ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
──オーラギアスの放つ弾幕は、魔神の作り出した金の輪の中へ吸い込まれていく。
そして、今度は金の輪を自らくぐり、オーラギアスに至近距離で連打を叩き込むのだった。
【フーパの いじげんラッシュ!!】
硬い甲殻すらも摺り抜ける超連撃。
本体に直接衝撃を何度も何度も何度も叩き込まれたオーラギアスの身体からは、オシアス磁気が抜けていく。
そして、とうとう、うめき声をあげたかと思えば、ごろんごろん、と元の岩っころのような姿で転がってしまうのだった。
さしものアカシアもオーラギアスが敗れるとは思っていなかったのだろう。
そればかりか、周りの機器も、壁も、全て叩き壊されていく。
「ッ……!! くそっ、俺のオーラギアスが……!! よくもやってくれたな、この化け物め!!」
オーラギアスをボールに戻し、アカシアは一目散に逃げていく。
だが、追う気力など妾達には残っていなかった。
崩れ行く部屋の中、理性も無く暴走を続けるフーパを眺めているしかない。
金の輪が辺りに現れ、全てのものを破壊していく。
「これは、どうなってるんだ……!?」
「抜け殻の中に……数千年分の恨みが籠っていたのだろう……!! 王朝を滅ぼした、オーラギアスへの恨みが!!」
「ッ……じゃあ、今のフーパは……!!」
「”影”とでも言うべき存在だ。奴の力の残滓に、恨み、そして欲望だけが籠っている……理性無きバケモノだ!!」
「──それじゃあ、此処で食い止めなきゃね」
「どうするつもりだ!?」
「……」
「ホシイ、ホシイ、ナラ、クレテ、ヤル、ヒ、ヒヒヒヒ……!!」
テレパシーで、直接脳内にフーパの声が聞こえてくる。
だが、王朝で幾度となく相対した時の無邪気さは失せていた。
今の奴は、フーパではない。
只の怪物だ。
巨大な光の輪を作り出す。
周囲のものも金の輪に飲み込まれて消えていく。
そしてフーパ自らも、己自身を移動させようとしているのだろう。
尤も、妾含めて周囲のもの全てを飲みこもうとしているのであるが──
「ッ……ミコちゃん、下がってて」
「下がるって……どうするつもりだ!?」
「俺はもう長くない。だから──最後に、出来る事をやるよ」
崩れ行く部屋の中。
ロータスは、残った腕でボールを取り出すと、先ずは妾の本体を納めた。
「ま、待て、どうするつもりだ!? 妾は──」
そして妾の義体を担ぎ上げる。
英雄らしい、がっしりとした体だった。
「一緒に逃げれば良いだろう!? あいつは、何処かへ行くのだぞ!?」
「仮に移動しても、あいつは何時でもこの世界に戻って来れる。そうなったら災いを起こす……俺が止めなきゃ」
「止める!? どうするつもりだ!? おい、答えろ!! 返事をしろ、ロータス!! おいっ!!」
ロータスは──動けない妾を、投げ飛ばした。
次の瞬間、光の輪は──フーパとロータスを飲み込んだ。
「ごめんね」
最後にあやつは、そう言った気がした。
崩れ落ちる部屋の中。
残っていたのは、妾だけだった。
「っ……ロータス?」
名前を呼んでも、誰も答えはしない。
ただ、ただ、部屋の中は静かだった。
「ロータス? ロータス? 何処へ行ったロータス?」
呼んでも、もう戻って来はしなかった。
「嫌だ、嫌だ嫌だ……また、妾を置いていくのか!? 妾だけ残すのか!?」
「最期くらい、看取らせろっ!! 何が長くない、だ……!! 何処までも、何処までも手前勝手な……ッ!!」
「戻って来い、戻って来い、ロータス……!! これでは、妾は、また、ひとりではないか……!!」
「うああああああ……!! あッ……あああああ……!!」
機械の身体では、あやつを想う涙など流せはしなかった。
それが、妾には酷く、酷く悔しくて、仕方が無かった。
※※※
「……それが、10年前に起きた出来事の全容だ」
「ッ……」
イクサ達は、黙ってそれを聞いていることしか出来なかった。
ミコが味わった二度の喪失。
そして、オーラギアスの恐ろしさ。
彼らには、今から立ち向かおうとしているものが、どれほど大きなものかを──思い知らせるには十二分だった。
「結局、妾はひとりになってしまった。アテも無く。目的も無く。旅を続けて、そのうち──この義体も経年劣化で動かなくなってしまった」
「そして、コナツに拾われて今に至る、ってわけだね」
「うむ……」
「何それ!! 今の話、滅茶苦茶頭きた!! アカシア最悪!! ミコっち可哀想!!」
「ミコっち……!?」
「ボク、やっぱり今から殴りこんで来る!! いこっ、ミミロップ!!」
「待て待て待って!! デジー落ち着いてぇ!!」
「誰かこの暴走ウサギを止めるデース!!」
(オーガポンの話の真相を聞いた時の某人と、反応がそっくりすぎる……)
飛び出そうとするデジーを無理矢理抑えつけ、席につかせるイクサ。
「でも、あったまくるのは……ロータスもだよ。ミコちゃんを置いて、一人で出ていっちゃうなんて」
「自分が長くないから、別の世界でフーパをどうにかしても、よく知らない世界にミコさんを置いていくのを分かってたんじゃないかな」
多分、僕でも同じことをすると思う、とイクサが付け加えると──デジーは思いっきり彼を睨み付けた。
「ダメだよ転校生!! もしロータスと同じことしたら、ボク一生恨むから!!」
「わ、分かってるよ、そうならないように、今から僕らで何とかするんじゃないか」
「……どっちにしてもクラウングループの計画は分かったわ。自分達中心の経済圏を作る為に、オシアスや他の地方の経済圏を徹底的にオーラギアスで破壊する」
「最悪デスね……大迷惑も良い所デース」
「それと、今の話で一つ気になったことがあるんだけど」
「妾からオマエに問おう。レックウザのオーカード。どうしてオマエが持っている?」
「……子供の頃、見知らぬお兄さんから貰ったんだ」
それがポケモンを知るきっかけとなった鉄製のカード。
当時の記憶は朧げにしか残っていないが、ずっと宝物としてイクサは大事にしていた。
だが、ある日、その宝物は突如として現れた謎の「手」によって奪われることになる。
それを追いかけて、イクサはこの世界へとやってきた。
「だが、イクサ。お前を連れてきたのは……やはり」
「レックウザのオーカードを取ろうとした手は、金の輪から現れたんです。あれはやっぱりフーパのものだったんじゃないかって」
「でも待つデス!! 推定すると、イクサの元居た世界で、ロータスに何とか抑え込まれたんデスよね? 何で金の輪が発生するデス!?」
「……あるいは抑え込めなかったのか」
「でも、そうなると僕の世界はフーパで滅茶苦茶になっててもおかしくないです」
「そうなるな……フーパは何処へ消えた? 何故今更イクサを連れてきた?」
「こういう可能性も考えられるわ。事実、イクサ君の他にも別世界から人が迷い込む事案は幾つかオシアスで発生してたの。地下迷宮に封じられてるフーパの力は今も健在で……他所の世界から人を呼び寄せてたんじゃないかしら」
「でも、それは石像のフーパがやったんじゃないデスか?」
「いいえ。クラウングループがオシアスに上陸する前からずっと、よ。そして皆言ってるらしいわ。”金の輪”を見た、って」
「そうだな。ロータスも言っていた。金の輪で世界を渡って来たと」
──つまり、現在フーパは別たれ、二つ存在する。
1つは、オシアスの地下と一体化したフーパの理性の部分、即ちフーパAと仮称した。
1つは、抜け殻に怨念が籠った影の部分、即ちフーパBと仮称した。
フーパBはクラウングループに捕らえられ、実験と称して異空間から物質を呼び寄せていた。
だが、クラウングループがオシアスに上陸するその前から、金の輪による転移事件は起きていたし、フーパBが別世界へ行った後も転移事件は起きている。
「私はこう推定してる。地下迷宮となったフーパAが、イクサ君を呼び寄せた」
「何のためにデス?」
「分からないわね。そもそも、異世界に行ったフーパBがどうなったのかも分からない」
「だが、もしもロータスがフーパを何らかの手で無力化出来なかったならば、イクサが元々居た世界は滅茶苦茶になっているはずだ」
「でも、そうなってないって事は……フーパはロータスさんに封じ込められた。……何処に?」
「モンスターボールを使ってフーパを封じたのデショウか? でも、大人しく入るようなポケモンとは思えないデスね……」
「分からぬ。だが、あいつは元居た世界で様々な不思議な術を身に着けていたらしい。どうにかしたと思いたいが」
「現状は何処まで行っても仮説止まりですね……」
「いや、確かめる術ならばある」
ミコは──イクサの額をこんこん、と小突いた。
「……イクサよ。オマエの記憶の中、妾が覗いてくれる」
「え?」
「……一緒に来て貰うぞ」
ミコの眼が光る。
次の瞬間、イクサの意識は一瞬で刈り取られ、そのまま倒れ込む。
それを受け止めたのは、レモンだった。
「ちょっと、貴女!! イクサ君に一体何を!!」
「ねえレモン! ミコも、動かなくなっちゃったデース!!」
「……これって、前にトトさんがやってた……」
「人の頭を覗き見る趣味の悪い技ね」
「言い方!!」
※※※
「……いててて、僕は一体……」
「イクサよ。お前の中は……どうなっておるのだ」
イクサはふと辺りを見回すと、真っ白な空間の中に居た。
そして、そこにはミコとオオヒメミコの姿もあった。
だが、その奥からは黒い竜が咆哮を上げながら蜷局を巻いている。
「……僕にも分からなくって……あいつは、僕の欲望の根源だとか何とか」
「……まさか、こんな所に全ての答えがあったとはな」
「え?」
「本当ならば、当時のオマエの記憶を妾の念動力で復元してフーパの行方を知るつもりだった。だが、話はもっと早かったな」
ギィン、とオオヒメミコの眼が光る。
黒い竜は──すぐに形を失い、その真の姿を現す。
「……ロータス。お前は、どうして……こんな事を……ッ!!」
「何で? 何で僕の中にコイツが居るんだ……!?」
「ヴァッハハハハハハハハハハハハ!!」
不気味な笑い声が聞こえてくる。
黒い竜に包まれ、分からなかったそれが幾つもの腕を持つ巨大な魔神となって現れる。
その姿を前にして、流石のイクサもたじろいだ。
「フーパ……じゃないか!!」
【フーパ(ときはなたれしすがた・影) まじんポケモン タイプ:エスパー/悪】
「何で!? 何で僕の中にコイツが居るんですか!? おかしいでしょ!?」
至極真っ当な指摘ではあった。
だが現に、それは明らかにイクサの中の異物として顕現している。
中身から宿主を食い破らんとばかりに。
「妾に分かるか!! ただ言えるのは、こやつはオマエの中に元々居たものなどではない!! 間違いなく、10年前に妾が相対した、欲望と恨みの化身だ!!」
「そんな!? じゃ、じゃあ……ギガオーライズの習得で手間取ったり、僕が同時に二人の女の子を好きになったりしたのもコイツの仕業だったってことですか!?」
「……前者は知らんが、後者はオマエが女たらしの女好きのスケコマシなだけだろう。オマエ、そう言う顔しとるし」
「酷い!! 僕割と本気で悩んだんですよ!?」
「まあ良い。古代オシアスでは多数の
「……だけどあの時の僕とは違うんだ! もう……覚悟を決めたんだ!」
イクサは腰のモンスターボールを取ろうとする。
しかし、そこには何もぶら下がっていない。当然、夢の中にポケモンは持ち込めない。
「どうやって戦うんですか!?」
「はぁーあ……仕方ないのう。1匹だけだが再現できるぞ」
「再現って……!?」
「ゴゴゴオオォォォォーッッッ!! ピピピピ……」
「ッ……!?」
「……オマエの記憶、そして妾の記憶。その両方から作り出せる存在が1匹だけおる」
イクサは言葉を失う。
長らく離れ離れになっていたポケモンの咆哮に、思わず振り返った。
磁気で繋ぎ止められた鋼鉄の球体が、蛇の如く連なった体。
そして見あげる程の巨体。それを前に、イクサは──それが幻と理解していても、呼びかけざるを得なかった。
「……イワツノヅチ……!!」
「ふん。夢の中だが久しいのう、イワツノヅチ。少しだけ妾達に力を貸せ」
「ゴゴゴゴゴォオオオオオーッッッ!!」
イクサは思わず、涙ぐみそうになる。
今何処でどうなっているかも分からない。
だが、それでも、今は共に戦える。
「イワツノヅチ。迎えにいけなくてごめんね。これが終わったら、すぐ助けに行くから!!」
「行くぞ。あやつを捻じ伏せるのだ!!」
「うんっ!!」
【フーパが 現れた!!】
戦闘開始、と共にオオヒメミコとイワツノヅチの身体にオシアス磁気が迸る。
特性・オーライジングで防御と特防が上昇し、守りはより強固となる。
だが、それを貫く勢いでフーパは周囲に大量の金の輪を展開した。
【フーパの いじげんラッシュ!!】
オオヒメミコも、イワツノヅチもその攻撃に対応することが出来なかった。
不意に現れた拳を前に、その身体は打ちのめされていく。
だが、オオヒメミコを庇うようにして包み込んだイワツノヅチは、飛んできた腕の一つに噛みつくと──思いっきりオシアス磁気を流し込んだ。
堪らずフーパは、腕を全て自分の下に呼び寄せ、再び警戒態勢を取る。
「ほう、やるではないか! 流石ノヅチ、文字通り鋼鉄の騎士だのう!!」
「行くよイワツノヅチ。”アイアンヘッド”!!」
ばしん、と尻尾で思いっきり地面を叩いたイワツノヅチはフーパに飛び掛かる。
だが、それでさえも金の輪で転移させた己の腕でフーパは迎え撃とうとする。
しかし──
「そのままバラバラに!!」
──イワツノヅチの身体は突如空中で分解され、そのままそれぞれの拳を迎え撃つかのように球体の節がぶつかっていく。
最後に頭部だけが、思いっきりフーパにぶつかったのだった。
「ヴァァッ!?」
「そして妾も守られるだけではないぞ」
極光がフーパ目掛けてぶつけられる。
”ムーンフォース”。
フェアリータイプの技で、最も高威力を誇る、聖なる月の光で相手を浄化する技──堪らず、フーパの身体はぐらり、と傾いた。
「コイツ、明らかに10年前よりも弱いのう! オマエの身体の中に封じられておるからか?」
「何度聞いてもゾッとする……こんなのが居たのをずっと気付かなかったなんて!」
「それはそうだろう。妾でなければ暴けなかったからな!」
「ヴぁ……!!」
ぐらり、と揺らぐフーパ。しかしそれでも、口角は不気味に上がっている。
(フーパは火力こそ異常に高いけど防御面は脆い。何より素早さはハッキリ言って高くない方だ。でも、1つだけ懸念することがあるとするなら──)
【フーパの トリックルーム!!】
次の瞬間、周囲の空間が作り変えられる。
そして、イワツノヅチとオオヒメミコの身体は、鉛でも詰め込んだかのように重くなってしまうのだった。