ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第109話:迫る魔眼

 ──ラズ・クランベリという男の目には、たった1人の少女しか入っていなかった。

 同輩も、先輩も、後輩も、等しく目にかけているように見えて──彼からすればゴミ同然だった。

 何故ならば、彼は脳を焼かれてしまっていた。

 レモン・シトラスという少女に──酷く酷く焦がれ、執着してしまっていた。

 たった一度の敗北。しかし、屈辱的な敗北。それは、

 故に彼は気付かなかった。

 知らず知らずのうちに、周りにいる人間を「居ないもの」として扱っていたことを。

 無視していたわけではない。傍から見れば面倒見のいい先輩にすら見えていただろう。

 だが──彼からすれば「レモンとそれ以外」のうちの後者でしかないのだ。

 無論、それを面白く思わない人間も存在するわけで。

 必死に近付いて、喰らいついて、それでも──袖にされれば、不満は溜まっていく。

 そして、彼はこちらを見ているようで全くこちらを見もしない。見向きもしない。

 叩き上げで成り上がったカラントは、ラズとは対極に位置する秀才だった。

 気に入らない相手を「貧乏人」と蔑む彼は、庶民でありながら必死に勉強してアカデミアに入学したカラントの経歴など知らなかったし、そもそも興味を持つこともしなかった。

 

「最初からお前の事が気に食わなかったさ、僕はッ!!」

「ッ……」

「お前はファイヤー寮の寮長、次期クランベリグループのCEO!! ()()()ッ!!」

 

 トリトドンに”りゅうのはどう”を放ちながら接近するドグウリュー。

 龍の咢から放たれるそれは、周囲を打ち壊しながら無差別に砲火していく。

 更に、その姿は度々周りの景色に溶け込むように消失し、そしてまた再び出現することを繰り返す。

 

「他の奴をゴミ呼ばわりして、蔑む!! お前こそ社会のゴミだというのにッ!! 足元に居る僕らの事なんて何も見えちゃあいない……それでも許してやったよ。お前は僕らの中で一番強かったからな。だけど──」

 

 ドグウリューの両主砲から”りゅうのはどう”がトリトドン目掛けて至近距離で放たれる。

 

「──()()()()()? 転校生にッ!!」

「ッ……トリトドン、”れいとうビーム”──ッ!!」

「おっと、させるかよ……”エナジーボール”!!」

 

 冷気を口に溜めていくトリトドン。

 だが、その前に巨大なエネルギー光弾に取り囲まれ──爆発。

 そのまま黒焦げになって転がるのだった。

 ”エナジーボール”は草タイプの技、トリトドンに効果は抜群。文字通りの致命傷となる。

 

「ッ……ラズ先輩!!」

 

 ──ドグウリューはドラゴン/地面タイプだったはず、氷タイプのハルクジラなら有利に立ち回れる──

 

 そう考えていた矢先だった。

 

「おっと、転校生。お前に邪魔はさせない──」

 

 

 

 

「エリィイイイイイイイイイイッス!!」

 

 

 

 ハルクジラの喉笛に喰らいつく装甲を身に纏った獣。

 そのあまりの勢いにハルクジラは横転。

 更にそこへ、”はどうだん”が撃ち込まれる。

 

「ハルクジラッ!?」

 

 煙が晴れると、そこには足をガクガクと痙攣させて倒れるハルクジラの姿があった。

 

「ッ……こいつまで……!!」

 

 先程天井の瓦礫で押し潰したはずのAKN-818は、何事も無かったかのようにイクサに敵意を向けていた。

 そして、獲物を仕留めた獣は──次の狙いをイクサに定める。

 

「エリィィィィス……ッ!!」

「……どうやら見逃してはくれなさそうだね」

 

 ハルクジラをボールに戻したイクサはボールを構える。

 耐久が高いはずのハルクジラを撃沈せしめたカラクリは──アケノヤイバの特性”あけのみょうじょう”にある。

 それは、本来ならばタイプ一致技ではないはずの格闘技の威力を上昇させる効果を持つ。

 これにより、アケノヤイバは実質、3つのタイプの技を使いこなす事が出来る。

 ゴースト・悪・格闘。この3つを等倍に抑える事が出来ても、全て半減できるポケモン等、居はしないのだ。

 そのためアケノヤイバ相手には常に、消耗戦を強いられることになる。

 当然、ラズの応援に向かっている場合ではない。

 

「そいつらはクラウングループが遠隔で操作している。文字通りの猟犬と化した。まあ、お前達を遠ざけるくらいのことは出来るが」

「……酷い。ポケモンが操られているのを見て、貴方は何とも思わないんですか!?」

「ああ、酷い事だと思うし、自分がツクバネにされたことを思い出すと──虫唾が走るよ。だがな、世の中には目を瞑らなきゃいけないこともある……清濁併せ吞むというやつだ」

「……自分だって操られてたって──」

「そうだな。だけど、これは必要な事なんだ。僕の為に……必要な事だ」

 

 カラントはラズに目を向ける。

 

「僕の両親をクラウングループの子会社に引き抜く代わりに、ラズを捕まえろという命令だ。クランベリグループも御曹司を人質にとれば二度と動けまいってね」

「……成程な、文字通り俺は踏み台か」

「そうさ。既に多額の前金も貰ってる。これだけでもお釣りが返ってくる。両親からは泣いて感謝されたよ」

「おかしいです。ポケモンちゃんを犠牲にするのを見過ごすなんて──ッ!!」

「……金持ちには僕ら庶民の苦労が分からないのさ。君も、恵まれた環境で育ったんだろう? オシアスのキャプテン」

「ッ……それは」

「御託は良い。アケノヤイバとイダイトウには……僕が、ラズを斃して今度こそ下克上を果たす為の礎になってもらう。あの日は邪魔が入った上に台無しになったが……今度は僕一人でやり遂げる」

「台無し、か。台無しにしたのはお前達の方だろ」

 

 ぽつり、とイクサは言った。

 

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それだけじゃないか」

 

 

 

 ビキッ、とカラントの額に血管が浮かぶ。

 だがそんな事は意にも介さず、イクサは続ける。

 

()()()()()()()()()()()、ゲーム盤に居る資格は無い。どんな理由があっても、あの日ラズ先輩に牙を剥いた時点でお前達は詰んでたんだ」

「貧乏人、お前……」

「勘違いしないで下さい。ラズ先輩を庇ってるわけじゃない。だけど、それ以上にこいつ等は許せない。ゲーム盤をひっくり返した挙句、得る物は何も無く、生徒会に今の今まで良いようにされてた御目出度い連中の集まりだ」

「ッ……こいつ、言わせておけば──!!」

「バカじゃないのって思ったよ、正直ね。特記戦力って──もう少し賢いのかと思ってた」

 

 いつになく冷めきった声でイクサは続ける。

 

「ラズ先輩がお前達のトップに相応しくないなら──お前達はラズ先輩のチームメンバーに相応しくない。それが、()()()の僕の率直な感想だけど」

「転校生、貴様ァ──ッ!!」

 

 ドグウリューはイクサ目掛けて照準を合わせる。

 しかし──

 

「おい余所見をするんじゃねえよ、カラント」

 

 低い声でラズが唸る。

 今度は──セキタンザンがドグウリュー目掛けて飛び出し、側面から”SLブレイク”を喰らわせる。

 

「テメェの相手は──俺なんだろ」

「ッ……!!」

 

 ──あの転校生……()()()()()()()()()、隙を作らせたのか!? ラズを、()()()()()()のか!? 何であんな奴を──ッ!!

 

 ジェット噴射で跳ぶセキタンザン。

 背中の石炭を全力で燃やし、全身のエネルギーとして駆け巡らせる。

 だが、ドグウリューはその突貫の一撃一撃を障壁で弾き、”だいちのちから”で足元を爆破することで迎撃するのだった。

 ラズの顔は険しい。複雑さが混じった表情だ。

 今まで目を背けてきたものに否が応でも向き合わねばならなくなった顔だった。

 セキタンザンはタイプ相性の関係上、ドグウリューに対しては不利。

 ラズは有利なポケモンを投げたくなるが──

 

 ──姿が消えるカラクリに障壁。有利なポケモンを展開しても勝てるとは限らねえし、カラントがその対策をしてねえわけがない。きっと、オーライズを切ってくる。

 

 見た限りでも、”りゅうのはどう”、”だいちのちから”、”エナジーボール”で3枠が判明している。

 残りは1枠。此処に、苦手な氷タイプやフェアリータイプの対策が出来る技を積んでいてもおかしくはない。

 

 ──そんでもって、オーデータである以上はオーラジャミングは確実にあるだろうし、うっかり手持ちを消耗させられねえ。慎重に、だッ!!

 

「転校生ッ!! 俺の事は気にするな、アケノヤイバを抑え込めッ!!」

「最初っから気にしてませんよ。正直再会した時は見てられなかったですけど──貴方の炎は消えてなんかなかったし、見直しました」

「……そーかよ」

 

 そう言われて──不思議と悪い気はしなかった。

 少し前の自分なら嫌味の一つでも返していたかもしれない。

 だが今は違う。一陣の風のように胸の中を吹き抜けていくようだった。

 

「……ラズさん、あの人は」

「……昔の仲間だ」

「お友達なんですよね」

「だった、の間違いだ。何なら最初っからそうじゃなかったかもしれねえ」

「……ちゃんと話さなきゃ、ダメです。()()だってそうだったから」

「……仲良しこよしなんて期待すんじゃねーぞ」

「どうするかはラズさんに任せますから。だって──もう”どうでもいい”ってカオしてないですからぁ」

「ッ……」

 

 ラズは頷く。

 

「……おい()()()

「っ!」

 

 ラズは──初めて彼女の名を呼んだ。

 そして、ニッと自嘲混じりの笑みを浮かべてみせる。

 

「……イダイトウ、頼むわ。キャプテンなんだろ」

「ラズさん……?」

「俺は……ツケを払いに行ってくる。手出しは無用だ」

 

 ラズはドグウリューに。

 イクサはアケノヤイバに。

 そしてコナツはイダイトウに。

 三者はそれぞれ戦うべき相手を見据え──立ち向かう。

 

「……どいつもこいつも、僕を苛立たせる」

 

 カラントはカチカチ、と歯を鳴らすとラズを睨み付ける。

 

「……なあラズ、正直僕は嬉しかったよ。メタルレジデンスにお前が惨めにも逃げ込んだって聞いた時は。だけど……地下闘技場でトップランカーになっているって話を聞いて殺意が湧いたさ」

 

 彼の憎悪に呼応するようにして──ドグウリューのオシアス磁気は徐々に強くなっていく。

 

 

 

 

「逃がさないぞ、ラズ……何処までも追いかけて、お前を引きずり降ろしてやる。地獄の底になッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──クランベリグループ本社ビル。

 この建物の頂上で、オシアスを三分していた大企業トップによる会合が始まろうとしていた。

 とはいえ、CEOが未だに入院中のシトラスグループはレモン、そして時間が取れないトップに代わってマスカットグループからはシャインが代理として出席することになったのであるが。

 

「──本日はお招き頂き、ありがとうございます」

「私達は対等な関係だ。肩の力を抜き給え」

「何であんたが偉そうにするのよ」

 

 珍しくスーツに身を包んでいるシャイン。中身はいつも通りなのであるが。 

 そして横には、協力者であり有識者・相談役としてイデア博士も立っている。

 

「……1つだけ腑に落ちない事があります。まだ、()()()を連れ戻せていないのに……今から協力する前提のような会議を始めて良いんでしょうか?」

 

 サングラス越しに──彼は奥に座るクランベリグループのCEOに目を向けた。

 

「……ストロゥ社長」

 

 

 

【”クランベリグループCEO”ストロゥ・クランベリ】

 

 

 

「企業社会には、建前と本音、そして()()というものがある。……非常に面倒だがね」

 

 初老の小柄な気の小さそうな男性──ストロゥ社長は「協力を盾に、面倒な取引を持ち掛けるような真似をして済まないよ」と心その底から申し訳なさそうに言った。

 

「クランベリグループ、マスカットグループ、シトラスグループは先祖の代からライバル関係が続いてきた。そちらとしてもジブン達に借りは作りたくないだろう」

「……お心遣い、痛み入ります」

 

 シトラスグループにも一定数居るのだ。ライバル企業であるクランベリに貸しを作りたくない、と考える上層部は。

 事が終わった後に、そんなやっかみを抱えた社員を持つことになるであろうレモンを案じ、ストロゥはこの取引を持ち出したのである。

 

「ジブンはね、三社の関係は対等であるからこそ成り立つと思ってる。()()()()()()、貸し借りとプラマイはゼロにしておこうじゃないか」

「貸す側の貴方がそれを言うんですね?」

 

 イデアは──相手が大企業の社長でも、全く遠慮なく質問をする。

 しかし、ストロゥは至って本心から首を縦に振るのだった。

 

「確かにシトラスはクラウンの子会社になってしまっていて未曽有の危機だ。でも、だからと言って……ライバルが弱っている時に付け込むような真似は……したくないんだよ」

「……ありがとうございます」

「という、()()()()()の話が三割。残りの三割は、ジブンとしても君達の手を借りたいと考えている。敵は……あまりにも強い。よそ様のポケモンを勝手に改造して……戦力にしている」

「ッ……」

「だから、最初っから既定路線だったのさ。この三社で協力関係を築くのはね。君の所のトレーナー、強いんだろう?」

「ええ勿論。イクサ君は──きっと御子息を連れ戻してきます」

 

 一点の淀みも無い断言だった。 

 それを聞いて、ストロゥは情け無さそうに頷く。

 本来ならば自分がやらなければならない事を他者にさせている自覚はあった。

 

「……残りの四割は……やっぱり一人息子だから、心配なのさ。でも、ジブンでは……あいつを無理矢理連れ戻す事すら出来ない」

「ッ……」

「……話がそれたね。先ず、こっちが協力できるところを提示しよう。生徒会長・アトムの行動の正当性を挫くところから始める」

「そんな事出来るのかい? 相手は司法も味方に付けている」

「動かぬ証拠を大衆に突きつければ良い」

 

 ストロゥは一本指を立てると──口元に自信を浮かばせる。

 

「ジブンらはIT技術屋だ。先ずは事の発端である例の動画が悪質なフェイクであるところを証明するところから始めよう」

「あー……そう言えば、そんなものあったわね……」

 

 完全に忘れていた、と言わんばかりにレモンは眉間を摘んだ。

 アトムがイクサを追う根拠として挙げていたのは、イクサによる自身の襲撃を撮影したドラレコの映像だ。

 最先端のAIを用いたディープフェイクで作成されたそれは、デジーであっても相応のスペックのPCを用いなければカラクリを暴くことが出来ないものであった。

 しかし、クランベリグループはIT企業。動画の解析に困ることは、まずない。

 

「……まああの動画をハックして盗むところから始めたからね。大分時間が掛かってしまったが……」

「それさえあれば十分よ。私達が追われる理由は先ずなくなるし──」

 

 そうレモンが喜んだその時だった。

 ばたむ、と勢いよく会議室の扉が開く。

 

「大変です、社長ッ!!」

「何だね騒がしい。今は来賓を呼んでの──」

「それどころではありませんッ!!」

 

 飛び込んできたのはクランベリグループの社員たちだった。

 彼らは大層緊迫した表情で叫ぶ。

 

 

 

「──外の砂漠から、()()()()()がいきなり現れて──ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 その化生にとって、砂は血であり、肉でもある。

 そして、大空を飛ぶための翼でもある。

 砂がある限り、身体も魂も不滅。決して滅ぶことが無い宵の明星。

 オシアスの地に縛り付けられた哀れな小鳥は──望まぬ主の命を受け、凶刻を告げに現れるのだった。

 

 

 

 

「ケェェェェレェェェェスゥゥゥゥゥゥゥーッッッ!!」

 

 

 

 

【ヨイノマガン みょうじょうポケモン タイプ:岩/飛行】

 

 

 

 

 ……尚、全長は20メートル超。哀れな小鳥と呼ぶには聊か巨大すぎる事には留意すべし。

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