ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第116話:堕ちぬ明星

 ※※※

 

 

 

 ──ヨイノマガンからすれば、小さきポケモンと人間が幾ら束になって掛かって来ようが同じであった。

 まるで、死骸に集る虫ポケモンの如く。振り払えば落ちる、か弱く、か細い存在でしかない。

 故に。

 

「ケェェェレェェェェスゥゥゥゥ!!」

 

 ”ふうとん・つむじ”。

 ヨイノマガンが羽ばたけば、砂嵐が巻き起こるのみ。

 近付いてきたクワガノンも、デリバードも、ソウブレイズも、全て巻き上げて、そして地面に叩き落とす。

 竜巻を軽く巻き上げてやれば、ぐるぐると回り、あっさりと地面に落ちてしまう。

 なんとまあ小さい生き物だろうか。なんとまあひ弱な生き物だろうか。

 ヨイノマガンは邪魔な虫たちを片付けた後、そのまま子機たちを引き連れて迫ろうとしたその時だった。

 

「ケッ──!?」

 

 ──ぐらり、と身体が揺れた。 

 埒外からの集中砲火。体中に迸る電撃。鋼鉄の剣による斬撃。そして猛吹雪。

 巨体が砂漠に沈む。

 魔眼で辺りを見回すが、標的は居ない。

 すぐさま──ヨイノマガンは、自らの見えている景色を疑った。

 辺りの物全てを吹き飛ばす勢いで咆哮してみせると──視界が歪み、靄が払われる。

 撃ち落として地面に転がっているはずのデリバードが、クワガノンが、そしてソウブレイズの姿が見当たらない。

 そればかりか、ヨイノマガンは自らが把握していた敵の位置が──つまり、視覚情報が全て()()()()()()事に気付いた。

 迫ってくる。何かが物凄い勢いで、砂に沈んだ自らの身体に──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ──ゾロアークというポケモンが居る。

 バジルが丹精込めて育成していたゾロアの進化形だ。

 その幻術は、広範囲に及び、何百人もの人間に対して幻影を見せる程である。

 故に、相手がたかだか巨大なだけのポケモン一匹であれば、幻影を少しの間見せるのは造作もないことであった。

 地上に待機していたゾロアークは、ヨイノマガンの背後から近づくと、すぐさま幻術を掛ける。

 目的は──バジルたちの位置を誤認させて、攻撃の軌道をずらす事。

 案の定、ゾロアークの幻影に引っ掛かったヨイノマガンは明後日の方向に攻撃を仕掛けた。

 それが集中砲火の隙を生むことになったのである。

 

「──ソウブレイズ、”アイアンヘッド”!!」

「──クワガノン、”10まんボルト”弾頭ッ!!」

「──デリバード、”ふぶき”デース!!」

 

 本体へ一気に接近した3匹は、最大火力の攻撃を叩き込む。

 眼を攻撃されれば集中は解け、技も止む。

 そうなれば流石のヨイノマガンも怯み、地面へと落っこちてしまうのだった。

 だが、それだけではヨイノマガンは周囲の砂を取り込むことで再び体力を回復してしまう。

 故に──イクサはトドメの一撃をコナツに任せたのである。

 

「確かにお前は砂漠の中じゃ無敵だ。だけど……」

 

 ヨイノマガンは地面に落ちた後、周囲の砂が湿りを帯びていることに気付いた。

 そして、自らの身体も水気を帯び──徐々に濡れて固まった泥へと変わっていることに気付く。

 

「ケッ、ケレ、ケレ──!?」

 

 産まれて初めて、ヨイノマガンは明確に”恐怖”というものを思い知ることになる。

 今までのように体を再生させようとするが、辺りは既に泥地と化しており、砂を供給する事が出来ない。 

 そればかりか、自分の身体を這うようにして昇ってくる何かによって、自らの身体も泥と化しており、サイコパワーを上手く伝達させる事が出来ないがために飛べない。

 

「──イダイトウちゃんっ!! 目指すはてっぺん、ですよぉっ!!」

「どろっしゃらぁっ!!」

 

 砂漠のヌシに抗うは、泥にまみれた大河のヌシと、騎乗するキャプテン。

 その力は、進む場所全てをぬめりと湿りを帯びた泥地へと変えることだ。

 ヨイノマガン攻略の上で必須なのは、ヨイノマガンの再生能力を封じる事であった。

 その上で必須となったのは──イダイトウである。

 イダイトウは、アケノヤイバとは違い、そこまで長い間オシアス磁気に侵されていたわけではなかったからか、戦闘後に”げんきのかたまり”をあげると直ぐに元のように元気になったのである。

 

「だから、ヨイノマガンを攻略するには……イダイトウ、そしてそれを従えられるコナツさんが必須……!!」

「砂地を泥地に変えれば、もう砂を吸って回復は出来ないデース!!」

「……後は、貫くだけだ。奴の本体を」

 

 砂漠においては無敵のヨイノマガンも、泥地では只の巨大な鳥もどきでしかない。

 追い払おうと砂嵐を巻き起こそうとするが、身体を”泳いで”本体へと近づくイダイトウに当たるはずもなかった。

 

「ケッ、ケレ、ケェェェレェェェスゥゥゥーッッッ!!」

 

 とうとう、ヨイノマガンは周囲の光を全て収束させ、再びオオワザを放つ準備に入る。

 体を泳いでよじ登ってくるイダイトウを焼き焦がすべく、自分の身体諸共消し飛ばす勢いで光線を放つために。

 どうせ身体が欠けようが、消し飛ぼうが、本体の魔眼さえ無事であればヨイノマガンは痛くも痒くもない。

 辺りは再び暗闇に包まれ、ヨイノマガンに光が集まっていく──

 

「──させませんっ……もう、終わりにしますっ!! こんな悲しいバトルはっ!!」

「どろっしゃらぁっ!!」

「……イダイトウちゃん。復活早々、キツいかもだけど……行きますよっ!!」

 

 コナツの右手首には──黒いオージュエルが嵌められていた。

 出発する前にデジーから貸し与えられていたものだ。

 そして、イダイトウのオーカードを取り出すと──それを翳す。

 

 

 

「……相手がどんなに強大でも、私はもう……逃げない。諦めませんっ!! ギガオーライズッ!!」

 

 

 

 ヨイノマガンは思わず、集光を止めた。

 自らの目が眩むほどの光が放たれたからである。

 そして次の瞬間には──全身にオーラの鎧を纏い、更に尾には何匹ものバスラオの形となった蠢く泥を従えたイダイトウが、迫りくる。

 

【イダイトウ<ギガオーライズ> タイプ:水/地面】

 

「バッシャラァァァァーッ!!」

 

 元々、きずなリンクの修行をしていたコナツにとって、ギガオーライズを一発で成功させるのは容易なことであった。

 覚悟を決めたコナツとイダイトウの右目からは紫電が迸っており、滝を登るかのようにヨイノマガンの身体を更に遡っていく。

 そうすると、身体の中を占める砂の割合はどんどん減っていき、ヨイノマガンの力もまた弱まっていく。

 だが、光が集められている本体の魔眼だけは話が別であった。

 光を限界まで集め切れば、さっきの極大レーザー砲”たそがれのざんこう”がコナツを焼き焦がすであろうことは誰の目にも明白だった。

 故に、オオワザが発動する前に、此方がヨイノマガンを完全に倒すしかない。

 

「オオワザ──”でいねい・どろらせん”!!」

 

 イダイトウの身体から大量の泥が溢れ、ヨイノマガンの身体を侵食していく。

 そして、勢いづいたイダイトウは、更に加速していき、遂にヨイノマガンのてっぺんをも追い越して天へと飛び出した。

 当然、敵方からすれば好機。空は逃げ場がない。すぐさま完全に溜めた光をイダイトウに向かって解き放つヨイノマガンであったが──次の瞬間、体中に纏わりついた泥が、まるで爆薬の如く爆ぜる。

 

「ケレッ……!?」

 

 無理もなかった。

 巨体を砂で固めて維持していたヨイノマガンの身体は、既にその殆どが泥と化していた。

 砂を自らの身体の如く扱う事が出来る砂漠のヌシにとって、身体が泥に置き換えられるのは、自分が自分でなくなるのと同義。

 泥にサイコパワーは通らず、身体は──自然に崩壊するしかない。

 ”たそがれのざんこう”は放たれたものの、身体が崩れた勢いで明後日の方向へと飛んで行く。

 そして、イダイトウは尻尾を振るい、天から大質量の泥の柱を降らせるのだった。

 それはヨイノマガンの塔の如き頭を押し潰し、圧し折った。そして全身が泥によって浸食された砂漠のヌシは沈黙。

 大きな音を立てて、その場に倒れたのだった。

 

「や、やった……やり……ました……ッ!!」

 

 オオワザの反動によって疲労感に襲われるコナツとイダイトウは、無事に泥地の上に着地する。

 だが、初めてのギガオーライズに加え、それまでの戦闘での疲労もあってか、彼女はイダイトウの上に突っ伏すようにして倒れてしまうのだった。

 すぐさまそれを見たイクサは、ソウブレイズと共に彼女に駆け付ける。

 

「コナツさん、しっかりっ!! しっかりしてっ!!」

「……イクサ、さん」

 

 彼女は泥まみれではあったが、何処か満ち足りたようにイクサの顔を見あげる。

 

「……私も、イクサさんや、デジーちゃんみたいに……出来たでしょうか」

「……うん、カッコ良かったよ」

「どろっしゃぁ……」

「……イダイトウちゃんも、ごめんなさいね。疲れてるのに……」

「どろっしゃぁ!」

 

 平気だ、と言わんばかりにイダイトウは吼える。

 既にギガオーライズは解除されていた。

 

「……ねえ、イクサさんはやっぱり……凄かった。こんな戦いを、今まで何度も乗り越えてきて……私なんて、これだけでヘトヘトで」

「比べるもんじゃないよ。それに、コナツさんが居なかったらヨイノマガンは倒せなかった」

「……ふふっ。そういうところが、デジーちゃんを引っ掛けたんですね。悪い人です」

「そうかなあ……と、とにかくっ。後はバジル先輩とゼラ先輩に任せよう。二人ならすぐ、ヨイノマガンの本体を探せるよ」

 

 後は、ボールに納めて捕獲するだけであった。

 ヨイノマガンが巨体を再構成する様子はない。完全に力尽きてしまったのだろう、とイクサは判断する。

 とはいえ猶予はない。辺りは泥地になっているが、イダイトウの能力によるものなので、いずれは砂漠に戻ってしまうからだ。

 

「あいつ、どの辺に落ちたデース!?」

「確か本体はこの辺りだったはずだが……」

 

 故にゼラとバジルが、本体が落ちたと思しき場所を血眼になって探す。

 デリバードとクワガノンならば、上空から探す事が出来るからだ。

 そんな訳で、漸くバジルとゼラは頭頂部と思しき部分を発見する。

 となれば、何処かに力尽きたヨイノマガンの本体──つまり魔眼が転がっているので、すぐさま飛び降りたバジルは泥まみれになりながらそれを探すのだった。

 同じくゼラも、降り立ち、魔眼を探す。

 

「それにしても先パイ、ヨイノマガンってボールに収まるんデスかね?」

「さあな。収まるとすれば、案外その魔眼とやらだけかもしれん」

 

 現に、ヨイノマガンの砂の身体はバラバラに崩れてしまっている。

 おまけにその全てが砂で出来ている以上、”身体”と言えるのかも疑わしい。

 そのことからゼラは、ヨイノマガンのヨイノマガンたる部分は、本体である”魔眼”のみではないかと考える。

 

「だが倒してしまったとなると面倒だ」

「ポケモンはちっちゃくなっちゃうデスからね……リスポーンを待つデス?」

「冗談じゃない」

 

 復活した途端、ヨイノマガンが再び周囲の砂を巻き込んで巨体で顕現することは確実であった。

 ゼラとしても、二度とあれを相手にするのはゴメンである。

 

「デスよねー……あっ、あったデース!!」

「何」

 

 バジルは目を輝かせる。

 泥の中に、丸っこい岩のようなものが埋まっている。

 明らかに砂漠とも泥地とも無縁そうな岩。

 これこそ、ヨイノマガンの本体である”魔眼”であることは疑うべくもなかった。

 だが、元々ヨイノマガンが巨大故か、魔眼もまた巨大。直径2メートルほどの巨大な岩であった。

 

「こいつか。動く様子がないが、ボールに入れるか」

「……死んでないデスよね?」

「1000年間生きてきたバケモノだぞ。これくらいで死ぬとは……」

 

 そう言ってゼラがボールを構えた時であった。

 

 

 

「ケレス」

 

 

 

 何処からともなく、そんな声が聞こえた気がした。

 そして、魔眼は突如として空中に浮かび上がる。

 二人は仰天して、ボールを構えたが──もう遅かった。

 魔眼──もとい魔岩からは、翼、足、尾、そして──あの塔の如き突起が生える。

 その姿は、まるで全身が岩になったシンボラーとでも言わんばかりであった。

 

「な、ななな、まだ動けたデース!?」

「ッ!! いかんクワガノン、”10まんボル”──」

 

 

 

 

「ケレス」

 

【ヨイノマガンの ふうとん・つむじ!!】

 

 

 

 

 竜巻が巻き起こる。

 クワガノンが電撃を充填するよりも遥かに早い。

 スケールこそ小さくなっているが、その風圧は並大抵のポケモンが踏ん張れるものではない。

 無論、人間であれば塵の如く飛ばされてしまうだろう。ゼラとバジルの二人は巻き上げられ、クワガノンとデリバードも、そのまま吹き飛ばされてしまうのだった。

 そうして、敵達が動かなくなったのを確認すると、魔眼──もといヨイノマガンは、自らを此処まで追い詰めたイダイトウの位置をサイコパワーで特定する。

 

「ケ レ ス」

 

 そして軽量化した分、今までとは比べ物にならない速度で、その方角目掛けて飛んで行くのだった。

 

「な、なんだったのデース……今の……!?」

「むぅ……!!」

 

 這う這うでバジルは、ヨイノマガンの背に向かって指差す。

 いずれにせよ──放置はできない。

 まだ、明星は堕ちていない。

 しかし、ポケモンの技をモロに喰らってしまった二人は、身体を打ち付けたダメージもあってか、しばらくその場から動くことが出来ないのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 異変は、すぐさまイクサにも伝わった。

 ヨイノマガンは倒した。

 そのはずなのに──何かが砂嵐を伴ってやってくる。

 胸騒ぎが止まらない。イクサは、近付いてくるそれを凝視した。

 

「……イダイトウ、コナツさんを頼むよ」

「どろっしゃ……?」

「イクサさん……?」

「何か来てる」

 

 イクサは思わずボールを握る。

 そして──答え合わせをするように、インカムから甲高い声が飛んできた。

 

『イクサ君、聞こえる!?』

「レモンさん!?」

『今そっちに迫ってるのは……ヨイノマガンの本体よ!!』

「本体!? 本体って、あいつの目ですよね!?」

『何が起こったのか私にも分からないけど……私達は今まで勘違いしてたみたいね』

 

 ヨイノマガンは、全長が20メートルのシンボラーの形状をした砂のポケモンであり、その本体はシンボラーの目に当たる部分である。

 それが今まで考えられていた定説であった。しかし、実際はそれだけでは不十分だったのである。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これまで確認されていた姿は砂によって作られた居城……もとい虚城でしかなかったということである。

 

『バジルとゼラがやられた……今戦えるのは貴方だけ──』

「ッ……ウッソだろ」

 

 イクサは、口角を無理矢理釣り上げる。

 レモンが言い終わる前に、それはすぐさま姿を現した。

 全身が岩で出来た身体を持つシンボラーに酷似したポケモン。

 砂漠のヌシの真の姿。

 

 

 

「ケ レ ス」

 

【ヨイノマガン みょうじょうポケモン タイプ:岩/飛行】

 

 

 

 それは、()()()()であり──()()()()だったのだ、とイクサは改めて突きつけられたのだった。

 

「……もうひと踏ん張りか。君も……なかなか倒れないね」

 

 コナツを庇うようにして、イクサは前に進み出る。

 後はこの状況で戦えるのは自分だけ。

 だが、相手ももう後がない状態だ。

 存分に力を出し尽くす事が出来る。

 

「勝負だ、ヨイノマガン。どっちがくたばるか、決めようかじゃないか」

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