ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

114 / 155
第108話:不穏の沼影

「ドロッシャラアアアアアアアーッッッ!!」

 

 

 

 ──バスラオと呼ばれるポケモンが居る。

 世界各地に生息し、どんな環境でも適応する上、近似種も多いポケモンだ。

 大抵は乱暴で気性が荒い”あかすじのすがた”と”あおすじのすがた”がおり、これらは進化することなく各地の汚れた水場を中心に繁殖している。

 一方、列島北部には”しろすじのすがた”が生息する。これらは生物学的には似て非なるポケモンではないかと考えられており、気質も非常に穏やかで臆病だ。それが進化したポケモンがイダイトウである。

 では、オシアスのバスラオは──オシアス地方を貫くように流れる大河の主な住民であり、捕食者である。

 つまるところ、イクサの居た世界におけるピラニア的存在であり、生態が似通うキバニアとは勢力争いを続けている。

 

【バスラオ(オシアスのすがた) どうもうポケモン タイプ:水】

 

【キバニア ※参考資料 どうもうポケモン タイプ:水/悪】

 

 河川に近付いたポケモンや人間を集団で襲い、食らい尽くす……というのは誇張された迷信だが、川辺で弱った哀れなポケモンが次の日には骨だけの姿になっているのは、バスラオの仕業である。

 そして、繁殖の為により多くの獲物を喰らって成長した個体がイダイトウへの進化を果たす。

 キバニアは干上がる大河から逃れる為に、海水へ適応し、海棲のサメハダーへと進化して海へと出るが、イダイトウはその真逆の進化を辿る。

 多くのバスラオはオシアスの過酷な乾季を超えることが出来ず、干上がった川辺で死んでしまうが、イダイトウに進化を果たした数少ない個体は、その体液で身体を包むことで乾燥から身を守り、更に地面への潜行、泥地への適応を果たすことで生存し、次の代へと命を繋ぐことが出来るのだ。

 その中でも最も長生きなのが大河の遺跡を守るヌシ個体。

 長生きすればするだけ、泥を操る力も粘液の量も増加していき、身体も肥大化していき、それだけ強くなっていく。

 体に纏う泥の量も尋常ではない。特殊な体液で泥の粘度を上げて、敵の攻撃を吸収する鎧としているのだ。

 その為、装甲は頭部を中心に覆われており、一方尾の部分はイダイトウ生来の鎧であり武器でもある特殊粘液の泥に覆われているのだった。

 

「許せない……ッ!!」

 

 イクサは腹の底がぐらぐらと湧き上がるようだった。

 アケノヤイバに続き、イダイトウ。

 どちらも、装甲で身を覆われ、本来の力を発揮できなくさせた上で抵抗の意思を削いだ──兵器と化している。

 その姿は無理矢理洗脳されて奪われたイワツノヅチに重なり、余計に憤りを加速させた。

 

「これ以上悲しい思いをするポケモンは──増やして堪るかッ!! ハルクジラ、受け止めろッ!!」

 

 巨体には巨体をぶつけるべし。

 ましてや相手は水タイプを複合しているとはいえ、地面タイプ。

 乾気にこそ強いが冷気が相手であれば話は変わってくる。

 飛び出したハルクジラはその顔面でイダイトウの突貫を正面から食い止め──

 

「ドロロロロロ……ッ!!」

「ヴオオオオオオン!?」

 

 ──られて、いない。

 純粋にハルクジラが膂力で押されてしまっている。

 低温で周囲には霜が降り、イダイトウの身体も半ば凍りつつあったが怯む様子が全くない。

 それどころか、暴れのたうち回る巨魚はハルクジラを尻尾の一撃で撥ね飛ばすと、その勢いで跳びあがり──空中で泥を吐き出すのだった。

 べちゃ、べちゃ、とハルクジラにそれがぶつかると、そのままトリモチのように地面に縫い付けてしまう。

 

「いけませんっ!! イダイトウちゃんの泥は、粘性が強くて振り解くのに時間が掛かりますっ!!」

「……ちょっと待て。こうしてる間にも、どんどん泥が広がってねえか!?」

「あれもイダイトウちゃんの能力です……! イダイトウちゃんは乾燥にとても強いどころか、周りの環境も作り変えてしまうんです……ッ!!」

「もしそれが本当ならオシアスの砂塗れな環境はもっとマシになってそうなモンだがな!!」

 

 イダイトウの居る場所を中心に、地面は泥が広がっていく。

 元より身に纏っている泥の量が尋常ではない事、技によって常に無から泥を生み出し続けていることもあって、イダイトウは周囲を自らに有利なフィールドに作り替えている。

 幸い、技で生み出された泥はしばらくすれば霧散するが──少なくとも、この戦闘中はイダイトウの得意な地形で戦わねばならない。

 

「だけどなッ!! 泥地が得意なのはテメェだけじゃねえ!! ──来い、トリトドンッ!!」

「ぽわーぐちょぐちょ」

 

【トリトドン ウミウシポケモン タイプ:水/地面】

 

 ラズが次に繰り出したのは、イダイトウとタイプが全く同じポケモン・トリトドン。

 のっぺりとした顔に円らな瞳が特徴的なウミウシのようなポケモンである。

 

「”たきのぼり”だッ!! 流れに逆らえッ!!」

 

 このような場面を想定していたと言わんばかりに習得された”たきのぼり”で、押し寄せる泥をも無視してトリトドンはイダイトウへと近づく。

 そして、泥を辛うじて抜け出したハルクジラ共々、イダイトウを抑え込みに掛かった。

 

(技にこんな使い方が!? 攻撃技なのに攻撃以外にも応用できるのか!!)

 

 その一連の流れに思わずイクサは感心する。

 しかし──

 

「ドロロロロロッ!!」

 

 

 

【イダイトウの じしん!!】

 

 

 

 イダイトウが強く強く尾を地面にたたきつけると、衝撃波が周囲に響く。

 それが二匹を吹き飛ばし、更に追撃するかのように泥が波打つ。

 粘液は時間経過で硬化して泥を押し固めて、硬い柱と化し、二匹を突き貫いた。

 

「な、なんだコイツ……!? やりたい放題し過ぎだろ……ッ!? これがヌシポケモンだってのかよ……ッ!?」

「全く歯が立たない……!! 弱点を突かれたわけでもないのに、僕達がマウントを取られてる……!!」

「こりゃ特性は”てきおうりょく”で確定だな──ッ!!」

 

 ラズは、倒れ伏せる二匹に目をやる。

 しかし彼の仮説を否定するようにコナツは言った。

 

「いいえ──イダイトウちゃんの特性は”かたやぶり”!! ”てきおうりょく”ではありません!!」

「んなッ!? おいコラ先に言えッ!!」

「すみません……僕から言っておけばよかった」

「テメェも知ってたのか貧乏人ッ!! じゃあ、火力が高いのはレベルが高いから……!? どうしようもねえじゃねえか!!」

 

 ”じしん”は全体攻撃。

 此方のポケモン全体に被害が及ぶ技だ。

 トリトドンもハルクジラも、”じしん”を連打されるだけで体力を削られ続けてしまう。

 

「あのイダイトウ、相当鍛え上げられてやがるなッ!! トリトドンがフラつくなんてよっぽどだぞ!?」

「私も加勢します……あの子の事は私が一番よく知ってます……!」

「無茶すんな!! 俺におんぶされながらコイツと戦うのは、キケンだッ!!」

「だとしてもッ!!」

「それにテメェ、ボールを握る手に力が入ってねえだろ!?」

「……ッ!」

 

 ラズの指摘にコナツは目を見開く。

 

「アバラが少し痛いだけだァ!? 大ウソ吐いてんじゃねえ!! アバラは折れてやがるし、肩は瓦礫が刺さって出血もヤバかった──腕に力が入るわけもねえ!!」

「それでも……」

 

 コナツは──するり、と力の入らないその右腕でボールを握り締め──放った。

 ころん、と転がったボールからミルタンクが飛び出す。

 グロッキーで顔色も悪い主人を前に、さしものミルタンクも蒼褪めた様子で駆け寄ろうとするが──

 

「行ってっ!! 私はキャプテンッ!! ヌシ様への奉仕こそが使命ッ!! 放って……おけるわけがないッ!!」

「お前……何でそこまで」

「……襟元、正されちゃったんです。たった1人の親友に──そして、イクサさんに」

 

 ばしゃん、と音を立てて落ちるようにコナツは地面に降りた。

 既にイダイトウが溢れ出させた泥で周囲は満ちており、彼女は泥まみれの地面にへたり込む形になるが──目から闘志は消えていなかった。

 

「ミルタンクちゃん、”引きずり出して(かいりき)”!!」

 

 ミルタンクが飛び掛かり、イダイトウの鰭を思いっきり掴み、沼地から引っ張り上げて空へと放り投げる。

 

「ッなんつー膂力だっ!?」

「二人共、今ですッ!! チャンスは作りましたっ!!」

「ありがとうコナツさん……反転攻勢だッ!!」

 

 当然、その態勢からでも尻尾の泥を此方に飛ばしてくる大魚だったが──空中では自由に姿勢を制御する事が出来ない。

 つまり、攻撃を避ける事が出来ない。

 

「──ハルクジラ、”つららおとし”だッ!!」

「──トリトドン、”ハイドロポンプ”ッ!!」

 

 空中に跳びあがったイダイトウを、ハルクジラが氷柱で突き刺し、更にトリトドンが追撃と言わんばかりに水の柱を真っ直ぐに飛ばして叩きつける。

 泥に墜落したことでばしゃん、と大きな水冠が出来上がったが、そこに──ミルタンクが詰めより、飛び掛かる。

 

 

 

「……ごめんなさい、イダイトウちゃん」

 

 

 

【ミルタンクの アクアブレイク!!】

 

 

 

 右腕に力を込めた渾身の一撃。

 それがイダイトウに叩きこまれた。

 

「やったかッ!?」

 

 思わずラズは叫ぶ。

 ポケモン3匹による強襲。

 幾ら耐久が高いイダイトウと言えど、これを立て続けに受ければただでは済まないはず──

 

 

 

「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 ──そう、誰もが考えていた。

 凄まじい音圧。

 本能的にイクサ達は耳を塞がざるを得なかった。

 腹の底から寒さを感じるような危機感。

 そして、とてつもなく途方もない怒りが伝わってくる。

 ヌシのイダイトウは、未だに健在だ。 

 そして咆哮を受けたことで足が竦んでしまったのはポケモン達も同じようだった。

 

【イダイトウ:ヌシ咆哮】

 

【ポケモン達は怯んで動けない!!】

 

 巨体を持つハルクジラですら、怯えてしまっている。

 それを見たイクサは、改めてヌシポケモンの脅威というものを感じるのだった。

 

(種族値としての耐久力、レベルで底上げされた火力。そして()()()()()()()()()とてもタフ……アケノヤイバより格下の相手だろうと見ていたのがそもそも間違いだったのか……!?)

 

 正直、アケノヤイバに比べれば──と考えていたのは否めない。

 だがあくまでもアケノヤイバの特殊な力が規格外なだけで、ヌシポケモンとはそもそも同種の個体と比べても突出した力を持つポケモンなのだ。

 

「……クソッ!! だけど逆に言やぁ効いてるってことだッ!! このまま攻め続けるぞッ!!」

「そうです……イダイトウちゃんを取り戻さないと──ッ!!」

「おい平気なのかよ!?」

 

 ふらふらと泥まみれのまま起き上がるコナツを、ラズは肩で支えるが──彼女はそれを払い除けようとする。

 

「問題ありません、離してください……ッ!!」

「いーや離さないね。テメェのポケモンは強い。だが、それを指揮するテメェが倒れちゃ意味がねえ」

 

 あれを見ろ、とラズはミルタンクを指差す。

 イダイトウに対して怯えを見せているが、それ以上にコナツの事を気遣っている。

 

「あいつはテメェを気にしてる。このままじゃ全力を出せない」

「ッ……」

「良いか、あくまでもこれは戦略的行動だ。だから貧乏人ッ!! テメェはこの女を気にせずに思いっきり戦えッ!! コイツは俺に任せろッ!!」

「……はいッ!!」

「……ッ」

 

 コナツはラズが守ってくれるも同然だ。

 後は、連携でイダイトウを追い詰めるだけ。

 とはいえ怒ったことで巨魚の行動は更に激化している。

 尻尾に大量の泥を擦り付けると、再び此方目掛けて泳ぎ始めるのだった。

 ──何処から引っ張ってきたのかも分からない大量の濁流を伴って。

 

 

 

【イダイトウの なみのり!!】

 

 

 

「ちょっと待て──ッ!?」

 

 津波と言っても差し支えない量だ。

 文字通り、水の塊の暴力と言っても差し支えない。

 問題はそれがあまりにも突発的に、そして唐突に現れたことである。

 そしてポケモンは愚か、後ろにいるトレーナー達も飲み込まんと言わんばかりの勢いだ。

 

「何で!? トリトドンのハイドロポンプよりも数倍はありそうな威力の”なみのり”なんですけど!?」

「ヘッ、水技かッ!! この時を待っていたッ!!」

「ぽわわわ」

 

 だが、そこで前に出たのは──ラズのトリトドンだった。

 

「──ナメんじゃねえ!! トリトドンの特性は”よびみず”!! 水技を吸い上げるなんて訳ねえぜ!! まとめて吸収してやらぁ!!」

「ダメです!! イダイトウちゃんの特性は”かたやぶり”!! ”ちょすい”は──」

「知ってんだよ、ンな事ぁ。俺がさっき驚いたのは、奴の特性が”てきおうりょく”じゃなかった事に対して、だ」

「……?」

「奴の特性が“かたやぶり”だろうが関係ねえんだよッ!!」

 

 トリトドンの首にかけられたブレスレットが輝く。

 それは盾のような意匠を模していた。

 

「地下闘技場じゃあ、俺の名前も知られてきてる。俺のポケモンの対策も取られ始めてる。だから──対策の対策だって講じてんだ。こんな所で役立つとは思わなかったがな!!」

 

 襲い掛かる津波。

 しかし、それは全てトリトドンへと集約されていく──

 

 

 

「──トリトドンの持ち物は”とくせいガード”!! ()()()()()()()()()()()()()──()()()()()!!」

 

 

 

 ──水が、トリトドンに吸い込まれて消えていく。

 そして、水を吸ったことで大きく膨れ上がったトリトドンは──突っ込んできたイダイトウ目掛けて諸共吸収した水を吐き出し、お返しするのだった。

 

【トリトドンの ハイドロポンプ!!】

 

 凄まじい水圧の砲撃がイダイトウを貫き、再び地面に叩き落とす。

 元のサイズに戻ったトリトドンは、ぶるぶる、と身体を震わせるのだった。

 

 ──ラズの最大の武器は知識。辺境の地方まで含めてあらゆるポケモンや道具のデータを覚えている。それを組み合わせて戦うから、ポケモンの力を最大限に引き出せる。

 

「ヘッ、どんなもんだッ!!」

 

(これが、レモンさんが言ってた……ラズ先輩の力……! 逃げ道を敢えて作って、それを叩き潰すような戦い方……! ラズ先輩は最初から、勝ち筋が見えてたんだ……!)

 

 あまりにも淀みが無いラズの戦い方に、イクサは息を呑む。

 やはり彼は──三寮長の一角だったのだ、と。

 

「ドロロロロロロ……ッ!!」

「そろそろ……奴を倒せる。だが、気を抜くなよ。手負いのポケモンが一番怖いぜ」

「はいッ……!」

「……イダイトウちゃん。今、助けますっ!」

 

 

 

「──悪いが、そうはさせない」

 

 

 

 何処からともなく声が聞こえてくる。

 ビルの屋上から──イダイトウとイクサ達を分断するようにして、何かが降り落ちた。

 

「ッ!?」

 

 イクサは思わず身じろぎ、それを凝視した。

 巨大な駒の如き土偶のポケモンだ。

 しかし、頭部には龍の形をした装飾が幾つも付いている。

 そしてふよふよと浮かび上がる腕のような部位も、竜の顎の形を模していた。

 まさに土偶の竜、竜の土偶と言うべき姿である。

 

「……テメェは……」

「まだくたばってなかったのか、ラズ。だけど……今度こそ、この手で引導を渡せる」

 

 土偶の竜の頭部に座るのは、モノクルを掛けた神経質そうな少年だった。 

 スカッシュ・アカデミアの生徒会に所属することを示す白いブレザーを身に纏う彼は、ラズに向かって見下すような視線を投げかける。

 

「……今更何しに来やがった──カラント」

「現寮長としての最初の仕事だよ」

 

【ファイヤー寮3年生”現寮長”カラント】

 

「ラズ先輩、この人は……!?」

「カラントは……ファイヤー寮・特記戦力……そんでもって、俺の副官だった奴だ」

「……えっ、でも何で此処に? 僕達を追ってきたのか?」

 

 その説明で、イクサも漸く思い出す。

 オーデータ・ロワイヤルで生徒達の裏切りを扇動した特記戦力の一角である。

 それが切っ掛けとしてファイヤー寮チームは崩壊。

 結果として、敗北の一途を辿ることになったのである。

 だがその後の顛末は、アトムの配下であるツクバネに他の生徒共々洗脳されて傀儡となっていた──というのがイクサの知る彼らの末路だ。

 

「ツクバネの奴は病院から出て来られなくなった。おかげで、僕らはあいつから解放された。誰がやったのかは知らんが、大方転校生──お前だろう」

「いや、違いますけど……」

「その好でオマエは見逃しておいてやる。僕の目当ては、そこの高慢ちきな筋肉ダルマさ」

「……どういう風の吹き回しだ? 今更俺を追撃して何になる」

 

 くくっ、と喉で嗤うカラントは──血走った目でラズを睨む。

 

 

 

「……みーんなお前の事が嫌いだったんだ。僕が代表として今度こそ葬ってやるんだよ。このドグウリューでなッ!!」

「グルルルルルルルルロ……ピピピピ!!」

 

 

 

【ドグウリュー オーデータポケモン タイプ:ドラゴン/地面】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。