ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「ッ……」
受け取ったボールを握り締めるラズ。
彼は──首を横に振る。
「クソッ。今、俺にこいつと戦う資格は──」
そう言っている間に、アケノヤイバは此方目掛けて大量のシャドーボールを浮かび上がらせる。
それは凄まじい速度で誘導するかのようにイクサとラズを狙い、飛んで行く──
「ッ!?」
──しかし。
光と共に爆ぜたボールから飛び出したそれは──大量の影の弾を身体全部で受け止めるのだった。
炎に包まれた黄金の翼がゆらめく。
熱気、そしてはためく熱風を前にイクサも、ラズも言葉を失った。
「アマツツバサ……ッ!!」
「たまたまたまッ!!」
羽根を広げたアマツツバサは──ラズを睨み付けると、一喝するかのように再び咆哮する。
そして、彼に付き従うかのように、彼の頭上へと移動するのだった。
「……俺と、戦ってくれるのか……?」
「これが答えですよ」
イクサは──拳を握り締める。
「迷ってる場合じゃない!! アマツツバサはずっと、貴方に再会するのを待ってたんです!! ずっと、ずっと!!」
「ッ……」
「貴方は一人じゃない、貴方には味方がいるんですッ!! それを……忘れないで下さいッ!!」
「俺は……お前に相応しい主じゃなかった。頂点に立てなかった。それどころか……」
裏切りに遇った時、ラズはそう確信した。
アマツツバサを持つに相応しいのは、クランベリのトップに立つ者。
周りに見放され、裏切られた者がどうしてアマツツバサを所持するのに相応しいというのか。
しかし。
「……たまたまたまッ!!」
アマツツバサはそれでも、ラズを選ぶ。
自らを従えるに足る強者を。自らに勝利を齎す強者を。
不器用でも、戦う事を選ぶ者を──一度折れても尚、再度立ち上がった彼を、アマツツバサは──主として選ぶ。
「……良いのかよ? 俺で」
「たまたまたまッ!!」
「……ああ……そうかよ」
何より、アマツツバサが「主」として選ぶのは彼が「王」だからではない。
──おーい、アマツ! こっちに来い! お前は俺の子分なんだぞっ!
──クソッ!! またレモンに負けた……どうやったら……勝てるんだ……!?
──特訓し直しだッ!! ついて来れるな、アマツツバサ!!
強い面も、弱い面も、ずっと見てきた──「相棒」だからである。
「行くぞ
「たまたまたまッ!!」
【特性:オーライジング】
【オーラが活性化し、防御と特防が上がった!!】
「で、俺に発破をかけたのは良いが、テメェはどうすんだ」
「残りの手持ちはカルボウだけですね……取り合えず、元気の塊で──」
「カルボウか。試してみてぇ事がある」
「……?」
「俺ン所のカルボウは、まだタマゴから孵ったばかりの赤ん坊だ。テメェの方が上手く使えるだろ」
そう言って、ラズはセキタンザンをボールから出す。
そして、彼が”もちもの”として預かっていた”すすけたよろい”を指差すのだった。
「……カルボウの所にコレを持っていけ。サイゴク地方では、アケノヤイバの御守にカルボウの進化形をあたらせる」
「ッ……良いんですか!?」
「勘違いすんじゃねえ。これで貸し借り無しだ」
「あ、あはは……らしくなってきましたね」
「るっせえ!! いいか、ゴーストに対抗できるのはゴーストだ。相性は互角以下かもしれねぇが……奴の不可思議な技には対抗できるかもしれねえ。問題は、カルボウの居る場所まで辿り着けるか、だ」
「考えがあります」
ラズに軽く耳打ちした後、イクサは”よろい”を握り締め、ダッと走り出す。
それ見て、面白そうに彼は笑った。
「乗った、その作戦ッ!!」
当然、飛び出した彼を狙って飛び掛かるアケノヤイバだが──その進路を阻むのは、上空を優雅に舞うアマツツバサだ。
腹部から顕現したマシンガンから、大量の溶岩弾を撃ち放ち、辺り一面にばら撒いていく。
「たまたまたまッ!!」
「エリィィィィスッ!!」
すぐさま影の中に潜っていくアケノヤイバ。
こうなると、何処から現れるか分からない。
アマツツバサも、ラズも、影が落ちている場所を見回すが、何処からもアケノヤイバが出てくる気配はない。
(隙を伺ってやがる……ッ! このままなら奇襲されるが──ッ!!)
「ラズ先輩、アマツツバサ、目をつぶって!!」
そんな矢先だった。イクサの声が響く。
ポケットをガサガサとまさぐった彼は、そのまま天高く宙にモンスターボールに似た何かを放り投げる──
「ッ……!! アマツツバサ、目を瞑れッ!!」
腕で顔を覆い隠したラズ。
そして、円らな目を閉じるアマツツバサ。
次の瞬間──ボールから、目いっぱいの閃光が迸り、地下都市中に広がった。
「エリィィィィス!?」
辺りに落ちていた影は一瞬だけ消え去り、そして潜行していたアケノヤイバは影の世界から追い出されて地面に転がる。
そして、藻掻き苦しむようにしてのたうち回るのだった。
「……やっべー、隙間からでも光ってんのが分かったぜ」
目を瞑っていなければ、此方も危なかった、とラズは確信する。
イクサが投げたのは──デジーが作成した閃光弾だ。
アケノヤイバの最大の弱点は、潜っている影を消し去り、自身の力を弱める強い光。
平時ならまだしも、影に潜っている時に辺りを照らされると、潜っていた影に光が直接当たり、そのまま驚いて飛び出してしまうのだ。
よもや只の人間が自身を怯ませるだけの光を出すとは思いもよらなかったアケノヤイバは、そのまま地面に転がり回り続けるのだった。
尚、この軍用と見まがうばかりの閃光弾、デジーが一晩でこの時の為に開発したのかと言えば、そうではなく。
──悪戯用閃光弾!! まともに見たら眼が潰れるどころじゃ済まないよっ!! あんまりにも威力が過ぎてたから、封印してたんだよねっ!!
(つくづく、この子が敵じゃなくて良かった……)
※※※
「カルボウッ!!」
「ぼう……?」
カルボウは、ふらふらの身体でサーナイトに歩み寄っていた。
「ごめん、サーナイト……僕の所為だ」
「……ら……らら」
「……ゆっくり休んでね」
すぐさま彼女をボールの中に戻したイクサは安堵の息を吐く。
泣きそうな顔で、カルボウは駆け寄ってくる。
「ッ……ぼう……ぼうっ!!」
「大丈夫。これで、サーナイトは……大丈夫だから」
「ぼう……」
「……」
落ち込んでしまうカルボウ。
しかし、そんな彼女の肩をイクサは叩く。
「大事な人たちが……大変な目に遭ってる時に……僕は無力だった」
「ぼう……」
モンスターボールを握り締めるイクサ。
その目には──手持ちを全て奪われたレモンの、力無い笑顔が浮かぶのだった。
「……でも、君は違う。君は無力なんかじゃない。戦えるように……鍛えてきたんだ。今日この時の為に」
視線を合わせ、真っ直ぐ目を見つめる。
その瞳の炎が、怯えるかのように揺れる。
「怖いよね。僕も同じだ。だけど……戦おう。勝つんだ。今日がその、第一歩だ」
「ぼう……」
「大丈夫。君は、勇気があるじゃないか。サーナイトを助けに飛び出した、勇気が」
”すすけたよろい”をイクサはカルボウに手渡す。
だが、恐怖からかカルボウはなかなかそれを手に取ろうとしない──
「オイッ!! アケノヤイバが消えたッ!!」
ラズの怒号が聞こえ、イクサは振り返る。
居ない。アケノヤイバの姿が無い。
視力を取り戻した刃の獣は、再び影の中に潜り込んだのだ。
(しまった!? もう動けるのか!?)
そして今度は天井の影から──ぬるりと現れ、そして日本刀の如き刀を勢いよく伸ばした。
「危ないッ!!」
すぐさま、イクサはカルボウに覆い被さろうとする。
しかし、刀の尻尾は幾つにも股分かれして分裂し、鋼の雨がイクサを貫く──
「ぼうっ!!」
──はずだった。
炎が、イクサを守るように包み込む。
カルボウがよろいに触れた途端、青白い炎が溢れ出し──アケノヤイバの尻尾を振り払うのだった。
「ッ!?」
それはまさに、忠義を守る騎士の如く。
よろいはカルボウと一体化していき、青白い炎が周囲に広がる。
しかし、その時だった。
「何だ……これ」
鎧は一通り燃え盛ったかと思えば、そのまま燃え尽きた灰の如く真っ白に染まる。
瞳からは青白い炎がゆらりと立ち上がる。
「……ギィィイイイイン……オォォオオン……ッ!!」
重い鋼を引きずるような音が響いた。
鎧を包む白が、地面にボロボロと崩れるようにして零れ落ちる。
息を呑むしかなかった。
まるで脱皮でもしているかのようだった。
すすけた鎧は、聖なる炎に焼かれ、その真の姿を露にしていく。
両腕を炎が包むと──禍々しく湾曲した鎌の如き剣と化す。
自らも知らぬ新たな姿へと成ったカルボウを前に、言葉を発する事すら忘れた。
「灰の中から、金の鎧が……!?」
怪しく煌めく蒼い宝石が埋め込まれた鎧。
そして、常に炎を放ち続ける湾曲した剣。
何処か薄っすらと狂気を帯びた、装飾品の如き眼。
その全てがイクサの知る、”ソウブレイズ”と呼ばれるポケモンに似て非なるものであった。
【ソウブレイズ(オシアスのすがた) のろいけんしポケモン タイプ:ゴースト/鋼】
【古の祭事で使われた鎧を身に纏う。宝石の装飾には呪いが封じ込められている。】
カッと見開かれた瞳から青白い炎が溢れ出す。
そして、ざり、ざり、と炎の剣を地面に引きずる。
だが、何かに気付いたかのように脚を止めると──イクサの方を一瞥。そして、コクリと頷くのだった。
「カルボウ……ううん。ソウブレイズ」
「……ギィ」
「カッコよくなったね……だけど、喜んでる場合じゃないみたいだ」
天井から地面に降りたアケノヤイバは、新たなる敵を前に身の毛を逆立たせる。
進化。かの獣もまた、自らには縁がないとは言え、永い生の中で幾度となく見てきた現象だ。
これによりカルボウは邪魔者ではなく一気に切り捨てるべき脅威へと化した。
周囲に”シャドーボール”を大量に展開させるが──
「俺らの事を忘れてんじゃねえぞ、アケノヤイバァ!!」
「たまたまぁ!!」
すぐさま”シャドーボール”が正確に撃ち落とされる。
アマツツバサのガトリング砲から煙が上がっているのがイクサにも見えた。
サイレン代わりに咆哮が天井から響く。
「良いかッ!! 奴の攻撃は特殊技主体……逆に言やぁ、届くまでにラグがある!! 俺達がテメェらの盾になるッ!! ソウブレイズッ!!
「はいッ!! ソウブレイズ……いけるよね!!」
(いや、いけるッ! ソウブレイズは特防の方が高いポケモンだから!!)
「ギィイイイイイン!!」
「よし。先ずは、この技マシンと技マシンを使って……」
鞄から取り出したディスクを、イクサはソウブレイズに触れさせる。
すぐさまその中に記録された技のデータがソウブレイズに記憶されたのだった。
「……反撃開始だ!! ソウブレイズ!!」
剣を向けたソウブレイズは、地面を蹴り、アケノヤイバに迫る。
しかし、向こうとて攻められっぱなしではない。再び影の中に潜り込み、ソウブレイズを奇襲しに掛かるが──
「こっちも……”ゴーストダイブ”で影の世界に潜るんだッ!!」
ソウブレイズもまた、影の中に潜り込み、その場から消え失せる。
しばらく二匹が何処に行ったのかも分からない状況が続いたが、しばらくしただろうか──
「エリィィィスッ!!」
「ギィィイイイッ!!」
──二匹は取っ組み合ったまま、再び現実世界に姿を現したのだった。
シャドーボールを大量に生み出し、ソウブレイズに向かってぶつけるアケノヤイバ。
しかし、影の弾は全て通り抜けてしまう。
即座にイクサがオーライズを切ったのだ。
既にソウブレイズの身体は、毒々しいコートのような鎧に包まれていた。
【ソウブレイズ<AR:タギングル> タイプ:ノーマル・毒】
(タギングルへのオーライズ……これでソウブレイズのタイプはノーマル・毒に変わった! アケノヤイバが実質的な一致技として撃てる3つのタイプ──悪・ゴースト・格闘──では有効打が突けない!)
ゴースト技が効かない──即ち相手の力から霊気が消えたと見ると、今度は確実に相手に誘導して命中する”はどうだん”を放つアケノヤイバ。
それらは全てソウブレイズに向かって飛んで行き、吸い込まれるようにして当たるが──爆風の中から何とも無さそうな顔で火の剣士は飛び出すのだった。
無論、幾ら威力が分散されているとはいえ、アケノヤイバの特性で強化された”はどうだん”が全弾命中してただで済むはずがない。
(やっぱりラズ先輩がサポートしてくれてる!!)
(目の前の相手に集中してて気付かなかっただろーが──効いてんだろ? ”かいでんぱ”!! テメェは見た目によらず特殊技を多用するポケモンだからなぁ!!)
アマツツバサから放たれる周波の狂った怪しい電波。
これがアケノヤイバの集中を乱していたのだ。
更に、次々に繰り出される突きを前に、刃の獣はそれから逃れるようにして防戦一方を強いられている。
四匹に分裂し、ソウブレイズに襲い掛かるも、今度は上空から掃射するアマツツバサによってそれらが皆纏めて掻き消されてしまう。
「”デュプリケート”を使ってる間は影には潜れねえ。潜ったら潜ったでソウブレイズに追撃される。……弱りに弱った今のテメェじゃあ、俺達二人がかりには勝てねえよ」
「もうやめよう、アケノヤイバッ!! 止まってくれっ!!」
イクサが叫ぶ。
しかし、オシアス磁気に狂わされた刃の獣は目の前の全てを切り裂くべく、尻尾を振り回した。
衝撃波だけで辺りの柱を豆腐の如く両断していく。
「……ダメだ、聞く耳持たねえよッ!!」
「やっぱり、倒して鎮めるしかないのか……!!」
だが、狙いが狂っているからかソウブレイズには一刀も加える事が出来ない。
そればかりか、ソウブレイズの剣を前に怯えるような顔すら見せている。
「テメェのソウブレイズは、本来はオシアスの迷宮で発見される”破邪の鎧”で進化するポケモンだッ!! 宝石の剣は呪いを吸い上げ断ち切る力を持つッ!!」
「それってつまり──」
「アケノヤイバみてーな全身呪いで出来たポケモン相手には振り回すだけで効果覿面ってこったァ!!」
(そうだ、ゲームじゃないからタイプ相性だけじゃなくて、フレーバーレベルでの話もバカにならない──ッ!!)
宝石の煌めきは、呪いを退ける光。
眩しさは最早問題ではなく、アケノヤイバにとっては、それそのものが天敵となる。
”かいでんぱ”で集中を乱されている上に、影に潜る能力すら上手く使えていない。
故に、八方ふさがりに追い込まれたアケノヤイバは──怒りのままに吼えた。
【アケノヤイバの──あかつきのごけんッ!!】
周囲に、アケノヤイバを守るかのように五本の刀が旋回する。
”あかつきのごけん”。
それこそ、刃の獣を刀神たらしめる技であった。
当然、崩すならば集中している本体を攻撃しなければならないが、本体を守っているのは巨大な五本の刀。
それが念動力で動き回り、イクサ達を切り裂くべく飛んで行く。
しかし。
「アマツ!! こっからが腕の見せ所だッ!!」
「たまっ!!」
飛んでくる巨大な剣にも恐れることなく、”マグマシンガン”を掃射しながらアマツツバサがアケノヤイバに突っ込む。
全身は燃え盛る炎に包まれ、剣に切り裂かれても怯むことなく迫る。迫る。迫る。
アケノヤイバは、狂い悶えながらも恐怖というものをダイレクトに味わうことになった。
自らの全力を振り絞った斬撃を、纏った炎で受け流しながら正面から突っ込んで来る巨体を前に。
「悪いなアケノヤイバ。コイツはこの世のどんな飛行機よりも頑丈なんだよ。墜落してもピンピンしてるくらいにはなッ!! さあ、受けてみやがれ熱爆弾!!」
五本の刀を集中させ、焼き焦がれるような暑さの中、アマツツバサを受け止めるアケノヤイバ。
圧倒的質量、そして熱の塊を前に、じり、じり、と引き下がらざるを得ない。しかし、自らの背後に影が迫っていることを察し、剣の二本を後方に向ける。
「ごめんね。だけど……これしか手が無かった。両サイドから最大威力の技を叩き込むッ!!」
「ギュイイイインッ!!」
「押し込めアマツ!! 根性見せるぞッ!!」
「たまたまたまッ!!」
後方からはソウブレイズが湾曲した双刀を交差させて叩きつけるようにして振りかぶる。
それを刀二本で弾き返そうとするアケノヤイバだったが、今度は正面から突っ込んで来るアマツツバサを抑え込むことが難しくなっていた。
それだけではない。此処までに蓄積された疲労、そしてダメージ、オシアス磁気そのものもアケノヤイバを蝕みつつあった。
剣は砕け散っていき、アマツツバサが突貫する──
「もう良い……もう休んで良いんだ、アケノヤイバ」
ぽつり、とイクサが呟く。
ソウブレイズの剣に、青い炎が纏われた。
「君の無念は僕らが晴らすッ!! ”むねんのつるぎ”!!」
「コイツでシメェだ!! ”ねつばくだん”!!」
魂の楔を断つ斬撃がアケノヤイバを切り裂いた。
それでも尚、目から紫電を放ちながらアケノヤイバは尻尾の刀を振り回そうとするが──そこにトドメと言わんばかりに熱の塊と化したアマツツバサが突っ込む。
爆炎が巻き起こり──あたりに熱風が吹きすさぶ。
そうして後に残っていたのは、ラズの言った通りピンピンして宙を舞うアマツツバサ。
「エ、エリ……」
そして、狂気の源たるオシアス磁気が全身から抜けていき、力無く横たわるアケノヤイバの姿が残っていた。