ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第101話:イデア博士の楽しい授業

 ※※※

 

 

 

「……あれだけ勇ましかったのに、こうしてみると子供のようです」

 

 

 

 その日の夕暮れ頃。

 シャインとの模擬戦を終えた後も特訓を続けていたイクサは、パーモットと並んで飛行船の甲板で大の字になって寝転がり──小さく寝息を立てていた。

 

「……風邪を引いちゃいますよ」

「くぅ……」

「……本当に、女の子みたいですね」

 

 眺めているうちに──どうしようもなく胸が疼く。

 あどけなさを残した少顔。

 そして、獰猛な獣の如き顔。

 その両方が同じ少年のものとは思えない。

 

 

 

(ど、どうしましょう、こんな事をしてる場合じゃないって分かってるのに……!! どうしようもなく、庇護欲が……!!)

 

 

 

 ※本能>理性。

 

(い、いいえ私……イクサさんから、強さを学ぶのでしょう? こんな所で揺らいでいる場合では──)

 

 尚。

 膝枕をする数秒前である。

 

「あれー? あれれー? なにしてるのかな、コナツさん?」

「ッ!!」

 

 

 

 肩を震わせ、コナツは跳び上がり、イクサの頭を取り落とす。

 背後に立っていたのは──スパナをくるくると振り回すデジー。

 何事も無かったかのように話しかけてくる彼女の仕草に、コナツは──合わせる顔が無いと思っていたのは、自分だけだったのだと思い知らされる。

 しかし、それはそれとして言い訳はせざるを得なかった。

 言い訳のしようもない場面を見られてしまったのであるが。

 

「ち、違うんですデジーちゃん、これはデジーちゃんのものに手を付けたわけではないというか、魔が差したっていうか」

「別に()()()()()()()()()()()けど」

 

(うん?)

 

 怒ってはなさそうであった。

 それはそれとして気になる返答が返ってきたのであるが。

 

「えーと、それってどういう意味でしょう?」

「コナツにはまだ早いかなー」

「どういう意味でしょう!?」

「ヒーミーツー」

 

 けらけらと笑うデジー。

 しかし、それが半ば空元気であることをコナツは見抜いていた。

 体は油まみれ。作業の合間を縫ってやってきたのだろう。

 

「……目に隈が出来てますよ」

「寝る暇なんてないよ。件のアンドロイド……いや、よく分からない何か? まだ解析が必要でねー。分かったと思ったら、ブラックボックスが出て来ちゃって、やんなっちゃう」

「……」

「だから一旦休憩っ。いい加減お腹空いたし。転校生も呼びに行こうと思って探してたんだ。まさかこんなところで寝てるとは思わなかったけど」

「……根を詰めてますね」

「うん、絶対に諦めない」

 

 柵に寄りかかりながら──コナツは夕陽の方を見やる。

 その表情はあまりにも頼もしく、そしてコナツが知らないものだった。

 疲れ切っていて、心身ともに限界なはずなのに、何処か晴れやかささえ感じさせる。

 それは何処か、先程まで戦っていたイクサと重なってさえ見えた。

 

(ああ、そうか。ふたりは……互いに影響を与え合って……)

 

「……ねえ、デジーちゃん。貴女がこの人に惹かれた理由、少しだけ分かったかもしれません」

「うん?」

「今日は──彼の模擬試合をずっと見ていました」

「転校生は勝ったの?」

「全敗です」

「いっ……相手は、シャイン先輩だよね? つんよぉ……」

「でも、何度でも、何度でも立ち上がっていました」

 

 漸く──コナツは理解する。

 口にしているうちに”強さ”の答えが分かっていくようだった。

 

「そーだよ。転校生はどんなにピンチでも……絶対に諦めないんだ」

「私は諦めかけてた。お店の事も、デジーちゃんとのことも。たったの一度の失態で……」

「……此処に来たってことは、コナツもそうなんでしょう? 諦めてない。まだ立ち上がろうとしてる」

「……私は」

「ボクが言ってるんだ、間違いないよっ」

 

 デジーは繋ぎ止めるようにコナツの手を握った。

 

「バトルが強くても勝てなきゃ意味が無い。諦めたらそこで終わりだ。でも弱くたって……何度でもリトライすれば良い。転校生は確かにバトルの才能はあるよ。知識量はボク以上かも。だけど──それ以上に諦めないんだ」

「……私でもお役に立てるでしょうか」

「コナツはいっつもそうだ。お姉ちゃんぶってるくせに、すぐに弱気になる」

「う……」

「もし自分を信じられないなら──ボクと転校生を信じてよ」

「っ……」

「ね?」

 

 きらきらとした顔で笑いかける幼馴染に、やはり敵わないな、と悟る。

 何処までいっても結局、自分は支えられている側だったのだと思い知らされる。

 

「私もなれるでしょうかぁ。皆さんみたいに」

「コナツはコナツもまま、強くなれば良いんだよ」

「……なれるでしょうか」

「なれるよ。きっとね」

 

 二人は暮れていく空を眺めていく。

 

 

 

(なんか……この二人の問題は解決したっぽいな……)

 

 

 

 尚、当のイクサは途中からずっと寝たふりで又聞きしていた。甲板に吹き込む寒風に、身体が震えるのを我慢しているのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──クラウングループの追跡が及ばない空域を選んで遠回りし、飛行船はメタルレジデンスがある地区へと進行していた。

 その間、イクサはシャインとの実戦特訓を重ねて対ラズとの戦いに備え、更にイデア博士からオーライズやオオワザについての講義も直々に受けることでオオワザ完成を目指す。

 その場にはガーベラ、そしてキャプテンであるコナツも同席していた。

 

「イデア博士の講義を直々に受けられるとはラッキーだな転校生」

「オオワザのヒントになるかもしれないですから」

「キャプテン様も熱心だぞ」

「……オージュエルを扱えるようにならないと、ですから」

「さあて、生徒が多いと気が締まるね。授業、やっていこうか。早速だけど──オオワザ、オーライズ、この2つに共通することは何だと思う?」

 

 イクサはすぐに答えられなかった。

 オオワザはあくまでも、ギガオーライズしたポケモンが扱える強力な技である、という認識だったからである。

 

「正解は両方共ポケモンのオーラをフル活用するという点だね」

「えーと、オオワザもそうなんですか?」

「ポケモンのオーラってのは、要するに生命エネルギーが具現化したもの。オオワザは、それを完全に制御することで発動できる」

 

 サイゴクのヌシポケモンがギガオーライズしなくともオオワザを使える理由はこの一点にある。

 過酷な修行を重ねることで、体内のオーラを自ら操る事が出来るようになっているのだ。

 

「そして、オーライズはオシアス磁気に記録されたポケモンのオーラを身に纏う事で引き起こす現象さ。じゃあそもそもオシアス磁気とは何なのか?」

「エネルギー源にもなる情報記憶粒子、でしたよね。記憶粒子ってのがいまいちしっくりこないですけど」

「そりゃあ君の学年ではそこまで詳しくやらないだろうからね。でも概ねその説明で間違ってない」

 

 イデアはタブレットに説明文を映し出す。

 

「オシアス磁気の持つオーラの”記憶”という事象は、微粒子であるオシアス磁気がオーラを帯びることで引き起こされる。オーラは普通すぐに消えてしまうけど、オシアス磁気とオーラがくっつくと長い間消えないんだよね」

 

 磁石の如くポケモンのオーラとくっつく性質を持つ。

 故にこの微粒子はオシアス磁気と言う名前で呼ばれるのだ。

 そして、ポケモンのオーラを帯びたオシアス磁気をポケモンが浴びることで起こる現象が──オーライズである。

 

「そして、オシアス磁気を吸着させたのがオーカードってわけさ。そして、オージュエルの持つ光はオシアス磁気を拡散させて、近くのポケモンにくっつかせてオーライズを引き起こすってワケ」

 

 シトラスグループが開発したバングルは、この光を射出する方向をコントロールすることで、狙ったポケモンをオーライズ出来るようにしたのであった。

 

「そしてこれも基本だけど、同じ種類のポケモンのオーラは反発してしまってオーライズが出来ない。この性質も磁石、磁気に例えられる要因だね」

「では、ギガオーライズって何なんだ? 同じポケモンのオーラは反発する。だが、兄様の言っていた黒いオージュエルは……普通は出来ない同じポケモンのオーラによるオーライズを可能にするぞ」

「良い質問だねガーベラ君。ギガオージュエルはオシアス磁気の力を強めていると僕は考えてる」

 

 そう言ってイデア博士はスライドを進めた。

 

「オシアス磁気にはもう1つ性質がある。高濃度になるとポケモンの闘争本能を刺激し、暴走させる点さ」

「……!」

 

 イクサの顔が曇る。

 ザザの地下迷宮で野生ポケモンに襲われた時のことを思い出したのだ。

 

「……そして、ギガオーライズは──原理的にはこれに近い状態なんだよ。あの黒いオージュエルは、オシアス磁気の強さを大幅に高めて、ポケモンに突き刺してるんだ」

「突き刺す?」

「ああ。普通のオーライズがオーラの鎧をまとうなら、ギガオーライズはオーラを体内に突き刺して一時的にパワーアップしてる状態に近い」

「痛そうな響きですねぇ……ポケモンが可哀想ですよ」

「ミクロな世界の話さ。細胞レベルでそうなってるんじゃないかってことだね。でも実際ポケモンにも負荷がかかるし、トレーナーにも負荷がかかってるのがその証左じゃない?」

「何でトレーナーにも負担がかかるんでしょうか?」

 

 イクサは腕を摩る。

 数日前のギガオーライズによる筋肉痛が未だに響いているのだ。

 

「オシアス磁気は情報伝達物質でもある」

「どういうことでしょう?」

「粒子同士は離れていても、付着しているポケモンや人間の情報を受け渡すことができる。この場合、ポケモンが感じていることはオシアス磁気を通して近くの人間も感じる状態になる。これがシンクロ現象さ」

「ポケモンが受けた痛みをトレーナーも受けるってことですか」

「ポジティブな話だと、ポケモンの感覚と人間の感覚を共有できるってことさ。イクサ君もそうだったんじゃないかな」

「そうですね……ギガオーライズ中に、何度かパモ様の拳と自分の拳が重なってたってか──まるで自分が戦ってるような錯覚すらあったような」

 

 ハイになっていた所為で、朧げにしか覚えていないが──ある種の恐ろしさすら感じた。

 これがシンクロ現象。ギガオーライズの到達点だ。

 だからこそ、とイデアは続ける。

 

「……ギガオーライズはトレーナーとポケモンが完全にシンクロしなきゃその真価を発揮できない。例えば防護服を着て、トレーナーだけがオシアス磁気を浴びない状態だと──シンクロ現象は起きないんじゃないかな」

 

(やっぱり重要なのはポケモンと心を通わせること、か……)

 

 イクサはノートを取りながら、改めてその重要性を認識する。

 情報伝達物質であるオシアス磁気を帯びたポケモンとトレーナーは、磁気を通して繋がっている状態となる。

 精神面、そして肉体の疲労を共に共有、または肩代わりさせることでギガオーライズの過重負荷を分散させているのだ、とイデアは推測する。

 故に誤魔化しは──通用しない。

 両者のシンクロが乱れた途端に、ギガオーライズは不完全なものとなるのである。

 

「さぁてと、座学の次は……実戦訓練と行こうか」

 

 ノートを取っていたイクサの肩に、イデア博士は徐に手を置いた。

 彼は困惑して首を傾げる。

 

「え? でも甲板が壊れたらいけないから、オオワザの練習は──」

「なぁに、任せておきなよ。あれから色々進展があってねぇ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……雪を降らせたうえで、オーロラベール3重掛け。そしてシャインの監督下でのみオオワザの練習を許可、ねえ」

「私の美しく寛大な御心に感謝したまえ」

「はいはい感謝感謝」

「!?」

 

 極めて不服そうに言ってのけるレモン。無論、感謝の気持ちなど欠片もないのであった。

 そこに追撃を仕掛けるようにガーベラが兄の耳を引っ張る。

 

「今まで散々レモン先輩に迷惑をかけてきたんだから、これくらい当然だぞバカ兄貴」

「あっだだだ、やめたまえ私の美しい耳たぶが千切れるゥ!」

 

 そんな中、イクサとイデア博士は向かい合い──バトルコートに立つ。

 そして、傍らには既に真の姿を露にしたドーブルが絵筆の尻尾を背に担いでいた。

 

「オオワザで重要なのは、技を発動するのに必要な身体の一部位にポケモンのオーラを集中させることさ。見ていたまえ」

 

 尻尾にドーブルは大量の墨を体中から集めていく。

 周囲には一気に邪悪な気配が拡散していくのだった。

 

「これって──オオミカボシの時と同じ」

「”ちみもうりょう・じごくえず”」

 

 尻尾に集められていた墨が一気に解き放たれた。

 周囲に墨溜まりが次々に現れていき、そこから怪異の化身達が姿を現し、イクサを取り囲む。

 天狗、河童、鬼、いずれも妖の如く歪められたようなポケモン達であった。

 一瞬で大量の軍勢を作り出したドーブルを前に、オーロラベールの外で見守っていたレモン達も息をのむ。

 

「とまあ、これがセンセイのオオワザさ。理屈としては、墨を吐き出す尻尾に、大量のエネルギーを集めて爆発。そして、センセイが思い描いたポケモン達を墨で作りだすのさ」

「ッ……これに囲まれたらたまったもんじゃないですね」

「まぁね。これを使って負けた事は無いかな。墨だからほぼ無尽蔵にポケモン達は湧くし。だけど今のを見れば分かる通り、オオワザには大きな隙が出来る」

 

 たとえセンセイと言えどね、とイデアは付け加えた。

 

「絶大な威力、絶大な効果のオオワザは、チャージに時間が掛かる。ポケモンのオーラを身体の一部に集中させる時間だ。その隙を突けば──オオワザを解除することだってできる」

 

 オオミカボシとの戦いを思い出す。

 クロックワーク・リバースを”でんきだま”によって妨害した一幕だ。

 あの後、オオミカボシは態勢を崩し、此方には一気にチャンスが出来た。

 

「だから、オオワザを使うポケモンとの戦いでは、相手がそれを発動する前に防ぐ必要があるし──逆に自分が使う場合は、相手に阻止されないようにしなきゃいけない」

 

 もし阻止されてしまったが最後、大きな後隙を晒し、一方的に攻撃されるチャンスを生んでしまう。

 

「むしろ半端なオオワザが相手なら積極的に解除を狙った方が良いし、よっぽどのことが無い限りオオワザを使うのはやめといた方が良いってことさ」

「切札は最後まで隠しておく、ってことですか」

「そうなるね。その上で──君のポケモンにも完全なオオワザを身に付けて貰う」

「……出来ますかねえ」

「ギガオーライズしたポケモンは、普通のポケモンに比べれば大きくゲタを履かせて貰っている状態さ。地力だけなら、サイゴクのヌシポケモンと同等と言っても良い」

 

 だからこそ力の使い方を学びたまえ、とイデアは続けた。

 

 

 

「オオワザを完成させるんだ──ラズ君を連れ戻す前までに、やり遂げよう」

「はいッ!!」

 

 

 

 こうして、実戦特訓は次なる段階へと進む。

 メタルレジデンス付近までに飛行船が進むまでの短い間ではあるが故に、猶予はない。

 ギガオーライズの”慣らし”も兼ねて、本格的なトレーニングが始まったのであった。

 そこから先は──まあ血の滲むような修練が続く。

 強烈な過重負荷故に乱発できないギガオーライズ。それを、イデアとドーブル相手に使いながら、立ち回り、オオワザを練習していく。

 その話を聞いたデジーも、作業の手を止めて血相を変えるのだった。

 

「正気!? まだ負荷から抜けきってないって聞いたよ!? ……パモ様のオオワザが完成する頃には、動けなくなってるんじゃないの、転校生!?」

「いいえ、パモ様だけじゃないわ」

「え?」

 

 レモンは──今日もバトルコートでぶっ倒れたイクサの事を思い出しながら語る。

 

 

 

「イクサ君は、カルボウ以外の手持ち5匹分のギガオーライズ、そしてオオワザを完成させるつもりよ」

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