ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第103話:火を点けろ、なんかもうその辺全部に

「──温泉の効能成分垂れ流し、ね。あいつにしてはよくやるじゃない。凝った体にキくわ」

「眼精疲労にも効くかなー、最近霞んできちゃって。あ、転校生は眼鏡のボクも好きー? 似合うと思うー?」

「……」

 

 湯気と熱気が包み込む中。

 少女たちはイクサの細腕をがっちりホールド。

 明らかに熱以外の理由で顔を真っ赤にした彼は「そろそろ上がるんで……」と訴えるが「ダメよ」とレモンに一蹴されてしまうのだった。

 

「貴方最近、ロクに休んでいないじゃない。幾ら何でも毎日ギガオーライズはやりすぎ。風呂ぐらいゆっくり入っていきなさいな」

 

(いやダメなんだって、これ以上は本当に立てなくなる!! いや、もう立ちかけてるけど──って言ってる場合じゃない!!)

 

「これはもう何か別の……そういうプレイじゃないですか!!」

「えー? 健全なお風呂じゃん、何考えてたの転校生のえっち」

「男女が一緒に入ってる時点で健全からは程遠いんだよ!!」

「にしーっ、今はボクらしか居ないから良いの良いの」

 

 甘えた声ですり寄ってくるデジーに、イクサは困惑を隠せない。

 いきなりこんな事を企てて、何を考えているのだろう、とレモンの方を見やる。

 

「……レモンさん?」

「……言ったでしょう。観念しなさいな」

 

 引き締まった白い肌。

 直視が出来ず、イクサは目を逸らした。

 

「こんなの、逆上せちゃいますよ……僕、明日早くから練習を──」

「今ぐらい特訓の事なんて忘れなさい」

「レモンさん達だって──」

「だからこそよ」

 

 耳元で──意地悪な笑みを浮かべてレモンは囁く。

 

「……君が私達を守ってくれてる。君のおかげで不安なんて無い。じゃあ私に出来る事は──貴方を少しでも癒してあげることだと思う」

 

 

 

 ──レモンさんが皆を守ってくれたように、今度は僕がレモンさんを守ります。不安になんてさせません。

 

 

 

「ッ……だって。オオワザ完成させなきゃじゃないですか。ラズ先輩相手なら、ベストの状態で挑まなきゃ」

「もしかして貴方──あいつ(ラズ)に対抗心燃やしてるの?」

「!」

 

 図星だった。

 イクサは露骨に表情を変え「やっぱり上がります!」というが、思いっきり胸を押し付けながら二人は彼を浴槽に引きずり下ろす。

 

「別に燃やしてません!! ……嫉妬なんて、してません」

「やっぱりね」

「へーえ、転校生にもカワイイ所があったんだあ。いや、転校生は元からカワイイけどさぁ」

「そ、そーやって君にからかわれるからイヤだったんだよ。だってみっともないだろ」

「ぜーんぜん? ボクだって嫉妬するんだよ」

 

 少し羨ましそうにデジーは言ってのける。

 イクサへの重い重い感情は──やはりレモンの方へ向けられているのだ、と改めて突きつけられた気がした。

 

「ふーんだ、ボクの方がジェラっちゃうなあ」

「ラズは只の腐れ縁。貴方にやっかまれる事なんて、何一つ無いわ。ただ──」

 

 レモンは目を伏せる。

 

「……そうは言っても、仮にも3年間一緒に居た私のライバルだもの。私と対等に張り合える、数少ないトレーナー」

「……」

「でも、他でもない君を不安にさせちゃったのは、明らかに私の落ち度だわ」

「それは──」

「ワガママだよねー、転校生は実質二股してるのにさー」

「うぐ……」

「デジー、それ以上はイクサ君泣いちゃうからやめなさい」

「ボク、悪い子だからさー」

 

 悪びれる様子もなく、デジーは言ってのける。

 

 

 

「でも、良いよ。悪い子同士、ボクらはお似合いじゃん。何があってもボクは絶対、転校生の事を見捨てたりしないからね」

 

 

 

 レモンのそれよりも、明らかに膨らんだ少女の胸が二の腕に押し当てられた。

 イクサは、彼女の背中と尻に悪魔の羽根と尻尾を幻視する。

 堕ちるなら、何処までも堕ちてしまおうと誘惑する。 

 ぶくぶく、とイクサは泡を立てて湯船に口を沈めてしまった。頭がどうかなってしまいそうだった。

 

「あら、この関係は双方の同意あってこそでしょう? 独り占めはダメよ」

「レモン先輩は奥手過ぎるだけだよーっ」

「対抗心はあったよ……でも、勝たなきゃだろ」

「!」

 

 湯船に体育座りでむくれるイクサは──重い胸中を吐露する。

 

「……シャイン先輩にも、イデア博士にもあんなに手伝って貰ってるんだ。成果を出さなきゃ、二人にも申し訳ない」

「クソ真面目だなー、ボクだっているじゃん。最悪、二人で叩きのめして無理矢理連れ帰ろうよ」

「最悪ね」

「意地ってもんがあるんだよ僕にも」

「むぅー……でも、珍しいなあ。転校生がそんなに意固地になることって少ないもん」

「ラズ先輩だけじゃない」

 

 ギガオーライズしていないのに、彼の目には紫電が迸ったようだった。

 

「……シャイン先輩も、アトム会長も倒して──その先に行く。レモンさんを、倒す」

「ッ……」

 

 レモンは口ごもり、目を伏せた。

 

「そう……まだ、その約束、覚えてたのね」

「馬鹿言わないで下さい、レモンさんが言い出したんじゃないですか」

「……」

 

 手持ちを纏めて失ってから、どれ程経っただろうか、と彼女は天井を見つめた。

 彼らに戦闘を任せるのが当たり前になってしまい、自分がポケモントレーナーであることすら忘れつつあることに恐ろしくなる。

 慣れは──自分が想像していた以上に早い。

 喪失の痛みを和らげる為ならば、猶更だった。

 

「だから、こんな所で止まってられないんです。ラズ先輩を倒して、アトム会長を倒して──完璧で、完全な僕で、レモン先輩に挑んで──」

「……」

「でも、それじゃあダメなんです、きっと」

 

 零すようにイクサは続ける。

 ポケモントレーナーは自分一人だけで戦うわけではないからだ。

 イクサは今日起きた出来事を二人に話す。

 サーナイトを暴走させかけたこと。彼自身がギガオーライズに吞まれつつあることを。

 

「……僕一人が突っ走っても意味が無い事だって分かってます。ポケモンが付いていけなくなったら本末転倒な事だって分かってます。だけど……いざ実戦で暴走させたら元も子もない」

「よく頑張ってるわよ、貴方は。私に同じ事が出来るかと言われたら……出来ない気がするわ。自制とは程遠い所にいるもの、私」

「……」

「でも、逆に言えば貴方のゴールはラズじゃない。此処で無理して潰れるのは本末転倒よ」

「それは──そうですけど」

「勿論、無理してポケモンを潰すのは言語道断。君には、私の二の舞になって欲しくない」

「!」

 

 無理をして進んで相棒を死なせた──レモンはそう語る。

 

「そう、ですよね……」

「完璧で完全? それが不可能な事くらい、貴方が一番分かってるはず。貴方は只きっと──不安なだけよ」

「!」

 

 それこそ、本当に図星だった。

 誤魔化し誤魔化しで生きてきたが、先行き分からないオシアスの情勢への不安、そして先の勝負への不安。

 イクサの心は彼自身も知らぬうちに、重圧に押し潰されつつあった。

 

「大勝負の前だから。相手があのラズだから。当然ね。私だって感じているもの、この先どうなるか。手持ちが無事かどうか。本当に全部、元に戻せるか──」

「……」

「でもね、前も言ったでしょう? 私、不思議と貴方に関して心配はしてないのよ」

 

 レモンはイクサの首に細腕を回した。

 

「……君は、パモ様が信じたトレーナーだもの」

「ッ……」

「あの子が信じたトレーナーを、私が信じてやれなくてどうするというのかしら」

「……買い被り過ぎです」

「買い被ってなんかない」

「いだっ!?」

 

 頬に痛みが走った。

 デジーが横から思いっきり抓っていた。

 

「……そんなに弱気なら、レモン先輩の隣はボクが獲りに行くよ。騎士の称号もね」

「ッ……デジー」

「強敵を前に弱気になるのは仕方ないでしょうよ。でも、君は今までも沢山の困難を乗り越えてきた。今度もきっと、勝ってみせるでしょう?」

「ポケモンの言葉はボク達分からないけど──彼らはとっても素直で正直だからさ。きっと、答えはもう出してるんじゃないかな」

「……答え、か」

「だから、燃え尽きるのだけは勘弁よ、イクサ君。貴方は同じ条件で一度ラズに勝ってる。油断は許さない。だけど、過度に怖がる必要も無い」

「……」

「いつも通り、全力で──貴方の力を示してやりなさい。練習は本番のように」

 

 イクサは──無言で頷くことしか出来なかった。

 いつも通り。それが勝負の場では一番難しいことは、彼が良く知っていた。

 

(本当に、やれるのか? 今のままで──)

 

「そうそう、箸休めに──良い機会だし話しておこうかしら」

「? 何ですか」

「私達がこれから対処しなければいけない敵についてよ」

「それって会議って言ってたやつ!?」

「ええ」

 

 レモンは自ら書いたレポートの内容を頭で諳んじて──整理していく。

 二人にも分かりやすく、そして要点のみを突き詰めていき、そして切り出した。

 

「──クラウングループは、遠い遠いサイゴク地方のヌシポケモン二匹を戦力化してしまったわ」

「どんなポケモンなんですかッ!?」

「食いついたわね」

「まるで主人に餌をちらつかされた犬ポケモンみたいだ……」

 

(つーか転校生にとって、ボクらのハダカ<見知らぬポケモンなのが、すっごく腹立つ!!)

 

 犬歯を剥くデジーの事を差し置き、目を輝かせるイクサ。

 少しだけいつもの彼に戻った彼に安堵しつつ、レモンは続きを話し始めた。

 

「明星のヌシポケモンと呼ばれる彼らは対になる存在。そして、一般的によく見られるとあるポケモンの特異個体とされているわ」

「特異個体?」

「変異個体。特殊個体。呼び方は何でも良い。通常のポケモンから何らかの特殊な状況下で変異した個体よ。極めて特殊な力を持つし、ステータスは比較できない程高い」

 

(特異個体? 特殊個体? アカツキ(ガチグマ)みたいなものか? それとも、パラドックスポケモンみたいな感じ?)

 

「サイゴクってやっぱ魔境なんだね……博士のドーブルも大概ヤバいけどさ」

 

 レモンは頷いて肯定する。

 そもそも生態系が豊かとは言い難いオシアスの対局に位置する環境、それがサイゴクだ。

 そこでは霊脈の影響を受けて変異したポケモンが多数生息しているという。

 その極致に位置するのが、二匹のヌシポケモンだった。

 サイゴクには5つ、古くから祀られるおやしろがあり、そのうちの2つは旧家二社と呼ばれ古くから同盟を組んできたという。

 今回問題になっている二匹は、そこでそれぞれヌシとして長らく君臨し、人々から崇められてきたポケモンだ。

 

「片や、暁の刀刃(アケノヤイバ)。アブソルの特異個体。影を自在に操り、影があればどこからでも出現出来るわ」

「アブソルか……耐久が低そうなのが救いなのか……?」

 

 ※新しいポケモンの事ですっかり混浴してる事を忘れた根っからのポケモンバカ1

 

「どっちかと言えば攻撃がそもそも当たらないのが問題じゃない? 影があったら逃げられるってことだよね。影か……何か思いつきそう──」

 

 ※発明でどうにかしようとしているポケモンバカ2

 

「サイゴクのヌシの例に漏れず、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()上に、その姿はどちらかと言えばメガアブソルに近い」

「実質メガシンカポケモン!? じゃあ、ステータスは伝説ポケモンと同等……!!」

「そうね」

「やっばあ……てか、アケノヤイバが影さえあればどこからでも出現出来るって、捉えようによっては……」

「こっちの攻撃は当たらない。だけど、向こうの攻撃は100%当たる」

「ええ。原種の悪タイプと、サイゴク種のゴーストタイプを複合しているから出来る芸当でしょうよ。ハタタカガチでも対抗できるか怪しいわね。光ある所に必ず影あり、強い電光は強い影も生んでしまう──ん? 待てよ、でも初動で麻痺にしてしまえば行けない事もないわね、1つ思考実験といこうかしら、やはりここは──」

「もしもーし? もしもしレモンさん? 戻ってきてー?」

 

 ※今は居ない手持ちでシミュレートを始めたポケモンバカ3

 

 画して、すっかりその場から、いやらしい空気は消え失せる。

 3人のポケモンバカは、知恵を絞り合い、二匹のヌシポケモンの対策を始めてしまうのだった。

 繰り返す。此処は大浴場である。

 

「片や、宵の魔岩(ヨイノマガン)。シンボラーの特異個体。砂がある限り不死身に近い存在、そもそもポケモンなのかしらねコイツ」

「でもさー、シンボラーでしょ? タイプと特性分かってるなら楽勝だよーっ!」

「全長は20メートル、その巨体で悠々と空を飛んでみせるわ。最早怪獣の類よ」

「ごめんなさいでした」

「そも、あのイデア博士が──」

 

 ──え? ヨイノマガン? あいつはヤバいよ、ビーム撃つし飛べるし不死身だし。大体全部砂漠のオシアスで暴れさせたら、みーんな滅ぶんじゃない?

 

「──って言ってたからね」

「どうやったら勝てるんですかそれ!?」

「分からないわ。私もそのサイズの怪物と戦ったことが無いから、何とも」

「弱点技をとにかくぶつけるしか無くない?」

「幸い岩と飛行タイプ、弱点は多いわね」

 

(岩・飛行……プテラやアーケオスと同じか。弱点は5つだけど半減も多い複合なんだよな、無効もあるし)

 

 おまけに、技範囲が広いために弱点を突かれてしまうポケモンも多い。

 このヨイノマガンと言うポケモンの対策は、必須事項であることは確かだった。

 

「イデア博士は彼等を取り返す為にオシアスまで来てたんですね」

「ええ。アケノヤイバも大概ヤバイけど……」

「アケノヤバイってこと?」

「デジー」

「ごめんて」

「問題はヨイノマガンよ。あいつをうっかり野に放たれたら──お終いだわ。正味、オオミカボシに匹敵する脅威になりかねない」

 

 何処まで行っても一匹のポケモンでしかないオオミカボシやアケノヤイバと、圧倒的な質量と巻き起こす砂塵嵐で全てを破壊しかねないヨイノマガンでは、根本的に脅威度が違ってくる──そうレモンは語る。

 実際イクサも、20メートルもある大質量を前にどう戦えば良いのか、全くイメージが思い浮かばない。仮にギガオーライズがあっても攻撃が通るかどうかわからない。

 

「それに加えて、サイゴク地方に封じられていた()()なる遺物も奴らは回収してるみたいだし……何処までもきな臭いわね」

 

(絶対特級呪物の類だ……)

 

「あの、竜骸って何なんですか?」

 

 おずおず、とイクサは手を上げる。

 どう聞いても厄物の類としか思えない。

 

「500年前、サイゴクを襲った災禍。それを引き起こした元凶とも言える存在よ」

「何ですかそれ……」

「霊脈の影響で動き出したドラゴンポケモンの骨ね。聞くと、おやしろが団結する理由になったんだとか。その後は、どうやらサイゴク山脈に埋葬されていたらしいけど」

「クラウングループがそれを持ち出してしまった、と」

「……」

 

 イクサは気が遠くなった。何処まで余計な事をすれば気が済むのだろう、と。

 

「まあでも、アレは今となっては只の骨らしいし。動き出す事は無いでしょうよ」

「それ、動き出す奴では……?」

「映画だとフラグっていうんだよ、レモン先輩」

「でもイデア博士曰く、”あれはヤバイ。マジでヤバイ。祟られるから!! 指一本でも祟られるから!!”って言ってたわね」

 

(絶対特級呪物じゃん……)

 

 ヌシポケモンとは別に、回収しなければならない呪物まで発覚してしまうとは、とイクサの胃は重くなる。

 とにもかくにも、ラズで止まっている場合ではないことは確かだった。

 

(でも先ずはアケノヤイバとヨイノマガン、か……クラウングループが戦力化したってことは、操られてる可能性が高いのか。あいつらも見越してポケモンを育成しないと。レモンさんには感謝しかないな)

 

「よし、今の手持ちでどうやったらアケノヤイバとヨイノマガンを倒せるか考えてみようよ転校生」

「ああ。相手はゴースト・悪と、岩・飛行だろう? だから……」

「正味、攻撃が当たらない、不死身、最早ポケモンかどうか疑わしいわ。総力戦を覚悟するべきね」

 

 会議は進む。

 実に有意義な時間であったことには違いない。

 アケノヤイバ、そしてヨイノマガン。更にラズに対する対策会議。

 

(そうだ……戦うのが僕一人だったとしても、こうやって知恵を出し合う事なら──僕は一人で戦ってるわけじゃないんだ)

 

 イクサの目には光が戻りつつあった。湯の効能もあってか、疲れを忘れつつあった。

 しかし、ポケモンバカ達の耳には──大浴場に近付いてくる足音が聞こえていなかった。

 

「~♪」

 

 当然である。今この大浴場は貸し切り。自分たち以外は近付かない。近付くはずがない。誰もがそう考える。

 だがしかし──往々にして予想外の事態は起こりえる。

 イレギュラーは、発生してしまうものなのである。

 

 

 

「デジーちゃーんっ!! 貸し切りなんて水臭い事言わずに、一緒に背中の流し合いっこしましょーっ!!」

「えっ」

「えっ」

「え”ッ」

 

 

 

 ……イクサの両手にあった火薬庫が爆ぜた瞬間であった。

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