ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
──全てのオーデータポケモンの母と呼べる存在、それがオーラギアス。
それが目覚めた時、全てのオーデータポケモンもまた、己の根源たるオシアス磁気の顕現を察知する。
赤子が親に逆らう事が出来ないように、オーラギアスの放つオシアス磁気もまた、全てのオーデータポケモンを屈服させるに足る。
だが、それに慣れているはずのオオヒメミコでさえも、今回知覚したオーラギアスの反応は想像を絶するものであった。
そもそも遠くにいるはずのオーラギアスのオシアス磁気を知覚できているのが本来ならばおかしいのである。
完全に何処か諦めた様子で、ミコは言った。
「──お前達はオシアスを去れ」
「えっ……?」
「忠告する。オシアスを去れ。オーラギアスが此処まで活性化してるのは1000年ぶり──いや、それ以上……!? アカシアの奴、オーラギアスに何を食わせた!?」
「どういうことですか……!?」
「……あやつは捕食したものの力を取り込んでどんどん力を増し、己の空腹が満たされるまで食事を続ける。だが、今回のオーラギアスは妾が今まで知覚した中で最大級の力を発揮しておる……!!」
「で、でも、止めないとオシアスは……!!」
「異常事態と言っておる──ッ!! 捕食を終えたオーラギアスは間もなく他の地方を喰らうだろう。だが、
「ッ……止まるって、その時には……もうオシアスは」
「あやつは、食欲……つまり捕食衝動で動いておる。満腹になれば、活動を停止する。そうなれば、捕獲は容易い!」
「バカ言わないで下さい、その間にオシアスが……周りの地方が滅びるっていうんでしょう!?」
「……」
ミコは黙りこくる。
そして──呟いた。
「逃げろ。食われたくなければな。妾は一足先に失礼するぞ」
──ミコは、飛行船の柵によじ登ると、そのまま空へと飛ぶ。
同じくして飛び立ったオオヒメミコに跨って。
明らかに自殺行為だが、足にサイコパワーを纏う事が出来るオオヒメミコは、空を蹴るようにして下へ、更に下へと降りていく。
一見、一抜けしたかのように見えるミコの行動。
しかしイクサには、どうもそうは思えなかった。
パーモットが──ぐいぐい、とイクサの袖を引っ張り、空の先を指差す。
「無茶だッ!! まさか一人でオーラギアスに挑むつもりか!?」
「ぱもぱもぉっ!!」
「ッ……!!」
すぐさまイクサはスマホロトムを起動。
全体に音声メッセージを付ける。緊急事態用のアラート付きで。
最初に反応したのはレモン、そして眠そうなデジーであった。
「どうしたの!?」
「ミコさんが飛行船から飛び出した──!?」
「はぁ!? どうして!!」
「オーラギアスが目覚めたらしいんです! 今までミコさんが感じた中で一番強い反応だって……!! 僕らには逃げろ、って!! ミコさんはきっと……僕らを逃がして、自分一人でオーラギアスを相手するつもりだ!」
「冗談じゃないわ! イクサ君、追いかけなさい! デジー、何か良い発明は!?」
「こんな事もあろーかとっ! オオヒメミコのボールには発信機を付けてたんだよっ! 転校生のスマホロトムにアプリを送っておくから、それで追跡して! 僕らもすぐ、追いかけるからっ!」
「ありがとうデジー!!」
そう叫んだものの、イクサは生憎空を飛べるポケモンを所持していない。
そう思案していた矢先、ブブブと羽音を立てて甲板から何かが飛んでくる。
「──ゼラ先輩っ!!」
「こいつに乗れ」
いつものようにライドギアでぶら下がりながら浮遊するゼラがボールを落としてくる。
そこから飛び出したのは、エアームド。鋼の翼を持つ鳥ポケモンだ。
「ライドギアの使い方は前に教えたはずだ、行くぞッ」
「はいっ!!」
エアームドに飛び乗るイクサ。
よく人に慣れているのか、跨るとそのまま甲高く鳴き、急降下するのだった。
瞬間移動しながら下へ下へと飛んでいるオオヒメミコだが、それでも姿は見える。
「エアームド頼む! あの子を追いかけてっ!」
「キシャァァァーンッ!!」
※※※
「な、なんだあれ……!?」
──辿り着いたのは、荒れた渓谷。
そして、ミコもまた、そこに向かっているのが見えた。
エアームドは急加速し、オオヒメミコに近付いていく。
鬱陶しそうにミコは後ろに近付くイクサに向かって叫んだ。
「何故、妾を追う……ッ!!」
「止まってくれっ!! 君だけじゃオーラギアスには勝てないっ!! それに、君はまだ僕達に喋ってない事があるだろうっ!?」
「悪い事は言わん、オシアスから去れッ!!」
難なく地上に着地したオオヒメミコ。
そして、エアームドもまた、標的が降りたのを見てか地面に着地する。
その勢いに耐えながらも、イクサはそのままライドギアを外して、ミコと相対するのだった。
「妾の邪魔をするなッ!!」
「この先に、オーラギアスが居るんだよね!?」
「ああそうだッ!! 死ぬぞッ!! 皆ッ!!」
「死なないッ!! その為に、強くなったんだッ!!」
「オマエはオーラギアスの恐ろしさを見たことがないから、そのような事が言えるのだッ!!」
「知っていても、逃げないッ!! ミコさんだって今、そうしてるだろ!?」
「ッ……」
イクサはぜぇぜぇ、と肩で息をしながら──まくしたてる。
「前に……助けてくれたよね」
「……」
「ザザの地下迷宮で、倒れてた僕達を……っ」
「……フン、覚えとらんわ」
「何で、助けてくれたの? 見ず知らずの、僕達を」
「覚えておらぬッ!! 妾はこのまま逃げる。オマエ達も逃げろと言っているッ!!」
間違いない、とイクサは言い切れる。
あの時は意識も朦朧としていたが、彼女の姿を見て尚、記憶はハッキリと蘇った。
「……今度は僕が、ミコさんを助ける番だ」
「ッ……だからイヤだったのだ。貸しを作る為に助けたのではない」
「貸し借りなんかじゃないよ。1人で出来ない事も、皆と一緒なら……出来るんだ。そうやって、僕らは危機を今まで乗り越えてきたんだ」
「……お前達では無理だ」
「無理かどうかなんて、やってみなきゃ分からないだろ!?」
「オーラギアスは……それほどまでに、強大だッ!! お前達ではムリだッ!!」
「あら、そうでもないかもよ?」
空から声が聞こえてくる。
デリバード、ゴビット、そして──またデリバード。
ライドギアを駆使して華麗に着地したバジルに、ロケット噴射で着地するゴビットとデジー。
遅れてレモンもまた、2匹目のデリバードのライドギアを外し、地面に降りる。
「メタモン、Thank you!!」
バジルが叫ぶと、べちゃべちゃと音を立てて2匹目のデリバードは元のアメーバ状のポケモンに戻った。
メタモンの変身能力で空を飛べるポケモンの数を増やしたのだ。
「全く、飛行船から落っこちるハメになるなんて思わなかったよーっ!!」
「デモ、空の旅は楽しかったデショ?」
「……しばらくはごめんだ。飛行船の上から地上にダイブはな」
「まあ良いわ。これで久々に、サンダー寮推薦組、勢ぞろいじゃない?」
5人を前にしたミコは──これ以上は逃げられないと悟ったのか、首を横に振った。
彼らの意思を曲げることは出来ない、と。
「……はぁ、揃いも揃って愚か者ばかりだ。全く以て辟易するわい」
「クラウングループの野望を潰せるチャンス。この私が逃すわけがないでしょう?」
心底愉快そうにレモンが言った。
やられたら徹底的にやり返す。
そして、敵の最期があるならばこの眼で見ねば気が済まない。
レモン・シトラスはそういう少女なのである。
「オマエ達は奴らの恐ろしさを知らんから、そんな事が言えるのだ。レモンと言ったか? オマエは、ポケモンを持っておらぬ。場違いも良い所だ」
「相棒の電球蛇が捕まってるの。助けたいのよ」
「……ハタタカガチか。オマエ、あやつに性の根がよーく似とるわ」
「どっちにしたって、抜け駆けはダメっ! 面白そうなこと、ボクにもやらせてよっ!」
「諦めてくだサイ。私達、こういうクセ者の集まりなのデスよ!」
一番のクセ者が何か言っている。
「というわけだ。僕達は君と一緒に行くよ。オーラギアスを相手にするには十二分な戦力だと思うけどね」
「悪いが、妾にも意地があるのでな」
ミコは首を振る。
彼女にも、彼女の決意がある。
そしてオーラギアスの恐ろしさを知っているのは自分だ、という自負もある。
「イクサよ、妾と相まみえよッ!!」
「っ……」
「妾を従えたいならば、力づくで従わせてみせよッ!!」
「ッ……その方がやっぱり手っ取り早いみたいだね」
「あの迷宮でボロ雑巾になっていた頃と何も変わってないとは言わせるなよ」
ミコが目をつぶると、三角形のディスクが彼女の胸から飛び出し、オオヒメミコの胸に宛がわれる。
その瞬間、バチンとオーデータポケモンの瞳から紫電が漏れ出すのだった。
【野生の オオヒメミコが現れた!!】
「くえすぱっ!! くしゃとりゃっ!!」
一気に地面を蹴り、オオヒメミコは駆け出す。
前にファウントタウンで戦った時とは、比べ物にならない程のサイコパワーを足に纏わせて。
それに対し、イクサが繰り出すのは──タイプが同じサーナイトだ。
「──サーナイトッ!! シャドーボールッ!!」
「るーっ!!」
「くえすぱっ!!」
互いにシャドーボールの弾幕の撃ち合いとなる。
弾幕と弾幕は打ち消し合い、互いの本体を狙い合うが、その殆どが相殺される。
しかし巻き上がった砂煙の中から飛び出したのはオオヒメミコの方だった。
その眼が光り、辺りから刺すような光線が次々にサーナイト目掛けて降りかかる。
全て、彼女の鋼の如き翼から射出され、辺りの岩に跳ね返ったものであった。
【オオヒメミコの サイコイレイザー!!】
雨のような光線を次々に躱すサーナイト。
今度は反撃の為、直接オオヒメミコの身体を”サイコキネシス”で止めた。
だが、それでも尚、サイコイレイザーは降ることをやめない。
サーナイトの身体を突き刺し、そのまま爆ぜる──
「サーナイトっ!!」
「ほれ見た事か。何ともまあ脆い事かッ!!」
倒れ伏せた彼女に”シャドーボール”が降りかかる。
爆風を前に、イクサは腕で顔を覆う事しか出来なかった。
しばらくすれば、そこにはグロッキーなサーナイトがふらふら、とよろめいていた。
「……イクサよ。オマエに夢はあるか?」
「ッ……夢?」
「……オマエにもあるだろう。将来叶えたい夢が。希望がッ!! ……
何処か浸るように、ミコは語る。
「……いや、今となっては全部泡沫か。オマエにも夢があるならば、確実に生き延びる道を行くべきだ。オマエは若い。命を投げ捨てるな」
「それで、ミコさんは……どうなるの?」
「脆弱な人間に気遣われるような設計はしとらんわ」
「僕の……夢」
ぐっ、と己の左胸を握り締めながら、イクサは叫ぶ。
「この世界のッ!! まだ知らないポケモンに、沢山出会う事ッ!!」
「──ッ!」
「皆で学園に戻って、レモンさんに勝って、学園で一番強いトレーナーになる事ッ!!」
「イクサ君……!」
「デジーの発明が世界を変える所だって見てみたいし、どっかの先輩たちのじれったい恋模様が進むのだってまだ見てない」
「? いきなり誰の事デス?」
「……さあな」
「沢山、沢山やりたいことがあるッ!! でも、それは──このオシアスが無くなったら、出来なくなってしまうこともあるんだ──ッ!!」
サーナイトも──ふっ、と笑みを浮かべ、立ち上がる。
「僕は、ポケモン達と、まだ叶えてない夢を沢山叶えたい。だからこそ、オーラギアスもクラウングループも、止めなきゃいけないんだッ!!」
「聞き訳が無いな……ッ!!」
「百も承知だッ!! だって僕は──迷宮の奥の奥のその先ッ!! レックウザだって、この手で捕まえてみせると決めたからッ!!」
イクサの表情に、再び光が灯る。
底知れぬ欲望。だが、それは彼に──生きる希望を、戦う意味さえも与えてみせる。
「レックウザ──?」
「ああそうだ、ミコさん。迷宮の奥にはレックウザが居るんだッ!! オーカードに記録されてたから、間違いない──居るんだよ、伝説のポケモンがッ!!」
「……何故知っておる」
「……え?」
ミコは、心底冷え切った声で言った。
「何故オマエが──
オオヒメミコの攻撃が一層激しくなる。
サーナイトは咄嗟に”ひかりのかべ”を展開したが、とてもではないが、抑えきれない。
「妾とあやつ以外知らぬはずだッ!! 何故オマエがレックウザの事を──!?」
「ミコさん、何か知ってるの!?」
「オマエに話す道理など一つも無いわッ!!」
「大事なことは──言わなきゃ、分からないだろッ!!」
イクサは──とうとうオーカードを取り出し、ギガオージュエルに翳す。
オオヒメミコは、特性で防御も特防も上昇している。
火力で押し切らなければ、負けるのはこっちの方だ。
「──ギガオーライズだ!! サーナイトッ!!」
イクサの叫びに応えるようにして──サーナイトの姿が変わる。
【サーナイト<ギガオーライズ> タイプ:エスパー/フェアリー】
黒いドレスに身を包み込み、ヴェールを被った守護精霊が、そこに現れた。
すぐさま、降り注ぐ光線の雨を、更に強化された光の盾で──防ぎ、弾ききってみせる。
その光景を見て、さしものゼラも表情が変わる。
「ギガオーライズ──話には聞いていたが」
「来た来たーっ!! やっちゃえ、転校生ーっ!!」
「これなら、オーデータポケモン相手でも負けないデース!!」
「ッ……イクサ君。長丁場はキケンよ!! 押し切りなさいッ!!」
「言われなくてもーっ!!」
瞬間移動しようとするオオヒメミコ。
しかし、もう足は動く事は無かった。
サーナイトが地面に造り出した重力場が、彼女の脚を捕らえてしまったのである。サーナイトは主人を守る為ならブラックホールも作れるポケモン。重力場を操ることくらい造作もない。
「教えてよ、ミコさんの事をッ!! 僕は知りたいんだッ!!」
「ッ……!」
「全てのきっかけは、
サーナイトが腕を振り上げると、更に巨大な守護精霊が現れる。
そして、オオヒメミコに向かって、清浄の光を打ち下ろす──
「オオワザ──”ルインオブフォース”ッ!!」
サーナイト、そして守護精霊が同時に放つ光の柱。
それがオオヒメミコを包み込む。
地面を抉るほどの威力の光と熱が、オーデータポケモンの身体を焼く。
「ッ……見事なオオワザだ……!!」
「よっし……ッ!!」
光が晴れた時。
オオヒメミコはがくりと項垂れていた。
そして、ミコもまた──膝を突く。
三角形のディスクがロボットの身体に戻っていき、そしてオオヒメミコはそのままボールの中へと戻ってしまうのだった。
「っ……ミコさん!! 大丈夫なの!?」
「……はん、流石に今のは堪えたわい」
「すぐに回復するわ」
「……やれやれだ。結局、こうなってしまうか。こうなってしまう……気がしたのよなあ」
何処か諦めた様子で、ミコは大の字になって寝そべった。
「……許せ