ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第104話:鉄の地下街

 ──視界に飛び込んできた大質量。

 それを目の当たりにし、3人は硬直。

 服の上からは所詮、抑圧されてサイズがナーフされていただけだったのだと気付く。

 否、そんな事を言っている場合ではないのであるが。

 

「……え?」

「……ごふっ」

 

 風呂の熱。

 目の前でぶるん、と揺れる超巨大質量。

 そして思い出す両手に花状態。

 それを前に興奮はピークに達し──イクサは思いっきり鼻血を噴き出し、湯船に倒れ伏せたのだった。

 

「てっ、転校生が死んだ!! 転校生が死んだ!!」

「ちょっとイクサ君、しっかりしなさい!!」

「クソッ、転校生……やっぱり巨乳党だったのか……許せないよ!!」

「ああ、目を回してるわ完全に!!」

「……? ……!?」

 

 その光景を前に、コナツは困惑するしか無いのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「──正座です」

 

 

 

 3人は座らされていた。

 服を着せられ、大浴場の前で正座させられていた。

 イクサはさておき、正座し慣れていないレモンとデジーからすれば、苦行そのものである。

 

「……3人揃って一緒にお風呂、一体何をしていたのですか? デジーちゃん」

「作戦会議ね」

「ヌシポケモンの対策……かなぁ」

「及びラズ先輩の対策だね」

「どういうことなの!? どういう関係なの3人は!? 幾らイクサさんが女の子みたいだからって破廉恥だわ!?」

 

 不思議そうに3人は顔を見合わせる。

 途中から完全に作戦会議になってしまい、そんなピンクな雰囲気は消え失せてしまったことに──今しがた気付く。

 

(やっばぁ、色仕掛けで転校生を篭絡する手筈が……完全に忘れてた)

 

(そういや私達何で混浴貸し切り企てたんだっけかしらね……忘れたわ)

 

(……鼻血とか久々に出たんだけど……止まって良かった……マジで意識がトびかけた……)

 

「取り合えずキャプテンとして意見を聞きたいんだけど──コナツも作戦会議に参加する……?」

「誤魔化すならオヤツは無しですよ、デジーちゃん♪」

「ごめんなさいでした」

 

 間延びした口調が消えている。

 完全に怒っている時のコナツだ、とデジーは心の底から震え上がった。

 

「おい話が違うじゃないかデジー」

「……コナツの家はお堅いんだよね。色々と」

「ほら、他所は他所、うちはうちってことで、此処は手を打たないかしら」

「……誑かしたんですね? デジーちゃんを」

「取り合えず話を聞いてほしいかなって……」

「デジーちゃんに近付く悪い男にはフェイタルクローって決めてるんです」

「待って待って待って、死んじゃうから!」

 

 コナツは笑っていた。目は笑っていなかった。話を聞いて貰えるようには聞こえない。

 

「いいえ、此処は私から責任持って説明しましょう」

「レモンさん……!?」

「まあ要するにアレよ。極限状態に陥った男女が、一緒に生活して何も起こらない訳がないじゃない? むしろ何も起こらない方が不健全まであるわ」

「成程、つまり、仕方なく、なし崩し的に関係を持ってしまった、と」

「そうね。ずるずると、ってわけよ」

 

(流石レモン先輩、すごい話術だ、あのコナツを納得させようとしてる……ッ!!)

 

「後ほら、大企業に限らずお偉いさんが愛人を持つのは当然のことじゃない? つまりは──そう言う事よ

 

(ゴメン、やっぱり怪しくなってきた!! レモン先輩、大分テンパってる……ッ!!)

 

「成程、つまりレモンさんがイクサさんとデジーちゃんを誑かした、と」

「罵詈雑言、何でも受け付けるわ。責任は私が取る。年長者として──」

 

 

 

「──僕が、二人を口説きました」

 

 

 

 割って入るように──あくまでも自分が渦中の人間だ、と宣言するようだった。

 

「ッ……」

「イクサ君!?」

「ごめんなさいレモンさん、でもやっぱりこの件でレモンさんに庇って貰うのは違う気がして」

「……そうだけど──」

「こんな事言っても、何にも説得力無いのは分かってるけど。それでも──二人共大事に思ってるよ。絶対に手放したくないって思ってる」

「……」

「どうかしていたとか言わないよ。なし崩しとか、仕方なかったとか言わない。これが僕の取った選択なんだ」

「デジーちゃんの事は遊びですか? 大企業のお嬢様のレモンさんが本命で──」

「違う」

「ッ……」

 

 イクサは真っ直ぐにコナツを見つめていた。

 食ってかかるような、獰猛な目だった。

 

「全部だ。全部──手に入れて、守り通す。欲張りだって思われるかもしれないけど──そうじゃなきゃ、取りこぼす。これが僕なりに出した結論なんだ」

「……」

 

 全てを納得できたわけではないようだったが──その言葉を聞いて、コナツは首を横に振った。

 

「……イクサさん。1つ、約束してくれませんか?」

「……何かな」

「メタルレジデンスの探索、私も同行させてください」

「!」

「見極めたいんです。この目で。私はまだ──貴方の事がよく分からない」

 

(いや違う──)

 

 本当は、納得したいだけだった。

 只のワガママだった。

 何がそこまで幼馴染を引き付けるのか、確かめたいだけだった。

 

「……足手纏いにはならない事を約束します。私も飛行船の上でトレーニングは重ねてきたので」

「いや、足手纏いも何も、コナツ……オーライズがあれば多分、ボクと同じくらい強いし……」

 

 オージュエルはスカッシュ・アカデミアの生徒でなければ、この年代の子供は所持していない者が殆ど。

 キャプテンであるコナツも例外ではなかった。

 しかし──ギガオージュエルが手に入った関係で、現在オージュエルが余っているため、彼女が所有する余裕が増えたのである。

 それに伴って、彼女はオーライズを駆使した戦術をこの数日間の内に勉強しており、既に実戦に用いることが出来るレベルまで昇華していた。

 

「構わないけど……」

「……デジーちゃんの事が大好きなのは……私も同じですからぁ」

 

 何処か複雑そうな顔を浮かべ、そのまま──コナツは去っていくのだった。

 一先ず、一難は去った。しかし、また別の問題が浮上したような気がして──レモンは肩を落とす。

 

「……何と言うか、また微妙な空気になってしまったわね。これでキャプテンである彼女の離反まで招いたら……」

「うんまあ……半分はボクらが悪いけど……貸し切りなのに大浴場に突撃したコナツも悪いよ」

「二人を選んだのは僕だ」

 

 イクサは──決意したように言った。

 

 

 

「真っ直ぐな、ありのままの僕で──やるべき事を、成し遂げるさ。それで、コナツさんに認めてもらう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──それから2日後。

 飛行船はメタルレジデンス近辺に着陸した。

 そして、船の中に残るのはガーベラとデジー。

 会談を行うシャインとレモン、そして護衛のイデア博士。

 メタルレジデンスに向かう──イクサとコナツ。

 この3班に分かれることになったのだった。

 そして、地下都市へ向かうイクサ達に課せられた任務は唯一つ。

 クランベリグループの御曹司・ラズの身柄を、確保する事。手段は問わない。

 

【地下都市・メタルレジデンス】

 

(気まずい……)

 

 何を話すことなく、イクサとコナツは地下道へと足を運ぶ。

 場所に合わせてか黒いコートに帽子を被り、別人のようになったコナツは──警戒するようにイクサに言った。

 

「此処から先は非常に治安が悪いと聞きます。イクサさんも気を付けてくださいね」

「ああ。もう既に落書きとかが酷いな……」

「こんな所にデジーちゃんを連れて来なくて良かったです。また悪い遊びを覚えたらと思うと」

 

(……親が子供にする心配かな?)

 

「ほら、明るくなってきました。……あれが、メタルレジデンスです」

 

 地下道を出た先に待ち受けていたのは──猥雑なネオンで煌めいた地下都市だった。

 何処か退廃的なサイバーパンクな世界観。

 行き交う人々は皆、享楽的な狂気を目に宿している。 

 此処は全ての無法を集約した場所・メタルレジデンス。

 ブラックマーケットから発展した、超巨大な無法の町だ。

 

「思った以上にデカいな……照明が太陽の代わりだからか、薄暗いけど……建物の数が多い」

「こんな町が未だにのさばっている時点で……オシアスの司法など機能していないも同然だったんですね……はぁ」

 

(バジル先輩から貰ったデータによれば、ありとあらゆる違法施設の宝庫らしいな……)

 

 例えば違法バトル施設、違法アミューズメント施設、違法ギャンブル、違法飲食店に違法マーケット。

 何でもあり、儲けたモン勝ち、それがメタルレジデンスという町である。

 その中でもバジル曰く()()()が居るという場所が── 

 

「──このお店らしいんだ。どうやら、カードゲームを嗜む紳士が集まるらしい。如何にも地下街のバーって感じだね」

「もしかして、勝負に負けたら……臓器を売らないといけないとか……!!」

「怖すぎるんだけど、発想が」

 

 何の漫画を読んで仕入れた知識なのか小一時間問い詰めたいイクサであった。

 

「まあ、変なものを賭けたりしなければ大丈夫だとは思うけどね。最悪こっちにはポケモンが居るし」

「だったらいいですが……」

「ターゲットの名前はザ・キラー。変わり者だが情報通らしいね。随分とおっかない名前だけど」

「ザ・キラー……!!」

 

 ごくり、とコナツは息を呑む。

 サングラスの下の目は、既に肩書の威圧感で震えていた。

 

「そいつは人探しが得意らしいんだ。この町の人間の人相は大体覚えているらしい。だけどカードに勝たなきゃ教えて貰えない。そうじゃなかったら、法外な報酬を払わなきゃいけない」

「イクサさん、カードゲーム出来るんですか?」

「トランプのゲームは一通り分かるよ」

 

(こっちに来てからは殆どやってないけど)

 

 足を踏み入れると──薄暗い店のテーブルで、やはりカードゲームに興じているガラの悪そうな男達が見えた。

 そして、イクサ達を見るなり、奇異なものを見る目でじろじろと見つめてくる。

 バーテンと思しき男にチップを払いながら、イクサは問いかけた。

 

「ザ・キラーに会いたいんですけど」

「……奥の席に座ってらっしゃいますよ」

 

 案外すんなり会わせてくれるんだな、と考えながらイクサ達は奥へと進む。

 

「……貴方がザ・キラーですか?」

「……」

 

 問いかけられた男はカクテルの入ったグラスを優雅に揺らすと立ち上がる。そして、見知らぬ来訪者相手に柔和な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

「ほう、カードゲームを? よろしい、ならば貴方もご友人だ」

 

(違法コヨーテスみたいなヤツが出てきたな)

 

 

 

 知っている者など誰も居ないので、口を噤んだイクサだった。

 コート姿の男は、何故か胸の前で腕をクロスさせながら、柔和な態度のまま続ける。

 

「私を知っているということは……この町で探し人が居るのですね? ご友人」

「ご友人になった覚えはないですが……そうですね。勝負に勝ったら教えて貰えるんでしたっけ」

「ええ、その通り。どんな相手でも探してみせましょう──私ではなく、ゴチルゼルが」

「キラリー」

 

 ザ・キラーの傍らに立つゴスロリドレスそのものを擬人化したようなポケモンが小さく鳴く。

 てんたいポケモンに分類されるゴチルゼルというポケモンは強大なサイコパワーを持っており、成程確かに人探しに向いているようだった。

 というのも、どうやらゴチルゼルを使って占いを行う文化は、それが生息する地方には一定数存在するらしい。

 そして、人間が行う占いに比べれば、ポケモンのそれは遥かに信用に足るものであることは言うまでもない。

 

「それで、勝負の内容は? ポーカー? ブラックジャック?」

 

 そうイクサが言い出すと、周りから嘲笑が聞こえてくる。

 眉を顰めながらイクサは振り返った。

 向こうの卓で酒を飲んでいた大柄な男が言い放つ。

 

「クックック、お前みたいな木っ端は知らんだろうがな」

「この店で今一番流行っているゲームは──」

 

 イクサは思わず卓の上に広げられているカードに視線をやった。そこに並べられていたのは──

 

 

 

「──ポケカだ」

 

(何でだよッ!!)

 

 

 

 ──色とりどりのポケモンが描かれたカード。地下街のバーとはあまりにもミスマッチな代物であった。

 確かにカードゲームと言えばカードゲームである。

 しかし、普通そこはトランプだったりしないのか、と喉から色々込み上げてくる。

 

(こっちの世界にもポケカあったのか──って質問は今更愚問も良い所だ、既に僕も数か月前通った道だ、ポケモンの世界のトレカはポケカに決まってる……それは分かる! まあ分かる! 百歩譲ってそこは納得しよう!!)

 

 この世界、イクサの世界にあった()()()()()()ポケモン関連のゲームは大抵ある。

 ポケットモンスターシリーズには任天堂のゲーム機器が登場するし、「ソード・シールド」のDLCに登場するマスタード師匠は「ポケモンクエスト」をプレイしていた。

 故に──この世界にトレカがあるとするならば、間違いなくポケカ──「ポケモンカードゲーム」になるのは当然の帰結であった。

 そこはまあ、イクサも納得している所である。

 問題は裏社会の縮図のようなメタルレジデンスの一角で、彼らがポケカに熱狂していることであった。 

 テーブルの傍らにある硬貨を見るに、賭け事をしているのは確かだった。わざわざポケカでやるなという話であるが。

 

「勝負は公平に、マスターが用意した3つのデッキから1つを選んで貰います。よろしいですね?」

「あ、うん、想像以上に良心的で助かるんですけど……ちょっと理解が追い付かなくって……」

 

(こう、もっと、賭け事に向いてるカードゲームは幾らでもあるんじゃないかな……!? 何でわざわざ地下街のバーでポケカしてんだよ!!)

 

(何だか、この怖い方々が可愛く見えてきました……)

 

「……只のポケカではありませんよ、ご友人」

「!」

 

 ザ・キラーは指を組む。

 異様な緊張感がその場に漂った。

 

「……このバーで流行っているのは、()()()()()

「い、違法ポケカ……ッ!?」

 

 ポケカだから、という理由で侮っていた自分をイクサは恥じる。

 此処はメタルレジデンス、ありとあらゆる無法が罷り通る町。

 どんな物事でも”違法”の二文字が付くだけで常識外の代物と化すのだ。

 

「この店に流れ着くのは、いずれも只のポケカでは満足できない荒くれ者達ばかりです。不憫だ……」

 

 身の程知らずの子供に、そして──この地下街の恐ろしさを知らぬ若造を嗤うように、ザ・キラーは告げた。

 

 

 

「違法ポケカでは……トレーナーズカードを1ターンに何回も使えるのです」

 

 

 

 その場に沈黙が漂った。

 何のことかよく分かっていないコナツ。

 最早ツッコミを入れることすら放棄したイクサ。

 彼は遠い目をしながら──頷いた。

 

 

 

「あ、うん……そうですね」

「あれぇー!? 違法ポケカが恐ろしくないんですかご友人ンンンッ」

「今、別の意味で恐ろしいよ僕は」

 

 

 

 ──数分後。

 勝負はあっさりとイクサの勝利で決したのだった。

 

 

 

(この店はまだ序の口って事なんだろうな……うん……そうであってくれよ……)

 

(想像以上に何事も無かったですね……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(成程……この少年は確かに覚えがあります。ゴチルゼルはどうやら、裏六番街を示しているようです)

 

(しかし、この一番街の治安はまだ良い方……くれぐれもお気を付けくださいご友人)

 

(だからご友人になった覚えはないんですが)

 

 

 

 ──裏六番街。 

 地下都市の中央部にある、メタルレジデンスで最も熱気のある場所。

 それは表の市場では扱えないものを多数取り扱う店の集まり。

 

「ダークマーケット……此処こそが、メタルレジデンスの中枢とも言える場所です」

 

 重機の素材、ポケモンの生体そのものの販売。

 表では禁止されていることが平然とまかり通るこの場所に、倫理観など期待するだけ無駄であった。

 

(占いが本当なら、ラズ先輩はどうしてこんな場所に……)

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