!!」

 

 

 

 周辺の空間は一瞬で作り変えられ、俊足を誇る(足は無いが)イワツノヅチとオオヒメミコの身体は一気に重力に縛り付けられることになる。

 一転してフーパはふわふわと風船の如く空間を飛び回り、金の輪を飛ばすのだった。

 

 

 

【フーパの いじげんラッシュ!!】

 

 

 

 金の輪からは腕が飛び出し、二匹を叩く。 

 ありとあらゆる防御を貫くそれは、二匹を叩き、叩き、叩き──そして、捻じ伏せる。

 圧倒的優位に立っているにも関わらず、何処か必死ささえ感じさせる殴打の連続。

 その衝撃はイクサにも伝わるほどであった。

 

(敵意、敵意、敵意……だけどこれは……!!)

 

「……このままヤツが調子付けば、オマエが取り込まれるぞ!!」

「ッ!? 取り込まれるって──」

 

 ミコの叫び声でイクサはふと我に返る。

 間もなく、頭の中に直接響くようにして声が聞こえてきた。

 

「カナエテヤロウカ!? オマエノヨクボウ!! オレハオマエノナカニズットイタ!! オマエハオレダ!!」

「ッ……!!」

 

 自らの声を歪めたような”音”が頭蓋で反響するように感じた。

 

「何……この、声……!?」

「こいつは、ずっとオマエの中からオマエを食い破る準備をしていたのだ!! オマエの欲望を餌に、成長していた!!」

「ラクニナレ!! ウケイレロ!! オレヲ!! オレヲ、トキハナテ!! ソウスレバ、ネガイヲカナエテヤル!!」

 

 フーパが一気にイクサの眼前に迫る。

 一瞬慄いた彼だったが──もう、怯みはしなかった。

 

「ッ……こうやって、話すのは初めてだね」

「……ヴァハハハハハ!! オマエハオレダ!! オレハオマエダ!! オレヲ、ウケイレロ!!」

「解き放たれたとして、その後、君はどうするの?」

 

 その問いに──フーパは何故か言葉を詰まらせた。

 

「オマエガシルヒツヨウハナイ!!」

「知りたいよ。君はずっと、僕の中に居たんだよね。僕を利用して、成長してたんだよね。それくらい知る権利はあると思うけど」

「ヴゥ……!!」

「……オーラギアスを、倒しに行くの?」

「ッ!?」

「分かるよ。だって君、苦しそうだったから。確かに楽しそうに笑ってるけど……ずっと、苦しそうに戦ってたから」

「シッタヨウナクチヲキクナ!!」

「ミコさんから、君の過去を聞いた」

 

 イクサは──続ける。

 静かに語り掛けるように。

 

「……君のやったことは、結果的に……王国の崩壊を招いてしまった。王国にずっと仕えていた君は……悔やまないはずがないよね」

「ヴゥ……!!」

「だから、たとえ抜け殻になっても……こうやって影になって出てきちゃったんだよね。()()だったから」

「……ソウダ!! オーラギアスヲ……オーラギアスヲ、タオス!! ダカラ、オマエノ、ヨクボウヲ、ヨコセ!! スベテ、カナエテヤル!!」

 

 背後から重い身体を引きずり迫るイワツノヅチとオオヒメミコ。

 しかし、それに気づいたフーパは振り返り、再び金色の輪を展開、自らの腕を飛ばす──

 

 

 

「でも、渡せない。僕の欲望は……僕の願いは……全部、僕のものだ!!」

 

 

 

 ──しかし。

 叩き潰すその前に、フーパは思わぬ反撃に遭う。

 

「ッ!! こ、これは……!!」

「──!? ヴァ、ヴァ……!?」

 

 フーパの腕は、見事に叩き斬られていた。

 遠距離の安全圏から攻撃を飛ばしていたフーパは、一瞬のうちにイワツノヅチが変貌を遂げたことに気付かなかった。

 

「僕は正直、自分の事が分からなかった。溢れ出る欲望も、衝動も、何処までが本当でウソかも分からなかった。いや、目を背けたかったんだと思う。醜い自分を直視することになるから」

 

 イクサは立ち上がり──漆黒のオージュエルを握り締める。

 煌々とそれは、この空間の中でも輝き続けている。

 

 

 

【イワツノヅチ<ギガオーライズ> タイプ:岩/鋼】

 

 

 

「欲しいモノは僕が僕自身の力で掴み取る……お前に叶えてもらいたい欲望も夢も……1つも無いッ!!」

 

 イワツノヅチの頭からは鋼鉄の剣が突き出していた。

 そして、尻尾にはオシアス磁気で生成された盾が顕現していた。

 その姿、まさしく鋼の騎士。一閃でフーパの腕を全て斬り伏せてみせたのである。

 だが、フーパとてやられたままでは終わらない。すぐさま腕を全て再生させ、再び”いじげんラッシュ”を放とうとするが──

 

「すまんな。もうオマエの好き勝手にはさせんよ!! ”トリックルーム”!!」

 

 ──空間のゆがみが元に戻る。

 これで、イワツノヅチとフーパの素早さは逆転した。

 圧倒的速度で詰め寄ったイワツノヅチは、頭の剣でフーパを大上段に叩き切ってみせるのだった。

 

「ノヅチよ!! 良い剣戟だ!! ギガオーライズで速度が強化されたか──!!」

「即興だけど……オオワザだイワツノヅチ!!」

 

 再び身体を再生させようとするフーパ。

 だが、そこにイワツノヅチがすかさず跳び上がり、自らの身体をバラバラに分解した。

 先ずは、盾を展開させた尻尾が飛んで行き、フーパに強烈なシールドバッシュを叩き込む。

 そして、続くようにして残る体のパーツと頭部が連結し、オシアス磁気が展開されることで──巨大な大太刀と化す。

 

 

 

「名付けるなら……”ざんてつけん”!!」

 

【イワツノヅチの ざんてつけん!!】

 

 

 

 

 脳天から巨大な太刀がフーパを突き貫く。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「……悔しかったんだよね。辛かったんだよね」

 

 

 

 完全に抵抗する意思を喪ったフーパに、イクサは進み寄る。

 

「……一番君が許せなかったのは、オーラギアスじゃない。こんな結果を招いた君自身だったんだ」

「ヴぁぁぁ……」

「イクサよ。そいつは影。話しかけても無駄だ」

「本当に無駄かな。僕にはそうは思えないよ」

「……?」

「僕の声を聞いた時、フーパは止まってくれた。たとえ影でもフーパはフーパなんだよ」

「言ってることが分からぬ」

「僕は……自分の中にあった黒い欲望を受け止めた。だから……フーパ。影としての君も、受け入れるよ」

 

 フーパは否定しなかった。

 そのまますすり泣くような声が聞こえてくる。

 

「誰かの願いや欲望を叶える。それが君の在り方だ。それは分かるよ。でも……他でもない君が幸せにならなきゃダメだよ」

「ヴゥ……?」

「一方的に誰かが誰かの夢を叶えるんじゃない。一緒に叶えるんだ。その為に力を合わせようよ」

「こやつはオマエの中にずっと──」

「だから分かるんだよ。分かってあげなきゃいけない。この子もまた、ポケモンだ。だったら、向き合わなきゃ」

「……」

「それが、ポケモンが大好きな……”僕”なんだよ」

「……はぁーあ」

 

 呆れたようなミコの声が聞こえてくる。

 しかし、イクサがフーパの手を取ると──そのまま巨体は、小さくなっていき、壺へと変わってしまい、地面に落ちる。

 それを拾うと、眼前に広大な砂浜が広がるのだった。

 その光景を前にして、イクサは思わず声を失う。

 

「ッ……此処は!? どうなっておる!?」

「……僕が前居た世界の砂浜だ」

「なっ!? では、これは……」

 

 

 

「参った……フーパを”いましめのつぼ”に封じ込めたのは良いが……消えゆくこの身体では……」

 

 

 

 何処からともなく声が聞こえてきた。

 そこには──ボロボロになり、半身も消えかかった旅装束の男の姿があった。

 そして、彼が握り締めているのもまた、イクサが拾ったものと同じ壺であった。

 それを前にして、ミコは思わず叫ぶ。

 

「ロータス!!」

 

 しかし、男は──振り向かない。

 だが、構わずミコは駆け寄り──そして、その身体は摺り抜けてしまうのだった。

 

「ッ……ロータス……!!」

 

 既に、顔まで消失が進んでいる彼を前に、ミコは崩れ落ちる。

 そして、もうそれが”終わった”出来事であると痛感するのだった。

 

「本当なら、俺の身体の中にコイツを封印するはずだったけど……俺の身体は、もう消える。意味がない……か」

 

 既に目は虚ろ。光は消えかかっていた。

 独り言というよりも、誰かに語り掛けているかのようだった。

 その場には居ない、そしてもう二度と会えない誰かに。

 ふらふらとあてもなく、最期の力を振り絞って歩き続けるロータス。

 彼の視界に映ったのは、海岸で遊ぶ一人の小さな子供であった。

 

「ッ……子供……いやいや……だが、しかし……!!」

 

 流石の彼も、自らが行おうとした事の悍ましさに震える。

 だが、最早、それしか方法が無いと悟ると──苦渋の決断をしたかのように頷くのだった。

 背後からゆっくりと気付かれないように近付き──しゃがみ込む子供の身体に、ロータスは壺を押し付ける。

 間もなく、紋様が子供の背中に現れ、それは音もたてずに吸い込まれていった。

 事が終わり、ロータスは地面に崩れ落ちる。それに気付いた子供は、ロータスに話しかけた。

 

 

 

「おにーさん、どうしたの……?」

 

 

 

 子供の顔は──イクサと瓜二つだった。

 

「ごめんね……見知らぬ世界の、見知らぬ子供……たまたま出会った君に、過酷な運命を背負わせる、かも……しれない……」

「?」

「大丈夫……このカードが……レックウザが、君を……助けて、くれる……」

「なになにー!? くれるのー!?」

「ああ、プレゼントだ……大事に、しなさい……」

 

 そう言って、ロータスはふらふらと子供から離れ、去っていった。

 一度、強い風が吹きすさぶ。

 次の瞬間──もうそこに、ロータスの姿は無かった。

 

「ッ……これが、全てか」

 

 ミコは、肩の力を抜けてしまったのか、その場にへたり込んでしまった。

 砂浜も、子供の姿も消え失せる。

 後には真っ白な空間だけが残っていた。

 

「ロータスは……フーパの封印を、たまたま出会ったオマエに施した」

「それしか、手が無かった……?」

「地面に埋めようにも掘り起こされたり、また世界を迷宮化されては堪ったものではない。一番は生きた人間の中に封じ込めてしまうことであった」

 

 だとしても、とミコは同情するようにイクサに視線を向ける。

 

「やれやれ、オマエにとってはとんだ迷惑な話だろうて……怒って良いのだぞ、オマエは」

「怒りませんよ」

「はぁ!? オマエはとんだ負債と厄災を押し付けられたのだぞ!?」

「確かにそうかもしれない。でも結果的に、僕は此処にいる。皆に会えた。十二分にお釣りは返ってきました」

 

 ミコは信じられないものでも見るような目でイクサを見つめる。

 

「こうして全部知った以上……僕が、受け継ぐよ」

「え?」

「……だって、託されたんだよね。オシアスの危機も、呪いも、僕が……いや、僕達がロータスさんの代わりに、断ち切る」

 

 その姿も、表情も、声も──全てが、ロータスに重なっていた。

 それだけで、機械のハートは揺らぐ。

 違うはずなのに、確かに根っこの部分で似通っている。

 ミコは確信した。今度こそ守らねば、と。

 

「全く……オマエは本当にそっくりだ……」

「そうかな」

「そうだよ。断言する。だから──」

 

 立ち上がったミコは、イクサの手を取った。

 

「今度はもう、消させなどせぬ。妾は、オマエと共に戦う」

「……ありがとう」

 

 空間が崩壊する。

 目覚めが、迫っている。

 絆を結び、フーパを鎮めたふたりに──外で待つ皆の下へ帰る時間が迫っていた。

 

「ミコさん。あいつは、僕の欲望を利用して力を蓄えて、僕の内側から出ようとしてたんだよね」

「……そうだな」

「そっか。じゃあ、僕の欲望の強さは、フーパの所為じゃなかったんだ」

「そうだな」

「……正直ね、ホッとしてるんだ。少し前の僕なら、嘆いてたと思うけどね」

 

 イクサはミコの手を握り、微笑んだ。

 

 

 

「だって噓じゃなかったんだ。皆が好きな気持ちも、ポケモンが好きな気持ちも、全部本当だったから」

「やれやれ……何処までも前向きだな」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「──って感じで、僕の中にフーパが封じられていたみたいで……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 黙りこくる推薦組達。

 あまりにもあっけらかんと、とんでもない事実を述べてみせるイクサに、彼等は返す言葉も無いようであった。

 

「いやいやいや!? 何もかもが分からないよ!? 何で転校生はそんなに平気そうなのさ!?」

「へ、平気ではないよ! でも、それしか手が無かったなら、もう仕方ないかなって……」

「貧乏くじ引くのに慣れ過ぎて、諦観してるデース……」

「正直……呆れる」

「妾もそう思う」

「ええ……」

 

 口々に皆がイクサの境遇にやいのやいのと同情の声を上げる中──レモンだけが「今更だわ」とぴしゃり。

 

「……イクサ君がそれを背負うと決めたなら尊重するべきよ」

「うう、そうだけどさぁ……転校生ばっかり、こんな目に遭って……」

「大丈夫。もう決めたことだからさ。それに──ロータスが僕にレックウザのカードを渡してくれたから、僕は皆と会えたんだから」

「……そう言われると、もう何も反論できないデスねー」

「うーん……良いのかなあ……」

「ただ1つ、言えることがあるなら──私もまた、貴方の命を背負ってるの」

 

 レモンは──イクサに視線を向ける。

 

「……忘れないで。此処にいる全員は、貴方の味方だってこと。一緒に帰るの。私達の学園に」

「ええ、勿論です! 僕は居なくなったりしませんから」

「なら良し」

「良いのデス!?」

「それでこの話は終わりよ。先ずは、オーラギアスを何とかしなきゃいけないわ」

 

 パンパン、と手を叩いた彼女はミコに「ヤツの居場所は分かる?」と問うた。

 

「離れておるが、場所は動いておらん。渓谷の地下に、工場を建設したのだろうな」

「……場所が分かってるなら話が速い。此処から先は敵の戦力も分からないし、一刻も争う。ある程度距離を取りつつも、まとまって進むわ」

 

 レモンが提案するのは、いつものように索敵に優れたバジルとゼラに先行させ、その後から残るメンバーが続く、というものであった。

 

「じゃあ2人・4人で別れるってことデスね」

「推薦組、最初で最後の潜入ミッション……か。腕が鳴るよ!」

「潜入なんてまどろっこしい事はしてられないわ。どうせ派手に動いたら見つかるもの。正面から……クラウングループを叩き潰す!!」

「やっぱり脳筋じゃん……レモン先輩……」

「なんか言った?」

「ごめんなさいでした」

「だが一刻を争うのはその通りだ。俺とバジルが居る以上、ある程度敵の接近は分かる。俺達は空からお前達を援護する」

 

 ゼラはスマホロトムを起動し、彼等に画像を1つ見せた。

 それは、渓谷の地形を示す解析映像であった。

 

「サバイバル科のアプリだ。衛星写真から見える情報から、渓谷の立体的地形を観測した」

「まるで螺旋階段デスね……」

「実際はもっと複雑だけどね。まるで……大穴よ」

「その奥深くに工場があるならば……いずれにせよ僕達は遅かれ早かれ捕捉される」

「ならば、敵からの捕捉を前提に行動するってことデスね!」

「どっちにしたって、やるしかないよね」

 

 イクサが言った。既に覚悟は済ませている。

 

「ミコさん。今度は僕達5人で、オーラギアスを全力で止める。だから……」

「妾も入れて、6人か。随分とにぎやかなメンツだな」

「うん。一緒に止めよう、オーラギアスを!」

「目的はオーラギアスの停止。そしてクラウングループの計画の阻止……そして」

 

 全員は手を合わせる。

 

 

 

「──必ず生きて、学園に帰ることっ!!」

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