ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第106話:激昂

 ──ガラクタと資材で築き上げられた巨大な要塞。

 圧倒的な物量。

 そして、敵方には遠距離から此方を攻撃する武器の数々。

 正面からの突破は相当に手間がかかる、とイクサは踏んでいた。 

 しかしそれでも、最悪はギガオーライズがあれば、と覚悟していた。

 だが、すぐに異変は起きたのである。

 要塞の直上から──何かが降り落ち、天井をブチ抜いた。

 てっぺんに立つデカヌチャンは、それに反応することが出来なかった。

 

 

 

「──カヌヌヌヌ!?」

 

 

 

 イクサとコナツの二人が踏み込もうとした刹那であった。

 要塞の穴という穴──カヌチャンやナカヌチャン達が覗き、岩を投げていた覗き窓からいきなり白い煙が凄まじい勢いで噴き出したのである。

 そして遅れて、遠巻きからでも凄まじい熱気が伝わってくる。

 

「な、なんだ!?」

「いきなりとんでもない熱量……!? って──」

 

 鋼タイプのカヌチャン達にとって、極度の高熱は弱点そのもの。

 手に持つ武器は熱のあまり捻じ曲がる上に、彼女達自身もそれを苦手とする。

 故に、群れはパニック状態に陥り、あっという間に彼女達は要塞から飛び出してしまうのだった。

 統制を失ったカヌチャンは、イクサとコナツには目もくれず、次々に四方八方へと逃げてゆく。

 

 

 

「……シュポポポーッッッ!!」

 

 

 

 要塞のてっぺんから咆哮が聞こえる。

 イクサは双眼鏡を取り出し──見上げて、思わず声を出す。

 最後に残った群れのヌシ・デカヌチャンと相対するのは、石炭の山を担いだ怪獣のようなポケモンであった。

 その身体からは白い煙がもくもくと噴き出している。

 

「セキタンザンか……!?」

 

 せきたんポケモン・セキタンザン。

 それはイクサの知る限り、全身が石炭の色そのものに染まったポケモンだったはずだ。

 だが、今こうして要塞に陣取っている個体は全身を覆う鉱石が青く、更に頭部には煙突が生えている。

 姿はまるで生ける蒸気機関車の如く。

 威嚇の咆哮の度に甲高い汽笛が鳴り響き、口からは白い煙が溢れていく。

 すかさず図鑑を翳すと──

 

【セキタンザン(サイゴクのすがた) エスエルポケモン タイプ:炎/水】

 

【身体の岩石は固形化したエネルギー。水を飲むと、蒸気の力で凄まじい速度で走る事が出来る。】

 

「リージョンフォーム!? 僕の知らない姿だ……!!」

 

 彼が驚いている間に、デカヌチャンとセキタンザンの戦闘が始まった。

 配下たちを傷つけたからか、怒り狂うデカヌチャンは、巨大なハンマーを大きく振り回して要塞をブチ抜く。

 だが、セキタンザン側も見かけによらぬステップでそれを難なく躱してみせる。

 そうなると──デカヌチャン側は一気に重力とハンマーの質量に従って天井を突き破って落下していくわけで。

 

「カヌヌヌッ!?」

 

 凄まじい墜落音。

 そして、遅れて高熱の湯気に満たされた要塞の中から慌てて飛び出してくるのだった。

 それを逃がさないとばかりにセキタンザンもテッペンから飛び降りて追いついてみせる。

 

「脱走して野生化したポケモン同士の戦いでしょうかぁ……!? あの要塞化したコロニーを水蒸気で満たして、カヌチャン達を皆追い払った……!」

「縄張り争いにしてはハイレベルすぎるし、セキタンザン側に進化前のポケモンが見当たらない……! あいつらだって群れるはずなのに」

 

 睨み合うデカヌチャンとセキタンザン。

 だが間もなく、デカヌチャン側が地面を蹴ってセキタンザンにハンマーを叩きつける。

 

【デカヌチャンの デカハンマー!!】

 

 地面を揺らす程の衝撃が波打った。 

 イクサ達は思わず震動で立っていられなかったほどである。

 だが、セキタンザンは軽々とそれを片手で受け止めてみせると、今度はお返しと言わんばかりに──ふぅ、と炎の吐息を思いっきり吹きかけてみせるのだった。

 

【セキタンザンの かえんほうしゃ!!】

 

 轟々と燃える炎はデカヌチャンを包み込む。鋼タイプに炎タイプの技は効果抜群。

 だが、特防が非常に高いデカヌチャンは──今の一撃を受けても尚、起き上がり、再びハンマーを担ごうとする。

 が、もう体力が残っていないのだろう。立ち上がるのもやっとのようだった。

 そこに──何処からともなく何かがデカヌチャンの背後を取って飛んでくる。

 ポンと音を立てて妖精の身体は光と共に小さく縮み──そして、あっさりとボールの中へと収まるのだった。

 後にはモンスターボールが転がっているだけだ。

 

「一瞬で、あの数のポケモンを制圧した……ッ!」

 

 コナツは恐ろしさに手が震えていた。

 敵のコロニーを初手で最適解を踏んで瓦解させる、只のトレーナーでは成し得ない技量。

 ポケモンが疲弊した完璧なタイミングでの捕獲。

 そのどれをとっても一流と呼んで差し支えない。

 

「……ザッとこんなもんだな」

 

 湯気が立ち上がる戦場に響いた声を前に、イクサは思わず拳に力が入る。

 それを背景にして現れ、ボールを拾い上げていく少年。

 

「……よくやったなセキタンザン。後は目当てのモンを回収するだけだ」

「シュポポポ」

「……そう思っていたが、見知った顔があるな」

 

 何処かやつれたような印象だった。

 目立たないコートに身を包み、くすんだ瞳をした少年は、懐かしいものでも見るかのようにイクサを眺めると「まあどうでもいいか」と呟く。

 だが、イクサの方はどうでも良くはない。すぐさま距離を詰め──叫ぶ。

 

 

 

()()()()ッ!!」

「……俺に今更、何の用だコラ──()()()

 

 

 

 疲れ、くたびれたような口調。

 闘志など源泉から消え失せたと言わんばかりだった。

 イクサの知る彼のそれとは、随分と枯れ果ててしまったかのような印象さえ受けた。

 短くスポーティだった髪は長く伸びきってしまっており、まともに手入れもされていないことが伺える。

 だが、関係ない。イクサからすれば、彼が長い間こんな町に逃げ込んでいたことは許せないことだったからである。

 

「何で、こんな所に──どうしていきなり居なくなったりしたんですか!? アカデミアも、オシアスも、今、大変なことに──」

「知るかよ」

「レモンさんが風紀委員長の座を追われて……僕ら皆学園を追い出されて……」

「だから知らねえってんだよ」

 

 吐き捨てるようにラズは答える。

 

「……逆に聞くが、何で俺が行く必要がある?」

「……え?」

「俺が行ったところで、アトムの奴に勝てると思えねえし、寮の奴らは俺を要らねえモンと判断した」

「……レモンさんが──貴方の力を必要としてるんです」

 

 拳を握り締めると、不思議と力が入った。

 不本意だった。

 今までの事を考えると怒りで狂ってしまいそうだった。

 だが、それを全部飲み込み──イクサは地面に膝を突く。

 

「……クラウングループに……アトムに、学園もオシアスも滅茶苦茶になってるんです。無実の人が捕まえられて、ポケモンも奪われてる」

「……」

「今は、クランベリグループと、シトラスグループ、マスカットグループ、全部の力を合わせなきゃいけない時なんです」

「……」

「クランベリグループは……貴方を連れ戻す事を条件に協力の申し出に乗ってくれました。だけど──僕としては、今は1人でも、強い人が欲しい」

 

 そして──思いっきり頭を下げる。

 土下座。

 精一杯の土下座。

 この地方の人間に伝わるかは分からなかったが──それでも、これがイクサの精一杯の誠意だった。

 

 

 

「お願いです……ッ!! 力を貸して下さいッ!!」

「やなこった」

 

 

 

 しかし、それは即座に振り払われる。

 何処か疲れた顔をしたラズは──セキタンザンが”すすけたよろい”を持ってきたのを確認すると、ボールに戻した。

 

「……ッ」

「裏切られたのはまあ良いぜ、相応の事をしたんだろうと俺も思う。レモンに固執し、何も見えてなかった。あいつらの面子を潰した」

 

 だけどな、と呟くと──彼は首を横に振った。

 

「……もう疲れちまった。どうでも良いんだ。俺は要らねえんだろ? んじゃあ、寮の話はそれで話は終わりじゃねえか」

「僕は──他の人たちは貴方の力を必要としていて」

「……透けて見えんだよ。どうせクランベリの力を借りてえから無理して土下座までしてんだろが」

「ッ……」

「シャインだって十二分に強いだろ。アイツに任せときゃいい。そも、頼みにやってくるのがレモンやシャインじゃなくて、何でテメェなんだコラ、()()()()()()()()()()()()()()()コラ」

 

 ま、どうでもいいけどな、と後に付け加えると──ラズは巨大な鉄の要塞を見上げる。

 主はもう居ない。空洞で空っぽだった。

 

「あの日、突然やってきたテメェが俺を負かしてから、全部おかしくなった。テメェが来てから全部おかしくなった。誹謗中傷は毎日のように受けたし、あれから会社の連中からバカにされるようにもなったよ」

「ッ……それは」

「だがな、俺も今更テメェを恨む気はねぇよ。昔の俺なら張り倒してただろーがな、そんな気分じゃねーんだわ、もう。むしろ、どーでもいいと思ってる」

 

 無気力で、無感動。

 そして──無関心。

 すっかり虚ろになった目で、ラズはイクサを見下ろす。

 

「今はな、地下闘技場で金を溜めてんだ俺ァ」

「ッ……」

「他所の地方でひっそりと暮らすための金だ。親の金じゃなくて、俺自身の力でゼロから稼いだ金だ。どうやら俺の実力がありゃあ、地下闘技場でも結構いいところまでいけるみてーだぜ」

「出て行くんですか……オシアスから」

「こんなイカれた地方からは消えるに限るぜ。企業と金の都合で振り回されるのはもう勘弁だ」

「……やられっぱなしで悔しくないんですか」

「向いてなかったんだよ、俺にはな」

 

 すん、と目を伏せるラズ。

 取り付く島もない、とはこの事だった。

 この分では力づくで返すどころの話ではない。

 仮に連れ戻しても、またふらりと何処かへ行ってしまう。

 そんな空虚ささえ感じる。

 

()()()()()()()()……ッ!! 今は強い人が1人でも欲しいのに……ッ!!)

 

「オシアスや学園がどうなってるかなんて、此処に居りゃあ毎日聞こえてくるよ。でもな──()()()()()()()()()()()()()

「……ッ」

「そういうのはやる気のあるやつだけでやってくれ。俺達体育会系じゃあ、やる気のねぇヤツは帰れってよく言うだろ? 帰るわ」

 

 そう言って、踵を返そうとするラズ。

 しかし──

 

 

 

 

 パンッ!!

 

 

 

 その横っ面を、いきなり何かがひっ叩いた。

 面食らったように彼は頬を押さえ、自分をぶった相手を睨む。

 そこに立っていたのは──涙ぐんでいるコナツだった。

 

「……このアマ。何処のどいつか知らねえが──」

「どうでもいいって……何ですか」

「あ……?」

()()()()()()って、何ですかッ!!」

 

 イクサは──彼女の口からは考えられない程に甲高い金切り声に思わず顔を上げる。

 

「貴方とイクサさんに確執があることくらい、知ってますッ!! 素直に首を縦に振れないだろうなって、分かってましたッ!! だけど──そこまで()()()()だなんて思わなかったッ!!」

「てんめ……何しやがる。知らねえアマにぶたれる謂れはねぇぞ」

「──イクサさんは、貴方に勝つためにずっと必死で、特訓してきたんですよッ!!」

 

 毎日、吐くような過重負荷に耐えながら。

 毎日、シャインやイデアに打ちのめされ、プライドも矜持も全部叩き潰されながら。

 それでも──勝たねばならない相手に、力づくでも連れ戻さなければいけない相手に食らいつこうとしてきた彼を、コナツはずっと見てきた。

 

「私は……私に出来ない事が出来る人を、心の底から凄いと思う……ッ!! 女の子に弱くて、流されやすい所はあるけど──ポケモンの事になると何も見えなくなるところはあるけど──それでも、私は見てきたッ! 一度守るって決めた事には何処までも真っ直ぐなイクサさんの姿を!!」

「……このアマ」

「それを──どうでもいいって、何ですか。たった一回裏切られたくらいで、拗ねてるだけじゃないですか!! 貴方を心配して待ってくれてる人は沢山いるのにッ!! 全部捨ててしまうんですかッ!!」

「──テメェに、俺の何が分かるッ!!」

 

 ラズは──思わずコナツの腕を思いっきり握り返していた。

 

「ッ……!!」

「テメェに俺の何が分かる。ポケモンの才能がねぇ情けねえ親父、自分で戦う気もねぇのに期待かけてくる周りの連中、追いついても突き放してくるライバル共、勝つのは当たり前、負けるのは一生の恥、そんな世界はもうウンザリだ!!」

「分かりません。分かってたまるもんですかッ!! 貴方は逃げただけですッ!! 本当に情けないのは貴方の方ですッ!!」

「やめろっ……二人共ッ!!」

 

 これ以上は喧嘩になってしまう、とイクサは起き上がる。

 完全に二人共、頭に血が上ってしまっている。

 一方のイクサは徐々に冷静になりつつあった。

 コナツも一文字に口を結んで一向に引き下がる気配が無い。

 

「止めるんだ、こんなところでッ!! コナツさん、暴力は良くないし……ラズ先輩も、一度落ち着いて──」

 

 その場に一触即発の空気が流れる。

 剣呑な静寂。

 息を詰まらせるイクサ。

 ぴくぴく、と瞼を震わせるラズ。 

 不動の姿勢を貫くコナツ。

 三者が睨み合う中──何処からともなく、獣の吼える声が聞こえてきた。

 

 

 

「──エリィィィィスッッッ!!」

 

 

 

「!?」

 

 コナツの腕から手を離すと、ラズはすぐさま辺りを見回す。

 

「何だ……!? 聞いた事のねぇ鳴き声だ」

「ポケモンでしょうか……!?」

「にしちゃあ──駆動音……重機!?」

 

 カシャ、カシャ、と何処からともなく機械が硬い地面を踏む音が聞こえてくる。

 そして間もなくその主は──音もなく、イクサ達の退路を塞ぐようにして現れるのだった。

 

「エリィィィィィス……ッ!!」

 

 全身は機械の装甲で覆われている。

 頭部もフルフェイスのマスクに覆われ、分からない。

 背中からは羽根のように黒いチューブが何本も伸びている。

 大型獣程あろうかというサイズにイクサ達は気圧されるが──時折見せる不自然な挙動はむしろ機械らしさを感じさせる。

 

「何ですか、このロボット……!?」

「何もクソも……しっかり書いてるじゃねえか……厄介者の名前がな」

「……!」

 

 装甲の一部に刻まれた文字。

 そこにはCLOWN──そして型番なのか”AKN-818”とはっきり記されている。

 最早疑うべくもない。何処から差し向けられたのかは明白だ。

 その答え合わせをするようにして、装甲を纏った仮面の獣は黒い影を圧縮してみせる。

 

 

 

【AKN-818の シャドーボール!!】

 

 

 

 その直後。

 黒い影の弾幕が一気にイクサ達に襲い掛かる。

 突如現れたそれは、敵意を一切見せることなく至って事務的に、そして機械的な絨毯爆撃を仕掛けたのだった。

 しかし。

 

「皆さん、無事ですかッ!?」

 

 前に立ったのはコナツ、そしてザングースだ。

 ゴーストタイプの技であるシャドーボールは、悪タイプのザングースに効果が今一つ。

 何とか受け止めてみせるのだった。

 

「な、何とか……!!」

「何が無事だボケ!! ……テメェらの追手がこんな所まで来やがったのか!? 厄日だぜ今日は!!」

「しかもただの追手じゃないみたいだ……ッ!!」

 

 確かに装甲に覆われた身体は一見重機とさえこちらを誤認させる。

 だが、放つ威迫は明らかに重機のそれではない。

 周囲には鬼火が揺らめいており、頭部のマスクからは呼吸音が聞こえてくる。

 

「重機じゃありません……ポケモンちゃんです……!!」

 

 

 

             

【▼AKN-818が勝負を仕掛けてきた!!】

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