ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第115話: 砂塵、吹き荒れて

「メ、メタモンの変身が解けちゃったデース!?」

「ッ……!!」

 

 つぅ、とゼラの額に汗が伝う。

 遠いガラル地方やパルデア地方のレイドバトルでは、超強力なポケモンが此方の能力変化を打ち消す波動を放つ、と。

 ヌシポケモンの放つ咆哮は、それと同質の力。特にヨイノマガンほど強大なポケモンともなれば、それを自在に扱う事も出来る。

 そして最大の問題点は、砂がある限りヨイノマガンは何度でも蘇る点だ。

 本体も回復してしまっている辺り、砂を使って自らの身体を補修する事が出来る、というのが正しいだろう。

 確かにヨイノマガンは長らくオシアス磁気に漬けこまれていたことで狂暴化、沈静化するまでの時間は然程かかりはしない。

 サイコエネルギーを扱うポケモンの常か、精神力が途切れてしまった時点で力尽きてしまうのだ。

 しかし、それまでの間──補給源である砂がある限り、何度でも蘇り続ける。

 そして街に入ったが最後、エナメルシティが砂に埋もれ、()()()()()()()ことは想像に難くない。

 

「でも打ち消せるのは特性だけ! 引き続き、”へんしん”させてヨイノマガンを抑え込むのデース!!」

「めめたぁ……」

「メタモン!?」

「咆哮にはポケモンを委縮させる力があるッ!! 戦線を下げて、生存を優先するッ!!」

「お、オーケーデース!!」

 

 らしくもない大声で叫ぶゼラ。このまま戦えば、前の三人と同じ轍を踏むことになる。

 ポケモンをボールに戻し、二人は全力でその場から離脱する。

 既にヨイノマガンの身体は再構成されており、羽ばたき始めるのだった。 

 砂嵐が吹き荒れる中、二人はクワガノンとデリバードに掴まり、逃げていく。

 

「ケェェエエエレェェェエエエエスゥゥゥゥウウウウウウウウウーッッッ!!」

 

 叫ぶヨイノマガン。 

 今度は、それに呼応するようにして砂漠から何かが生えてくる。

 ゼラとバジルの二人は、ぞっとした。

 シンボラーだ。ヨイノマガンの叫びと共に、シンボラーの姿をした砂人形が次々に現れる。

 このヨイノマガンというポケモン、元々サイゴク地方ではリージョンフォームのシンボラー達を眷属として従えており──自在に言う事を聞かせる事が出来るのだ。

 巨体が足を引っ張り、あまり高速で移動が出来ない自身に代わり、外敵を追撃するための駒として。

 しかしこのオシアスに眷属たちは居ない。故に作りだしたのだ。己のサイコパワーを用いて。

 

「じょ、冗談じゃないデース! 凄い数のシンボラーが湧いて出て来てるデース!!」

「ッ……!! 迎撃する!! クワガノンッ!!」

「ッシャーッ!!」

 

 電撃で1匹1匹、打ち落としていくが、次から次へとシンボラーの砂人形は湧いて出てくる。

 デリバードが”ふぶき”で凍らせても同じ事だ。

 

「こんなのキリがないデース!!」

「……後は引きつけるだけだ」

「本当に大丈夫なのデース!?」

「信じろ。俺達が居なくても戦ってきたアイツらを」

「ッ……そうデスね」

 

(そうだ……信じるしかない。どの道、俺達ではアイツの進軍を止めるのが精々だ)

 

 だから、とゼラは告げる。

 

 

 

「……ヤツを出来るだけ誘き寄せる必要があった。()()()()まで」

 

 

 

 咆哮を上げ、迫るヨイノマガンと子機たち。

 しかし──そこに、突如何かが落ちる。

 頭頂部の本体目掛けて。

 さしものヨイノマガンも、意識の外から襲来したそれを見切る事は出来なかった。

 眼球が貫かれたことで、その身体は再三崩壊し、砂人形たちも崩れ落ちる。

 上空から見下ろす形ではあったが──堂々と砂漠に立つ彼の姿を見て、バジルは──思わずパッと顔を輝かせた。

 

 

 

「──イクサッ!!」

 

 

 

 その声に気付いたのか──呼びかけられた彼も空を見上げる。

 

「バジル先輩……ゼラ先輩! 来てたんですね!?」

「……久しいな」

「良かった、やっと会えたデースっ!!」

 

 手を叩いて喜ぶバジル、思わず口元が綻ぶゼラ。

 見慣れない少女も傍らに立ってはいるが、今は援軍との合流を喜ぶのが先だ。

 イクサの下には、先程ヨイノマガンに奇襲をかけたソウブレイズが、再び影空間を通して戻ってくる。

 ”ゴーストダイブ”によって距離感を無視して強襲を掛けていたのである。

 すぐさま彼の居る地点へ急降下したバジルは、そのまま思いっきりイクサに抱き着いたのだった。

 

「ちょっ、バジル先輩!?」

「ううーっ! イクサーっ! 会いたかったデース!」

「……コイツは何時もお前達の心配をしてたからな」

「く、くるしっ、再会を喜ぶのは後で良いでしょ!?」

「……それと、Youが話に聞いたキャプテンの……話に聞いた通りデスね」

 

 イクサを離すと、今度はバジルの興味はコナツの方に向いたようだった。

 

「え、えーと、何かレモンさんから聞いているのでしょうかぁ?」

「Yes!! 話に聞いた通りの……スケールのデカさ──」

「バジル先輩」

「いっだだ何でもないデース!!」

 

 ぐいぐい、と耳を引っ張られ、バジルは「それよりもっ!」と遠巻きに見えるヨイノマガンを指差す。

 

「勝算はあるのデース!? イクサ!?」

「あるからここに来たんですよ。無くても来ましたけど」

「皆さん、このヨイノマガンを攻略するには……うちのヌシ様の力が必要になると考えます」

「コナツさんとラズ先輩で話してたんです。どうやったらヨイノマガンを倒せるか、って」

「聞かせて貰おうか」

「……ヨイノマガンの強さの殆どは、砂嵐という天候、周辺の環境が砂であることにあるんです。オマケに自前でそれを作り出せる」

「それってどうしようもなくないデス? 天候戦のプロとも言えるシャイン先パイでも勝てなかったんデスよ?」

「あの子が得意とするフィールドが砂漠で、砂嵐なら……勝機はありますよ」

「だが奴は全身が砂で出来ている。そこに砂がある限り、自己再生を続けるぞ」

「だからこそ、です」

 

 コナツは──1つのボールを握り締める。

 

 

 

「……私にしか出来ない事が、あるんです」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「参ったな……奴の眷属、あまりにも数が多すぎる」

 

 

 

 シンボラー型の子機たちが、撤退するシャインたちに襲い掛かる。

 セグレイブが”つららばり”で撃ち落としても撃ち落としても、次から次へと地面から生え、空からは降ってくる。

 未だに目を覚まさないガーベラ、そして体を起こせない博士を抱えたままの戦闘は、苦難そのものであった。

 そんな最中でも、博士はエリマキトカゲのようなポケモンに指示を出し、近付いてくる眷属たちを追い払っているのであったが。

 

「エレザード……”パラボラチャージ”で纏めて落とすんだ」

「エリキリッキィーッ!!」

 

【エレザード はつでんポケモン タイプ:電気/ノーマル】

 

 襟巻がパラボラアンテナの如く広がるエレザードは、太陽の光を浴びることで電力供給が出来る。

 しかし、砂嵐が空を覆う現状では、発電効率は著しく落ちている。

 かと言ってシャインに雪を降らせても状況は変わらない。結局悪天候のままなのだった。

 

「……参ったな。センセイがバテてなけりゃ、こんな砂くれなんてこと無いのに」

「エースが落とされた分は仕方がないッ!! 私もイテツムクロこそ不在だが──その中で最善を尽くすッ!!」

「そうだね。……少々弱気になっていたみたいだ」

 

 イデアは、シャインの方を向く。

 若い力、若い言葉、いつでも彼を元気づけてくれる。

 ……尚、当の本人が未だに全裸であることに目を瞑ればであるが。

 

「……ところで、服を着ないのかい? いい加減に」

「おや、私の美しさに嫉妬しているのかな、イデア博士」

 

(やっばいな、起き上がれてたなら顔面にグーでパンチだったよ)

 

「あの二人の心配なら要らないさ。レモンが認めた特記戦力だからね。バジルとゼラは……そう簡単にやられはしない」

「いや、二人の心配はしてないんだよ、僕がしてんのはコンプライアンスとこの状況の心配」

「そんな事よりイデア博士、ヨイノマガンってのは分身を作る能力も持ってたのかい?」

「……いやぁ、僕も見るのは初めてだ。正直、此処までやるヤツだとは思わなかった。バケモノなのは重々承知してたけどね」

 

 当然である。

 そもそも平時はシンボラー達が居るので、わざわざ分身など作る必要が無かったのだ。

 尤も、ヨイノマガンに駆け巡るサイコパワーではいざやるとなっても、容易くやってのけるのであるが。

 

「ケレス……」

「ケレス……」

 

 次々に迫る子機たち。

 小さいと言えど、やはりそこはヨイノマガンの分身。

 砂竜巻を起こしながら執拗に襲い掛かってくる。

 

「おっと……ガーベラに、妹には近付けさせないよ」

 

 周囲の温度が一気に低下する。

 近付いてきた子機たちは一気に凍えて砕け散るのだった。

 セグレイブがガーベラを、そしてイデア博士を守るように前に立つ。

 

「……ッ」

「勿論、イデア博士。貴方にも、だ。セグレイブ、もう少し耐えられるか!?」

「コォオオオオン!!」

 

(とはいえジリ貧だ。本当は、ヨイノマガンそのものを叩きに行きたいんだけどね)

 

 幾ら倒しても湧いて出てくる子機たち。

 そして体力に限りがあるセグレイブ。

 どっちが先に力尽きるかは一目瞭然であった。

 おまけに、仮に此処を切り抜けられたとして、砂嵐や子機たちを掻い潜ってヨイノマガンの下へ向かわねばならない。

 至難の業と言っても過言ではない。

 

「さあて、あとどれくらい持つかな……ッ!」

 

 

 

「──見ねえうちに弱音を吐くのが得意になったじゃねえか」

 

 

 

 次の瞬間だった。

 空から、機関砲の音が鳴り響くと、水が降り注ぎ──次々に子機たちが撃ち抜かれて消滅していく。

 シャインは言葉を失った。

 天から舞い降りる、黄金のグライダー。

 それに跨るのは──自らの最大の好敵手と認める相手だ。

 

「……ラズ!」

「よう、シャイン。助太刀に来たぜ」

 

【アマツツバサ<AR:セキタンザン> タイプ:炎/水】

 

 セキタンザンへオーライズしたアマツツバサは、機関砲から水の柱を放ち、子機達を薙ぎ払う。

 そうして地上に降りたラズは、倒れたガーベラ、そして起き上がれない博士を見やり、凡その状況を察した。

 

「……ヨイノマガンは?」

「サンダー寮の特記戦力……バジルとゼラが相手してるよ」

「なら問題ねェよ。あいつら、強えからな」

「で? 君はわざわざ、私達を助けに来てくれたのかい」

「そうだ。アマツはヨイノマガンにあまりにも相性が悪いからな」

「ではヨイノマガンの方は……む」

 

 シャインは、ラズの表情の変化を読み取る。

 とびっきりの信頼を寄せているようだ。今までの彼ならば決して見せなかった。

 

 

 

「イクサとキャプテン様に任せることにしたよ」

 

 

 

 そして、その相手に──仰天しそうになるのだった。

 

「……どういう風の吹き回しだい? 帰ってくるなり悪いモノでも食べたかな」

「勘違いするな。仲良しこよしになったわけじゃあねえ。ただ──あいつらに襟元を少々正されてな」

「その言葉を聞いて安心したよ。君は何にも変わってないようだ」

「……いーや、前なら絶対俺が前に出てたね」

 

 並び立つ寮長二人。

 その前には、先程よりもサイズが増大した子機たちが次々と羽ばたいてくるのだった。

 

 

 

「足を引っ張んじゃねえぞシャイン」

「こっちのセリフだラズ。私の美しさに見惚れるなよ」

「気色悪ィ!! 後服を着ろや!!」

 

 

 

 ※※※ 

 

 

 

 

 作戦を一頻り全員に話した後。

 ゼラは──こくり、と納得したように頷く。

 

「賭けてみる価値はある」

「で、でも、それってすごく危ないデスよ!? それにコナツ! You、ケガしてるようデスけど!?」

「……ラズさんに応急手当はしてもらってます。まだ、動けますっ」

「正直僕も気が進まないんだけど……勝利の道はそれしか見えないんです」

「他に方法があるとも言えない」

「……あーもうっ! 分かりマシタよ! こうなったら、やるだけの事をやってみるだけデース!」

 

 ヨイノマガンの再生は直に終わる。

 そうなれば、再び子機が湧きだす。

 その前に、彼等は急いでヨイノマガンの下へと近づくのだった。 

 砂は隆起し、音を立てて崩れていく。その中央に居るヨイノマガンは、周りの砂を取り込み、再びあのシンボラーに酷似した姿へと再構成されていく。

 

「ケェェエエエレェェェエエエエスゥゥゥゥウウウウウウウウウーッッッ!!」

 

 これまで幾度となく自分の本体を攻撃してきた人間たち。

 ヨイノマガンからすれば小さな虫以下の生物に対する鬱陶しさは限界を超えていた。

 オシアス磁気によって狂暴化していることも手伝い、いよいよその排除へと本格的に乗り出す。

 砂があればすぐに再生できるため生命の危機こそ感じないヨイノマガンだが、何度も何度も己の急所を狙ってくる相手は、明確な攻撃の意思があるものとして排除しなければならない。

 ……無論、最優先で。

 

 

 

【ヨイノマガンの──】

 

 

 

 陽の光が、ヨイノマガンの眼球に吸われていく。

 辺りの光を全て自らに集約させ、撃ち放つ渾身の一閃、その名は──”たそがれのざんこう”。

 

「オオワザだ!!」

「オオワザぁ!? そう言えば、まだ撃ってなかったデース!!」

「ッ……あいつ、太陽光を吸収してるな」

 

 ぎろり、と天を向いた魔眼の集光力はエレザードの比ではない。 

 更に、光という概念そのものに干渉する故か、辺りはどんどん暗くなっていく。

 周囲を強制的に宵へと閉ざす、このオオワザこそ──”ヨイノマガン”と呼ばれる所以だ。

 

 

 

 

【──”たそがれのざんこう”】

 

 

 

 

 極太のビーム砲が辺りを薙ぎ払う。

 解き放つように、真一文字に。

 それをすんでのところで避けるイクサ達であったが、放たれた閃光は町の方へ向かっていき──そして何かが爆ぜる音が聞こえてくるのだった。

 

「ま、町に火の手が……」

 

 イクサは愕然とする。エナメルシティの方から火が上がっている。

 オオミカボシの”ア・ストラ・ホライゾン”と同等の威力だ。

 しかも、ギガオーライズしていたオオミカボシとは違い、ヨイノマガンは──素面でこの技が撃てるのである。

 オシアス磁気の影響でタガが外れているのはあるが、それでも、町一つ滅ぼせてもおかしくない威力だ。

 文字通り、触れたものを焼き切るレーザー砲。

 そんなものを放てる災害の如きヌシポケモンが闊歩している。

 

「だ、大丈夫デース!! 町の方には既に避難勧告を出してマース!! ドローンロトムが撮影した動画は拡散されまくってマスからねー!!」

「でも……このままじゃ、クランベリグループもレモンも危ないですよ!?」

「あのオオワザをもう撃たせたらダメだ」

 

 イクサは──前に出る。

 

「……攻めに転じるなら、今此処でしかないッ!!」

 

(正直、不安は残る。だけど、ヨイノマガンのタイプを考慮すれば頼れるのは──)

 

「手筈通りに行こう。僕達は……コナツさんの通る道を作るッ!! ソウブレイズ、”ゴーストダイブ”でヨイノマガンに接近だッ!!」

「ぼうっ!!」

 

 一瞬で姿を消し、ヨイノマガンの影に潜行したソウブレイズ。

 アケノヤイバとの戦いを通し、彼の戦術を目の当たりにしたことで見様見真似で習得することに成功したのだ。

 そのまま、一気に影から飛び出すと、ヨイノマガンの身体を駆け上がる。

 

「バジル。俺達もだ」

「OK、先パイ! デリバード! ヨイノマガンに近付くデース!」

「クワガノン、頼む」

 

 空からヨイノマガンへ再び接近する二人。

 そして──コナツもまた、1つのボールを握り締め、放る。

 

(やっぱり、イクサさんは凄い人だ。あんなオオワザを見た後でも、諦めたりしない)

 

 震える腕を掴む。

 痛むアバラに、唇を噛むことで誤魔化しながら、コナツは──進む。

 

(だから、私ももう、諦めないッ!! やれるか、じゃない。やるんですっ!! 今ッ!!)

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