ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
──壁張りからの積み戦術というものがある。
ポケモン廃人から言わせれば基本中の基本とも言える戦法だが、リフレクターやひかりのかべと言った技の威力を半減する障壁を展開し、後続のエースポケモンが敵の攻撃に耐えながら悠然と自己強化バフの技を積み続けるというものだ。
今、シャインが行っているのはそれと同等だが、更に応用編とも言える。
雪状態では氷タイプの防御力は上昇し、更に堅牢な守りを手に入れるからである。
結果、セグレイブは現在、ただでさえ高い耐久が更に底上げされており、加えて”りゅうのまい”で攻撃と素早さを1段階ずつ上昇させている。
この天候展開、両壁展開、エース降臨の流れを無理なくかつスムーズに、尚且つ最低手数で実現したのがキュウコンからのセグレイブ降臨の流れだ。
こうなったセグレイブを止める事が出来るポケモンが、今のイクサの手持ちには居ない。
この時点で、イクサは正攻法でセグレイブを止める事を諦めざるを得ない程に、手が付けられなくなってしまう──故に。イクサの取る手は1つしかない。
「”ちょうはつ”だタギングル!!」
此方の方が速い。
タギングルは決死の覚悟で突っ込み、セグレイブを挑発。
”りゅうのまい”は中断され、打ち消される。
怒ったセグレイブがタギングルに、突貫したからだ。
最悪の事態は防ぐことこそ出来たものの、後に残るのは弱点技でも物理技ならば逆にダメージを半減させてしまうほどに強固な城塞と化した冰龍。
マイナス2がマイナス1になっただけで、何も状況は良くなってはいない。
「流石に速いな、そのタギングル──だけど、これからは逃げられないだろう? ”こおりのつぶて”ッ!!」
氷の塊が空中に浮かび上がり、タギングルを追尾する。
避けようとするタギングルだが、数も速度も尋常ではない。
必ず先制すると言われるその技は、逃げ続けるタギングルの背中を容赦なく撃ち貫き、地面に落とす。
「……素早いが、脆いな。薄氷の如き脆さだッ!!」
ズドォンッ!!
セグレイブが足を踏み鳴らす。
甲板が波打ち、タギングルを捉え──空中に撥ね飛ばした。
効果は抜群。その一撃を以て、タギングルは脆くも倒れるのだった。
「”じしん”っ……結局、先制技でダウン取られて、二撃目で倒された……!」
(引っ込める間も無かった……ッ!? タギングルが居なかったら、誰が”りゅうのまい”を止められるんだ……!?)
「冷静に”りゅうのまい”を止められたのは褒めてあげよう。だけど、暴走を止めた所で、”オーロラベール”と”雪”で耐久が上がった彼を止められるかい?」
「コォオオオアアアアアアアアンッ!!」
セグレイブの技範囲は氷とドラゴンと非常に広い上に、地面技も習得する。その全てを半減する事が出来るポケモンが居ないのである。
「タギングルを持っていかれたのは痛すぎるけど……この雪は僕も利用できる。次は君だ、ハルクジラ!!」
雪で強化されるのは、セグレイブだけではない。
同じく氷タイプ、更に”ゆきかき”で速度強化まで出来るハルクジラだ。
速度面では”りゅうのまい”を積んでいない以上、”ゆきかき”を発動しているハルクジラが有利。
しかし、耐久面と総合的な火力では”オーロラベール”を展開している上に元々の火力が高いセグレイブが有利となる。
(壁を解除する方法が無い──”かわらわり”が無いから突破出来ない──それなら──ッ!!)
相手の技は全て割れている。
”オーラジャミング”は持っていない。
ならばここでの選択肢は一つしかない。
セグレイブを何が何でも此処で倒す──
「ハルクジラッ!! ”ヘビーボンバー”ッ!!」
ごろごろと転がるハルクジラは、凄まじい勢いで上空に跳びあがると──思いっきりセグレイブを押し潰した。
しかし、氷の鎧に加え、”オーロラベール”によって守られたセグレイブはそれを頭で受け止めてみせると、思いっきり空中に跳ね上げる。
体格だけならば倍以上ある巨体を、首の力だけで持ち上げてみせたのだ。
(流石600族か……ッ!!)
「……絶対零度の牢獄に飲まれるが良い。”きょけんとつげき”!!」
セグレイブが周囲に向かって冷気の籠ったビームを放つ。
甲板の温度は一気に下がり──上空からは次々に氷柱が降り落ちる。
「な、何だ!? 僕が知ってる”きょけんとつげき”とは違──」
「シャインの奴……本気の本気ね──ッ!!」
ハルクジラの低温を上回る極低温。
地面に転がったハルクジラは、足が甲板に縫い付けられてしまっており、起き上がる事が出来ない。
氷柱が次々に落ちる中、セグレイブは地面に向けて極低温ブレスを放ち、その勢いで上空へ跳びあがる──
【セグレイブの きょけんとつげき!!】
再び空中で姿勢を変えたセグレイブは、上空に向かってブレスを放つ。
それがスラスターの役目を果たし、勢いよくハルクジラに向かって突撃。
そのまま背中の剣を突き刺したのだった──
「……極低温ブレスで周囲を凍らせ、相手を動けなくしたところで、確実に仕留める……」
「幾らハルクジラの分厚い脂肪でも、ひとたまりもないですよぉ!?」
「でしょうね。流石に今のはキツいわよ。だけど──」
「──オーライズ”マリルリ”……!!」
べき、べき、と氷が剥がれる音が聞こえてくる。
背中の剣を突き刺したセグレイブは押しのけられる。
ハルクジラは今の攻撃で全くの痛手を受けていない──
「ブォオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
【ハルクジラ<AR:マリルリ> タイプ:水/フェアリー】
(イクサさんの表情が、変わりましたぁ……っ!?)
冷気に隠れて見えなかったイクサの顔は、捕食者の如き眼光を放ち、肉食動物のように犬歯を剥き出しにしていた。
闘志を完全に露にした、”戦う者”としての姿である。
「そっか! フェアリータイプなら、セグレイブの”きょけんとつげき”を無効化できるんですねぇ!」
「……いや、アレは……良くないわね」
「え?」
苦い顔をするレモン。
それに対してよく分からないと言わんばかりに小首を傾げるコナツ。
一見、敵の痛打を切り返す良手に見えるこの状況。しかし──
「ほう、技に怯まずオーライズを切る。やはり私の見込んだ通りだ転校生! 可愛い顔に反し、中身は切れ者だね」
(よく言う……! 僕はオーライズを切ったんじゃない、オーライズを
「……だけどね、転校生。ラズはもっと手強いぜ」
此処でハルクジラを落とされればイクサにはもう後がない。しかし──ハルクジラを落とされないようにするには、オーライズを切るしかない。
試合で一度きりの切札であるオーライズを、だ。
もう、後は無い。逆転の手立てはないのである。
全ては、シャインの想定通りにゲームは進んでいる。
(すごい、シャイン先輩……!!
まるでランクマッチをやっている気分だ、とイクサの心はざわつき、そしてヒリついた。
不意にギミックパーティに当たって、これと言ったメタが無く、大苦戦を強いられている時のそれと全く同じだ。
今までは只の変態でしかなかった彼への感情がどんどん塗り替えられていく。
イクサからすれば、自らを苦戦させる程に”強い”相手は皆、等しく尊敬するに値する。
「──っおっと」
雪が降り止む。
同時にオーロラベールも解除された。
セグレイブに掛かっていた全てのバフは解除される──
「両壁と雪が切れた──チャンスだハルクジラ!! Oワザ”じゃれつく”!!」
「……こっちもそのハルクジラを落とせなければ話にならないんでね」
期待に応えるように、シャインもまたオージュエルにカードを翳す。
セグレイブにオーラの鎧が纏われていき、更に頭部には車輪の如き兜が纏われる。
”じゃれつく”で真っ向から飛び掛かるハルクジラを──正面から受け止めた。
「オーライズ──”ブロロローム”!!」
【セグレイブ<AR:ブロロローム> タイプ:鋼/毒】
フェアリー技は、鋼タイプと毒タイプに効果がいまひとつ。
痛打として放った”じゃれつく”は見事に受け止められてしまい、先程のように地面に投げ飛ばされてしまう。だが、さっきと違うのはそこから”きょけんとつげき”に派生させてもハルクジラには毛ほどのダメージも与えられない点だ。
かと言って氷技も水タイプに変化したハルクジラには通用しない。
故に、こちらもオーカードで記録された技で攻撃していくしかない──
「セグレイブ、毒技で攻撃だ!! Oワザ──”どくづき”!!」
「ハルクジラ、”じしん”だッ!!」
──先手を打ったのはセグレイブ。
毒を帯びた背中の剣でハルクジラを突き刺す。
しかし、対するハルクジラも地面を揺るがす程の力を込めた拳をセグレイブの顔面に叩きこんだ。
互いに効果は抜群──セグレイブは、一撃で昏倒してしまい、ハルクジラも毒を受けたことで遅れて倒れ込むのだった。
「あ、相討ち……!!」
「……ふぅむ」
しかし、イクサは残る手持ちは1匹。
対するシャインは2匹、手持ちが残っている。
数ではイクサが不利を取っている──ように見える。
(でも、僕の3匹目はパモ様だ。”さいきのいのり”でハルクジラを復活させれば、そのまま鋼技でキュウコンを倒せる。アローラキュウコン相手は……気が重いけど)
「行け、パモ様!!」
「……私の最後の一匹は、この子と決めていてね」
同時にボールからポケモンが飛び出す。
その瞬間、イクサは──自分の目論見が全て打ち砕かれる音が聞こえたようだった。
「
「コォオオン……」
現れたのは、球体にぶら下がるフンコロガシのようなポケモンだった。
その目はきゅっと結ぶように閉じられており、球体の中には薄っすらと幼虫のようなポケモンの姿が見える。
その特徴は、超が付くほどの鈍足、高い耐久、そして何より──
(しまった──こいつも”さいきのいのり”が使える──!!)
──現状、パーモットに並ぶ”さいきのいのり”の習得者である点だ。
更にタイプは虫/エスパー。パーモットとの相性は最悪と言える。
「マズい……パモ様!! 先に”さいきのいのり”を使って!!」
「パモォっ!!」
「おや、何が起こるか理解したようだね」
両手を叩き、祈りを捧げ──ハルクジラを復活させるパーモット。
しかし、対するベラカスの目が光ったかと思えば──
「”スピードスワップ”」
──パーモットの身体はいきなり地面に縛り付けられるのだった。
「慣れない重い身体は辛いだろう? 互いの素早さを入れ替えたんだ……この速度から放たれる”サイコキネシス”は止められないだろうッ!!」
今度は先程とは比べ物にならない速度でベラカスはパーモットの身体を宙に釣り上げ──そして叩き落とす。
効果は抜群。ギガオーライズで補強されていないパーモットの耐久は並以下。
故に──この一撃で昏倒させられてしまうのだった。
「ハルクジラ……後は君に頼む──ッ!!」
「……ふふっ。”さいきのいのり”」
「”つららおとし”だッ!!」
ベラカスの目が再び光る。
祈祷の中で、シャインのセグレイブは再び目を覚ます。
そして、持ち前の耐久であっさりとベラカスは”つららおとし”を受け止めるのだった。
「……これで終わりだ。”おきみやげ”」
最後にベラカスはことん、とその場に落っこちてしまう。
だが同時に、黒い怨念のオーラがハルクジラを包み込んだ。
おきみやげは──自分の体力を犠牲にして、相手の攻撃、特攻を大幅に下げる技だ。
「……詰みね」
レモンの言葉の通りであった。
シャインの手持ちは、まだキュウコンとセグレイブが残っている。
つまり──雪とオーロラベールの再展開が可能という事であった。
そして、攻撃を下げられて弱体化させられ、オーライズまで消費してしまったハルクジラでは、どうやってもフルパワーのセグレイブを倒す事が出来ない。
「……それでも」
イクサは呟く。
「”ヘビーボンバー”を急所に当てられれば──ッ!!」
「ッ!」
「ゆきげしきでこっちも防御が上がってるんだ!! こっちだって──」
そこまで言ったところでイクサは気付く。
全ては無駄に失する。
そもそも、雪下ではハルクジラの防御が上げられても、特防は上がらない。
更に”さいきのいのり”は体力が半分の状態で復活する。
「……分かったようだね。そもそも今のハルクジラでは、キュウコンが越えられない」
「ッ……僕の、負けです」
其の言葉を言うのに、どれ程勇気が必要だっただろうか。
だが、これ以上ない程に勝ち目がない事を突きつけられ──イクサは敗北を受け入れたのだった。
※※※
「ッ……イクサさんが、負けた」
「個のポケモンを他のポケモン全てで生かすという点に於いて、シャインの横に出る奴は居ない。複数匹のポケモンでパーティの穴を埋める私達とは設計思想がそもそも異なる。シャインのパーティは、たった1匹のエースをどう生かすかに執心していると言っても過言ではないわ」
「……ッ」
「ま、だから──決闘中心の学園では、その強さはナーフされていると言っても過言じゃない。ナーフされた結果が私に並ぶ学園最強の一角よ」
つまり、弱くなっているのは弱くなっているが、ほぼ誤差レベルということである。
これも偏に、サポート無しでも強いイテツムクロにあると言っても過言ではないのだが。
「シャインの本領は、今みたいなコンボにあると言っても過言ではないわね」
「でも、何ででしょうか。イクサさん、すっごく嬉しそう……?」
「凄いです、凄かったです!! シャイン先輩、正直見直しました……ッ!!」
「ハッハッハ、そうだろう? この私の美しさは完全無欠だからね」
「美しいかどうかはさておき──いや、本当に美しい勝負の流れ、そして雪パでした……!」
目を輝かせてシャインに迫るイクサ。
ポケモン廃人として、何より対戦ゲームジャンキーとしては、やはりガチ構築には目がなくなってしまう。
そんな彼に、呆れたようにレモンは言った。
「趣旨を忘れてるわよ、イクサ君」
「あっ……そうだ。今のままじゃ、ラズ先輩には勝てない……」
「いやぁ、私のセグレイブを初見であそこまで追い詰める事が出来たのは十二分にすごいと思うよ、転校生。他の1年生ならセグレイブに全滅させられていたところさ」
「そうでしょうか……いや、凹んでる場合じゃない。シャイン先輩っ!! もしよければ、特訓に付き合ってくれませんか!? もっと試したい技構成、戦術、沢山あるんです!!」
「いいとも。私のポケモンと戦えば、良い経験となるだろう!」
(まあ結果オーライかしら)
(なんか、仲良くなってますね、あの二人……)
コナツとしても、結局趣旨が違う結果になってしまった。
しかし──負けた後に一抹の悔しさを滲ませながらもめげずにシャインに向かっていくイクサを見て、彼の”強さ”の一端を垣間見た気がした。
「イクサ君はね、心の底からポケモン、そしてバトルが好きなのよ」
「……!」
「彼の強さはきっと……”好き”って思いにあるんじゃないかって私は思うわ。だから、そんなポジティブな気持ちに手持ちも付いてくる」
「……好きと言う気持ち、ですかぁ」
ポケモンを回復させ、もう一度バトルしようとするイクサを見ながら──コナツは、ほう、と溜息を吐く。
何処か楽しそうな彼の姿は、親友兼幼馴染の彼女の表情と何処かダブついて見えるのだった。