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「物を大切に」を軽視? 旧車の自動車税上乗せに疑問 乗るのは年間数百キロ「環境負荷は高くないはず」

2025年12月29日 05時10分 (12月29日 05時10分更新)

 50年以上前の旧車を愛用しています。新車登録から13年超のガソリン車に対して、自動車税に一律で上乗せされる経年重課の制度に疑問を感じます。車の製造に伴う二酸化炭素(CO2)排出量などを考えれば、同じ車に長く乗り続ける方が環境に優しいのでは。古い物を大切にする精神が失われていく気がしてなりません。 名古屋市緑区の片岡康平さん(68)

 自動車税の重課分の負担は所有者にとって小さくなく、記者も初めて購入した車を13年のタイミングで手放した経験があります。一方で、環境性能に優れた車が多く開発されています。脱炭素を目指す上で乗り続けるのがいいか、買い替えるのがいいのか。税制の仕組みとともに探りました。(竹内なぎ)

1972年式の車に乗り続ける片岡康平さん=名古屋市緑区で

 片岡さんは、1972(昭和47)年式トヨタ・スプリンタートレノのTE27型を愛用している。スポーツカーのエンジンが搭載された小型車で、今も根強い人気を誇る車だ。学生時代から憧れ、中古で手に入れたのは30年前。丁寧に手入れし、エンジンやブレーキの改造も楽しみながら大切に乗り続けてきた。
 普段は別の軽乗用車を使い、旧車は車のイベントやレースの時にしか乗らないため走行距離は年間数百キロ。「実態として環境負荷は高くないはずだ」と考えている。
 自宅で、小中学生向けに造形やロボット作りの教室を開いている片岡さん。「例えば物が壊れたらすぐに新しく買えばいいと考え、工夫して直そうとしない。年々そういう児童生徒が増えている」と実感する。
 自動車税は新車登録から13年経過すると、ガソリン車で15%増加する。金額は排気量によって異なり、片岡さんの車(1500cc超2000cc以下)で増加分は5900円分に相当する。
 だが現行の税制は、旧車文化や物を大切にする精神の軽視につながっているのではないか-。片岡さんは、そんな危機感から今年6月、愛知県に自動車税の重課分の取り消しと返納を求める審査請求書を出した。「持続可能な開発目標(SDGs)の価値観が広がる中で、審査請求が議論のきっかけになれば」と願う。

買い替えるか乗り続けるのか、エコなのはどっち?

 果たしてエコなのは買い替えか、乗り続けた場合か。環境省が2020年に公表したこんな試算がある。00年に乗用車を購入し、13年に新車に買い替える場合と、25年まで同じ車に乗り続ける場合で、新車製造と走行時の累積CO2排出量を比較した。どちらも年間1万キロ走り、買い替える新車は製造に伴うCO2排出量を4.1トンと仮定した。
 CO2排出量の累積は、13年時点においては買い替えた方が上回るが、買い替え後の新車は燃費が64%向上しており、17年前後で逆転する結果となった。
 電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)は製造段階でガソリン車より、さらに多くのCO2が排出される。買い替えまでの年数や車種ごとの燃費などでも変わるため、一概にどちらがエコと言い切れない点は残る。
 九州大の加河茂美教授(環境経済学)は「新車の製造過程で出るCO2を減らす上で、車の寿命を延ばすことは重要だ」と指摘。重課が「車の長寿命化を妨げる要因になりうる」と述べ、環境性能の良い中古車購入への補助も含めた制度の見直しの必要性を強調する。
 車の所有者が都道府県(軽自動車は市区町村)に納める自動車税の仕組みと背景はどうだろう。
 自動車税は現在、毎年納める種別割と取得時のみかかる環境性能割(26年3月末で廃止)からなるが、経年重課が適用されるのは種別割の部分だ。自家用車の総排気量によって分けられ、新車登録が19年10月以降の種別割の税額は2万5千~11万円となっている。
 重課は、01年に導入された車の環境性能に応じて税率を軽くしたり、重くしたりする特例の中に盛り込まれた。当時はディーゼル車の排出ガスによる健康への影響が問題となっていた。総務省によると、ディーゼル車の重課は11年経過した車に、ガソリン車はディーゼル車と比べ環境負荷が小さいため13年超を対象に設定した。
 重課の増加割合は導入時は10%だったが、14年度に15%に引き上げられ、16年度には13年を超える軽自動車に対する20%の重課も加わった。総務省都道府県税課は「環境性能に優れた車への転換を促す効果がある」と意義を語る。現行制度では、EVやハイブリッド車など環境配慮型の車は重課の対象外だ。
 自動車検査登録情報協会によると、重課による影響のためか、近年の乗用車の平均使用年数は約13年となっている。一方、経済的に新車を買う余裕がないなどの理由で、高い税金を払いながら13年超の車に乗り続ける人も少なくない。
 与党が今月まとめた26年度の税制改正大綱では、自動車税においてEVなどに対する重量に応じた課税方針が盛り込まれた。キヤノングローバル戦略研究所の柏木恵・研究主幹は「EVなどへの課税の仕組みを整えることで、古い車を大切にする人の不公平感が多少は減る方向性になった」と話す。

欧米では歴史的な車に優遇措置

 一方、欧米諸国では、歴史的価値が高い車に対する税の優遇措置が広がっている。
 自動車産業が盛んなドイツでは、市場に出て30年以上経過し、製造時の状態を維持しているなどの条件で「Hナンバー」と呼ばれる特別なナンバーを取得すると、自動車税が安くなる。
 英国では、40年以上前に製造された車の自動車物品税を免除。米国でも州によって条件が異なるが、一定の年数が経過し、価値の高い車に対して年間登録料を軽減するといった措置を導入している。
 国内でも、独自に優遇する自治体がある。東京都は1945(昭和20)年以前に製造された車の重課分を減免している。都主税局は「日常の移動手段というより展示やイベントでの使用が主であり、環境負荷が増えるわけではないため」と説明している。
 自動車評論家の国沢光宏さん(67)は「日本は自動車立国。歴史的価値が高い車を『動く文化財』として大切にするという観点から、一律の重課はやめるべきではないか」と訴える。

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