ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第110話:猛る炎の如く

 ※※※

 

 

 

「──ドグウリュー、真っ二つにしろ(ドラゴンブレード)ッ!!」

 

 

 

 ふよふよと浮かぶドグウリューの二つの腕。

 竜の咢を模したそれが胴体にぴったりとくっつくと──高速回転をしながらセキタンザンへと迫る。

 まさにその姿は、子供の頃に遊んだ鋼鉄製の独楽の如く。

 更に、全身にオシアス磁気を纏わせたドグウリューは、そのまま光学迷彩を発動。

 

「ッ……!! また見えなくなりやがったッ!!」

 

 加えて泥の沼も何のその。 

 ホバーしながら回転するドグウリューは、自らの身体を質量爆弾に見立ててぶつかりに掛かる。

 全身からはオシアス磁気に加えてドラゴンエナジーも放出し続けており、当たれば痛いでは済まない。

 幸い、ラズのセキタンザンは隠れ特性の”かそく”。戦闘の時間が経過する度に速度が上昇するというものだ。

 しかし、限界まで速度が上昇したところで所詮セキタンザンはセキタンザン。

 元の素早さが低いので、このままではドラゴンブレードを避け切る事が出来ない、とラズは判断する。

 

「こっちも身を隠すッ!! ”くろいきり”ッ!!」

 

(ッ!!)

 

 それは、全ての能力変化をリセットする技。

 そして同時に周囲を黒い霧に包みこんで視界を封じる技でもある。

 辺り一面は一瞬で真っ暗になり、カラントも戦況が分からなくなってしまうのだった。

 しかし、それは全く問題ではない、と彼は考える。

 

(無駄だラズッ!! 霧に紛れた所で、ドグウリューは熱源を探知してお前を攻撃しに行くぞッ!!)

 

 セキタンザンの非常に高い体温はドグウリューの持つ竜由来──低温が苦手故に非常に温度変化に敏感──のセンサーにより、身を隠してもすぐに分かってしまう。

 幾ら黒い霧で周囲を覆おうとも、視界差のアドバンテージはどうやっても崩せない。

 それどころか、セキタンザンも自ら撒いた”くろいきり”の所為でドグウリューの姿どころか周囲の地形すら把握できなくなる。

 元より敵の姿が見えないので、そこを切って捨てたのだろうが──とカラントは考えるが、どう考えても悪手中の悪手だ。

 

(ドラゴンタイプのポケモンの持つ性質と、セキタンザンの非常に高い体温ッ!! 視界を封じる事に意味等無いと分かっていたはずなのに──ヤキが回ったかっ!?)

 

 目を血走らせるカラント。

 それならば猶更、自らの手で引導を渡してやらねばならない。

 こんな男が自らの上に立っていたことを、彼は許せなかった。許せるはずもなかった。

 

(僕は……平民だ。お前がよく人を罵倒する時に使う”貧乏人”の出さ。だからずっと狙ってたんだ。お前が、僕のような”貧乏人”にひっくり返される日をッ!!)

 

 表向きには忠実なナンバーツーを装い、裏では虎視眈々とラズを転覆させ、アマツツバサも強奪する計画をカラントはずっと企てていた。

 アマツツバサは圧倒的戦力と権威の象徴。手にすることが出来れば──クランベリグループを力づくでひっくり返すことも不可能ではない。

 無論、この()()()()()()()()極まりない陰謀が実現する可能性など、本来は限りなく低かったのであるが──

 

(だがそれでも僕はお前を認めていたんだッ!! 圧倒的強者のお前をッ!! なのにッ!!)

 

 ──オーデータ・ロワイヤルのルール変更は彼にとって、裏切りを決断させるには十二分だった。

 

(がっかりさせてくれるなよ、ラズッ!! 僕が首を狙っていたお前は、そこまで落ちぶれていたのかッ!?)

 

 しかし。

 カラントを更に失望させるに至ったのは──ラズが決闘代理である転校生に敗北したこと。

 だが、それ以上に──自分達が反旗を翻すに至った時、彼が全く抵抗しないことであった。

 抵抗すれば、あの場に居た全員の殆どを斃すだけの力をアマツツバサが備えていたにも関わらず、である。

 その事実に、彼は打ちひしがれ──絶望した。

 

(僕達を、そこまで取るに足らない存在だと見ていたのかラズ!? ふざけるなッ!!)

 

「こっちを見ろラズッ!! 勝手に居なくなるなんて、許さんぞ僕はッ!! お前を、お前を今度こそこの手で葬って、それで僕は──」

「……何にも見えてねえのはテメェらの方だ」

 

 黒い霧が晴れる。

 そこには──がくん、と力尽きるように地面に倒れるドグウリュー。

 そして勝ち誇ったように咆哮するセキタンザンだった。

 あまりにも信じ難い光景を前にカラントは言葉を失う。

 圧倒的に有利な状況だったはずだ。タイプ的にも、そして──視界的アドバンテージも。

 

「ッ……ど、どういうことだ!? ドグウリュー、しっかりしろッ!!」

「……()()()()()()()()()()()()()……つい、灯りの方を見ちまうよな」

「!?」

()()()()()()。視界が封じられると、次にドラゴンが頼るのは当然熱源探知だ。高温を放つセキタンザンの方へ向かっていく」

「……分かっていたのか!? しかし、これは──」

「体内の炉心で超高温に熱した石炭を周囲に散布した」

 

 カラントは言葉を失う。

 サイゴクセキタンザンは、体内に高温の炉心を持つポケモン。

 それで背中に背負う石炭を熱して、エネルギーに変換する。

 その際の熱は、セキタンザン本体に匹敵する程だ。

 

「そして石炭をばら撒いた後、セキタンザン本体は()()()()()()()()()()()ことで一気に体温を下げる。……もうわかるな?」

「ッ……ドグウリューは()()()()()のか!? ばら撒いた石炭に!?」

 

 熱源でセキタンザンを察知していたドグウリューは、いきなり周囲に大量に現れた高熱の石炭を前にして本体を見失うことになる。

 当然、何処へ攻撃するのか分からなくなり、ぐるぐると辺りを見境なく旋回することになる。

 

「後は簡単だ。ドグウリューを殴るだけだが……それだけの質量のポケモンがグルグル回転してんだ。音の一つ、飛沫の一つ、()()()()()()()()()()

 

 大量のデコイで敵が混乱したところで、セキタンザンは──渾身の”SLブレイク”をぶつけた。

 頼りにするのは音、そして回転によって起きる風圧。

 視界が封じられていようとも、野生動物のカンで探れる範疇だった。

 完全にマウントを取られたカラントは──崩れ落ちる。

 ラズが見た目や性格以上にポケモンの生態を生かしたクレバーな戦術を取ることは分かり切っていた。

 だが、彼とセキタンザンの戦いは山ほど見てきたはずなのに、このような戦い方は初めてだった。

 

(僕は何も、ラズの事を分かっていなかったというのか!? 3年間、ずっとコイツの後ろで寝首を掻くことを考えていた、この僕がッ!?)

 

 拳を握れば、血が滲み出てくる。

 オーデータポケモンを使っても尚、ラズには──届かない。勝てない。

 

 

 

「──ふざけるなよラズッ!!」

 

 

 

 喉を突くようにして飛び出したのは、精一杯の怒号。

 枯れる程の渇望、羨望、そして憎悪が籠った叫びだった。

 

「おい、ラズ……学園に居た頃、一回でもそんな戦術を見せた事があったか……!? やはり僕らの前では手を抜いてたのか!?」

「見せなかっただけだ。いつ切札になるか分からねえテメェの手の内をバラすバカが何処にいる。だけどな、テメェらとのバトルは──」

「お前は僕らに裏切られても、反撃しなかったッ!! 僕らを下に見ていたからか!?」

「ッ……」

 

 ラズは何も答えない。

 只々、悔やむように俯いていた。

 

「答えろラズッ!! そこまで僕達は──お前にとって、取るに足らない存在だったのかッ!?」

「それは──」

 

 否定、しきれなかった。

 

「レモン・シトラスの事ばかりで、お前は僕らの事を見ようともしなかったッ!! お前が、僕達をも見下していたからだッ!! 違うか!?」

「そんな訳はねえ、俺はテメェら仲間達の事を──」

「良いか、ラズ。お前は僕の経歴の事なんか知ろうともしなかったがな、僕は……お前が見下す貧乏人の出だよッ!!」

「……ッ」

「それとも密かに知っていたのか!? 知っていて僕を見下していたのか!? 見下していたんだろうッ!! 僕らはお前にとって、取るに足らない雑草だろうからなッ!! そりゃあそうだろう、お前は大金持ちのお坊ちゃまで、次期CEOで、寮長で──ッ!!」

 

 逆恨み、憎悪。

 しかし、それら全てが──自分の蒔いた種であったことなど、とうにラズは察していた。

 己の今までの行いが、言動が、周囲にいる仲間だと思っていた者達へ反感を買っていたことなど分かっていた。

 だがもう、全てが遅きに失したのだ。

 一通り喚き散らしたカラントは、だらんと首をもたげると呟く。

 

 

 

「ラズ……死んでくれよ」

 

 

 

 カラントは黒いオージュエルにカードを翳す。

 その行動にラズは目を見開く。

 グローリオがオーデータ・ロワイヤルで使っていたオーライズを超えるオーライズ。

 

 ドグウリューは一気に高圧のオシアス磁気に包み込まれ、爆ぜる。

 そこに現れたのは、膨れ上がった巨龍を象ったオーラ。

 そしてその頭部に鎮座するドグウリューの姿だった。

 だが、それが抱えるドラゴンエネルギーは徐々に徐々に膨れ上がっている。

 カラントの抱える羨望、憎悪と共に。

 その右目からは黒い紫電が迸っていた。

 

 

 

「……()()()()()なぁっ!! オオワザ、”りゅうきばくごう”!!」

 

 

 

 

【ドグウリューの りゅうきばくごうッ!!】

 

 

 

 野生のネンドールは身の危険を感じた時に──己を自爆させてでも外敵を排除する習性がある。

 そんなネンドールを模したオーデータが持つオオワザが、何なのかは言うまでもない。

 それは、ドラゴンエネルギーを帯びさせた超広範囲の”だいばくはつ”。

 周囲を龍気で纏めて吹き飛ばし、焦土へと変える。それどころか、この地下都市を崩壊させ生き埋めにさせる。

 そうしてラズ諸共、心中する。それが、カラントの狙いであることを──ラズは早期に見抜いた。

 

「ッ……テメェ、自爆する気だな」

「ああ、そうだ!! お前を生け捕りにするつもりなんて最初っから無かったよ。全部、全部纏めて吹き飛べばいいんだッ!! 転校生も、そこのキャプテンもなぁっ!!」

「……何考えてやがるッ!! さっさと止めろッ!! ポケモン達も巻き込まれるぞッ!!」

「今から逃げても無駄だぞ、逃げられるわけがない、この地下都市と運命を共にするんだ、どうせお前には勝てない──勝てないならいっそのこと──ッ!!」

「ッ……!!」

 

 ラズは背後を見やる。

 付近では、イクサとアケノヤイバ、そしてコナツとイダイトウが未だに戦闘を繰り広げている。

 しかし、あまりにも異様なドグウリューの姿に、二人共その方向を見ざるを得なかった。

 

「あれってギガオーライズ!?」

「ッ……膨れ上がってます……!?」

 

 しかし、二人が相対しているのは強大なヌシポケモン。

 ドグウリューへ向かう余裕はない。

 それどころか、ドグウリューが広範囲の大爆発を起こそうとしていることなど知る由もない。

 それでもラズ一人では、ドグウリューを止める事が出来ない。

 

(やっぱり、俺の所為だ。俺の所為で、カラントは、こいつらは──)

 

 悔やみ、俯くラズ。

 しかし──だからこそ、必死で戦う二人の姿を見てもう一度顔を上げる。

 

(手持ち全部の力で奴を止められるか……!? いいや、ダメだ。増大するヤツの龍気が強すぎる……!! 並大抵の攻撃じゃ止められねえ──龍気を止められるのはフェアリータイプの力だけ……ッ!! あるいは冷却か……!!)

 

 そこまで考え──ラズの口元には、ふと笑みが浮かんでいた。

 自分以外の誰かの手を借りる。

 そんな選択肢が自然と浮かんでいた自身に、むず痒さを感じる。

 

「この後始末、本当なら俺一人でやるべきなのかもしれねぇ。だけど……この俺が誰かの手を借りる時が来るなんてな」

 

 虫が良いと言われるだろうか、とラズは自らの行いを振り返り──自嘲気味に笑う。

 ……そんな事を恐れている場合ではない。このままでは、全員生き埋めだ。

 

 

 

「ラズさんッ!!」

 

 

 

 声が飛んできた。

 それに思わずラズは振り向く。

 丁度真後ろで背中を預ける形でイダイトウと戦っていたコナツが──こちらを見ている。

 流石に超巨大化したドグウリューに、彼女も意識を向けざるを得ないようだった。

 

「ッ……」

 

 死なせたくない、そう思ってしまった。

 何もかもどうでもいいと考えていたはずなのに。

 

「このままじゃ全員危ねぇ──何より、俺の所為でカラントは……こうなっちまった。助けてえんだ……力を貸してくれッ!!」

「……ええっ! 勿論ですっ!」

 

 コナツは満面の笑みで応える。

 何もかも「どうでもいい」と言っていたラズの目に、炎が確かに灯っている。

 

「オーカードの交換だッ! ミルタンクのカードはあるか!?」

「は、はいっ……そうか! ドラゴンエネルギーが相手なら、フェアリータイプの攻撃で打ち破れるッ!」

「そういうこった!」

 

 ラズは叫ぶ。

 互いの手持ちのタイプでは、目の前の敵に対して有効打が無い。

 しかし、オーカードを交換して互いにタイプを変更すれば──効果抜群の攻撃をぶつける事が出来る。

 特に、フェアリー技ならばドグウリューを覆う龍気の障壁を破壊することも出来る。

 だがそれに憤らないカラントではなかった。

 

「ふざけるなよ、ラズッ!! 今まで僕らの事を見て来なかった癖に──その女の手は借りるというのかッ!?」

「ああ借りるぜ。こんな所で死ぬなんてゴメンだからな」

「ッ……何処までもオマエは──」

「それに、死なせたくねえんだよ。仮にも、3年間一緒だったオマエをなッ!!」

「オマエは僕の事を見てくれたことなんて──無い癖にッ!! 勝手な事を言うなァッ!!」

 

 ドグウリューの身体が更に一段階、肥大化する。

 ラズは一枚のオーカードを、コナツに投げる。

 そして彼女もまた──ミルタンクのカードを投げる。

 

 

 

「オーライズッ!!」

 

 

 

 その場に光が灯る。

 次の瞬間には、ミルタンクの身体は、蔓に絡まったオーラの装甲を纏っていた。

 そして、セキタンザンは牛の如き角、そして妖精の加護を受けたオーラの装甲を身に付けていた。

 

【ミルタンク<AR:ヤナッキー> タイプ:草】

 

【セキタンザン<AR:ミルタンク> タイプ:水/フェアリー】

 

「ヌシ様……今、助けますッ!!」

「セキタンザン。気合入れろッ!!」

 

 互いにオーカードを交換した二人は、再び自らの相手に向かい合う。

 セキタンザンは地面を蹴り──ドグウリューへと迫る。

 

「クソッ!! 突破出来る訳が無いッ!! この龍気の障壁を──どれ程の勢いがあったら打ち破れると思ってるんだ!?」

「”SLブレイク”は、セキタンザンの能力が上がっていればいる程威力が乗る技だ」

「ッ!」

 

 弾丸の如き勢いで飛び出したセキタンザン。

 それは、龍気を全て薙ぎ払い、そして障壁に思いっきりぶつかる。

 

「その着弾時の衝撃にコイツを重ねるぜ──Oワザ”じゃれつく”ッ!!」

「速──ッ!? オ、オーラジャミングを──」

 

 間に合うはずがない。

 既にオオワザは発動された後。

 今更他の技に切り替えられるわけがなかった。

 限界を超えた速度でドグウリューの障壁にぶつかったセキタンザンは、最後の力を振り絞り──全身から水蒸気を放出する。

 

 

 

 

【セキタンザンの じゃれつく!!】

 

 

 

 障壁も、そして──ドグウリューも、全て貫かれた。

 膨れ上がっていた竜気は空気中へと霧散し、オーデータポケモンは物言わぬ恐竜土偶になり果てて、地面に落っこちるのだった。

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