ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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「ドロー♡ドロー♡クイッククイックドロー♡ 素敵な紙捌きです、ご友人♡」
「怒られるからマジでやめろ(マジトーン)」


第105話:ギャング・パレード

「この人が来ませんでしたか?」

 

 

 

 ──裏六番街・ダークマーケットは、密輸品・規制品などが平気で取り扱われるエリアだ。

 しかし、住民たちの共通認識と暗黙の了解によって一定の秩序は築かれている。

 法律は通用しないが、力と力、財と財によって相互に勢力を拮抗させ、抗争によって自壊しないようにするための取り決めだ。

 例えば──客の素性や名前は誰が相手であっても口外しないと言ったルールはその1つであった。

 イクサが探し人の写真を掲げても、素直に教えてくれるはずもなく。

 

「へっ、この街で人探しとは……言うわけないアル、どんな恨みを買うか分からんのに……お前達素人アルな」

「まあ、確かに来るのは初めてですけど」

「帰った帰った、お前達にやる情報なんて無いアル」

「あるんですか? 無いんですか?」

「無いアル」

「だから……あるのですか? 無いのですか?

「だから無いアルって言ってるアル」

 

 コナツの問いに、店主は青筋を立てて答える。

 チャイナ服を着こんだ店主はシッシッ、と追い払うように袖を振った。

 しかし、これだけ塩対応を取られても、既にコナツの目は──サングラスの下からでも分かるくらいに溶けていた。

 

「まあ、怒った姿も可愛い♡」

「オイコラ、ナメてるアルな!! ひょっとしなくてもナメてるアルな!! 仮にも私はこの店を治める店主アルよ!!」

 

 尚、店主は小柄な少女の容貌をしていた。故に──コナツの庇護欲を煽るには十二分なのであった。

 ギャイギャイと怒鳴っても、全くと言って良い程彼女には響いていないのである。

 おまけに、店内には明らかに店主の手持ちと思しきふうせんポケモンのプリンがふよふよと漂っており、ファンシーな空気を際立たせているのだった。

 

「ぷりゅ」

 

【プリン ふうせんポケモン タイプ:ノーマル/フェアリー】

 

「あらー、手持ちも可愛いですねぇ! お姉さんが可愛がってあげますからぁ」

「オイコラ人のポケモン勝手に手懐けるなアル!!」

「ぷりり♪」

「オメーも靡いてんじゃねえアル」

 

 コナツの胸に埋もれて満足そうなプリンを前に、余計に怒りが募る店主。

 

「まあまあ、落ち着きましょうよ、僕達は喧嘩しに来たわけじゃあ……」

「そこの小娘その2もうるせーアルな!! 舌ァ引っこ抜かれてェアルか!!」

 

(いや僕は男……)

 

 そしてナチュラルに女と間違えられたイクサだったが、最早慣れっこだったので訂正する事も諦めたのだった。

 

「クソッ……骨董店主やって早10年……こんな屈辱を受けたのは初めてアル……」

 

(早10年? 早10年って言ったの、この娘? え? じゃあ、何歳なの?)

 

 年齢に関する情報が出てきて硬直するコナツ。

 だが──プンプンと可愛く怒る店主を前に──首を横に振った。

 

 

 

(まあ、可愛いから良しとしましょうかぁ!!)

 

 

 

 ──ダメそうであった。

 

「この見た目の所為で未だに他の奴らからは侮られる毎日……こんな体に生まれなかったら良かったアル」

「分かりますよ僕も、現在進行形で同じ事を思ってますから

「オメーに私の何が分かるアル、小娘その2ィ!!」

「折角同じ悩みを抱えるもの同士分かり合えると思ったのに」

 

 閑話休題。

 

「やはり普通には教えて貰えないようですね」

「たりめーだろ今のやり取りを他所の店でやったらオメーら今頃剥製になってるアル」

「怖いなダークマーケット」

「怖いのはオメーら怖い物知らず共アル」

「……僕達、ザ・キラーさんの紹介で来たんですけど」

 

 

 

 ────もし情報を出し渋られたら、このカードと一緒に私の名前を出すと良いでしょう。

 

 

 

 このままでは埒が明かない。イクサが差し出したのは──ギルガルドが描かれたポケカであった。

 それを見た店主は目を丸くした後、二人の顔を交互に見やる。

 

「……チッ、()()()か」

 

 ──例外条項と言うものは、どのような場所にも存在する。

 

「あいつには借りがアルからな……クソッ、特例中の特例アル。1つだけ、1つだけ情報を教えてやるアルよ」

「良いんですか!? ありがとうございます!!」

「オッマエ、抱き着くんじゃねーアル!! うぐっ、デカパイに殺され──」

「コナツさんステイ!! ステイ!!」

「ぷりり!?」

 

 数分後。

 危うく窒息死しかけた店主だったが、プリンに背中を摩られて漸く落ち着いたのか、彼女は息をついて話し始める。

 

「ここは骨董屋──正直半分は私の趣味でやってる店アルが、もう半分はポケモンの進化に関わるアイテムを中心に扱ってるアル。コイツがなかなか繁盛してるアルよ」

「人気なんですねバトルアイテム」

「そりゃあもう。八番街の闘技場に行くトレーナーからすれば必需品アル。なんせポケモンは数を揃えてナンボアルからな」

「数を揃える? そりゃあ戦力は多いに越した事は無いでしょうけど」

「ハッ、これだから甘ちゃんは困るアル。地下闘技場ってのは──ルール無用のデスマッチ、此処で二度と戦えなくなるポケモンの方が多いアル」

「!!」

 

 イクサとコナツは漸く理解した。

 他の店でポケモンの生体販売が横行し、この店では進化アイテムを欲しがるトレーナーが多いのは、地下闘技場で戦えなくなったポケモンの()が欲しがるトレーナーが多いからだ、と。

 

「酷い話です……!!」

「しゃーねーアル。勝てば賞金、客だって金賭けてるアルからな。そういうもの、そういう世界もアルって事アルな」

「地下闘技場は町全体をかけた大規模ギャンブルってわけか……」

「……お金お金、皆そんなにお金が大事なんでしょうか。お金の為に人の大事なものだけじゃなく、自分のポケモンでさえも使い潰すなんて」

「たりめーアルよ、お花畑女」

「ッ」

 

 コナツに向けて、嘲笑するように店主は言い放つ。

 

「よっぽど育ちが良かったと見えるが……この世は所詮、食うか食われるか。弱けりゃ生き残れねェアルよ」

「……だとしてもッ」

「人間の下に居るポケモンがどんな運命を辿るのかは、()()()()()()()()

「それは──」

 

 そこまで言われコナツは黙りこくる。

 彼女の家は農場──ポケモンで金と人間の食料を生み出している。

 農場のミルタンクはミルクを生産するためのポケモン達とはいえ、無論、この世界では人間の食料として供されるポケモンも居る訳で。

 

「……すみません」

「うん? 誰が謝れっつったアル。あたしだって好き好んでこんな所に居るわけじゃねーし、地下闘技場なんぞに狂う奴はアホだと思ってるアル」

「……」

 

(人間次第……か)

 

 ふと──イクサは自らのモンスターボールを握り締める。

 自分はトレーナーで、彼等の事を大事に思っていて──だが、実は彼らを傷つけてしまっているのではないか、と何度も自問自答して──未だに答えは出ていない。

 

「さて、と。写真のガキは”()()()()()()()”を欲しがってたアル」

「鎧? 何故鎧なんでしょうか」

「さぁな。骨董品だと思ってたんだが、そいつにとってはそうじゃなかったみてーアル」

「売ったんですか?」

「最初は二週間前にウチに来て……値段に目ェ飛び出させてたアルな。ボンボンみてーな顔してんのに」

 

 「てか、なんかあの顔どっかで見た事アルような」と彼女は続ける。ラズは大企業の子息、テレビで顔を出したこともあるのだろう。

 

「金溜めて此処に来る……みたいなこと言ってたアル。だけど……つい先日、あの鎧は……なくなっちまって」

「先に買われたとか?」

「いんにゃ。あんな汚れた鎧、誰が買うかっつー話アルよ」

 

 首を横に振った店主は──愉快さと不愉快さが入り混じった顔で答えた。

 

 

 

「……パクられたアル。野生のポケモンに」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──店主曰く。

 幾つもの地下道に繋がるこのメタルレジデンスの一角は、野生ポケモンの数少ない生息地になっている場合がある。

 と言っても、そのほとんどは生体販売されていたポケモンが脱走して野生化したケースらしく、オシアスに自生していたものではない。

 故に、突発的に誰にも予想できないタイミングで──ポケモンが大量発生する場合があるのだという。

 百鬼夜行の如く現れたそれらは、飲食店連なる3番街で食料品を強奪、更にダークマーケットでは様々なアイテムを強奪し、巣に持ち帰ったのだという。

 無論、骨董品屋も大打撃を受けたことは言うまでもない。いくつかの商品を持ち逃げされてしまったのだという。

 オマケに店主は何事かと外に出た所、頭に硬いものによる投擲を受けたらしく──そのまま気絶。ポケモンを出す隙すらなかったという。

 前髪をめくると、成程数日前に受けたと思しき傷跡が確認できた。

 

 ──おかげで犯人、いや犯ポケが誰かも分かってねえアル。

 

「でも、骨董品なんてポケモンの役に立つのかな?」

「ヤミカラスはキラキラしたものを持って帰ると言いますし……後は、自分達の種族の進化アイテムだったとか?」

「ポケモンってそういうの分かるのかはショージキ……甚だ疑問かな」

 

 そうイクサが疑う理由は唯一つ。

 ”よろい”でポケモンの進化アイテムと言えば、とあるポケモンしか思いつかないのである。

 

「盗まれた鎧の外観を見ても、これが仮にポケモンの進化アイテムなら……多分、カルボウの分だよ」

「カルボウちゃんの!? でも、写真だけだとすすけて分からないですよ!?」

「そう、そこが問題なんだよ。どっちか分からない。そもそも本当にこれで進化するのかも分からないよ。ネットの写真とよく似てるけどね」

 

 写真にあるのは西洋鎧であり、これに類似した進化アイテムは2つ。

 ”いわいのよろい”は、カルボウを”ひのせんし”ポケモンのグレンアルマへと進化させる。

 ”のろいのよろい”は、カルボウを”ひのけんし”ポケモンのソウブレイズへと進化させる。

 だが、今イクサが握っている写真に写っているのは”すすけたよろい”。汚れていて、どっちなのか分かったものではない。

 

「ラズ先輩がコレを欲しがった理由が分かった。きっと、自分のカルボウを進化させたかったんだ。あの人、炎タイプをよく使うらしいし」

「……何の為にってのは聞くまでもないですよね」

「そうだね。そして、これを掻っ攫ったポケモンは……鎧を奪った大した理由なんて無いんだと思うよ」

 

 野良ポケモンの駆除なんて進んでやる人間など、この町には居ない。

 そうでなくとも、長年人間の居住地から食料品を奪い取り、この限られた区画で増え続けてきたポケモン達は──幾つかのコロニーになって各地に散開している。

 

「だったらやることは1つ。鎧を探してるラズ先輩を見つければ良い。それで目的は達成だ。問題は鎧をパクったポケモンが誰かって話だけど……ヒントはこのリストだ」

 

 盗まれた商品のリストを眺めながら、イクサは腕を組む。

 見事に金属製のものばかりが並んでいた。

 

「金属を好むポケモンちゃんは必然的に鋼タイプが考えられる……と言っても鋼タイプも沢山居ますし……」

「人間の町に溶け込むことができて、鋼タイプで、尚且つ……骨董品だろうが見境なく金属製のものを盗むポケモンだ。そんな蛮族みたいなポケモン居たっけか?」

 

 しばらくして──二人は何かに気付いたかのように、互いの顔を指で差し合った。

 最後に思い浮かんだのは、店主の額の傷だ。

 

 

「居る! 1匹、いや、1系統! 思い当たる奴らが居る!」

「食性、生態から考えてもあの子達しか考えられません!」

 

 

 

 ほぼ同時に、彼等は同じ結論に至ったのである。

 ポケモンの種類さえ割り出せば、後は聞き込みを続けてポケモンの住処を割り出せば良い。

 ……その時までは、そう考えていたのだ。その時までは。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……話が、違くない?」

「……ええ」

「確かに蛮族みたいなポケモンとは言ったよ。僕も危険性は理解してるつもりだった」

「……私もですねえ」

「理解してる……()()()だったんだなって」

 

 ──メタルレジデンス郊外・第三地下特区。

 人もポケモンも寄り付かないと言われる場所に()()()は住み着いていた。

 既に野生化したポケモン達の巣窟になっているこの場所は、強奪したであろう建材を器用に繋ぎ合わせ、組み立てた巨大な要塞と化していた。

 人間の手ではない。全身ピンク色の妖精のようなポケモン達であった。

 それぞれが皆、金属製の工具を手に取り、トンテンカン、トンテンカン、と何処で習ったのかボルトやネジを締めてそれを作り上げようとしている。

 

 

 

 

       ▶第三地下特区を占拠した◀

         カヌチャンの群れ

 

 

 

 ──いや、どうしてこうなるまで放っておいた!?

 

 

 

 カヌチャンというポケモン、およびその系列は非常に知能が高く、金属を加工して金槌を始めとした道具を作り出そうとする傾向にある。

 そして、道具が出来れば次は何を求めるのか。次の道具を作る為の素材を求めるのである。 

 野生下であれば他の鋼タイプのポケモンを襲ってでも金属を集める彼女達だが、此処は野生ポケモンが少ないオシアス。

 他の鋼タイプのポケモンはあらかた狩り尽くしてしまった後だ。

 故に──今度は人間たちから奪う事にした。

 幸か不幸か──メタルレジデンスには重機の素材が大量にそろっていた。違法な店の数々がそれらを販売していたからである。

 人間の知らない間に数を増やした彼女達は、遂にこの間決起することにした。

 それが他の野生ポケモンの群れの発生に合わせた、人間の居住地の襲撃・及び資材の調達である。

 ついでに、人間が売っていた骨董品も、目についたので取り合えず奪ったのだった。

 辿り着いたイクサ達も、既にその結論には至っていた。イクサはゲームの知識から、コナツはポケモンの生態知識から──である。

 

「なーにが誰も近寄らない、だ!! 誰もかれもが逃げ出したポケモンを放置した所為でとんでもない事になってるじゃないか!!」

「可愛さに見合わぬ物々しさですねぇ……流石特定外来ポケモンというだけはありますよ」

「そんなもん野放しにしてたの、此処の人たち!? 無責任が過ぎるだろ!?」

 

 特定指定もイクサは納得せざるを得なかった。

 ゲーム上でも、図鑑説明で投石によってアーマーガアを撃ち落とし、ハンマーの素材とする──とされているのだ。

 知能の高い蛮族。タチの悪さは此処に極まれり。

 要塞のてっぺんでは、リーダー格と思しき最終進化形・デカヌチャンがハンマーを振り上げ、手下たちに号令をかけるのだった。

 

 

 

「カヌヌ!!」

 

【デカヌチャン ハンマーポケモン タイプ:鋼/フェアリー】

 

 

 

 ちょっと巣の中から鎧を取り返そう、あるいは鎧を取り返しにやってきたラズを捕まえようくらいの気持ちで居たのが間違いだった、とイクサは頭を抱える。

 よもや人間の資材で、イエロックも驚きで崩れ落ちるレベルの鋼の要塞を作ってしまうとは思ってもみなかったのだ。

 そして、相手方は既にこちらを認識しており、臨戦態勢に入っている。

 人の手に渡ったポケモンの運命は、人間次第とはよく言ったものであった。

 金属製のハンマーが次々に要塞の上から放り投げられてくる──

 

「下がってて。此処は僕が何とか──」

「──いいえ」

 

 前に出ようとするイクサに対し、コナツも横に並び立つ。

 

「イクサさんのそういうところ、良くないと思います。私だって頑張ってきたんです……私だって……キャプテンですから!」

「じゃあ、此処は共闘だね」

 

 互いにモンスターボールを握る。

 狙いは盗まれた骨董品の数々。

 此処に、たった2人での攻城戦が開始されたのだった。

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